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一面の雪の中、巨大な茶色の建物が点在している。ミサイル防衛施設の建設工事が進む米軍「フォートグリーリー基地」(米アラスカ州)。広大な基地内を四輪駆動車で案内してくれたラルフ・スコット広報官が、金網越しに遠くを指さした。「あそこがミサイルのサイロ(格納庫)だ」
車を降りて近づくと、金網の手前20メートルほどで制止された。金網の向こうの雪原に、3基の白いドームが見える。その脇に2本ずつそそり立つ通気塔。カメラを構えると、吹き付ける突風と寒さで涙が止まらない。スコット広報官は「きょうは暖かい方だ。少し前までは氷点下50度を下回っていた」と話す。
地下に潜るサイロは直径約6メートル、深さ約25メートルの円柱形で、地上にある白いドーム状の上部が開き、ミサイルが発射される。建設予定の16基中すでに6基が完成し、今年中に迎撃ミサイルが実戦配備される。敵ミサイルをミサイルで迎撃する構想は、その技術的実現性などをめぐり、長年論議が続いてきた。推進派にすれば「夢の構想」、反対派にすれば「国際秩序を損なう暴挙」が、極寒の地でいよいよ動き出す。
現場の最高責任者、ケビン・ノーガード大佐(45)が、アラスカ州に迎撃基地を造る理由を説明してくれた。「ここから迎撃ミサイルを発射すれば全米50州を守れる。非常に戦略的な場所だ」。同基地では、いつでもミサイルをサイロに入れ、「オン・アラート(発射準備)」態勢を敷ける状態だという。
約280万平方メートルの敷地で02年夏から本格工事が始まり、施設はほぼ完成。軍事衛星や各基地とネットワークされた「防衛通信棟」、迎撃ミサイル発射の指令を下す「コントロールセンター」、「ミサイル組み立て棟」などが全容を見せていた。ノーガード大佐が胸を張って言った。「これは単なる工事現場ではない。平和を築く工事なのだ。米国全土を、すべての子どもや子孫を、ミサイル攻撃から守れると確信している」
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アラスカでの工事は日本にも密接に関係する。ブッシュ政権は同盟国にミサイル防衛の早期導入を呼びかけ、日本とオーストラリア(豪州)が手を挙げた。日本は昨年12月19日の閣議で導入を正式決定。防衛庁幹部は「米国は全世界をミサイル防衛網で網羅するつもりだ。日本はその構想の一部」と解説する。
ラムズフェルド米国防長官の側近として計画を推進するシュナイダー国防科学委員長は「ミサイル防衛は、日本など同盟国と共通の情報システムを構築することが極めて重要になる。日本の防衛は非常に大きな変化を迎えるだろう」と述べ、防衛面での日米の一体化が一層進むと予見する。
一方で、日米豪によるミサイル防衛整備は、北朝鮮はもとより、中国やロシアの神経を逆なでせずにはいない。ミサイル防衛は、果たして日本とアジアに安定をもたらすのか。深い論議もないまま、日本と米国の「運命共同体」のきずなは確実に強まっていく。
◆技術的疑問、数多いまま
02年12月の日米防衛首脳会談前日。石破茂防衛庁長官は、ワシントン郊外のミサイル防衛庁を視察した。その場で米国側は石破長官に耳打ちする。「我々は04年からミサイル防衛を配備することを決めた」
ブッシュ政権は「04年に初期配備」の意向を前々から示していたが、米国が「テロとの戦争」に追われる中、配備はもう少し遅れるとの見方が強かった。石破長官は周囲に漏らした。「こんな極秘の話を聞いたのは、同盟国首脳の中でも私が最初じゃないか」
石破長官は上機嫌で翌日のラムズフェルド国防長官との会談に臨んだ。ミサイル防衛がテーマになったのは最後の数分間だけ。「日本も一緒に配備しますよね」と聞くラムズフェルド長官に、石破長官は通訳を介して「イエス」と応じた。
石破長官は会談後、首相官邸との協議もないまま「配備を視野に検討を進めたい」と表明し、日本はミサイル防衛の導入に大きくかじを切っていく。石破長官の行動は「フライング(先走り)」と受け止められ、「有頂天になって口を滑らせた」(自民党国防族)との批判すらある。
石破長官の表明直後、米国防総省は04年の配備を発表し、日本は後戻りできなくなった。ミサイル防衛への疑問が米国内でもくすぶっているだけに、「米国にとって、日本の決定はイラクへの自衛隊派遣と同じくありがたいものだった」(ヘリテージ財団のベイカー・スプリング研究員)。
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ミサイル防衛が当面照準を合わせるのは、核開発を続ける北朝鮮だ。仮に北朝鮮から弾道ミサイルが発射された場合、日本に着弾するまでの時間はわずか7分。日本の指導者は、この「7分間」にミサイルを探知し、弾道の方向と角度から着弾点を計算して迎撃ミサイル発射のボタンを押す意思決定を下す、という未知の試練に直面する。
