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T Eサプライチェーン・マネジメント
ウォルマートのSCM取り組み
小売業界トップのウォルマートは、過去15年間ずっと粗利率を下げ続けてきた。今では20%にまで絞り込んでいるが、それが可能となったのは経費率も下げているからである。ITを活用した企業努力で経費率を下げた。経費である商品原価そのものが低いうえに、上乗せする粗利率も低い。だからこそ、エブリデイ・ロー・プライス旋風を業界に巻き起こすことができたのであろう。
しかし、それだけ粗利率を落としながら、単位面積当たりの粗利高は向上し続けている。それはなぜか。商品の回転を高めているからだ。回転率を高め続けていくにはいろいろな戦略が必要になるが、中でも最も重要な戦略の1つがSCM(サプライチェーン・マネジメント)である。ウォルマートはアメリカの流通業界において、最初からSCMプロジェクトのトップを走り、引っ張り続けた会社なのだ。
ウォルマートはリードタイムを短くすることで、在庫を過去10年間にベーシック商品で50%、衣料品で60%減らした。もう1つの取り組みは、プル型の部門を作ったことである。これは、小売店頭での需要に従って商品が供給され続ける仕組みである。戦略の中心部分は、CAO(コンピュータ・アシスティッド・オーダリング)と呼ばれる一種の自動補充発注形式になっている。
SCMの取り組みを始める際、ウォルマートの店頭には2週間分、センターには4週間分の在庫があった。また、それまでは考慮に入れていなかった取引先の在庫も、調べてみると4週間分あることがわかった。在庫は合計10週間分で、つまり年5〜6回転しかしなかったことになる。
それが、取引先との間で情報を交換しあい共有する仕組みを作ることによって、3〜4週間分にまで縮めることができたのだ。年15回転ということになる。これはウォルマート内だけの話ではなく、取引先あるいはメーカーの在庫まで含めて15回転なのだ。年5回転と15回転では、商品の上代設定に差が出るのは当然である。
これを達成するため、実際にはウォルマートの店別・単品別の売上と2年間分の在庫情報を全部ネットワーク上にオープンにし、取引先がその中身をいつでも見に行けるようにしている。そのために、おそらく世界でも一、二を争う超巨大なデータウェアハウスを接続しているのだ。このような仕組みを展開して、ウォルマートは伸びてきた。
SCM取り組みの拡大
その後、ディスカウントストア業界全体が同様にSCMに取り組み始めた。もともとディスカウントストアは食品を置かないが、新しく打ち出したスーパーセンターという業態では食品も取り扱い、食品業界と競合するようになった。通常のアメリカのスーパーマーケットでは粗利平均22%である。それをスーパーセンターは15%とした。さらにプライスゾーンの低いウェアハウスクラブは11%である。
つまり、スーパーセンターやディスカウントストア、ウェアハウスクラブ、あるいは各業界のカテゴリーキラーが、みんなSCMのリーダーなのである。結局はお客様へのバリューをどう提供するかを考え、そのために川上や川中と情報を共有しあって新しい戦略を持ち込み、これだけ大きく伸びてきたことになる。
日本ではGMSもスーパーマーケットも百貨店も食品を扱っているが、みんなが高止まりしている。同じプライスゾーン、粗利25%前後で持っているだけだ。その下のプライスゾーンであるバリュー・フォーマットの部分が空いている。ここにカルフールやウォルマートが入ってくるのは当然である。しかも、その際ベースになるのがSCMなのである。
全世界のメーカー約850社を対象に行った調査では、そのうち13%の企業がSCMでもCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)でもリーダー企業となっている。そして、それらの企業だけが売上増加率28%で伸びている。市場シェアでも21%を占めている。税引き前の固定資産回収率でも、全体の18%をこれらリーダー企業が占めている。つまり、メーカーにおいてもSCM戦略をとった企業は結果的に業績を伸ばしているということである。
また、アメリカの流通業約150社を対象にSCMが企業の成功にとってどれほど重要かを訊くと、小売業では25%が「不可欠」だと答えている。「非常に重要」は59%、「重要」は16%という認識である。メーカーは「不可欠」の回答が40%あり、小売業よりもさらに多い。それほどSCMはアメリカの流通業界において中心的な戦略になっている。
一方、日本の流通業に同じ質問を投げたとすればどうだろう。その答えが「SCMとは何か?」といったレベルでは話にならないが、残念ながらそれが現実かもしれない。
SCMの発展
SCMとは、商品の製造から消費者への販売までのプロダクト・パイプラインの全プロセスを全体最適の観点から再構築することである。小売業だけ、卸だけ、メーカーだけではなく、作ってから最終的に売るまでの全体での最適を探し再構築することである。したがって、これはビジネス・プロセス・リエンジニアリング(BPR)なのだ。ただし、どういう観点で再構築するかがポイントとなる。それは、消費者への付加価値を最大にするためなのである。
これには二通りの考え方がある。アメリカの流通業界では1990年代の前半には消費者に付加価値のない時間やコストを取り去ろうとの動きがあった。重複作業や在庫をプロセスからどうやって取り去るか、という点にウォルマートが取り組んだことは前述のとおりである。そして90年代後半になると、消費者への付加価値をどう高めていけばよいか、品揃えの幅をどう広げるのか、品切れをどう減らすのか、というアプローチが出てきた。どちらもキーワードは消費者である。"中抜き"も含め、消費者に付加価値のないプロセスを取り去りたいと思うのは当然なのだ。
日本がほとんど何もアクションをとらなかったことを、アメリカの流通業界は15年間かけていろいろと試行錯誤し、繰り返し戦略を積み上げてきた。商品にJANコードを付けるというレベルから始まって、次の段階では自動補充発注を実施した。自動補充発注は品切れをゼロにし、過剰在庫を減らす。さらには、小売業が自社店頭の自動補充発注をするのではなく、卸やメーカーが小売の店頭の自動補充発注を代りに行う、パートナーシップ自動発注が起こる。これは日本でもいくつか例が出始めた。
次に、ロジスティクスの効率化があり、協働マーチャンダイジングとしてのカテゴリー・マネジメントの動きが出てきた。95年ぐらいまではメーカー(川上)と小売業(川下)との協働は商品の戦略立案までだったものが、それ以降は協働販促計画、協働商品開発と進んだ。そうなるとプランニングの情報をどう分け合うかという問題が出てくる。それを解決するものとして、98年頃からはERPやI2テクノロジー、ソフトウエアを提供するアドバンス・プランニング・スケジュールなどのレベルに入ってきた。それ以降、一連の仕組みがインターネットに置き換わり、インターネットだからこそできる新しい戦略としてCPFRやCRMが登場した。
日本では過去10年間、勉強だけはしてきたが、実行までの展開はなかった。その最大のネックは一番川下の大型小売業にある。大型小売業は、まだまだ自分のパワーゲームが通用すると信じてきたのだ。ウォルマートやカルフールと向き合う今となって、パワーゲーム一辺倒だったことが大きな間違いだったとわかる。
(後略)
(詳細は「季刊イズミヤ総研」第47号を参照下さい)