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公表されなかった32件 六本木ヒルズの広報体質【東京新聞 こちら特報部】
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040331/mng_____tokuho__000.shtml
メディア利用 PR一流 「事故情報はひた隠し」 メーカーさえ「頻発知らされず」
32件。昨年4月のオープンから、今回の男児死亡事故発生まで、六本木ヒルズで起きていた事故の数だ。これらの一部でも明らかにされていれば、悲劇は防げたのでは、と悔やまれる。メディアを巧みに操るPR戦略で「東京の新名所」を演出しながら、来場者の安全にかかわる情報開示は消極的。そんな「広報体質」の危うさは−。
「正直言って、驚きました。三十件以上も(事故が)あったとは…」
大型自動回転ドアを製造している「三和シヤッター工業」の広報担当者が思わず漏らした言葉だ。
オープン以来、回転ドアによる事故が三十二件に上っていたという事実は、六本木ヒルズを管理する森ビル側が死亡事故後の記者会見で初めて明らかにしているが、メーカー側すら「事故の頻発は知らされていなかった」と反発する。
三和側は「連絡を受けたのは、昨年十二月に女児がケガをした例と、今回の死亡事故の二件だけ。他には業者さんが履物を挟んだという話を聞き及んでいるくらいです」と強調した。
三十二件の事故の内訳をみると、大型ドアでの事故十二件のうち七件で救急車が出動した。小型ドアでの事故を含めると救急搬送は計十件に上る。また、半数の十六件が子供の事故だった。にもかかわらず森ビルは事故を警察にも届けておらず、会見では「軽微な事故という認識だった」との弁明に終始した。
三和側は「事故がすべて一般社会に向け発表されるとは限らないが、少なくともメーカー側には普通、連絡は来る。まして、数件ではなく、数十件でケタが違いますから」と続けた。
今回の事故をめぐっては森ビル側とメーカー側との安全対策についての見解も全く食い違っている。
■「情報開示あれば死亡事故防げた」
焦点となっているのは、赤外線センサーが、死亡した男児の身長(一メートル一七)が届かない百二十センチから上しか感知できないように設定変更されていた点だ。
昨年十二月七日に、今回と同型の回転ドアに女児(6つ)が挟まれた事故の後、三和側と森ビル側は、この点について話し合っている。
森ビル側は「『(赤外線センサーの)死角をなくせないか』と要請した」と主張する。これに対し、三和側は、この要請があったことを否定し、逆に「誤作動が多いという相談を受けて森タワーの管理会社の了解の下で、センサーの届く範囲を短くした」と話す。
双方の言い分は平行線をたどるが、少なくとも、この回転ドアの危険性を双方が認識したはずの昨年十二月以降も、事故の多発が看板などで告知されることもなく、逆に事故は増加し、十件起きている。
危機管理コンサルタント会社リスクヘッジ代表の田中辰巳氏は「会見で森ビル幹部が、頻発した事故について『たいした事故ではない』と言っていたが、この認識は、お年寄りや子供まであらゆる人々に場所を提供する事業者として致命的だ。小さな事故は大きな事故の予兆で、どう防ぐかが重要だ」と指摘する。「三十回以上も重なると間違いなく危険のシグナルで、情報開示も大事な防止策の一つになる。きちんと公表されていたら、命が失われる事故は防げたといわれても仕方がない」と断じた。
オフィス中心だった森ビル 「観客動員」認識に甘さ 「客は大人」死角生む
事故に関しては「隠ぺい体質」が透けて見える森ビルの対応ぶりだが、イメージアップにつながる情報の提供には定評がある。六本木ヒルズを、東京でも有数の集客力を誇る人気スポットにさせたのもメディアに露出させ続けた同社一流の広報戦略といえる。
米経済紙が「バブルの遺物」と皮肉ったほど、昨年四月の開業キャンペーンは華やかだった。オープンセレモニーには小泉首相や石原慎太郎都知事も参加し「都心の新名所」PRに一役買った。小泉首相は開業後も続けて二回訪問したことを明かし「こんなに立派なビルがたくさんできて、多くの人でにぎわっている。どこが不況なんだ」とアピールしてみせたほどだ。
開業から半年で来場者は東京二十三区の人口の約三倍に相当する約二千六百万人を記録。その後も平日で約十万人の人出が続く。
CM総合研究所の関根建男代表は「東京の象徴となるような建物を相次いで造り、そこに行けば何かニュースがあるという屈指の情報メディアに自らがなる巧みさで、マスコミとの連携を深めた。六本木ヒルズ情報やブランドをインターネットの玄関サイトのようにそろえている」と広報戦略のうまさを分析する。
ただ、メディア挙げての紹介で一気に集客力を満開にした分だけ、安全面での“死角”も生じたようだ。
田中氏は「森ビルはオフィスビルを運営してきた会社だけに、お客は『大人』だという感覚がある。だが六本木ヒルズは、東京の新しい観光名所として盛んにPRした。観光地には、子供連れから、都会に慣れていないお年寄りまで一般の消費者が集まる。森ビルは、使用目的に合わせた安全管理をしなければならなかった」と指摘する。
■「不祥事対応に企業の存亡が」
安全管理に死角があったのだとすれば、事故発生を速やかに明かすことが、来場者への注意喚起や対応策づくりにつながるはずだが、経営評論家、梶原一明氏はこう解説する。
「森ビルは広報、宣伝活動は巧みな会社だが、事故や企業不祥事が起こったときの対応は別だ。説明責任を果たすためには、事件が起こって一時間以内に社内の専門家が集まり、情報収集してトップの口から事態を世間に説明できるようにする態勢が要る。一歩対応を間違えれば、雪印のように経営危機に追い込まれることが分かっているのに、日本企業は企業統治がまったく不十分だといえる」
「森ビルよ、お前もか、というより、事故や不祥事はどこの会社でも起きうること。その際の対応こそが、企業の存亡を決めるという危機感がなければいけない」
報道側にも課題 救急搬送把握できず
一方で、メディアの課題も指摘されそうだ。六本木ヒルズを繰り返し取り上げてきたにもかかわらず、事故の頻発はメディアの“死角”にもなっていた。森ビルが事故を公表しなくても度重なる救急車の搬送があったため、東京消防庁はいくつかの事故を把握していたことは確かだ。例えば、同庁から事故を暴くことができなかったのか。
東京消防庁を担当したことがある記者の一人は「話題性の高い施設での子供の事故で救急車が何度も出動しているのに、死亡事故に至るまでメディアがキャッチできなかったのが疑問だ。救急搬送で政治家の病気などが判明することもあり担当記者にとって最重要のウオッチ事項のはずだ」と自戒も込めて話す。
東京消防庁の広報担当者は、六本木ヒルズの事故に関して「死亡事故の発生以降、報道機関から(開業以来の六本木ヒルズの事故について)取材、問い合わせを受けるようになった。それまでは特に取材、問い合わせはなかったと思う。あれば、当方が把握していた事故については答えているはずだ」と説明した。
※デスクメモ
多くの新聞記者は地方でスタートを切る。まず教えられるのは「サイレンを聞いたら、現場に行け」だ。大都会の取材では、いちいちサイレンを追うことなどできない。だが消防署員と仲良くし情報源にすることはできる。足や知恵を使わなければニュースの死角も拡大してしまう。(熊)