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http://www.genron-npo.net/forum/asia/040322_01.html
言論NPOでは、アジア戦略会議において、戦略形成の方法論に従いながら、日本の将来選択に向けた議論を行っています。これらの議論はステップを踏んで行われており、日本を取り巻く世界の中長期的な潮流を見極める議論を重ね、その中から日本に問われてくるものは何かを考えながら、日本の実力(強さ弱さ)を再評価し、日本のアイデンティティーをどう描くかという議論につなげようと考えています。
3月16日(火)に開催する公開シンポジウム「日本のパワーアセスメント-日本の将来設計に向けて-」に向け、私たちは、二つのアンケート調査を実施しました。その一つが、21世紀の世界秩序や国際情勢、その中で日本に問われてくるものは何かについて、多くの方々のご意見を求めた本アンケートです。
このアンケートは、下記の14の項目について、どのような見方が適当と考えるか、それぞれいくつかの論点を並べ、その中から回答者の考えに最も近いものを一つずつ選択していただく形で行いました。各項目については、これまでアジア戦略会議の場で提起された論点を中心に、できるだけ多くの考え方を選択肢として盛り込み、各界の方々のご意見を幅広く吸収できるよう努めました。
私たちは、日本の将来選択が感情論や決めつけではなく、様々な論点についての冷静かつ活発な、質の高い議論の上に行われることが大切だと考えています。そのため、本アンケート調査は大変膨大なものとなりましたが、約90名の方々が回答を寄せていただき、日本の将来に向けた議論形成に参加していただきました。
アンケートの項目は以下の通りです。
Q1 21世紀の国際秩序について
Q2 「世界のアメリカ化」の潮流について
Q3 相対的地位の向上が著しい国・地域はどこか
Q4 イスラム世界について
Q5 2025年の東アジア地域
Q6 対中国戦略を考える視点
Q7 北朝鮮問題を考える視点
Q8 国連をどう考えるか
Q9 日本の望ましい安全保障政策の路線について
Q10 日本の防衛力や憲法について
Q11 日本の外交路線
Q12 日本の国際経済戦略
Q13 トータルな視点で日本に問われるもの
Q14 日本のアイデンティティーについて
Q1. 21世紀の国際秩序について
⇒ (多数の見方)21世紀の世界においては、アメリカを中核とする構造は基本的に続くが、世界はより多極化し、そのバランスの上に世界秩序が維持される傾向が強まる。
世界では1990年代以降、冷戦体制崩壊後の国際秩序の再編に向けて様々な模索が続いていますが、果たして21世紀の国際秩序はアメリカ一極支配なのか、それとも多極化なのか、あるいは、アメリカとは別の中核に向けて再編されるのか。
この点の展望については、半数近く(=47%)が、「アメリカを中核国とする世界の構造は維持されるものの、多極化の中でその相対的な地位や影響力は低下し、アメリカは他の国や地域との合従連衡を強化する中でようやく世界秩序が維持される。」と回答しています。これに、アメリカ一極支配構造がさらに強まるとの回答(=15%)を合わせれば、6割を超える多数が、21世紀においてもアメリカを中核国とする世界の構造が続くと見ていることになります。
他方で、約4分の1(=26%)が、「一極的な求心力を有する国はなくなり、複数の中核国・地域のバランスの上に世界構造が維持される。」とし、アメリカの衰退とこれに代わる新たな世界の中核、文明の中心の誕生を予想する見方も約1割を占めました。
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Q2.「世界のアメリカ化」の潮流について
⇒ (多数の見方)中産階級を主体とするアメリカ的な消費文明や生活様式で世界を「アメリカ化」する潮流は、人口の動態変化や所得格差の拡大、あるいは世界各地での独自の価値観の自覚による挑戦を受けるなど、21世紀において、その進展は阻まれることになる。
アメリカを一つの「帝国」と捉え、20世紀の100年間で世界は「アメリカ化」したという見方があります。これは、人間の生活のあり方として、20世紀初めに生まれたアメリカ的な消費文明や生活様式のパッケージが中産階級を主体とする秩序を生み、それが世界中に拡大し、やがてもう一つの生活のあり方である「ソ連人」も打ち負かして、世界のアメリカ化が進められたという見方です。この潮流は21世紀も続くのでしょうか。
