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中学公民教科書にみる自衛隊(東京新聞・特報)
「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」。憲法第九条が定める、そもそも論だ。そのため自衛隊には常に違憲論がつきまとい、解釈の「応用問題」が続けられてきた。しかし、そもそも論を伝えるはずの教科書の中に「違憲論」が削除されているものもある。教科書の記述にこだわり続ける元教育者の指摘をもとに「教科書の中の自衛隊」を見た。 (早川由紀美)
■2000年度検定版 記述なくなる
「憲法が変わる前に、教科書が変わってしまっている」。元埼玉県与野市教育センター指導主事の青木幸寿さん(79)は懸念する。現在使用されている二〇〇〇(平成十二)年度検定の東京書籍の中学公民の教科書には、自衛隊違憲論の記述がない。そのことに気づいた青木さんは同社に書き直しを求め、質問状を送り続けている。
八社の中学公民教科書のうち同社は採択率60%で、一番使われている。自衛隊を扱っているのは「国際社会と世界平和」の項目の中だ。
「日本国憲法は、第9条で戦争を放棄し、戦力をもたず、交戦権を認めないことを定めています。戦争を放棄して世界の恒久平和のために努力するという平和主義は、憲法の基本原理の一つになっています。いっぽう、日本は自衛隊をもっています。主権国家には自衛権があり、そのための防衛力をもつことを憲法は禁じていないという立場から、自衛隊がつくられ維持されてきました。しかし、自衛隊は、自衛のために必要最低限の実力でなければなりません」
前回の一九九六年度検定の同社の教科書では、五〇年の警察予備隊設置からの歴史や、「自衛のための必要最小限度の実力をもつことは憲法で禁止されていない」という政府見解とともに、「これに対し、自衛隊は違憲であるという主張や自衛隊の縮小をとなえる意見もあり、議論が続いている」と、違憲論の記述があった。
青木さんはこれまでも長年にわたり、世界史のベトナム戦争などの記述をめぐり、教科書会社に執拗(しつよう)に論争を挑んできた。
■追及元教育者『教科書怖い』
「友達は戦争でうんと死んでいる。特攻隊にしろ何にしろ、教科書の力は大きかった。教科書ほど恐ろしいものはない。戦争が始まった日に世の中が変わるわけではない。その前に変わっている」
これに対し、東京書籍は「何か特定の意図があるとかいうことではない。前回の教科書では憲法のところで自衛隊を取り扱った。今回は国際社会における平和主義ということで、扱う文脈が変わり記述が変わった」(広報課)と説明する。
「昭和五十年代、六十年代のかつての教科書は違憲、合憲論という形で自衛隊を記述してきた。しかし自衛隊は現に存在し、教科書作成時にPKO(国連平和維持活動)とかに派遣されていた。指導要領が大きく変わり、昔の教科書に比べると記述部分が減っている。内容を精選する中で、従来のスタイルではなく、日本が置かれている現実を書いていこうということになった。違憲、合憲どちらにも触れていない。淡々と事実だけを書いた」
世論調査で違憲と考える人の割合が減っていることや、憲法学会の動向なども参考にしたという。注釈の形で入れるという選択もあり得るが「注釈で扱う中身ではない。扱うならば本来、本文で扱う話」とする。
■『いっぽう』で読みとって…
さらに「憲法第九条についての記述の後、『いっぽう』という接続詞で自衛隊の記述に続いている。この『いっぽう』という言葉で両方の立場を読みとることは可能だ。そういう立場をとったとご判断いただきたい」とも説明する。「使用開始の二〇〇二年度から三年目に入っているが、青木さん以外からのご批判は一件もない」と強調する。教科書は〇五年度まで使われるが、修正などは考えていないという。〇四年度検定の次回分については「文部科学省に申請中で、検定結果が出るまで申請した内容は外部に話すことができない決まりとなっている」。
他の七つの出版社の教科書の中では、自衛隊はどう記述されているのか。
東京書籍に次ぐ採択率12%の教育出版は、注釈の中で、戦力にあたらないという政府見解とともに「国民の中には、自衛隊は憲法第9条に違反しており、わが国の平和と安全のためには自衛隊の存在を認めるべきではないとする主張もある」と違憲論に言及する。
採択率11%の大阪書籍も、政府見解とともに「第9条は武力によらない自衛権だけを認めているのだから、自衛隊は憲法に違反している、とか、現在の自衛隊の装備をみると自衛のための最小限の実力をこえている、といった意見もあります」と記述する。
「自衛隊は原発などとともに、コンセンサスが確定していない話題の一つととらえている。そういう問題については両論併記という基本方針で、書かせてもらってます」(同社の岩井順一社会科担当部長)
一方で「違憲論は昔に比べると強くない。情勢が変わってくれば、変わってくるという傾向はある」とする出版社もある。
改憲論に偏り過ぎているという検定意見が付き、修正した経緯のある扶桑社は「自衛隊の貢献面も実態にあった形で記述するとともに、両論併記的にさまざまな見方がありますよということを記述した。さまざまな見方を通じ、生徒一人ひとりに公民的思考を深めていただきたい」と説明。東京書籍を除く七社ともに両論併記の形を取っていた。
■社会の右向き何となく迎合
教科書の中の自衛隊違憲論が存在感を薄めていく現状に、関西学院大学の野田正彰教授(文化変容論)は「社会が右に触れると、それに何となく迎合するという雰囲気が、何となく進行している。ややこしいことは扱わない方がいい、触れない方がいい、という風潮が強まると、社会が変な方向に向かう」と指摘する。
「思春期に、社会的に意見の分かれている問題は認識しなきゃいけない。どうせ自衛隊はあるんだからというのではなく、どうして戦争放棄して、なぜ自衛隊を持ってきたか、について知らないといけない。知ったうえで人の話が聞ける。君が代や同性愛などについてもそうだ。議論することで社会性に目覚めていく。それをさせないのは、社会の単純な歯車にするという発想だ」
同社の加野島行宏・社会科編集長は「これに限らず、反対も賛成もあるものについては、両論併記しろという文科省の指導がある」とする一方で「世の中の考え方の流れや風潮も何年かすると変わる。その辺も考慮しなければいけないだろう」とも話す。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040526/mng_____tokuho__000.shtml