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美浜原発3号機8/9事故に関する考察6 [山崎久隆@たんぽぽ舎/福島原発市民事故調]
http://www.asyura2.com/0403/genpatu2/msg/444.html
投稿者 なるほど 日時 2004 年 9 月 21 日 20:22:16:dfhdU2/i2Qkk2
 

(回答先: 美浜原発3号機8/9事故に関する考察5 [山崎久隆@たんぽぽ舎/福島原発市民事故調] 投稿者 なるほど 日時 2004 年 9 月 21 日 20:19:26)

こんにちは、山崎久隆@たんぽぽ舎/福島原発市民事故調です。
続きの考察の6号を送ります。1〜6号とも転載自由です。

【9月2日23時00分】

技術基準を勝手に値切る関電

 「美浜2号機については予定していた点検を完了し、すべての個所で必要な厚
さを満たしていた」これが8月23日、美浜原発3号機の事故を受けて緊急点検
を行った美浜2号機の配管調査結果についての関電の発表です。
 ところが27日になって、美浜原発2号機の給水系統などに国の基準を下回る
ものがあることが明らかになりました。
 朝日新聞によれば「美浜原発2号機は昨年9月、主給水管の肉厚を測定。国の
技術基準で必要な17.6ミリを下回る17.5ミリだった。また高圧排気管で
も基準値4.9ミリに対して5ミリと、基準値を割り込むまでの余寿命が1年未
満だった。同社の管理指針では2年以下になると交換しなければならない。こう
した配管の肉厚の管理は省令で定める火力発電所の技術基準を利用している。と
ころが、火力発電所の技術基準には、運転で生じる圧力変化に対応して、配管に
高い圧力がかかることを認める特例があり、関電はこれを適用し、より薄い肉厚
でも問題ない、と独自に解釈していた。1年未満と評価された余寿命が数年から
数十年延びることになる判定だった」ということなのですが、わかりにくいので
説明します。
 まず、主給水系の配管は10年間で25%という、以上に長い間隔で検査をす
ることになっています。全部の検査が行われるのに40年かかるということにな
ります。
 ただし、オリフィス部など減肉の危険が高い場所はもう少し高い頻度で点検を
行うことになっています。それが「二次系配管管理指針」に記載されているわけ
です。
 この点検箇所をリスト化したものから、今回の美浜3号機を含む膨大な漏れが
見つかったことも問題となっています。
 さて、美浜2号機のほうですが、この減肉箇所は今回の事故で破断した場所と
は異なるところです。なぜならば、美浜3号機の事故を受けて緊急点検を行った
場所である10箇所に含まれていないからです。
 しかし昨年9月には既に点検済みで、そのときに肉厚が基準を下回るまでに減
肉していることがわかっていました。
 本来ならば寿命が来ているわけですから、その定期検査期間中に直ちに交換す
べきものでしたが、それをしないで先送りを決めます。その根拠となったのがい
わゆる「二重基準化した配管の安全基準」でした。
 これは、火力発電所の配管で、安定状態で使用しているものについては2割ほ
ど下駄を履かせても良い、つまり必要肉厚自体が一定の安全余裕を持っているか
ら、その余裕の部分に食い込んでもかまわないという基準です。
 これを原発に適用して良いなどとは、どこにも書いてないのに、関電は勝手に
緩和基準を適用し、必要肉厚を下回っているのに交換しなかったというわけで
す。
 どうしてこんなことが起きるのか。
 たまたま8月31日のNHK「クローズアップ現代」で、日本アームの専務が
出演し、その事情を明確に語りました。それによれば、定期検査の予定は全て半
年以上前から決まっていて、どのような作業が必要かも決められており、そのた
めの資機材や人材の手配もすんでいるので、美浜3号機のように、前回の定期検
査前一ヶ月の時点で「点検漏れ」が発見されても一ヶ月で定期検査計画に盛り込
むこと自体不可能と判断し、次の定期検査である2004年8月14日の約半年
前にあたる2003年11月に点検漏れがあったということを関電に伝えたとい
うのです。
 この証言に間違いはないと思います。ただし、次の定期検査まで先送りという
ことを「判断」「決定」した主体は日本アームではないだろうと思います。ある
いは関電が許すはずがないからという「あうんの呼吸」であったかもしれませ
ん。
関電出身社員が非常に多い会社ですから。
 この部分は現在進められている業務上過失致死傷罪と労働安全衛生法違反事件
捜査に密接に関わるところなので、詳細が明らかになるのは相当先になるかもし
れません。
 定期検査の直前に何らかの欠陥が見つかっても、ぜんぜん「良かった」という
話にならないのです。不幸なことに定期検査というのは、がんじがらめにされた
計画に沿ってしか行われないのです。
 東電と話をしていても、よく「たまたま今回の定期検査時に念のため調査をし
たところ破損が確認された」みたいな話をされることがあります。「たまたま」
検査などするわけがありません。欠陥などが予想され、やばそうだなということ
で調べるわけですが、従来の定期検査計画上は無い検査だったので(例えばシュ
ラウドの点検や再循環系配管の検査)たまたま調べたことにしているだけのこと
です。
 こういった体質が今回の美浜3号機の事故を「起こるべくして」引き起こしま
した。
 既に日本アームは検査漏れの配管であることを伝えています。それが昨年4月
か11月かという問題ではありません。少なくても関電は検査されていない配管
であることを認識していて今回の定期検査に先送りをしたのです。その決定を下
すのは検査会社ではあり得ません。関電の意志のみが決定するのです。
 これまでも幾多の「不祥事」を生んできた電力会社のこうした体質は、今も根
強く生き続けているのです。

