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週刊現代10月2日号
http://kodansha.cplaza.ne.jp/wgendai/article/040923/top_06_01.html
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【BSE】狂牛病危機! 輸入再開なんてとんでもない
アメリカの牛は今も肉骨粉を食べている
(ジャーナリスト)椎名玲
「肉骨粉は使っていない」――九州で初めて狂牛病(BSE)感染牛を出した農家はこう語った。発症リスクを飛躍的に高める肉骨粉を与えないのは、いまや牛を育てる上での常識だ。だが、その常識が通用しない国があった。年内にも輸入再開と目されるアメリカだ。
もう全頭検査は行わない
初めてBSE(狂牛病=牛海綿状脳症)が確認された'01年、牛肉の買い控えが起こり、食肉業界の業績は急落した。列島中を覆った狂牛病ショックは、政府が世界で最も厳格な検査体制――全頭検査を敷いたことでようやく終息を迎えた。
だが、消費者の信頼を取り戻し、BSE騒ぎにピリオドを打った全頭検査がいま、廃止の危機に瀕している。
国の食品安全委員会のプリオン専門調査会は、9月6日にまとめた中間報告書原案で「20ヵ月以下のBSE感染牛を検出することは困難」とし、それより若い牛を全頭検査の対象から除外しても、科学的には人への感染リスクは増加しないという見解を示した。国内での安全を担保してきた全頭検査を、事実上破棄する方針を明らかにしたのである。
BSEの感染原因となるプリオン研究の第一人者で、かつて英国の食品安全委員会メンバーも務めたジリ・セーファー・カリフォルニア大学助教授は、日本政府の方針転換に驚きを隠さない。
「BSEの全頭検査を取り止めることには、何の科学的根拠もありません。20ヵ月齢以上の牛だけ検査すると言いますが、若い牛に感染牛がいないわけではない。検査精度が向上すれば、いずれ若い牛からも異常プリオンを検出できるようになります。そもそも、牛の月齢だけで安全ラインを確定できるという考え自体が間違っている。全頭検査によるデータの蓄積があってこそ、科学的な根拠に基づいて、感染牛かどうかを正確に見極めることができるのです」
おりもおり、9月13日には熊本で、国内12例目となるBSE感染牛が見つかった。この牝牛は62ヵ月齢と高齢だったが、セーファー助教授によれば、水も漏らさぬ全頭検査体制が保たれてこそ「食の安全」は保障される。根拠不十分な状況下での全頭検査破棄は、自ら「食の安全」を放棄する自殺行為に他ならない。
重大な方針転換のウラには何があるのか。理由は一つ。昨年末にBSE感染牛が確認されて以来、日本から締め出しを食っている米国産牛肉の輸入再開を急いでいるのだ。
これまで日本政府は「食の安全は国内外同一の基準」との立場を堅持してきた。再三にわたり輸入再開を求める米国に対し、「全頭検査を行うことが前提条件」と突っぱねてきたのである。米国では30ヵ月齢以上の一部の牛にしか検査を実施しておらず、日本の要求とは真っ向から対立している。輸入再開のメドはまったく立たない状況にあった。
検査対象を20ヵ月齢以上にすると、米国産牛の大量流入が一気に始まる。日本国内では年間に解体される101万頭の牛のうち、93%が20ヵ月齢以上であるのに対し、若い牛の輸入が多い米国産に関しては実に80%が20ヵ月齢未満だというのだ。
はたして米国産牛肉は、検査をせずとも安全と言える代物なのか。筆者は、米国内でBSE感染牛が確認された昨年末以降だけでも計3回、直近ではこの8月末に訪米し、農務省関係者や農家、食肉加工業者等を取材してきた。その経験から断言できるのは、アメリカのBSE対策は見せかけとごまかしばかりで、米国産牛肉ほどリスクの高い食品はない、ということだ。
最大のごまかしは肉骨粉の規制にある。BSEは空気感染などは起こさず、エサに含まれる牛の肉骨粉から感染するとされる。肉骨粉は牛から食肉を除いた後のクズ肉や脳、脊髄といった成分から作られるが、脳や脊髄には異常プリオンが含まれている可能性が高いからだ。米国政府は'97年から牛には与えていないと言い張っているが、実は肉骨粉を使った農家を罰する規定は存在しなかった。
「唯一の厳しい規制は、肉骨粉の入った飼料を作るメーカーに対し、『牛の一部が入っているので、牛には与えるな』とシールを貼る表示義務を課していることです」
と語るのは、米国元農務省検察官のレスター・フリードランダー氏だ。大手食肉解体場で豊富な検査経験を持つフリードランダー氏が、驚愕の事実を明かしてくれた。
