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(回答先: GWよりだいぶ遅れちゃった特集:「特定失踪者」関連問題で臨時ダウンロード&疑惑リンク 投稿者 やました 日時 2004 年 5 月 22 日 18:16:55)
『SAPIO』04/5/12
検証 北朝鮮ウオッチャーの第一人者が抉る「メディアの責任と罪」
北朝鮮バブルの果てに残された「誤報」と「虚報」の残骸
関西大学助教授 李英和
2002年9月17日の日朝首脳会談以来、日本のテレビには連日、北朝鮮関連の映像が流れ続けている。金正日総書記の日本人拉致を認める爆弾発言によって日本国民の北朝鮮への関心は急激に高まり、北朝鮮モノは確実に視聴率を稼ぐことができるからだ。各テレビ局は競って「日本人を北朝鮮で見た」という脱化者を探し出して〃証言〃を報道してきた。一方で北朝鮮で放映されているニュースを放送したり、子ども向けテレビ番組やドラマを流して北朝鮮社会を解説することももはや〃定番〃になった。北朝鮮が取材を受け入れない以上、第2次情報に頼らざるを得ないのは仕方がないことではある。
だが、2次・3次情報であろうともメディアには検証する義務がある。第1次情報に近づけない北朝鮮問題だからこそ、より徹底した検証が必要なのだ。その検証を怠ったとき「金正日に付け入る隙を与える」と「救え!北朝鮮の民衆/緊急行動ネットワーク(RENK)」代表の李英和氏は警告する。北朝鮮報道から日本のメディアの罪と罰を検証する。
このところ大マスコミの北朝鮮報道がめっきり減った。一昨年の日朝首脳会談以降、テレビは連日「北朝鮮ネタ」であふれた。ところがイラク戦争の開戦と同時に、熱病のような北朝鮮ブームは、一気に鎮静化した。不思議な事態である。
(中略)
つい最近も米国紙の重大報道があった(4月8日付ニューヨーク・タイムズ)。5年前に北朝鮮で原爆3個を口盤したとパキスタンの「原爆の父」力ーン博士が供述した。日本にとってイラク情勢と比較にならないほど重大きわまる「爆弾証言」である。だが日本では大新聞が論評抜きの外信面扱いで伝えただけである。
(中略)
北朝鮮詐欺師を「養成」する大マスコミ
内容が娯楽であれ報道であれ、媒体が活字であれ映像であれ、マスメディアの致命傷はなんといっても「誤報」である。最近になって、北朝鮮問題での誤報と虚報がやたらと目立つ。といっても、視聴者や読者は何がそうなのか見分けがつかない。そもそも発信元の大マスコミが気づいているのかどうかすら怪しい。それだけに厄介で深刻だが、簡単便利な見分け方を本誌読者に伝授しておこう。
特大級の情報にもかかわらず、特定のメディアしか報じないものは基本的に怪しい。他社が後追い報道しないものは「眉唾もの」と見てよい。ただし中には複数の媒体が流す誤報もある。そんなときには本誌(SAPIO)が役立つ。北朝鮮問題で年季の入った本誌が見向きもしない「特報」はアブナイ。具体例をふたつだけ挙げておこう。どちらも最近、テレビや新聞で大序的に報じられたものである。だが本誌をいくら探しても一行たりとも記述が見当たらないはずである。
ひとつは昨年5月米国議会の公聴会で飛び出した脱北者の「爆弾証言」である。北朝鮮のミサイル開発に関して「恐るべき開発状況」を明かした。くわえて北朝鮮船(万景峰号)で「ミサイル部品の9割」が日本から運ばれているとの「驚愕の事実」を証言した。9割だとほとんど「完成品」である。この「事実」は日本の大マスコミでこぞって報じられ、お茶の間に大きな衝撃を与えた。頭からすっぽりと黒頭巾を被った異様な証言風景が衝撃をいやがうえにも増幅させた。
ところがこれは実際には虚報だった。その証拠に肝心の米国主要メディアは同証言をほとんど黙殺した。専門知識のある記者が見れば一日瞭然の虚報だからである。記者会見には当然、国防総省担当の腕利き記者が集合した。その初歩的な質問に対し、自称「ミサイル技術者」の証言者は何ひとつまともに答えられなかった。ノドン(中距離ミサイル)とテポドン(大陸間弾道ミサイル)の区別もつかない。4000qの射程距離を「4万q」と言い張る。「4万q」だとほぼ地球を一周するから、発射すれば自分の後頭部を直撃してしまう計算になる。さんざん失笑を買ったあげくに「どちらのミサイルも自分が開発した」と大見得を切る。記者たちは呆れて早々に会場を去った。
もうひとつは今年2月の生物化学兵器の「人体実験」報道。政治犯収容所の囚人を実験場に移送する史上初公開の証拠書類が大序的に報道された。第一報は英国のBBC放送で、「世紀のスクープ」に1時間の特番まで組んだ。「天下のBBC」の御墨付きのせいか、日本の新聞とテレビも、斉に後追い報道した。だがこれも虚報である。証拠書類の紙は中国製だし、文書は韓国のワープロ・ソフトで印字されている。詳細は省くが、文面も北朝鮮の公安事情を知る者にとっては「有り得ない」。
念のために断わっておくが、北朝鮮の弾道ミサイルと生物化学兵器開発は紛れもない事実である。人体実験もかねてから噂されており可能性もきわめて高い。だからといって誤報や虚報が許されるはずがない。金正日に付け入る隙を与えたり、真実の証言や本物の証拠が出た際に信用を損ないかねない。