火力と原子力を区別できない国・電力会社

 必要肉厚について特例条項を使って「値切る」ことができるのは、安定状態で
稼動してきた火力発電においてであると、原子力安全・保安院も認めています。
 美浜原発のようなPWRの二次系については、放射能を含まないとして火力発
電所の技術基準を準用しているそうです。(それもまたどうかと思うが)
 しかしここは原発であって火力ではありません。
 肉厚基準の適用を火力並みにしていたことから見ても、このタービン建屋を原
発の一部だという認識に欠けていることは明らかです。
 しかし系統は一体のものであり、二次系であっても「原子炉冷却系統」に変わ
りはありません。
 二次冷却水喪失は直ちに一次冷却能力の喪失につながり、炉心の安全性を脅か
すことはTMI事故でも明白です。
 ところがこの事故を原子力安全・保安院は速報値としながらも「国際評価尺度
レベルゼロプラス」だとしました。
 これは関電と同じ間違いを犯したことになります。
 二次冷却水の漏えいは、原子炉冷却系統の能力を阻害しているのですから「深
層防護の劣化」と考えるべきことなのです。

【9月11日12時52分】


 強制捜査
 
 関西電力美浜事故に関連し、福井県警は強制捜査を行うことを決めました。
 容疑は「業務上過失致死傷」で美浜原発、関電若佐支社を含む複数箇所になる
と見られています。また、破損した配管を切り出して押収するとも。
 けれども、強制捜査を前にして関電は情報の多くを明らかにしないという姿勢
を示しています。
 日本にはこういった場合の「司法取引」のようなものはありません。
 個人の責任を免責することを保証して、重要情報を公表させる制度が必要なの
ではないかと思います。
 いまのままですと、個人もまた刑事責任を追及されることを恐れて情報を隠し
通そうとするケースが多々見られます。それがまた次の事故を引き起こす懸念も
ありますし、個人への責任追及の重さに耐えかねて重要な情報を持つ人が自殺す
るといった悲劇も後を絶ちません。
 個人の責任を問わねばならない場面はもちろんありますが、それを回避しても
重大な事故の場合は実体解明が優先されることもあるのではないか、特に原子力
のように極めて閉鎖的で限定された人しか真実がわからないような場合は、そう
いった制度が必要なのではないかと思います。例えば管理職以外の一般従業員に
ついては、刑事免責を含む司法取引を可能とし、それ以上の職員についても条件
によっては免責を認めるが取締役や官庁の管理職には原則として認めないなどの
制度があっても良いと思います。

