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商品価格を消費税込みで表示しなければならない「総額表示」が、4月1日からスタートする。消費税が導入されて15年。商品価格と消費税を別に表示する「外税方式」に国民が慣れた今、なぜ「総額表示」なのか。消費者にメリットはあるのか。とまどう現場の対応をリポートする。【藤田裕伸、坂井隆之】
■「誰も喜ばない」
「支払額がわかりやすいし、その分値下げもした。お客様には喜ばれると思っていたのだが……」
関東を中心に家電量販店62店を展開するノジマ(本社・神奈川県相模原市)の野島広司社長は顔を曇らせた。
同社は、総額表示を約2カ月前倒しして、1月22日から実施した。同時にほぼ全品の税込み価格を従来の本体価格に据え置いた。実質消費税分5%の値下げなのに、売り上げは5%以上落ち込んだ。「税抜き価格と思い込み、値下げに気付かない人が多い」(野島社長)。さらに値下げの原資をねん出するために、買い上げ価格に応じて付与するポイント還元率を下げたことが、客離れを招いた。
小売業界はノジマの例のように、総額表示で消費者に「高くなった」と思われ、買い控えや混乱が起きないか心配している。ただでさえスーパー、百貨店の売上高は低迷を続けており、「いま導入しても誰も喜ばない」(日本チェーンストア協会の川島宏会長)というのが本音だ。
■「105円」ショップ?
「100円」ショップは「105円」ショップと看板を変えなければならないのか。財務省の見解は「店名であり、価格表示でないため認められる」。だが、店内の「100円均一」の表示は違反になる。大手各社は値札を「100円(税込み105円)」に変える方向で、準備を進めている。ある大手100円ショップ幹部は「税込み100円にすることも考えたが、将来増税されたときに対応できないので断念した」と語る。
発生する1円未満の端数の処理は、業界によってまちまちだ。
コンビニエンスストア業界は四捨五入。ただ、115円の缶ジュースは四捨五入方式では121円になるが、「自動販売機よりは高くできない」として、各社120円に据え置き。1円単位の表示にこだわるスーパーは切り捨てで対応する方針だ。
百貨店は各社対応が分かれるが、切り上げが主流。ただ、切り上げだと買い方によって、消費税額に違いが出る可能性がある。複数の品物を一度に買う場合、本体の総額に消費税5%をかけて支払額を計算するため、単品では一品ごと切り上げで計算されたものが、まとめ買いで切り上げ分が単品買いより安くなることもあり得る。対応は単純ではない。
■悩ましい「98円」表示
小売業界が頭を悩ませているのが「98円問題」だ。
総額表示になると、98円の商品は102円、198円は207円となり、「お得感」が消える。ほとんどのスーパーは「下2ケタが98円の商品を作るかどうか販売政策の問題」(ダイエー)として、多少無理をしても「端数98円」商品を残す方向だ。
また、カジュアル衣料の「ユニクロ」を展開するファーストリテイリング(本社・山口市)も、本体価格を一部値下げして、「お得感」にこだわることにした。例えば現在、本体価格が2900円の商品は、総額表示方式では3045円になるが、本体価格を値下げして2990円にすることで、買いやすさをアピールする。
■煩雑な価格表記
ファミリーレストラン最大手のすかいらーく(本社・東京)は、「本体価格480円(税込み504円)」と表示を変えるが、「写真を多用したメニューに組み込むには価格表示が長すぎる。メニューがごちゃごちゃして見にくくならないか」と心配する。
レシートの表記も「税額を表記する」(ダイエー、イオン)、「税額は記載しない」(イトーヨーカ堂)などバラツキがある。家計簿をこまめに付ける人にとってはわかりにくくなるかもしれない。
■サービス業界
金融業界では、総額表示導入に合わせ、手数料を値下げする銀行も。
りそな銀行は、4月から振り込みなどの各種手数料を改定。「利用者にわかりやすくする」との趣旨で、端数をなくし、金額を100円単位にそろえる。消費税込みで105円だった手数料が100円になるなど、ATM(現金自動受払機)利用の振込手数料や、インターネットバンキング手数料はおおむね値下げになる。
旅行業界では、主力のパックツアーは従来、税込み価格。ただ、ホテル、旅館の宿泊料は税別が多いため、JTBは、国内のホテル・旅館予約サービス「セレクト300」の4月以降分のカタログの価格を総額表示に変更した。「9700円」が「10185円」になり、消費者に値上がり感を与える恐れもあるが、同社は「価格を改定すれば『便乗値上げ』との誤解を招く恐れもある。シンプルに総額表示にした方が透明性が高い」と説明する。
総額表示を義務付ける理由について、財務省は「値札を見れば支払総額が一目で分かるようにするのが狙い。従来主流だった税抜き表示は、レジで請求されるまで支払い総額がいくらか分かりにくかった」と説明し、「消費者の便宜にかなう仕組みだ」(谷垣禎一財務相)と強調している。89年の消費税導入の際に、「総額表示への一本化」が検討された経緯もある。
だが、15年もたってこの時期に導入する説得力に欠く。総額表示だと消費税額がわかりにくくなるため、将来の税率引き上げに向けた布石との見方が少なくない。実際、膨らむ一方の社会保障費に対応するため、消費税引き上げが必要とのムードはこれまで以上に高まっている。財務省は「価格表示によって生じていたわずらわしさが解消され、消費税に対する国民の理解を深めてもらうことにつながる」とも説明しているが、単純にそれだけの理由と受け取るれない状況になっているのも事実だ。【今沢真】
◇総額表示◇
価格を消費税込みの総額で示すこと。4月に改正消費税法が施行され、業者が消費者に価格を示す場合は、総額表示が義務付けられる。
たとえば、本体価格が「980円」の商品は、4月以降は「1029円」や「1029円(税抜き980円)」「1029円(うち消費税49円)」などと表示しなければならない。すぐに総額がわからない「980円+税」「980円(税抜き)」「980円+税49円」などの表示は認められない。
小売店店頭での値札や広告だけでなく、商品カタログやテレビ通販、インターネットのホームページなども適用対象になる。
[毎日新聞3月7日] ( 2004-03-07-23:50 )
http://www.mainichi.co.jp/news/selection/20040308k0000m020064000c.html