これについては、8割以上の方から否定的な見方が示されました。その背景として最も回答を集めたのが「中国やインド、ヒスパニックといった人口の大きな動態変化や、所得の格差の拡大」(=34%)であり、次に、「アメリカ化による世界の中産階級化が独自の宗教、価値観に基づく自覚的な動きをもたらし、アメリカ化に挑戦する勢力を台頭させる」ことも回答を集めました(=27%)。これに対し、「アメリカ化の潮流は、世界の中産階級化とともに21世紀においても支配的な潮流としてとうとうと進行して、世界の均質化が進み、アメリカは文明の中核としての求心力を維持し続ける。」を選択した方は=14%にとどまりました。
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Q3. 世界の中で相対的地位の向上が著しい国・地域
⇒ (多数の見方)20年後には、世界の勢力バランスは中国を中心とする東アジア地域に大きくシフトしており、EU地域やインドの台頭も著しいと予想される。
2025年の世界において、現在と比較して世界の中での相対的な地位やパワー、プレゼンスの向上が最も著しい国や地域について、過半数(=52%)の回答が中国に集まった。第二位はEU地域(=15%)、第三位はインド(=14%)、第四位は東アジア地域(=11%)となり、アメリカ(1%)、ロシア(3%)、イスラム圏(0%)、日本(1%)、環太平洋地域(2%)との回答は極めて少いものでした。東アジア地域に中国も含まれるとすれば、世界の勢力バランスは中国に大きくシフトすることが予想されていることになります。
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Q4. イスラム世界について
⇒ (多数の見方)イスラムはアメリカの秩序に取り込まれることはないが、世界の不安定化要因であり続けるとも考えにくい。イスラム世界への理解を深め、日本を含めた先進各国が国づくりなどの支援を進めていくことが、世界秩序の安定の上で極めて重要である。
中東地域は常に国際情勢の変動の大きな震源地であり、とりわけ9.11以降、イスラム世界での動きは世界全体を揺るがしてきたが、21世紀の世界秩序の中において、イスラム世界はどう捉えていくべきなのだろうか。
最も多い6割近くの回答(=57%)を集めたのは、「過激なイスラム原理主義をことさら強調し、イスラム全体を一括りにして世界の不安定化要因と見るのはそもそも誤りであり、イスラム世界の独自性に対する理解を深め、共存共栄を図っていくことを通じて、安定的な世界秩序が形成される。」という考え方でした。「日本を含めた先進各国が国づくりや教育等の面でイスラムへの支援を行っていくスタンスが、世界秩序の安定の上で極めて重要」(=19%)だからです。
他方、「中産階級化の進展がイスラムを自覚的に受け入れる人々を増やし、20世紀アメリカニズムが大きな挑戦を受けていくことが、国際情勢の大きな不安定要因となっていく。」(=17%)としてイスラムを脅威とする見方もありましたが、アメリカが中東和平を実現し、中東地域の民主化などを通じてイスラムがアメリカに取り込まれていく。」という見方は極めて小数でした。(=4%)。
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Q5. 2025年の東アジア地域
⇒ (多数の見方)「アジア文明」という共通の基盤を持たず、多様性を特徴とする東アジア地域では、経済的な統合の先に、現在のEUに見られるような共通の新たなアイデンティティーの形成が20年後に進んでいるとは予想しがたい。可能性があるとすれば、むしろ、東アジアの中国化の方であろう。
東アジア地域では、中国も含めた各国の間でFTAの締結など経済面での統合が進展し、東アジア経済圏の形成が進んでいく勢いにありますが、経済面の統合のさらにその先に描かれる2025年の東アジア地域の姿はどのようなものでしょうか。
私たちは、一つの仮説として、「アジアのあらゆるところで中産階級が成立し、マーケットの力でついに「アジア人」という新しい共通のアイデンティティーが形成されるに至っている。その上に立って、政治的にもアジアの地域主義が台頭し、2025年の東アジア地域では、現在のEU地域のような新しい独自のアイデンティティーポリティクスが展開されている。」という考え方を提示しましたが、この見方に賛同する意見は極めて少ないものでした。(=5%)。
