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ポパー「人の世の時間感覚では、あなたより20年ほど遅くこちらにやってきたことになりますが、こうしてお話ができることを喜んでいます」
シュトラウス「私は政治哲学の学徒として世を過ごし、あなたは、政治哲学にもコミットしましたが、どちらかと言うと科学哲学に大きな影響を与えた人でしたから、なかなかお話する機会もありませんでしたね」
ポパー「そうそう、英国で研究活動をした後に米国のシカゴ大学に移られたハイエクさんが二人にとって共通の知り合いということになります」
シュトラウス「ハイエクさんは、剥き出しで反集産主義や反全体主義を訴えたため、左翼勢力からは蛇蝎の如く嫌われましたね」
ポパー「その一方であなたは巧妙に自分の立場を隠し続けましたね。そして、米国はともかく世界にその名が知られるようになったきっかけは、ブッシュ政権の戦争政策を支え推進しているネオコンの存在によってですよね」
シュトラウス「人の世では私のことをネオコンの始祖と呼んでいるようです(笑)」
ポパー「私は自分のことを“進歩的合理主義者”だと思っていましたが、昨今の世を見ていると、私は“保守主義者”と分類されることになるのではと思っています」
シュトラウス「なかなか鋭い認識ですね。欧州の一つの主流となった左派の堕落ぶりを見ると、あなたは、健全な左派的国家社会をなんとか維持できると考える“楽観的保守主義者”になるのかもしれません」
ポパー「私は、人の世の評価とは違って、あなたのことを“保守主義者”だとは思っていません」
シュトラウス「ネオコン、“新保守主義”という呼称がどういう意図で付けられたかはわかりませんが、私の言説を“保守主義”の表明と受け止める人は真意をほとんど理解していないと思っています」
ポパー「あなたは、共和政も民主主義も、さらに言えば自然権思想も絶対的な善であるという見方をしていないし、現在の統治形態や社会を維持すべきものとは考えていないのですから、“保守主義”とは言えませんよね」
シュトラウス「そうですね。“保守主義”は、歴史的に形成されてきた国家や社会を尊重し、それを脅かすものに対抗していくというものですからね」
ポパー「じゃあ、ネオコンはプラトンと同じように崇高な嘘をついていると?」
シュトラウス「崇高かどうかはわかりませんが、術数として“新保守主義”という名称を使っているのかもしれませんね。一言だけ言えば、ネオ・コンではなく、ネオコンという名称にしたのは嘘を避けるためでしょう」
ポパー「あなたの薫陶を得た人たちらしい動きですね。保守主義を価値観的・論理的に突き詰めるなかで出てきた新しい保守主義ではなく、“新保守主義”というまったく新しいイデオロギーだということですか?」
シュトラウス「ネオコンという政治運動を行なっている人達に代わって語れる立場ではありませんが、今後新しく生み出す秩序、創り出すコスモスというか世界秩序を保守するという奇妙なイデオロギーの表現が“ネオコン”というものなのかもしれませんね」
ポパー「歴史的に形成されたきたリアルな統治形態や社会ではなく、将来創り出す世界国家や世界社会の秩序を保守するという意味で“新保守主義”だと言うのですか・・・それなら、“新保守主義”という名称は米国民に受け容れられるための隠れ蓑で、実のところは“革命主義”なのではないですか」
シュトラウス「ネオコンはともかく、私の立場が“革命主義”であることは否定はしません。それは私の著作をまじめに読まれた方ならご理解されるはずです」
ポパー「私にしろあなたにしろ、そして、ハイエクさんにも言えることですが、あの戦間期を生き抜いたことが重要な意味を持っていますよね。ロシアのボルシェビキ革命、世界大恐慌、ドイツのナチズムといった激動の時代に生身で向かい合ったことが、それぞれの立場を醸成したはずです」
シュトラウス「そうですね。戦後の世界には奇妙な楽天主義が満ちました。米国的な統治形態や価値観が善なるものと受け止められ、それを現実化することで地上に天国が作れるという錯覚もありました。それが政治哲学の不幸の一因でもあり、私の言説をあのようなかたちにしたとも言えます」