 関電の勝手な「解釈」

 読売新聞の記事です。『原子力安全・保安院は、関電が肉厚を検査していな
かったほかの原発の11か所の配管と、独自の解釈で安全だとしていた美浜2号
機の2か所の配管の計13か所について、「社内の指針に基づく管理がなされて
おらず不適切。関電の説明に合理性はない」と断定した。同日開かれた原子力安
全委員会に報告し、了承された。』
 隣の原発で同じ条件の配管を見ているから検査していない配管でも健全性は確
保できるということを関電が主張したのに対して保安院が不適切としたというこ
とです。
 めずらしく保安院としてはまともなことを言っているようにとれますが、実際
に美浜事故検討会の議事録を読むと、関電の説明が理解できないという趣旨のこ
とを言っています。
 どう違うのかと言うことなのですが、保安院としては、こういう「類似配管の
データを準用する」ということ自体がいけないわけではなく、今回の事故に関連
して高浜のケースで「検査は1度もしていないが、同一タイプの他原発で同じ配
管の厚みを調べており、安全性に問題はない」という主張について「その類似性
が立証できるのか」という点が争点なのだそうです。
 実は、サンプリング調査という調査手法があります。どういうことかというと
全数検査をしようとしたら数が膨大になるため、同じ使用環境で同じ材質の配管
については一つを代表して調べれば残りも検査を行ったものとして扱うという考
え方が既にあります。
 これはBWRの検査内容について9月9日に東電と議論をした結果明確になり
ました。
 東電は(他のBWRもほとんど変わらないと思いますが)配管の使用環境と材
質などからランクをA、B、C、Dと分けています。Aは減肉が年間1ミリ以上
すすみ早期に低合金鋼に交換することが必要というものですがこれは東電には一
箇所もなく(既に交換しているので無いという意味だそうです)Bランクは年間
1ミリ以下の要監視というべき配管で、毎定検時に検査する対象、CランクとD
ランクは減肉が少ないか対策材かということでランクが下がり、Cは3年、Dは
5年ごとに調べるというように検査頻度を落とし、さらにサンプリング調査でよ
しとしているというわけです。
 ただし東電のケースで、号機をまたいでのサンプリング調査が行われているの
かどうかは、東電の原子力センターでは、関電のような号機の違う原発でもサン
プルに代表させているかまでは即答できませんでした。再確認すると言うこと
で、
 これは大きな問題を含んでいます。
 ランクの低い配管は、減肉も進まないから綿密な調査はもともと必要がない
(例えば5年ごとに調べればよいなど)と考えている上、その調査も全数調査で
はないのですから、「同一環境同一性」などがちょっと違っただけでも思いがけ
ない結果を招く恐れが否定できないはずだからです。
 例えば設計施工記録上同じ配管で運転管理上も違いがないと思っていても、施
工のばらつきや使用中の環境の変化などで特定の配管で減肉が進んでいても気づ
かないだろうと考えられます。
 たった一つの例を挙げれば、同じ配管給水から分岐した3つの配管があったと
したら温度、流量の同じ給水を分岐しているので、材質も形状(曲げやバルブ位
置など)も同じならば、その3つは「同一」と見なされます。その一つをサンプ
リング調査していれば他の2本も見たことと同じに扱います。
 しかしこの3本が全く同じ条件であるかどうかはわからないはずです。
 特に溶接周りは、引き回される方向の違いや加工時の技術差が出ます。肉盛り
の差が減肉量に大きく関係することもあります。
 そういった「不測の事態」にまで備えようという「安全側にたった考え方」
が、
原発では機能していないことは、これまでの事故例でいくらでも見られるのです
から、関電の「勝手な解釈」も、やはり他の電力などに「水平展開」して考える
必要があろうと思っています。
 
 国会の参考人質疑
 
 8月31日に衆議院の「経済産業委員会」で、美浜事故について藤社長以下の
関電役員を呼んで参考人質疑がありました。
 どういう質疑内容なのかは新聞報道でしか見ていませんが、なんともがっかり
する内容です。
 まず、議員の側の勉強不足が目立ちます。というか、ほとんど何にもわからな
い人たちが質問に立っているのだなという印象しか持ちません。
 質問に立った議員が繰り返し聞いているのはトップの責任についてですが、そ
んなもの今国会で聞かなければならないことではないでしょう。刑事責任を追及
されている会社のトップがそんなところで象徴的な意味以上の責任を認めるわけ
がありません。
 事故そのものについて、定期検査の前に運転中の原発に大勢の作業員が入って
いたことを問題にしているのは良いのですが、どうしてそんなことをしているの
かをもっとつっこんで聞かないと、テレビでさえ下請け従業員の声をいくつも報
じているのだからそれをなぞった程度の質問では国会の名が泣くでしょう。
 工学的な質問にいたっては目を覆うばかりです。例えば朝日新聞によると
『「放射能を帯びた1次系で起こりうる可能性については「1次系は材質も点検
の規制も違う。絶対にないと確信している」と話した。』というのですが、共同
通信には質問議員の名前も入って具体的に報じています。