6割近く(=58%)の圧倒的多数の回答を集めたのが、「そもそもヨーロッパにはローマ帝国やキリスト教など文明として共通の基盤があるが、「アジア文明」と総括できる共通の基盤のないアジアは、元来多様性を特徴とする地域であり、マーケットの統合は進んでも、アイデンティティーのレベルでは各国の独自性が維持される。また、ヨーロッパのような契約社会とは異なるアジア地域では、マーケットを超えた制度面での統合を政治的な合意によって進めるのも困難である。」という懐疑的な見方でした。
他方、「東アジアでは、中国が周辺諸国を事実上いわば属領化していくことにより、東アジアの中国化、中国を中核としたアイデンティティーが形成されている。」との見方も4分の1(=26%)を占めました。なお、「中国はアメリカのような文明の中心としての魅力や求心力は今後とも持ち得ず、「アメリカ化」というアイデンティティーの形成が進む。」という見方は小数でした。(7%)。
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Q6. 対中国戦略を考える視点
⇒ (多数の見方)グローバル経済に向けた大きな潮流の中で、日本は中国など東アジアの地域的な同盟をどう考えるか、これと日米同盟との関係をどう位置付けていくのかが問われている。特に、中国との信頼関係に基づいた交流や協力関係の拡大は重要課題である。
21世紀の世界における中長期的な大きな潮流の一つが、中国の勃興です。グローバル化と情報技術革新は世界経済のパラダイムシフトをもたらし、それに最も適合した中国は今や、「世界の工場」となっているだけでなく、世界で最も成長性のある市場となっているとされます。こうした中国を巡って、21世紀における日本の対アジア、対中国の戦略を考える上で重要な視点は何なのか。
4割近い多数の回答を集めたのが、「各国が国民国家の枠を超えた活路を模索し、中国の勃興でアジアにおける地域的な同盟形成が急速に動き始めた中で、地域的な同盟と日米同盟との間でさまよう日本はどう活路を開いていくべきかという視点」です。また、約4分の1(=24%)の方が、「日中間には政策面での情報交換、協議及び政策協力のメカニズムが存在していないという視点」を重視しています。これに、約1割(=9%)の回答を集めた「過去の戦争の問題もあって、未だに相互の信頼関係が十分に形成されていないという現状をどう克服していくかという視点」を併せると、3分の1以上の方が中国との交流や信頼関係の醸成を重視していることになります。
これに対し、「中国の勃興により、日米中の三角形の中で日本がその地位や存在感を大きく低下させていくという視点」(=13%)、「中国への生産拠点のシフトの中で中国経済とどう向き合うか」(=9%)といった視点は予想よりも少なく、中国の台頭を前に日本の将来を悲観する見方はやや後退しつつあることがうかがわれる。
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Q7. 北朝鮮問題を考える視点
⇒ (多数の見方)北朝鮮問題を考えるに際して重要なのは、同問題を巡る日本国内での煽動的、感情的な議論が日本の国際的信用を失墜させてはならないという冷静な視点であり、対応に当たっては中国をいかに取り込んでいくかがポイントである。こうした基本認識の下に、拉致問題の解決や、経済制裁による有効な「圧力」の構築に当たるべきである。
拉致問題、核ミサイル、核開発疑惑問題の「包括的解決」が唱えられている北朝鮮問題は、日本の安全保障や外交政策全般について考えるべき視点を様々な角度から提起しているが、中でもプライオリティーの高い視点は何なのか。これについては、複数選択が可能な形で回答者が重要と考える視点を問いました。
最も重視されているのが、「日本国内での政治やマスコミなどにおける煽動的、感情的な議論が国際的な信用を失墜させるような日本の行動に結びつく懸念はないか。」という視点であった(22%)。また、第二位となったのは「エネルギーや食料の面で北朝鮮に大きな「てこ」を持つ中国を北朝鮮問題にいかに巻き込み、国際政治の場での日中協力関係の深化にもつなげていくか。」(20%)であり、多くの回答者が冷静な視点から、北朝鮮問題を見ていることが判明しました。
「拉致問題を解決し日中国交正常化をいかに実現していくか。」は第三位(19%)であり、外為法の改正や船舶入港規制が話題となっている「経済制裁のメカニズムをどう確立して「対話と圧力」における有効な圧力を構築するのか。」は第四位(16%)でした。これに、大量破壊兵器の拡散の防止(12%)、日米同盟関係にとって北朝鮮問題が持つ意味(10%)、北東アジアの将来の安定と繁栄を確保するビジョンの構築(10%)が続いた。
