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イラク復興毎日の視点
http://www.mainichi.co.jp/eye/feature/nybomb/afterwar/art/040303E015_1202101210DQ.html
イラク日記訪問−−日本国際ボランティアセンター・熊岡路矢さん
◇バグダッドで医療支援を続ける、日本国際ボランティアセンター代表・熊岡路矢さん
◇希望なき占領軍統治−−非武装であればこそ人々の間に入れる
◇他の国では助かる命もここでは厳しい状況にある。「発病・治療開始後2年間で8割の子供たちが亡くなる」と聞いた
陸上自衛隊が復興支援のため展開するイラクでは、各地で米兵などへの攻撃が頻発し、混乱が続く。その中、非政府組織(NGO)の日本国際ボランティアセンター(JVC)はバグダッドに日本人駐在員を置き医療支援を続ける。2月中旬に現地を訪れたJVC代表の熊岡路矢さん(57)に、イラク訪問日記を寄せてもらった。【構成・大槻英二】
◆2月15日(日)
★ファルージャで14日、武装グループが警察署などを襲撃。激しい銃撃戦となり、警官ら27人死亡
午前2時、ヨルダンのアンマン国際空港に到着。雪のために購入予定の医薬品も入手できず。午後10時、ベテランのイラク人運転手、マフムードさんと陸路イラク国境に向かう。
◆2月16日(月)
午前3時、国境到着。地平線上に細く鋭い赤新月が浮かぶ。血の色のようで不吉なものを感じた。朝早く、寒い時期なので車も人も少なく、入管も税関も短時間で通過。さあイラク側である。暗がりの中、砂漠に広がる幹線道路を真東にバグダッドへと向かう。三日月は上空に昇ると白青色に変わった。
国境から約3時間、朝8時ごろ、最も危険なラマディ市周辺を走り抜ける。BMWなど高級車に乗った強盗団がカラシニコフ銃をもって現れることもあり、米軍と抵抗組織の戦闘や爆弾攻撃に遭遇することもある。続いてこの1〜2週間激戦が続いたファルージャに近づく。ここも治安が悪い。無事通過。地元をよく知る運転手のお陰だ。
バグダッドの手前で、米軍が高速道路を片側全面数キロにわたって封鎖。ここ数日続いた抵抗組織の攻撃に対する米軍側の反撃との情報。米軍は抵抗組織のリーダーの家や拠点を囲い込み、武装ヘリで攻撃し全滅させる。イスラエルがパレスチナで行う攻撃方式と同じ。一般市民が巻き添えで犠牲になることもあり、一層の恨みを買い、憎悪の連鎖が生まれる。
ようやくバグダッド市内に到着。昨年8月以来。イスラム新年直前の結婚式の季節でもあり、商店には家電や衣類があふれる。市民は治安の悪さに緊張しながらも通勤・通学や買い物をしないわけにはいかない。死傷することも確率の問題と割り切るしかない。治安もライフラインも確保できない占領軍には不満の声が向けられている。
◆2月17日(火)
JVCが支援している「マンスール子供教育病院」のマーゼン医師に、医薬品が一日遅れることを伝える。吐き気止めが遅れたためにおう吐に悩まされている子供が多いとのこと。午後、NCCI(イラクNGO調整委員会。58の正規メンバー、54のオブザーバーで構成)の全体会合に出席。
議題の一つは、CPA(米英占領当局)指令45項の「NGO登録」の件。NGOの大部分はCPAではなく、イラクの省庁(例えば計画省)に登録したいと希望している。理由は(1)占領軍の傘下・協力者と思われれば、抵抗組織などから攻撃を受ける危険性がある(2)登録が否定されたり抹消された場合の異議申し立て手続きが不明である点だ。登録しないと、バグダッド―アンマン間の航空運賃が割引されない、免税待遇が受けられなくなるなどの不利益がある。
◆2月18日(水)
医薬品がアンマンから届く。JVCの原文次郎イラク駐在員とマンスール子供教育病院に届けに行く。治療が中断し、申し訳なく感じた。この病院も昨年の軍事攻撃後、略奪の被害にあったが、復旧しつつある。
