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内需拡大のために借金を奨励する奇策で
現役世代の15%が破産状態という異常事態に
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李炳宗(ソウル)
自分は歯ブラシのために魂を売ったと、2人の息子をもつ趙慶姫(チョ・ギョンヒ)(30)は言う。
2000年夏のある日、趙はソウルの街中で勧誘を受けた。クレジットカードを作れば、電動歯ブラシをただでくれるという。夫は働いていると言っただけで、カードは簡単に発行された。
趙のカードはたちまち6枚に増え、彼女は買い物をしまくった。カード代金は別のカードで借りて払った。やがて借金は2万ドルにふくれ上がり、電話代も払えない。電気と水道も止められる寸前だ。「夫婦心中も考えた」と、趙は言う。「クレジットカードなんか作らなければよかった」
それは韓国全体の嘆きかもしれない。アジアでは中国やタイなど、比較的最近になってクレジットカードを導入した国が少なくない。だが本来経済に役立つはずのカードで、これほど派手につまずいたのは韓国だけだ。
1997〜98年のアジア通貨危機で、新興アジア諸国は成長を外国に依存しすぎていたことが明らかになった。市場も輸出頼りではダメで、近代的な消費文化を導入し内需拡大に努めなければならない。そのための処方箋がクレジットカードだった。だが韓国のまちがいは、一夜にして「カード本位制」を築こうとしたことだ。
通貨危機がピークを迎えた97年12月のわずか数カ月後、韓国政府はクレジットカードを使ったローンの貸出上限を撤廃。カードによる支払いの一部を所得控除の対象とし、後にはカード保有者向けの宝くじも導入した。
韓国人はこれらの奨励策に飛びついた。カード利用額は急増し、99年、00年は経済も高成長を達成。だがそれは、借金の返済期限が来る前の話だ。
「消費拡大のおかげで、韓国は他のアジア諸国より先に好況を謳歌した」と、韓国金融研究院の崔公弼(チェ・ゴンビル)は言う。「今は周辺国が景気回復へ向かうなか、韓国だけが家計の負債に足を引っ張られている」
消費刺激のための政策が、今度は消費の最大の足かせになってしまった。昨年の経済成長率は3%台を割り込み、失業率は4%に近づこうとしている。
ホームレスにカード発行
米モルガン・スタンレー証券の最近のリポートによれば、韓国の家計債務の水準は所得の117%、GNP(Gross National Product:国民総生産)の75%近くに達し、アメリカやイギリスのような「成熟経済の水準をはるかに上回る」という。
状況はさらに悪化しかねないと、このリポートは警告する。カード代金を別のカードで返済している多重債務者が、まだ100万人以上いるからだ。
通貨危機から6年、韓国は新たな危機に直面している。今回借金にあえいでいるのは、企業ではなく消費者だ。だがその背景に、金融機関の無責任な貸し出しを助長する政府の強引な景気刺激策があった点は共通だ。
クレジットカードの販売と利用に関する規制が緩和されてから、カード会社はろくな審査もせずに顧客獲得競争を繰り広げた。政府のある調査によると、ソウルではホームレスの27%がカードをもっているという。
政府の対応も事態を悪化させた。慶尚大学の最近の研究によれば、監督当局は01年半ばから問題に気づいていたが、景気拡大を至上命題とする政府はその後も消費拡大策を続けたという。
だが02年後半には、最大手の国民銀行をはじめとする金融機関が、返済の滞った債務者向けの貸し出しを抑制しはじめた。これで多くの家計が火の車に陥った。
昨年も不用意な政策転換があった。政府系の韓国資産管理公社は一時、個人向けの不良債権をカード会社から買い取る姿勢を見せた。計画は後に撤回されたが、すでに遅かった、とサムスン証券の林春洙(イム・チュンス)常務は言う。多くの消費者は、これを救済の兆しと受け取って、返済をやめてしまったのだ。
返済が3カ月以上遅れている滞納者の数は、今年末には400万人に達するとみられている。現役世代のざっと15%がカード破産状態に陥っている計算だ。多くは、カードでグッチやアルマーニを買い込んだ40歳未満の若い世代である。
昨年末には、精神状態の不安定な若い男が幼い息子2人を漢江でおぼれさせる事件があった。子供のクリスマスプレゼントに使った3万ドルのカード代金をめぐり、妻と口論した末のことだった。
「通貨危機は嵐のように過ぎ去った」と、慶尚大学の金弘範(キム・ホンボム)教授(経済学)は言う。「だが、家計の債務危機は長い間居座り続けるだろう。深刻な影響を受けたのは若い世代が多いからだ」
子供を救おうと親も破産
02年秋、韓国の金融機関は共同で、多重債務者を救済するための「信用回復委員会」を設立した。訪れる相談者のなかには、息子や娘の借金を肩代わりしようとして自分まで借金漬けになった親も多いと、同委員会の李東基(イ・ドンギ)教育広報チーム課長は言う。「互いに投資し合っていた韓国企業が98年に連鎖倒産したように、今は家族を助けようとした個人が連鎖破産の危機に直面している」
監督当局は、この危機は通貨危機より御しやすいと主張する。当時の企業向け不良債権処理には1400億ドルかかったが、個人向け不良債権は約300億ドルにすぎないからだという。
しかし、他の専門家は懐疑的だ。「企業には人員削減と経営のリストラという明らかな処方箋があった。だが、今度の危機ではそれがない」と、韓国金融研究院の崔は言う。「多重債務者はすでに崖っぷちにおり、これ以上追い詰めるわけにはいかない」
歯ブラシで人生を狂わせた趙は、今もカード会社から盛んにアタックを受けている。ただし今度は、不良債務者として。
ツケが回った韓国経済
クレジットカードによる消費を後押しすることで景気を回復させた韓国政府。だが今度は、お金を借りすぎた消費者が景気の足を引っ張りはじめた。
カード発行枚数
1998 4200万枚
2003 1億500万枚
家計の平均債務残高
1998 1万800ドル
2003 2万4300ドル
家計の総債務残高
1998 1560億ドル
2003 3660億ドル
資料:韓国財政経済省
ニューズウィーク日本版
2004年3月10日号 P.36