 斉藤鉄夫氏(公明) 今回の事故で原子力災害特別措置法が生きなかったので
はないか。
 松永和夫原子力安全・保安院長 原子炉は安全に停止し、放射能の外部流出と
環境への影響はなく、同法の適用の対象外だった。
 斉藤氏 なぜ1次系配管の減肉は起きないか。
 辻倉米蔵関西電力取締役 2次系配管は炭素鋼を使うが、1次系は耐食性が高
いクロムを含んだステンレスを使用している。

 どういうつもりで聞いているのでしょう。場立ちの質問でこのレベル。この人
は原子炉の系統や原子力関連法規さえも理解していないことがよくわかります。
 もっとも、こうやって質問に立っているのでレベルの低さがわかるということ
では、この議員を責めるのは間違いかもしれません。質問に立っていない議員は
もっと水準が低いのかもしれません。
 いずれにしろ、産業委員会は原子力の安全性を論ずる場ではないということだ
けはわかりました。しかしこの委員会が原子力政策の具体的な方針を決めてくる
場所なのですから、監視を強めていかないといけないのです。

【9月13日21時39分】

美浜1号でも減肉配管使用中

 関電美浜原発1号機、日本最古のPWRは、肉厚不足の欠陥配管を抱えたまま
運転中だった。
 これだけの大事故を起こしておきながら、何をしているのかと恐ろしくなるば
かりです。
 美浜原発1号機の給水系配管は、美浜3号機で起きた事故と同じ二次冷却水を
流している配管ですが、こちらは場所によっては使用温度250度、70気圧を
超えます。

系統の説明

 美浜事故に関連して、いろんな技術用語で表現されることがわかりにくいと思
いますので、簡単に「二次冷却系統」について説明します。
 PWR加圧水型軽水炉の場合、原子炉を冷ます系統は「一次冷却系」、タービ
ンを回す系統を「二次冷却系」といいます。これを分けている場所は「蒸気発生
器」と呼ばれる巨大な(圧力容器より大きな)装置ですが、内部は配管の塊で
す。
 一次冷却水は蒸気発生器の下部から入り、直径22.2ミリ肉厚1.3ミリの
ニッケル・クロム・鉄の合金(インコネル600等)製の細管(伝熱管)に入り
ます。この時の温度は約320度、圧力約157気圧に達します。
 いっぽう、細管の外側では二次冷却水が沸騰しています。この時の温度は約
280度、圧力約70気圧です。
 細管は蒸気発生器一基について約3300本あります。
 二次冷却水は、蒸気発生器からタービンまでは「主蒸気管」という名称の配管
を通過します。タービン建屋に入る手前に「主蒸気逃がし弁、主蒸気安全弁」と
いう装置が付いています。設計圧力の110%以上の圧力が配管にかからないよ
うに設置されていて、大気放出されます。二次側は放射能がないという前提なの
で、BWRでは存在しない(格納容器底部のサブレッションチェンバに逃がす弁
はありますが)大気放出弁があります。
 この先には「主蒸気隔離弁」があります。二次冷却水が蒸気系統から漏れる事
故が発生した場合、急激な蒸気発生器のドライアウトを防止するためについてい
ます。
 タービン建屋に入ると「タービンバイパス弁」という弁があります。これは
タービンを経由せずに直接蒸気を復水器に送るために、配管の切替用についてい
ます。
 タービンバイパスは原発により容量に違いがあり、100%バイパスできるプ
ラントならば定格出力状態で電気出力がゼロ(つまり同列につながっているター
ビンを停止することを意味する)でも全量蒸気をバイパスできますが、私の手元
にある文献では「国内PWRプラントでは40%または70%を採用している」
となっていますから、PWRにおいては100%バイパスを行っているものは無
いのかもしれません。BWRにはあります。
 タービンには高圧タービンと低圧タービンがあります。一般的に高圧は1台、
低圧は2ないし3台かとおもいますが、それ以外の構成もあるかもしれません。
 高圧タービンの直前で複数の蒸気発生器から来た蒸気が一つにまとまります。
 高圧タービンを回し終えた蒸気は、温度、圧力ともに下がりますが、同時に水
滴成分も混じることになります。これを「湿った蒸気」などと呼んでいますが、
湿った蒸気が低圧タービンにはいると、タービンを壊す可能性がありますので
「湿分分離器」を通して水分を除き、低圧タービンに向かいます。
 低圧タービンを回し終えた蒸気は、復水器に流れ、海水による冷却で水に戻り
ます。
 この「水」のことを「復水」といいます。従って、復水器から出る水を流す系
統を「復水系統」と呼んでいます。
 このあと冷却水は美浜3号の場合は2系統にわけられて復水ポンプによって送
られ、復水脱塩装置を経て復水ブースターポンプで圧力を上げられ、途中の第一
から第四給水加熱器で温度が上げられます。
 この段階でも復水には空気や酸素など気体成分が含まれていますが、特に酸素
は復水系統の減肉対策のためにわざわざ添加されているそうです。しかしこの先
の給水系統では逆に酸素の存在が応力腐食割れにとってマイナス要因となります
ので、脱気器という装置で気体成分を取り除き、貯水タンクにためられます。こ
こでまた系統は一つにまとまることになります。ここで復水系統は終わりで、脱
気器から先を「給水系統」と呼びます。
 この先はそれぞれの蒸気発生器に向かうため、美浜3号の場合は三系統に分け
られて給水ポンプにより送られることになります。
 ただしすべてのPWRに、このような装置全部があるというわけでもないよう
で、具体的な原発の系統を知りたい場合は、それぞれ設置許可申請書等で実機の
系統を見て確認してください。