しかし占領行政の混迷、医薬品などの流通の不備により、小児がんの子供たちの治療は円滑ではない。他の国では助かる命もここでは厳しい状況にある。「発病・治療開始後2年間で8割の子供たちが亡くなる」と聞いた。本人も家族も、そして治療にあたる医師、看護師もつらく悲しい現実に直面している。ナースステーションには、亡くなった子供たちの写真や子供たちが描いた絵が飾られている。昨年8月に撮影してあげた写真も飾られていた。10歳に満たない短くつらい人生。家族や友達との楽しい日々もあったと思いたい。
劣化ウラン弾と発病の連関を科学的に証明するのは難しい。しかし湾岸戦争以降、イラク各地域で白血病の発病は3〜4倍から10倍近くに増えているとのこと。米英軍兵士やその子供たちにも被害が出ている。(1)劣化ウラン弾を使用した場所、量の調査。使用国による情報公開(2)同弾によって破壊された戦車や施設(子供が遊び場にしている例も多い)の処理(3)治療への態勢強化と国際協力(4)劣化ウラン弾を使わせないための運動――が必要である。何の罪もないのにこの病で苦しんでいる子供たち、そして家族の姿を目にするのはつらい。
◆2月19日(木)
★陸自がサマワに入って1カ月。先遣隊に続いて本隊先発隊も到着し、約120人が活動。現地では爆発事件が起き、治安への不安も増す
支援しているもう一つの「中央子供教育病院」を訪れる。検問の厳しさと新年直前の担当医師の早退で、病棟訪問の目的が果たせず。市内・国内の電話網が破壊されたままで、電話で面会予約がとれないもどかしさがつきまとう。
イラク人および日本の報道陣に、自衛隊派遣についてしばしば聞かれた。NCCI所属のNGO112団体が活動している現状から、「武装した自己完結型組織しか人道・復興のために働けない」(防衛庁長官)ということは全くない。非武装であればこそ人々の間に入ることができる。自己完結型でなければこそ地域社会に溶け込み、人道・復興支援を行うことができる。NGOの比較優位と費用対効果のよさを、現地に来て改めて実感した。
自衛隊の100億円単位の費用に対して、サマワ、バグダッドなどで活動するフランスのNGO「ACTED」は5000万〜6000万円単位で、浄水、給水、保健、衛生教育を実施している。あと2000万円が足りないために保健教育活動を断念せざるをえないという話を担当調整員から聞いて、大きな矛盾を感じた。
◆2月20日(金)
★陸自が使う軽装甲機動車など車両約70台や物資を積んだ海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」と護衛艦「むらさめ」が北海道・室蘭港を出港
午前6時45分、バグダッド市内を離れる。出発は早過ぎても遅くなっても危険は高まる。やはりファルージャ、ラマディを通過する時が緊張する。家族の顔もちらつき、祈るような気持ちで砂漠の中を進む。NGOは地域社会に溶け込み、武器をもたず、武器をもつ軍隊組織から距離をおくことで身を守る。イラクの現状も外国の軍隊組織を減らす計画を明確にし、イラク政府・行政を強化し、人道・復興支援を占領軍から国連やNGOなどより中立的な機関・団体に委ねる時期にきている。
ヨルダン国境に近づく。歴史、文化、資源、人のすべてにおいて豊かなこのイラクという国が、外国の干渉を排しながら復興をとげる姿を胸に描いた。
◆3月1日(月)
帰国後、ニュースのチェック。「サマワ近くで、米軍がイラク人に発砲、住民数人死傷」との報道。私も現地移動中、一番怖かったのは強盗や抵抗組織より、1日何回となく遭遇する米軍だった。一般住民からも歓迎されていないと感じている米兵は常にピリピリしている。装甲車や戦車から上半身を乗り出し、銃口を向け、英語で怒鳴りつける。英語が分からないイラク人運転手は慌てて動き、かえって危険が増す。銃を向けられ、威嚇射撃を受けたこともある。
占領軍兵士もせめてアラビア語や現地習慣を学び、人々と意思疎通しなければ嫌われる一方だ。占領軍による統治に希望はもてず、さらなる泥沼化が心配される。自衛隊も含め戦闘服、武器付きでは、社会に入り信頼関係を築くのは難しいだろう。
◇日本国際ボランティアセンター
80年、インドシナ難民救援を機に設立。カンボジアで農村開発、アフガニスタンで地雷回避教育を支援するなど9カ国で活動する。事務局は東京都台東区東上野1の20の6丸幸ビル6階(03・3834・2388)。 (毎日新聞2004年3月3日東京夕刊から)