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中国経済改革研究基金会国民経済研究所所長 樊綱
インドの経済成長率は中国を上回るか
インド政府の統計によれば、2003年のインドの成長率は8.2%である。2004年については、インド計画委員会は、9%以上と予測し、インド経済にとても楽観的な態度を示している。一方、中国は少し速すぎた経済成長の速度を一定の範囲内に抑えようと考えている。このため、2004年のインドの経済成長率は中国を上回ると考えられる。
私は今回、インドを訪問(注)して得た印象、また、参加した会議や入手した資料から見て、現在のインド経済は問題を抱えているが、一方で中国の持っていない様々な優位を持っていると考えている。つまり、インド経済がいったん離陸すれば、スピードや、質的な面、持続性などにおいて中国に匹敵するということである。今インドを研究し、インドとの比較を行う際、中国人にとっては現在の成長率の比較ではなく、インドの様々な強みを学び、我々に不足した部分を補うことが最も重要である。
高成長に潜む問題点
では、インド経済の高成長の背後にはどのような問題点が存在しているのだろうか。インドにおいては、インフラ、都市の発展状況、商業の繁栄の度合い、外資の導入、貧富の格差などの面が、中国に比べると劣っている。インド経済が中国より15〜20年遅れていると言う人がいるが、このような劣った点から見ると、それなりの根拠がある。25年前、中国の1人当たりGDPはインドより低かった。しかし、現在のインドの1人当たりGDPは500ドル強に過ぎず、中国のそれは1000ドルである。このことから、これまでの25年間、インドの発展は中国に及ばなかったとも言える。
現在のインドにおける最大の問題点は、経済成長が主にIT産業を中心とするサービス業の成長に頼っており、製造業がそれほど強くないことである。2003年時点のインド経済の特徴は、サービス業が高成長を続け、農業が3〜4%の成長と比較的よく、さらには製造業も伸び始めていることである。全体的に見て、経済成長は比較的速く、均衡がとれており順調であった。一方、製造業の発展の主な阻害要因は、政府による産業・投資・労働市場に対する政府の規制などの様々な制約を含めて、多くの伝統的な体制が改革されておらず、製造業の高成長の足かせとなっていることである。サービス業とりわけソフトウエア業の発展が比較的速いのは、新興部門であるため、政府の規制が比較的少ないことによる。
90年代以降、インドは経済改革を始めたが、製造業の改革の進展が比較的遅く、市場開放の度合いも小さく、安価な労働力という優位をうまく生かしていない。このほか、インド政府のしきたりが煩わしく、効率も低いため、投資環境が悪く企業投資の社会的コストを高めている。同時に、インドの所得分配の格差は中国よりはるかに大きい。さらに、長年の民主的な政治体制の下で、政府収入の大半が社会福祉政策に投入され、インフラへの投資が比較的少ないことも製造業の発展を妨げた。ここ数年になって、インド政府はようやくインフラ投資を増やし始めた。
インドの強み
前述したように、インドは様々な問題を抱えているが、潜在的な優位も非常に明確である。第1は、長い歴史を持ち、かつ持続的に発展してきた民間経済部門を有している点である。インドに比べると、中国の民営企業は一世代目にあたり、たかだか20年の歴史しかない。すなわち、制度を最初から作り上げている最中なのである。しかし、インドの場合、これまで民営企業の発展が中断されたこともなく、民営経済に関する知識や経験は社会の中に蓄積されている。この差は、インドが既に世界的に有名な大規模な民営企業やブランドを有しているのに対し、中国発の大企業やブランドがまだ少ないことからも明白である。