どっちが悪いの?マニュアル?

 さて、美浜1号機の減肉についてですが、美浜3号と違い「給水系統」という
ことなので使用圧力も温度も高いため、設計肉厚も必要肉厚も大きくなっていま
す。
 美浜3号で破断した配管は設計肉厚が10ミリに対し、美浜1号では19ミリ
となっています。
 この配管を、4月に実測したところ、最小値15.2ミリと、国の基準である
15.4ミリを下回っていたというものです。これは計算上交換すべき寿命を
1.5年ほど過ぎていたことになるそうで、それにもかかわらず関電は『火力発
電所に認められている特例を独自に適用して、「安全上問題ない」として交換せ
ず、運転を続けていた。』というのです。(朝日新聞より)
 こんな事態になって、美浜1号機は従来9月7日に予定されていた停止点検を
9月5日に前倒しすることにしました。
 しかしこれも、県知事や市民団体などが停止することを求めてやっとのことで
す。『記者会見した松村洋・原子力事業本部長は「福井県の皆さまに安心しても
らえるよう前倒しを決断した。今後はマニュアルに定めるなど、皆さんが納得で
きるような管理をしたい」と話した。』
 このコメントにいたっては、論外でしょう。何が悪いのかというとマニュアル
だといわんばかりです。つまり、こうした火力の基準を準用することを明記して
おけば、運転していても何ら差し支えなかったといいたいわけで、問題はマニュ
アルに書き込まなかったことだけ、工学的安全性には何ら支障はないということ
をいっているのです。
 さらにすごいコメントを出している関電幹部が居ます。『福井県の西川一誠知
事は4日、関西電力の美浜原発1号機も配管の基準を下回る減肉にもかかわらず
運転を継続していたとして、関電の岸田哲二副社長に対し即時停止と配管の点検
を要請した。これを受け、岸田副社長は記者会見で「配管の交換も念頭に置いて
考える」と述べ、5日午後にも運転停止の作業を始めることを明らかにした。』
(共同通信)
 最小肉厚も切っている配管に対して「交換も念頭」とはどういう意味でしょ
う。
交換する以外に無いものを、こういう表現をして、少しでも問題を小さく見せよ
うという発想が透けて見えることに、腹立たしさしか感じません。
 美浜1号が停止点検間際だったから、こういう事実が明るみに出たものと思い
ます。
 メディアももう少しつっこんでほしいと思います。必要肉厚を割り込んでいる
配管を「交換も念頭」で、他にどんな方法があるというのかと。
 どうも一部の記者を除いて、原発の工学的な問題となると誰かの言葉を借りな
いと記事にできない記者が多すぎます。情報公開問題だと工学的問題は関係がな
いので、厳しく追及するメディアもありますが、こと工学的な話になると保安院
や関電の説明に依りすぎます。
 別に対して小難しい問題でもない、こういうことには厳しい論調が無ければ、
関電も国も反省しません。