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Q8. 国連をどう考えるか
⇒ (多数の見方)国連の常任理事国入りよりも日本にとって大切なのは、第二次大戦の戦勝国の組織である国連を21世紀の組織に変える国連改革である。それは今後の国際社会の大きな課題であり、日本がそこでどこまで主導権を握れるかが問われている。
日本では、国連に持ち込めば問題は解決するとの暗黙の前提の下に議論が行われることも多いが、イラク問題を巡る動きは、安全保障問題における国連の機能不全の姿を示した。また、歴史的にも拒否権を有するアメリカなど各常任理事国が自国の国益にかなう方向に安全保障理事会を動かす姿も見受けられてきた。こうした現実も踏まえつつ、日本は自国の安全保障を図っていく上で、国連に対してどのようなスタンスで臨むべきだろうか。
4割を超える回答(=45%)を集めたのが、国連改革への取組み、すなわち「第2次大戦の戦勝国がつくった未完成な組織である国連を、21世紀の組織に変えていくことが国際社会の大きな課題であり、日本は国連改革を提唱し、これを戦略として進めることが重要。」という見方である。また、「国連は多岐にわたる機能を有し、様々な分野で国際社会の合意やルールを形成してきた組織であり、平和国家日本としては、安保理改革よりも、社会経済等の幅広い分野で国連をより一層主導していくことをこそ目指すべきである。」という考え方も回答を集めた(=32%)。
その他、回答者の13%が「日本は安保理の常任理事国入りを目指すべきである」という考え方を選択したが、世界のパワーポリティクスの中で、国連よりもアメリカとの関係の方が重要との意見を選択した方は皆無だった。
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Q9. 日本の望ましい安全保障政策の路線について
⇒ (多数の見方)日米同盟路線の追求の是非の議論よりも重要なのは、日本がアジアでの安全保障の重層的な仕組みの構築を主導できるかどうかである。そのためにはまず、自らが国際政治の中で追求する目標や理念を明確化した上で、日本の安保・外交政策の体系の中に軍事を明確に位置付けることが問われている。
冷戦体制崩壊後、世界の安全保障の概念は、米ソ二極構造の下での国際紛争から、地域紛争や大量破壊兵器に対する国際協調へと変化し、国際社会への脅威も、主権国家の軍事力から、破綻国家、テロリストグループや国際犯罪組織などへと多様化している。こうした変化も踏まえれば、21世紀の日本の望ましい対外政策路線はどう考えるべきなのか。
回答は分散したが、3分の1(=31%)を集めたのが、「重要なのは、アジアでの安全保障体制の構築と、そのための地域協力の深化であり、特に、北東アジア地域の安心感を高めていくためには、まず対話が重要である。アジア地域の特性を踏まえ、段階的に合意や協力を積み上げ、重層的な仕組みの構築を日本は主導していくべきである。」という考え方である。これと並んだのが、「これまでの日本に欠けていたのはその中心にあるべき軍事の議論であり、まず、日本が国際政治の場で追及しようとしている目標や理念を明確化し、そこから日本の安保・外交政策の体系を構築する」ことを重視する考え方(=28%)であった。これに続いたのが、「食料、エネルギーなどの総合安全保障や警察的な面での国際協調がより重要」とする見方(=23%)であった。これに対し、日米同盟に依存しない形での安全保障、あるいは逆に、日米同盟路線の徹底的な追及を支持する意見は少なかった。
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Q10. 日本の防衛力や憲法について
⇒ (多数の見方)冷戦後の国際情勢の変化を踏まえれば、安全保障面での国際協調に適切に貢献できための防衛力の整備や運用、それを可能にする憲法の改正が、日本には問われている。憲法を改正しないなら、現行憲法のなし崩し的解釈ではなく、日本ができることの限度を明確にすべきである。
冷戦体制の崩壊は、核抑止力についても、かつての米ソ両極間での相互確証破壊の「懲罰的抑止」から、相手側の攻撃を無にする「拒否的抑止」へと考え方の変更を迫っている。この中で、防衛力のあり方や憲法の見直しについて、日本はどう考えるべきなのか。
