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http://www.mainichi-msn.co.jp/kurashi/travel/news/20040429ddm001070118000c.html
「ケンムン」は鹿児島県の奄美群島の妖怪である。ガジュマルの老木にすむ木の精という。一見サルに似ているが、山に入る人にいたずらを仕掛ける。とくに相撲をとろうと持ちかけてくるが、応じない方がいい。ひどい目にあうからだ▲このケンムン、昔話の主人公ではなく、あくまで“実話”として語られてきた。ちょうどカッパやツチノコのような感じだろうか。さすがに最近は話を聞かないが、いなくなったからではない。人からケンムンを見る力が失われたからだ−−そういう“説”もある▲木も草も、虫も鳥も、人も妖怪も、ともに暮らす奄美の豊かな自然。それを鮮やかな色彩と大胆な構図で描き出した日本画家・田中一村(1908〜77年)の展覧会が、大丸ミュージアム・東京で開かれている(5月9日まで)。代表作の「奄美の杜(もり)」シリーズをはじめ、初期の未発表作をも含む約130点の展観である▲「木が話しかけてくるようだ」。50歳で画壇から決別して奄美に移る直前の旅で一村は言ったそうだ。移住した島では、まだ木の精が人々の心の中で息づいていた。画家がそれまでの誰とも異なる画境を開けたのは、そんな中で亜熱帯の森と語り合えたからだろう▲日給450円の染色職人として何年か貯金し、次の数年は画業に集中するのが島での暮らしだった。天然の孔雀(くじゃく)石からとれる緑青などの絵の具をはじめとする高価な画材に、貯金のほとんどが費やされた。奄美の緑はそうして絹布の上に生命をよみがえらせたのだ▲きょうは「みどりの日」。緑の恵みを体全体で感じる森林浴もいい。南の森が孤高の画家の魂に授けてくれた霊感に心を開いてみるのもいい。大きな自然に抱かれて生きる喜びをしっかり受け止める日だ。
毎日新聞 2004年4月29日 東京朝刊