さっさと運転再開に疑問の声は・・・

 当然「美浜の会」など市民団体は抗議の声明を出したりしていますが、県はど
うしたかというと、専門家委員会というところが「問題なし」と結論し、国が
「再開していい」となって、さしたる抵抗もなく運転再開になってしまいまし
た。
『福井県の専門家による委員会は「大飯4号と高浜2号について点検は計画通り
に実施された」と評価。西川知事は関西電力に対し、再稼働について保安院と協
議するように要請していた。』(共同通信)
 という流れだというのですが、時系列でいうとこの発表の後に美浜1号の違反
配管発表となります。まさに出来レース。
 問題となった部分の点検をやっただけで、あとは何も見ていません。紙の上の
報告書などこの際信頼に足らずとすべきところ、一切何のおとがめも無しで運転
再開を容認する保安院の姿勢も、こんなレベルではいつまでたっても電力会社の
言いなりでしょう。
 けっきょくのところ予定調和的な国の姿勢も、自らの下してきた「安全のお墨
付き」に、あまりほころびが出ないようにするためのものであるということで
す。
 しかし現実には下請け従業員も含めて地元の不安感は増すばかりであること
は、
そのほかの記事を見ているだけでも伝わってくるのです。
 願わくは、こういった事態を受けて、もっと内部告発が出てこないだろうかと
思います。

【9月17日17時46分】

想定外とはこういうもの

 まず、原発に使われる主要な配管材料の関係は、減肉については 鋼鉄<低合
金鋼<ステンレスという関係で、右に行くほど強くなりますが、機械的強度とい
う観点からは同じ厚さならばステンレス<低合金鋼<鋼鉄となり、さらに値段の
安さという観点からもステンレス<低合金鋼<鋼鉄という関係になると思いま
す。
 なんではじめからステンレス材にしておかないの?という素朴な疑問について
は、こういった関係が成り立っていることを念頭に置いてください。単純にコス
ト面だけではなく設計強度なども含めて材質を変えると言うことは、想定が変わ
ると言うことになります。
 ちょうど真ん中に位置する低合金鋼が、減肉の「対策材」として炭素鋼の取り
換え用も含めて広く使われ、この材料を使っているから「減肉は起きない」とど
うどうと国会答弁をする関電や保安院がおり、その答弁を「そういうものです
か」と何の疑問も持たずに納得する議員が居るという、原発にとっても電力(た
だし関電は除く)にとっても実に平和な世の中が続いているかに見えた9月7
日、
その「対策管」が使用開始たった1年あまりで必要肉厚を下回るという「想定
外」の事態が、既に女川原発で起きていたことがニュースとなり駆け回りまし
た。
 東北電力女川原発2号機は沸騰水型軽水炉ですが、共同通信に依れば『95年
7月の営業運転開始から約1年後に、原子炉に送る水を加熱する給水加熱器系の
配管で減肉が見つかり計4カ所を交換していたことが7日、分かった。同原発に
反対する市民団体の質問状に東北電が回答した。』というのです。
 「給水加熱器系の配管」をもう少し特定すると、「給水加熱器ベント管のオリ
フィス下流」という場所です。
 市民団体とは「原子力発電を考える石巻市民の会」と「みやぎ脱原発風の会」
で、美浜3号機の事故について8月18日に女川原発の安全性を問う東北電力に
提出したによる公開質問書に対する9月7日への質問に対する回答ではじめて明
らかになったのです。

 この数値を見て、本当ならば腰をぬかさんばかりに驚かねばならないのが保安
院で、そして共同通信だけではなく全国トップクラスの大きなニュースとして報
じられてしかるべき事態。にもかかわらず、この段階では他に毎日新聞が報じた
だけ。
 21日にいたるも続報さえないというていたらくです。
 9月4日に発覚した「韓国の核兵器級ウラン極秘濃縮実験」報道や北朝鮮「大
爆発」事件に飛ばされたきらいがありますが、それにしても事実上何の報道も無
いというのはどうしたことか。
 つまり、美浜事故からほぼ一ヶ月、はじめのうちは応援を含めて大勢の記者が
追っていた話題も、すでに「山」を過ぎたとばかりに、事件を追う記者も減り、
女川のように国が会見を開いたというわけではないニュースは、東京本社で認識
されていないために一地方ネタ扱いにされてしまったということなのでしょう。
 新聞もテレビもそうですが、物事の重大性と記事、ニュースの大きさは比例し
ないケースが多々あるということの一つの例です。