過半数に迫る(=49%)回答を集めたのが、「安全保障面での国際協調がとりわけ重要となる中で、日本の適切な貢献が求められており、冷戦時とは時代が大きく変化していることを踏まえた防衛力の整備や運用、必要ならばそれを可能にする憲法の改正が日本には問われている。」という考え方である。他方、「集団的自衛権の問題などを始め、現行憲法のなし崩し的な解釈によって防衛力の運用が進められている事態は危険であり、現行憲法の基本に立ち返って、日本ができることについての限度を明確にすべきである。」との考え方が3割を占めた。
これに対し、回答者が少なかったのは、「拒否的抑止の考え方を採れば、現行憲法の下でも相手国での発射段階でミサイルを叩くことが可能」との見方、「あくまで現行憲法の下で「アメリカによる報復」を日本の抑止力の基本に据えるべき」との考え方、あるいは、「憲法改正の上、核武装も含めた防衛力の強化を図るべき」との考え方であった。
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Q11. 日本の外交路線
⇒ (多数の見方)軍事力や政治的なパワーを持たない日本が国際社会の中で「大国意識」を持つのは危険であり、むしろ、既に民間や草の根レベルで世界に貢献している日本人のメリットを発揮させる中で日本の存在感を自然に高めていく路線が望ましい。対米協調路線の追求は、平和主義を唱える日本への期待の大きいアジア・イスラム諸国の期待を裏切る懸念があることにも留意すべきである。
21世紀の世界の潮流を踏まえた日本の外交路線に関する回答については、二つの特徴が見られた。一つは、大国意識を巡る意見の対立である。4割近い(=38%)回答を集めたのが、「日本が大国意識を持つのは誤りであり、特定の理念や目標を国際社会の中で主張することにはリスクが大きく、国のレベルで「こだわり」を持つことなく、日本人の持つ様々なメリットを発揮させて自ずと日本の存在感を高めていくとの考え方が望ましい。」との意見である。これに対し、「日本は今後とも経済大国であることには変わりなく、国連なども含めたマルチラテラルな視野で日本がその地位にふさわしい国際貢献を果たしていくべきであり、従来の経済面に偏っていた国際協力の視野を、政治面などより多面的な貢献へと拡大し、自衛隊の海外派遣も含め、世界の平和や繁栄により積極的に貢献する路線を追求すべきである。」との考え方が4分の1の回答を集めた。
もう一つは、対米協調路線の追求という現実路線への支持がほとんど見られなかったことである。むしろ、「世界唯一の被爆国として平和主義を唱えるアジアの国としての日本へのアジアやイスラム諸国の期待が大きい中で、対米協調路線がこれらの国々や地域の反発を招く可能性を内包する」ことへの懸念(15%)が指摘された。
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Q12. 日本の国際経済戦略
⇒ (多数の見方)日本は、いずれかの国や地域と組むことを考えるよりも、むしろ、少子高齢化を始めとする「課題先進国」として様々な先端的な知恵やピジネスモデル、システム設計を生み出すチャンスに直面していることを戦略的に活かし、自ずと存在感を創り出していく路線を追求すべきである。
今後20年程度の世界の潮流を見通した場合の日本の国際経済戦略についても、外交路線と同様、大国意識に関する意見対立と、対米協調路線に対する疑問が見られた。
半数近く(=45%)の支持を集めたのが、「日本は大国としてのセルフイメージは困難だが、少子高齢化など先進国の中でも真っ先に諸々の課題に直面する「課題先進国」となった日本には、課題解決の過程で様々な知恵や技術、ノウハウやシステム、あるいはビジネスモデルを生み出すチャンスが到来しており、これを活かすことにより自ずとプレゼンスを確保していく戦略を追求すべきである。」という考え方である。これに対し、様々なシステムの提供者、基軸通貨国としてスーパーパワーに君臨するアメリカに対し、アジアにおいて日本が対米自立路線を戦略的に追及し、ドル、ユーロに匹敵する新たな経済圏の中核国となることを目指すべきであるという意見が、2割程度(=21%)の支持を集めた。
これに次いだのが、「大国からミドルパワー、やがては小国への道を歩む日本は、アメリカとアジアの仲介役として存在感を確保すべきである。」との見方(=16%)であった。日米一体化路線に対する支持はなく、逆に、それがアメリカと一緒の泥舟に乗って日本が沈むことにつながることへの懸念(=16%)が指摘された。
