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http://www.mecenat.or.jp/doko/doko_text.ron8.html
南アフリカの胎動−経済に参画する黒人社会とメセナ活動
熊倉 純子(企業メセナ協議会)
昨年10月、南アフリカ共和国のヨハネスブルクで開催された「国際メセナネットワーク会議」。年に1回、各国の企業メセナ協議会の事務局が集まる。さすがに今秋はニューヨークのテロ事件の後でやや出席者は少なかったものの、初のアフリカ大陸での開催に10カ国から参加者が集まって近況報告や情報交換がおこなわれ、現地のメセナ状況を視察することもできた。
南アフリカの企業や文化団体の活動事例報告の中で、参加者達の興味を捉えたのが、アフリカン・バンクのメセナ活動である。アフリカン・バンクは最大手のスタンダード銀行から100%の出資を受けて近年設立された黒人による黒人のための銀行で、設立と同時に財団も立ち上げ、メセナ活動に取り組んでいる。財団の若い女性事務局長ウィニー・クネネさんは会議の報告者の中で唯一の黒人。たった1人で意欲的な文化政策プログラムを切り盛りする、明るくエネルギッシュな人である。
「南アフリカの黒人社会にとって銀行はまだあまりなじみのない存在です。つい最近まで、黒人には銀行から融資を受けることもクレジットカードを持つことも許されていなかったのですから、無理もありません。そもそも家計とか貯蓄といった概念すら一般的ではないので、まずはお金の機能を知っておもらおうと、<アフリカン・マネー・スクール>を各店舗で定期的に開催しています。同時に民衆に人気の高い劇場、マーケット・シアターに支援をして、演劇を通じて銀行の役割や家計の意味を教え、さらにエイズや家庭内暴力について考える啓発活動を行っています」。銀行そのものの活動基盤を黒人社会の中で開拓し、近代経済機構を普及させていくという壮大なチャレンジに寄り添い、それを支える芸術。啓蒙演劇の芸術的な是非などという疑念が頭をかすめるまもなく、彼女の確固たる信念と前向きな姿勢に先進国からの参加者一同は圧倒された。
ウィーニーさんのもう一つの野心は伝統工芸の産業基盤の確立である。ズールー族の女性達のビーズ刺繍は今や観光資源化しているが、黒人社会には伝統工芸の振興という意識はまだ薄く、体系的な研究もほとんど行われていない。収集や保存もなされていない現状を憂えた彼女が一念発起してつくったのが、部族ごとの伝統的な文様や代表的な作品を集めたカタログである。「文化財」という概念を導入し、作り手である女性はもとより黒人社会全体の誇りを高めようと言う試みだ。さらに彼女の構想はビーズ製品の産業化へも広がる。「でも産業化となると、気が向いたときにつくるというわけにはいきません。納期や品質の保持、価格競争といったビジネスの基本をズールーの女性達に理解してもらうのはなかなか大変です。ここでも演劇を通じた啓発が効果的ですね」。先進国の身勝手な郷愁は、アフリカ美術の資本主義化に一抹の寂しさを感じないでもないが、白人と同じ武器を持たねば搾取されつづけるのが彼らの現実なのだ。
人口の95パーセントを占める黒人社会が、いよいよ自らの力で近代的な国づくりに参画する。そんな南アフリカの胎動は、メセナ活動にもダイナミックな息吹を吹き込んでいる。
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