ともあれ上記の事例からは虚報の共通構造が浮かびあがる。日本の大マスコミは依然として「洋モノ」信仰が抜けない。米英発の情報に簡単に飛びついて検証作業を手抜きする。ここ数年で急速に情報の収集力と分析力を高めた米国はともかく、英国はBBCといえども北朝鮮問題ではずぶの素人である。独自の検証抜きにそれを垂れ流すなど、報道の心得のイロハにもとる。初歩的チェックにそれほど労力は要らない。専門家に電話で確認すれば済む。実際、私に相談のあった内外メディアは誤報を免れた。
そもそも最高機密を知る立場の技術者が亡命すれば、北朝鮮当局はすぐさま人定事項を含めて全容をつかむ。覆面姿で延.一口しても意味がない。私が覆面をしてテレビに出るのと同じである。すこし常識を働かせれば怪しさが分かる。それでも大マスコミが引っ掛かるのは、有名な洋モノの「知りすぎた医者」が関係者で登場するせいもある。だが、この「知ったかぶり医者」は、メディア露出病の無責任な言動のせいで、北朝鮮NGO関係者の間では顰蹙モノである。
(中略)
それより罪深いのは、日本の大マスコミが北朝鮮詐欺師を「養成」していることである。視聴率・販売部数競争の悪弊が為せる業なのか、大マスコミは北朝鮮絡みの情報提供者(脱北者)に多額の謝礼金を提示する。これが脱北者の間で噂を呼び、まことしやかな目撃証言や巧妙な偽造文書(映像)が量産される原因となっている。需要が供給を生む典型的構図である。なにより腹立たしいのは「日本人拉致被害者を目撃した」という類の「新証言」である。ちょっと冷静になって内容を分析すればインチキとすぐに見抜ける。だが、メディアは検証抜きで「証言」を垂れ流す。藁をもすがる思いの被害者家族の心情を玩び食いものにするなど、許されざる犯罪行為と知るべきである。
ろくでもない映像に大金を注ぐテレビ局の愚
(中略)
資金が余っているなら玄人記者を増やし育てるべきだ。そうすれば札束で脱北者の頬を叩くような真似をしなくても立派な取材ができる。権力者におもねって情報を頂戴せずとも、国民が「知りたい/知るべき」ことが報道できるはずである。
かつて私はそんな記者魂に触れた。日本国民の約9割が関心を持つ拉致事件の核心に触れる鮮烈な記憶である。米国大統領が必ず目を通す屈指の米有力紙の記者と共に韓国大使館を訪ねた。97年夏のことである。主題は横田めぐみさんの拉致事件だった。それ以前に同氏は韓国で脱化者を取材したことがある。後に「めぐみさん目撃」を証言して一躍脚光を浴びた人物である。同記者は取材の際に複数人の写真を混ぜて確認を求めた。だが彼は首を横に振るばかり。衝撃の目撃証言はその数か月後の出来事である。記者は激怒した。彼が取材時に嘘をついたか、目撃証言が虚偽かのどちらか。いずれにせよ韓国政府の関与を疑わせた。そこで猛然たる抗議となった。拉致事件と脱北者証言に韓国政府が関与していたのではという記者の見立ては既に原稿化され、翌日には印刷機が回り全世界に発信される手筈だった。
記者は大使館の担当官に抗議の趣旨と印刷の手筈を伝えた。もし原稿内容に間違いがあれば、当日中なら訂正可能と告げた。慌てた担当官は「本国との連絡と相談」を求めた。だが記者は猶予を与えず即答を求めた。しばしの沈黙後、顔面蒼白の担当官は即答を約束した。ただし、質疑の応答は「YES/NO」形式、知りえた内容は記事化しないという条件付きだった。
一時間ほどの質疑応答は事件の真相を抉り出した。拉致事件の真偽、生存の有無、現住地と職業、婚姻の有無、結婚相手の人定事項、子供の年齢性別、等々。記者がYES/NO問答を終えたとき、息詰まる思いで同席していた私は「めぐみさん拉致事件」を確信した。首脳会談の5年前の出来事である。記者は約束を守り、いまに至るも質疑応答の内容を記事化していない。だが、その後に記者が書いた拉致問題の記事は筆鋒鋭く、他の追随を許さないものだった。私に約束を守る義理はないが、記者に敬意を表して沈黙を守った。
長い沈黙を破ったのは日朝首脳会談のときである。某公共放送局のスタジオで待機中、「5名生存、8名死亡」の速報が流れた。拉致事件そのものについては、北朝鮮留学中(91年)に信じるに足りる情報を私は平壌で得ていた。「めぐみさん事件」については上述の通りである。だから「めぐみさん93年死亡」発表を聞いて、私と記者氏は即座に虚偽と気づいた。一瞬たりとも動揺しなかった。金正日がタイムマシーンでも開発したのでないかぎり、97年に健在だった横田めぐみさんが93年に病死できるはずはない。放送局に死亡速報の訂正を強く求めたが反応はなかった。報道の生命線である検証を抜きに、大マスコミは小泉・金正日両首脳の「お言葉」を真実と信じた。誤報と虚報を生む権力への信仰心である。
記者に探究心と勇気さえあれば一円も掛けずに真実に迫れる。そのうえに資金があればさらに核心を抉り出せる。隠された真相を暴いて国民に示すことができるはずだ。一例を挙げれば、外務省は外相の国会答弁とは裏腹に日本人脱北者を見殺しにしている。国民はそれを知りたがっている。知る権利がある。にもかかわらず身近な隠された真実を明かすことすらできず、誤報と虚報の山を築くのはなぜか。資金が足りないのではない。実際、ドブに捨てている。大マスコミの記者は目覚めるときだ。さもなければさっさと記者を辞めて詐欺師の仲間にでも入れてもらうがよかろう。