「FDA(米食品医薬品局)が全米の農場に対し、『肉骨粉を牛に与えるな』と正式に勧告したのは、感染第1号が出てから半年も経った今年の6月のことです。それ以前は平然と肉骨粉を使っていた農場もある。実のところ、東海岸の農場には、いまだに肉骨粉を与え続けているところがあります」
ミンチ肉の中に危険部位が
BSE感染の拡大を防ぐ最も初歩的な対策を怠っているというのだから驚かざるを得ない。にわかには信じがたいが、米国公益科学センターの法律担当者であるケン・ケリー氏もこう口を揃える。
「今年1月、農務省は『病気の牛や、脳や脊髄などの危険部位、鶏小屋から出るフンやゴミ、クズ肉などを家畜の飼料にすることを禁止する』などといったBSE対策の強化策を打ち出した。ところがすべて提案だけで、規制が法として施行されたものは何一つありません。肉骨粉の飼料規制に関しても抜け道だらけで、豚や鶏などの飼料として脳や脊髄はもちろん、歩行困難などの神経障害が出ている“へたり牛”の肉までが使われています」
加えて米国では、自家用として農場自身が飼料を配合することを認めている。いったいどの農場でどんな飼料が、どれだけの量使われているのか、まったく把握されていない状態なのだ。
問題はそれだけではない。20ヵ月齢以下かどうかを見分ける年齢測定法に、アメリカでは歯の生え具合を利用しているのだ。この測定法では、牛の種類や栄養状態、生まれた季節などにより、6ヵ月の誤差が生じることがわかっている。日本のように個体識別制度が確立しているわけではなく、正確にいつ生まれたかといった情報がはっきりしない牛が多いのである。
これでは20ヵ月齢以上の牛が検査なしで輸入される可能性もある。本来なら現在の検査で十分に発見できる感染牛を見逃すことになりかねない。
米国産牛は危険部位の除去に関しても問題を抱えている。アメリカでは骨から肉を削ぎ落とす際に、骨のきわギリギリまで機械を使って削ることが多い。この機械を使うと、危険部位である神経組織が混じりやすい欠点がある。政府はこの機械を使った肉を食用にすることを禁止する策を打ち出したが、これもまた法的な規制がかかっていない。ほとんどの食肉解体場で守られていないのが現状なのだ。
米国の食品加工業最大手、タイソン・フーズ社のパスコ工場の労働者であるメルキアデス・ペレイラ氏にこの禁止策について確認したところ、ペレイラ氏は平然と使用していることを認め、削ぎ落とされた牛はミンチ肉として食用されていると語った。
「脊髄に近い部分でも、何の気なしに機械を使っています。危険部位の処理は何の訓練も受けていない人間が担当することが当たり前のことになっており、ときには脊髄が肉に飛び散って付着していることさえある。日本では危険部位がきちんと除去されているかどうか獣医が確認しているそうですが、ここで立ち会う食品検査官は何の資格も持たない素人にすぎません」
感染疑惑のある牛は処分する
内部告発者をサポートする団体、ガバメント・アカウンタビリティー・プロジェクトの元食品担当者であるフェリシア・ネスター氏は、さらに驚くべき事実を教えてくれた。
BSEの感染が疑わしい牛について、「政府の検査官が確認に来る前に飼料加工業者に回すように」農務省自身が奨励しているというのだ。
「農務省に確認したところ、『衛生上の問題から、病気である可能性が高い牛を検査官の到着まで保管しておく余裕はない』との答えでした。このため全米の農場で、様子のおかしい牛を獣医に診せることなく飼料加工業者に回したり、死亡した牛をそのまま土葬したりといったケースが頻発しています」(ネスター氏)
米国産牛がどれほど問題だらけか、お分かりいただけただろう。にもかかわらず、政府が輸入再開を急ぐ理由は何か。
21日にニューヨークで行われる日米首脳会談の席で、米国産牛肉の輸入再開が話し合われることになっている。遊説先のオハイオ州で「日本を説得する」と発言するなど、ブッシュ大統領は早期の事態打開に意欲的だ。何を隠そうブッシュ大統領の最大の支持基盤は、食肉加工関連の団体や企業なのだ。11月の大統領選に気遣ってか、いつもの米国追随か、小泉総理も輸入再開に積極的だという。
意外にも、輸入再開を喜ぶと思われた外食産業関係者からは不満の声が上がっている。
「拙速に米国産牛肉の輸入を再開し、再び狂牛病ショックに見舞われたら、消費者の信頼は完全に失われてしまう。国産牛肉まで見捨てられてしまうのが何より恐ろしい」(レストランチェーン経営者)
政治の道具に使われ、狂牛病蔓延の危険を顧みない無謀な輸入再開は、決して許すわけにはいかない。