これが日本にとっていかに難しいかを示す事態が昨年春、起きている。
「どうして官邸に情報が来ないんだ」。福田康夫官房長官は昨年2月24日、北朝鮮の地対艦ミサイル「シルクワーム」(射程約75キロ)発射を伝える夕刊各紙を見ながら防衛庁幹部をしっ責した。「防衛当局は的確に判断して速やかにミサイル情報を報告してほしい」。防衛庁に厳命が下った。
「日本に届かないミサイルなので騒ぐ話ではない」と判断し報告しなかった防衛庁の担当者は結局、永田町を謝罪行脚するはめになったが、混乱は約2カ月後のシルクワーム発射実験でも繰り返された。「米軍から防衛庁に一報が入り、その度に日本は右往左往している」(警察庁幹部)というのが実態だ。
閣議で昨年12月にミサイル防衛導入を正式決定した際、政府は「日本独自のシステムを使い、日本独自の判断で運用する」との官房長官談話を発表した。米国との共同運用を否定し、「憲法が禁じる集団的自衛権の行使にあたる」との批判を打ち消そうとしたのだ。
しかし、「独自システム」には限界がある。限られた「7分間」で危機に対処するには、米国の早期警戒衛星の発射探知情報が不可欠だ。日本海のイージス艦や地上配備予定の新型レーダーでは、「地球が丸いためにカバー範囲が限られ、ミサイル発射から約1分間は発射確認が不可能」(防衛庁関係者)だからだ。
こうした現実を踏まえて、自民党の防衛政策検討小委員会は近く、「日米同盟を強化する上で、集団的自衛権の行使を可能にすることは極めて重要」との提言を行う。「ミサイル防衛は改憲の引き金になるだろう。米国はミサイル防衛が日米同盟の質を大きく変える契機になると期待している」。米戦略国際問題研究所(CSIS)の渡部恒雄氏はそう語る。
ミサイル防衛システムについては、米国内でも「技術的に不可能」と見る科学者が少なくない。また、ミサイル防衛の配備は、米国が仮想敵とする「ならず者国家」のほか中国やロシアを刺激することになり、結果的に国際的な軍事バランスを損なうとの見方も強い。
2月18日、プーチン大統領はロシア北部のプレセツク宇宙基地を視察した後、「ロシアは近い将来、大陸間を超音速で飛行し、速度やコースを制御できる兵器を配備する」と胸を張った。どんな兵器かは不明だが、「ミサイル防衛の無力化」宣言とも受け取られた。
一方、米国内では、民主党の大統領候補になるのが確実なジョン・ケリー上院議員がミサイル防衛に反対の立場。アーノルド・カンター元国防次官は「彼が(11月の大統領選で)当選すれば、米国のミサイル防衛政策が覆る可能性もある」と指摘する。
日本のミサイル防衛には総額で約1兆円が必要とされる。しかし、国会ではイラクへの自衛隊派遣問題に隠れ、導入の是非をめぐる論戦は盛り上がらなかった。ミサイル防衛は日米同盟の「必要経費」なのか。技術的可能性や安全保障上の利点が不明確なまま、未知数の構想(ミサイル防衛)に貴重な血税がつぎ込まれようとしている。
世界が変容を続ける中、安全保障の枠組みが揺れている。日本と世界は今、どんな問題に直面し、国際秩序はどう変わろうとしているのか。「漂う安全保障」の行方を追った。【「平和立国」取材班】
◆米、独伊と共同開発も
米国はレーガン政権時代の84年、戦略防衛構想(SDI、スターウォーズ計画)を打ち出し、大規模なミサイル防衛の一つのモデルになった。クリントン政権は、米国を守る米本土ミサイル防衛(NMD)を研究したが、同盟国や海外駐留米軍を守る戦域ミサイル防衛(TMD)とは区別していた。
しかし、ブッシュ現大統領は弾道ミサイル防衛(BMD)と称して概念を統一。敵ミサイルを発射直後(ブースト)、飛行中(ミッドコース)、弾頭切り離し後(ターミナル)の各段階で撃ち落とす「多層防衛」の構想を打ち出した。
米国が04年から配備するのは、ミッドコースでイージス艦などから迎撃するシステムと、ターミナル段階で陸上から迎撃するシステム。米国はこれまでにミサイル防衛の研究・開発に約824億ドル(約9兆円)の巨費を投じている。
また、広義のミサイル防衛として、米国はドイツ、イタリア両国と中距離拡大防空システム(MEADS)を開発中。イスラエルの地対空ミサイル「アロー」は米国との共同開発を終え、00年3月に配備が始まった。
98年から米国と海上配備型ミサイルの共同研究を続けてきた日本は、米国製艦対空ミサイル「SM3」をイージス艦4隻に、地対空ミサイル「パトリオット」(PAC3)4基を地上に配置することで、米国のミサイル防衛配備に連動する。
日本のシステムは、SM3が撃ち漏らしたミサイルをPAC3が追撃する2段階式。SM3は海上自衛隊、PAC3は航空自衛隊の指揮下に入るため、両隊の統合運用が不可欠となる。
[毎日新聞3月24日] ( 2004-03-24-03:00 )
http://www.mainichi.co.jp/news/flash/seiji/20040324k0000m010152000c.html