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国立天文台アストロ・トピックス(6)でも紹介した彗星ラッシュの中では本命と思われていたニート彗星(C/2001 Q4)が、日没後の西の空にみえはじめてきました。5日の夕方には、国立天文台岡山天体物理観測所の50センチメートル望遠鏡によって観測が行われ、彗星核から吹き出すジェットによる構造を捉えることに成功しました。
ニート彗星は、2001年夏にアメリカ・パロマー山天文台で行われている小惑星捜索プログラム“ニートプロジェクト”で発見された彗星です。発見された時の太陽からの距離が約15億キロメートルもありました。これは、ほぼ土星の軌道あたりに相当し、新彗星が発見された距離としては最遠記録を更新しました。彗星は主に氷でできた天体ですから、こんな遠くでは、なかなか蒸発しません。それでも発見されるということは、本体である核がもともと大きな彗星ではないか、と考えられます。そのため、太陽に近づく今年5月には、日本からも見える肉眼彗星になると期待されていました(国立天文台・天文ニュース 475)。そして、実際に5月5日の日没直後の西の空に現れたニート彗星を、熱心なアマチュア天文家が観測することに成功しました。
国立天文台岡山天体物理観測所には、科学研究費補助金・学術創成研究「ガンマ線バーストの迅速な発見、観測による宇宙形成・進化の研究」(代表・東京工業大学・河合誠之(かわいのぶゆき)教授)の一環として、ガンマ線バーストの光学観測のための50センチメートル反射望遠鏡を設置されました。この望遠鏡の光学性能試験を兼ねた観測の一環として、同観測所の柳澤顕史(やなぎさわけんし)主任研究員と放送大学学生の戸田博之(とだひろゆき)さんによって、ニート彗星の姿が5日20時過ぎに捉えられました。Iバンドと呼ばれる700ナノメートルから900ナノメートルまでの波長で撮影された画像には、核本体から塵が激しく吹き出す“ジェット”と呼ばれる現象が捉えられています。試験観測とはいえ、天文学的にも貴重なデータが得られたことで、本来の趣旨であるガンマ線バーストの研究にも、この50センチメートル望遠鏡は大いに活躍することが期待されます。
ニート彗星は、今後、日ごと高度を上げていき、今週末にはかなり見やすい位置まで上ってきます。明るさはやや低調な3等星から4等星程度と思われますが、太陽への最接近が5月15日なので、双眼鏡などを使えば、久々の肉眼彗星の姿をはっきりと眺めることができるでしょう。空の暗い場所では、たなびく尾が見られるかもしれません。5月末には、リニア彗星(C/2002 T7)が夕方の空に見え始め、二つの彗星が同時に眺められる条件となりますが、残念ながらニート彗星は太陽からも地球からもどんどん離れていくので、その頃には急速に暗くなっていくと考えられます。ニート彗星の観察のチャンスは5月中旬までと考えたほうがよいかもしれません。
[2004年5月6日]