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都青少年育成条例の“健全”度
シール包装 四苦八苦
来月一日から、全国のコンビニエンスストアや書店には、シールで封印された雑誌類が並ぶ。日本中の書棚を様変わりさせるのは、出版業界が設けた「自主規制」だ。だが、その背景には東京都の条例改正がある。子供を“有害”図書から守るため包装への「努力」が明記されたことで、業界が対応を迫られたためだ。都が促す「自主規制」の実態とは−。 (中山洋子)
■月1千万部超の雑誌…人手も利益も出版社なし
「とても間に合わない。すごい量なんです」
来月一日に向けたシール張り(包装)作業で、成人向け雑誌を抱える出版社は悲鳴を上げている。帯状のシールで、表紙と背表紙をつなぎ合わせ、開封しない限り中身を見ることができないようにする作業だ。出版社のスタッフが一つ一つ手作業で行っている。
出版業界の自主規制団体、出版倫理協議会(出倫協)は「いずれ、印刷会社が設備投資をしてシール張りを請け負うことになるが、当面は手作業になる。人の手当てができなくてたいへんな状況です。人件費を含めると、一枚十円から十五円のコストがかかる」と途方に暮れる。
「単純計算で、同じ利益を維持するためには、雑誌の定価を上げなければ割が合わない」との悲鳴も聞こえる。
日本出版取次協会は「一括して荷さばきをして搬送する作業の流れで、一部だけをシール張りをするというのは不可能だ」と頭を抱える。
業界を苦悩させている自主的なシール張りは、四月に施行された改正都青少年健全育成条例に基づいている。
条例では、出版社側が独自に成人マークをつけている雑誌などに対し、包装への「努力」が明記された。
出倫協では「シール張りは月間に一千万部を超える。成人マークを表示していない雑誌も、三十六誌がシール張りを決めている」と説明する。
「有害図書」をめぐる都の規制に詳しい日本出版社の矢崎泰夫社長は「毎日五店、年間に千三百の書店が全国で店を閉めている現状で、そもそも元気な雑誌なんてほとんどない。タダでさえ売れないのに、中身を見ることのできない雑誌を読者は手にとってくれるか。シール張りもやりたくてやるわけじゃない」と窮状を訴える。
厳しい経営環境にあって、しかも包装は努力目標にもかかわらず、業界の対応は早かった。その理由を矢崎社長は「コンビニや取次会社が『シールを張ってない雑誌は扱わない』と判断したら、出版社はやるしかない」と話す。
同条例で「不健全図書」に指定されると包装が義務化され、警告に従わなかった場合には、販売した店に三十万円以下の罰金が科されることになるからだ。コンビニ業界の要請で、早い段階から包装は出版社が負担することに決まっていた。
■都の規制は全国に波及
さらに出版社や取次会社の大半が首都圏に集中しているため、一自治体にすぎない都の規制はそのまま全国に波及することになる。
都青少年対策室では「子供に見せてはいけないものへの対応は、業界が自主的に考えてほしいという条例の精神が生かされた成果だ」と評価する。
行政による規制強化を危ぐする声は強いが、同室では「民意の反映である議会を経て決まったことで、『見せていい』という意見が強かったらそういう条例になった。そもそも何にシールを張るかは、個々の出版社が決めることだ」と強調、あくまでも業界主導の規制との立場だ。
■『出版差し止めも同然』
だが、不健全図書に対する規制に詳しいジャーナリストの長岡義幸氏は「都の制度は、販売規制の形態を取りながら、実態としては出版規制だ。『自主規制にゆだねる』とする言い分には詐術がある」と批判する。
実際、自主規制ルールを都が利用して「不健全図書」の指定をし、休刊に追いんだとみられている例がある。
宝島社は、二〇〇〇年九月から三回連続で、パソコン雑誌「遊ぶインターネット」と「DOS/V USER」の不健全図書指定を受けた。付録にアダルト映像を含むCD−ROMを付けていたためだ。
出倫協は、都の指定を三回連続、あるいは年に五回受けた図書は、表紙に「十八歳未満には販売できない」とする帯紙をつけなければ取次店で扱わないとする自主ルールを定めている。
「遊ぶ−」は当時で十万部、「DOS−」は二十三万部とパソコン雑誌では他誌をリードする売れ筋商品だったという。業界の「自主規制」の結果、全国の書店で販売してもらえなくなった。通信販売で発行を続けたが、いずれも一年後には休刊を余儀なくされた。
同社は「初めてのパソコンに慣れるための大人向けに作っており、さまざまなフリーソフトを提供していた。アダルト映像は一部にすぎない」と強調しながら「通販しかできなくなってからも、応援メールが数百通も届いた。ただ、発行部数が一万部台に落ち込み、年間で億単位の損失になり、続けられなくなった」と説明する。
■都訴えた宝島社『制約必要』判決に控訴
宝島社は同十一月、「表現の自由を保障する憲法に違反する」として、都を相手取り不健全図書指定処分の取り消しを求める訴訟を東京地裁に起こした。同社の米津誠総務部長は「これまで指定を受けていたのはアダルト専門誌ばかり。パソコン雑誌では初めてで、不健全の基準もあいまいだ。業界のルールを利用して、都は実質的に、気に入らない雑誌の出版差し止めを行っている」と主張する。
裁判を通じて、都側は、不健全図書指定と業界の自主規制の効果とは無関係で「市場から排除することを目的としているとの指摘はこじつけ」と反論している。
同地裁は昨年九月、「青少年保護のためには知る権利に一定の制約も必要」との判断で、同社の請求を棄却した。同社はこれを不服として東京高裁に控訴中で、今月三十日にその判決が言い渡される。
■『石原都政は規制前向き』
前出の長岡氏は「業界が自主規制を設けた当時は、むしろ東京都は全国で最も慎重だった。事前に業界団体による打ち合わせ会があるのも都だけだ。九〇年代初頭に、有害コミックが問題視された際に、都条例を変えて規制強化するよう促す国や警視庁の圧力には、東京都はギリギリまで対抗した」と指摘。それが一転、規制に動きだした点について「石原都政になってから、警察との緊張関係が途切れた。むしろ積極的に警察出身者を担当職員に登用している」と行政の“体質”が変わったことが、規制の“基準”を変えているとみる。
■過激わいせつ生む『悪循環』
前出の矢崎氏はこう嘆息する。「かつて成人マークをつけたことで、アダルト表現はいっそう過激になった。子供を“人質”にした短絡的な規制は、結局はよりわいせつ性の強い環境を生むだけだ」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040621/mng_____tokuho__000.shtml