第2の優位は、インドの金融システムは、長い歴史を持ち、かつ経営がうまく行われている点である。インドの銀行の多くは民営で、経営状態も良い。不良債権比率は非常に低く、銀行システムは全体として比較的健全である。また、インドは恐らく世界で最も発達している資本市場を有している。国内には23の証券取引場があり、その中でムンバイ取引所が最大である。しかし、時が経つにつれて、すべての取引所はネットでつながれるようになった。立会所はすでになくなり、コンピュータを通じて取引されている。インドの資本市場は100年余りの歴史を有し、監視・管理体制も厳格である。現在、5000社以上の上場企業があり、中国の5倍に上る。以前は、複数の取引所で上場することが可能であったが、現在はひとつの全国的な取引所に上場する。インドのハード面でのインフラは中国より劣っているが、ソフト面でのインフラは中国よりかなりよい。インドの私営企業にとって、間接金融にしても直接金融にしても資金調達の利便性が高いが、中国では、金融改革の遅れがすでに経済発展の大きな制約となっている。
第3は、インドは国際化に対応した人材を多く有している点である。インドは英語という言語上の強みを持っているが、それより重要なのはインドの企業家とインド人がとても国際化しているということである。おそらく、どんなに小さな会社であっても、グローバルな視野で物事を考えているだろう。インドでは、国内線よりも国際線の方が多く、国内空港よりも国際空港の方を利用する人の方が多い。数百年の間、インド人の海外留学は中断されたことがなく、英連邦の国々を中心とする世界各国との間に、様々な面で緊密な関係をもっている。インド人はとても自然でかつ直接的な国際交流を実践できている。このため、中国の企業家と比べて、インドの企業家は国際ビジネスの取り扱いに慣れている。
第4は、インドは比較的歴史の長い法律の伝統を有し、健全な法体系を持っている点である。また、彼らは国際政治と法律についても深く理解しており、国際業務においてもその知識を自由自在に活用している。
第5は、所得格差が今後縮小に向かう点である。確かに、現在、インドの社会格差は大きい。しかし、これまで数百年間、所得格差が大きいという歴史を辿ってきたインドにとって、社会の二極化はすでに極限の状態に来ており、貧しい人はこれ以上貧しくなることもなく、今後は良い方向に発展するしかない。一方、中国は、究極な平等を追い求める社会から、市場経済に移行しており、貧富の格差は拡大の段階にある。現在、中国の格差はインドほど大きくないが、問題は格差が拡大しつづけており、社会における矛盾や衝突がさらに深刻化する可能性があることである。
さらに、インドには宗教がある。宗教自体については評価を留保するが、宗教は社会を安定させる役割を果たし、来世に希望を託すことによって現世の苦しみを和らげる。中国にはあまり宗教的な伝統がないだけでなく、「不足を心配せず、不平等を心配する」というイデオロギーに加え、過去数十年間の平等主義のため、所得格差が拡大した時、社会の矛盾が比較的激しくなる。インドは、矛盾が最も激しい段階から抜け出し、所得分配を重視する段階から、所得増加を重視する段階に入りつつあり、加えて、政治体制が多様化していることから、今後、安定してくることになる。インドが一旦発展すれば、潜在力が大きいと述べたのはこの点とも関連している。
インドと中国の発展モデルの違い
インドと中国は、発展モデルという面では比較できないところがある。少なくても現時点で、どちらのモデルの方が良いか悪いかを評価することはできない。歴史的な視点で見る必要がある。もし、インド・モデルが途上国に適しているのであれば、50年前から同じ体制が続いてきているのに、なぜ今日になってようやく発展したかについて考慮されなくてはならない。
インドの改革は90年代に入ってからではあるが、民間企業は長期にわたり存在しており、中国のように数十年間にわたって廃止されたわけではない。インドの国際交流も中断されたことがなく、民主的政治体制も以前から存在している。したがって、インドの経済発展の基本的なモデルは50年前から存在し、中にはイギリス植民地時代に作られた制度もある。
では、なぜこれまで発展しなかったのだろうか。このようなモデルでは、50年という時間をかけて経済成長を阻害する要因を取り除く必要があるのだろうが、それにしても50年は長すぎる。途上国は先進国との格差が大きく、1年遅れれば、追いつくのに数年かかるため、より速い発展モデルが必要である。今後、インドの成長率が中国を上回っても、インド・モデルが中国モデルより優れているという結論にはならない。中国モデルも欠点を持っているが、発展しており、絶えず内容を充実させている。