ポパー「ファシズムが敗北し、大恐慌で象徴的に現出した「西洋の没落」が霧散し、冷戦という奇妙な対立的調和が到来したことで思想的怠惰を生み出したというわけですね。そして、あなたは、そのような情況では本性を隠して言説を語るしかなかったと...」
シュトラウス「物質的に圧倒的な優位にあった米国的価値観と惨めな戦時体制にあったソ連的価値観を比較できると考えること自体が妄想でしかありません。そうであったがゆえに、戦後世界は思想的怠惰をもたらしたと思っています」
ポパー「確かに、反共産主義的言説はソ連や中国の酷い物質的現実を語るだけで済んだのですから思考怠惰につながって当然ですよね」
シュトラウス「しかし、それは、とんでもない現世主義というかリアリズムでしかありません。電化された家に住み自動車で旅行できるから善、食料品も並ばなければ手に入らないから悪というレベルで思想を裁断できるのなら、我々哲学者は用無しです(笑)」
ポパー「私とあなたの思想において最大の違いはどのあたりにあると思っていますか?」
シュトラウス「たぶんですが、超越的な価値や被支配者に対する評価が分岐点になっていると思っています」
ポパー「あなたは、私が嫌っている、マルクス主義とは言わないがヘーゲル主義ないしプラトン主義に親和性を抱いているでしょ。ついでに言えば、ニーチェ的実存主義にも...」
シュトラウス「その一方であなたは、道徳的価値は尊重するとしても理念主義や決定論を嫌い、合理主義や愚かな被支配者に夢というか期待を抱き続けた(笑)」
ポパー「私の政治哲学はあまりにも子供じみていると?」
シュトラウス「そうは言いません。批判的合理主義は方法論として有効なものだと評価しています。ただ、政治哲学的言説については、理想的すぎる一方で現実追随的でもあると受け止めています」
ポパー「あなたは悪魔のような人です(笑)高みから純真な人たちを唆しているだけのように見えます。具体的な目標も示さないまま...」
シュトラウス「マキャベリには国家を防衛するという具体的な政治目標がありましたから、私に比べれば善意の人です。私はいつか出現するであろう“超人”がどういう選択をするのかに賭けています」
ポパー「どのような国家社会をめざすべきという問題は“超人”の意志に委ねると?」
シュトラウス「“超人”が出現したときの世界がどのような状況であるかで、“超人”がめざす国家社会は自ずと決まるだろうと思っています」
ポパー「ブッシュ政権はともかく、その“超人”が哲人であるという保証はないはずです。“超人”がとんでもない世界を創り出すという畏れは感じないのですか?」
シュトラウス「ネオコンの人たちが“超人”願望を持っているとしても、“超人”だとは見ていません。いつの日か出現するであろう“超人”が哲人でもあることを願うだけです」
ポパー「あなたのお考えは容認できませんが、ここでは受けたまわっておくだけにしておきます。次回は、“価値”について語り合えればと思っています」
シュトラウス「あなたとの違いが明瞭に浮かび上がる可能性があるテーマですね」
(続く)
★ 参考投稿
『精神の健全さと病気の違い(カール・ポパー)』
http://www.asyura2.com/0403/idletalk9/msg/542.html
『ポパーの批判的方法──非正当化主義的批判(立花希一)』
http://www.asyura2.com/0403/idletalk9/msg/543.html
『「人々を幸福にしようとする理想は、おそらく、最も危険な思想である」:カール・ポパー』
http://www.asyura2.com/0403/idletalk9/msg/648.html
『「理性ではなく愛が支配すべきだと説教するものは、憎悪によって支配するような者のために通路を開いているのだ」:カール・ポパー』
http://www.asyura2.com/0403/idletalk9/msg/650.html
『「陰謀論」を真顔で論駁しようとして愚を晒したカール・ポパーの限界性もしくは胡散臭さ』
http://www.asyura2.com/0403/idletalk9/msg/651.html
『真の世界社会の到来を期待できるのは、我々が東洋からとりわけ中国から学ぶことができるようになった時だけ:レオ・シュトラウス』
http://www.asyura2.com/0403/idletalk9/msg/669.html