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Q13. トータルな視点で日本に問われるもの
⇒ (多数の見方)2025年の将来に向けてトータルな視点で日本に問われるのは、知的価値の創出に向けた人的資本の育成と、戦後に形成された社会主義的なシステムをより競争的で資本主義的なものに転換すべく構造改革を進めることであり、人材を始め外の活力を活かせるよう、日本自らを真に開国することである。
2025年の将来を展望しつつ、トータルな視点で日本に問われるものは何なのか。意見は分かれたが、その中で最も回答を集めたのは人材の問題であった。「プロセスイノベーションからプロダクトイノベーションへの転換や、付加価値生産力の軸が工業力から知の創出力へとシフトしている状況への対応、あるいは国際社会での発信力や文化力等が日本に求められており、その中で何にも増して重要となるのは知的な力と、それを担う人材である。人的資本の劣化も指摘されている日本では人材育成をいかに図るかが今後の最大の課題である。」との考え方が24%()を占めた。
これと並んだのが、「少子高齢化や資源制約などを克服すべく生産性の上昇を図らなければならない日本に問われるのは、戦後に形成された社会主義的な体制から真の資本主義、市場経済へと構造改革を進めることであり、そのためには、リスクテイク、資源の戦略的集中投入、付加価値創出力の向上などを促進すべく、政治、行政、企業社会や個々人のライフスタイルなど、あらゆる分野についての新たなシステム設計が求められている。」との考え方である(=24%)。
これに次いだのが、「少子高齢化が進展し、グローバル化が進む産業社会の中で、人材のプールを広げ、人の移動のレベルで自らをよりオープンにできるか、社会システムをその方向に組みかえられるかが日本に問われている。モノ、ヒト、カネ、情報など全般にわたり自らを外に開き、衰退が予想される日本の活力に外の力を活かせるよう真の開国ができるかどうかが日本の命運を決める。」(=21%)であった。
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Q14. 日本のアイデンティティーについて
⇒ (多数の見方)2025年の将来に向けて、日本は自国の独自性に立脚した地に足のついたアイテンティティーを形成すべきである。世界の潮流と、自国の強さ弱さを評価した上で、現実的に可能なアイデンティティーを描き、それと現実とのギャップを埋める選択肢を戦略的に議論すべきである。その際、世界の人材を引き付ける「魅力的な日本の形成」に向けてどのようなアイデンティティーを描くかを議論することが、戦略的に最も重要である。
2025年の将来に向けて日本が希求すべき自国のアイデンィティーを構想していく際の視点として、最も重要な論点は何か。
最も多数(=45%)の回答を集めたのが、「アイデンティティーは様々なレベルで重層的に成り立つものであり、アジア圏の形成が進んでも、日本は自らの文化、伝統、歴史、国民性などに立脚した独自のアイデンティティーを希求すべきである。こうした地に足のついたアイデンティティーを確固たるものにしてこそ、活力と繁栄が確保されていくと考えるべきである。」との考え方であった。
これに次ぐ約4分の1の回答を集めたのが、「アイデンティティーの形成は、日本が世界の中で永続的な優位を確立していくための国家戦略として考えるべきである。世界の潮流と自国の強み弱みを見極め、その中で自らが描くことが可能なアイデンティティーを描き、それに向けた熱望を持った上で、理想とするアイデンティティーと現実とのギャップを埋めるためには自国のどのような強みを活かしていくかを考えることが、最適な国家戦略を生み出す。」という考え方(=26%)であった。
これに並んだのが、「自国が成熟国化する一方で、近隣にアジア諸国という成長性の最も高い地域を擁する日本にとって重要なのは、世界から人材や資本などを呼び込み、それを自国の活力としていくことである。例えば「みんなが住んでみたい国」を基本的なコンセプトとして自国のアイデンティティーを構築し、世界の優れた人材を惹きつける分野、日本で通用すれば世界に通用する分野などを育てていくべきである。」という考え方(=24%)であった。
-以上-
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