このため、世界にとってインドと中国の比較がホットな話題であったとしても、中国人にとって最も重要なことは、インドとの格差を研究し、努力の方向を見つけ、できるだけ早く格差を埋めることにある。すなわち、中国人に求められているのは、インドの優位に倣って、以下の5つの課題を解決することである。第1は、民営企業の大いなる発展に有利な制度と環境を早急に作ることである。第2は、金融システムと資本市場の改革を加速し、発展させることである。第3は、法制度の構築を加速し、政治改革を深化させることである。第4に、企業がグローバル的な視野をもち、全面的に国際競争力を高めることである。第5に、長期的な発展と短期的な公共政策の関係をうまく整理し、インドの経験と教訓を吸収して、長期的な経済成長を損なわずに社会の矛盾を緩和することである。長期的な成長こそ、社会における諸問題を抜本的に解決することができる。
インドと中国の経済の展望、競争と協力関係
まず、前提におかなければならないのはインドと中国、両国の経済はともに競争的な途上国の関係であることである。両方とも遅れている国であり、国際市場で競争しなければならないため、双方の間にも競争が起きることになる。これはとても正常なことである。一方で中国とインドは、相互に補完できるところもある。たとえばインドのサービス業と資源である。しかし、まずは競争である。
ただ、この競争は、先進国との競争とは異なることに留意しなくてはならない。両国ともが、その分野では完全に相手に圧倒されてしまい発展できないような分野があるのではなく、双方ともにチャンスがある。健全な「自由貿易」はまず、似たような経済水準を持ち、競争し合っている国の間で発生し、各分野において互いにチャンスがあることと言える。無論、発展していく中で、自然に分業がなされる。私は、中印企業の競争に注目している。国際市場あるいは各自の国内市場で、競争しあい、刺激しあう。これが今後、中印経済交流の拡大の主な要因となる。
一方で、インドが、自然資源と単純労働力ではなく、ハイテクで経済成長を実現する最初の途上国になるとの意見もある。しかし、個人的にはこのような発展の仕方は中国とインドのどちらにとっても不可能なことであると考えている。すなわち、インドがハイテクの発展だけに依存して発展する途上国になるとは信じていない。というのも、ハイテクしかない途上国においては、根本的な問題、すなわち数億人の雇用問題と貧困層の貧困脱出問題が解決されないからである。途上国では、ハイテク産業と、伝統産業・労働集約型産業が並存しなければ、持続的に発展できない。製造業がいったん動き出し、しかもある段階においてハイテクやサービス業よりも発展が速くなれば、途上国の経済も発展する。そうでなければ、一部の人、一部の分野だけが発展する「跛行」経済になる。このため、製造業が比較的大きく発展するかどうかを、今後、インド経済を判断する重要な指標とすべきであろう。
(注)樊綱氏は最近インド政府による招聘を受け、インドを訪問した。
※和訳の掲載にあたり著者の許可を頂いている。
樊綱 Fan Gang
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中国経済改革研究基金会国民経済研究所所長。1953年北京生まれ。文化大革命中における農村への「下放」生活を経て、78年に河北大学経済学部に入学。82年に中国社会科学院の大学院に進み、88年に経済学博士号を取得。その間、米国の国民経済研究所(NBER)とハーバード大学に留学し、制度分析をはじめ最先端の経済理論を学ぶ。中国社会科学院研究員、同大学院教授を経て、現職。代表作は公共選択の理論を中国の移行期経済の分析に応用した『漸進改革的政治経済学分析』(上海遠東出版社、1996年)。ポスト文革世代をリードする経済学者の一人。
http://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/040315world.htm