 本題に戻りますが、この配管が建設段階から低合金鋼(クロム・モリブデン
鋼)で作られていたことが重要です。『炭素鋼より減肉に強いはずの低合金鋼
製。直径12・5センチと15センチの2種類の配管から、それぞれ2本ずつ
の計4カ所に減肉が見つかり、最大で6・6ミリの肉厚が半分以下の3・2ミ
リまで減っていた。』(共同通信)
 これはとてつもない速度です。保安院や東北電力は「想定より減肉が早かっ
た」と言っているそうなのですが、この速度は「想定外」などという言葉では表
現できない「劇的な速度」になります。
 第4回美浜原発事故調に保安院が出してきた資料によると、減肉計算はこう
いった説明になります。「美浜3号の減肉率を計算すると0.47×10^(-4)mm/hr
(十のマイナス4乗 ミリメートル毎時・0.000047ミリメートル/時)
となる。これは管理指針で想定した0.45×10^(-4)mm/hrとほぼ同程度だから問題
はない。」(美浜の会ホームページより)では女川のケースはどうなるのでしょ
うか。
 たった1年で3.4ミリも減肉したということは、時間当たりの減肉率に換算
すると0.43×10^(-3)mm/hrにもなってしまいます。指数を見てください。一
桁も大きいのです。(正確な稼働時関数がわからないので、年当たり365日
−40日で減肉率を算出)これでは約700日でこの配管は貫通することになり
ます。運転開始以来丸2年間全く検査をしていなかったとすると、第3回定期検
査の前に破断していた可能性があるということになります。
 また、運転開始以来1年で必要肉厚を割り込む減肉では、指針で言う「必要肉
厚を切る2年前」という前提自体成り立ちません。管理どころか稼動する前から
交換しなければならないという、あり得ない状況になってしまうのです。
 『東北電によると、96年8−11月に実施された第1回定期検査で減肉を
確認。98年1−3月の第2回定検で低合金鋼製より強度が高いステンレス製
に取り換え、現在は問題ないとしている。』(共同通信)というのですが、原
因については何も語られていません。このような急激な減肉が起きたのは、材
料が悪かったのか、施工が悪かったのか、使用環境が悪かったのか、全部悪か
ったのか。いずれにしろ合理的な説明が出来ない限り、現在も使用し続けてい
る検査指針は前提から破綻をしているとしか言いようがないのです。

加圧水型軽水炉VS沸騰水型軽水炉

 これまで、この種の減肉はPWRにおいては大きく進むケースが多いが、
BWRではあまり急激には進まないとされてきました。保安院資料にも「PWR
の減肉率については、実績がPWR管理指針で規定されている数値にほぼ収まっ
ていることから、指針に基づき点検の行われている部位については安全上の問題
は生じない。また、BWRについては、全体として少ない減肉傾向にあり、現在
の管理手法で特に問題となるものではない」(9月6日第4回事故調査委員会資
料4−1−5)
 これは炉水管理などに違い(東電などは「管理が良い」とは言わないのです
が、
現実には実際も建前上も厳しい管理をしていることに違いはありません)がある
ため。と言います。しかしこれはいわば当たり前です。
 PWRは二次系は原則的に放射能はおびていませんが、BWRはタービンに向
かう蒸気そのものが原子炉を通りますので、放射能を帯びています。つまり
PWRの場合は二次系漏えいは即放射能災害にはなりませんが、BWRの場合は
放射能災害になってしまいます。
 そのためPWRの二次系はタービンまでの主蒸気系統は法定検査(定期検査)
対象ですが、復水器から給水系統までは法定検査対象ではありません。一方、
BWRは全部の主系統が法定検査対象となります。
 これがPWRの二次系が「甘い」と言われる所以でもあります。PWRの減肉
管理について「必要肉厚を割り込む二年前」という表現があるのは、二次系の点
検、検査が火力並みの「二年ごとの検査」ですますことを前提としているからと
考えることが出来ます。
 つまり、毎定期検査ごとに検査をすること自体、もともと想定していなかった
という意味になります。
 BWRは、復水、給水系統は定期検査対象になっていますから、毎定期検査ご
とに検査はします。しかしその内容は「10年で25%」なども多く、結局
PWRもBWRも全数検査はしていないので、安全性を確保するという観点から
はどちらも不十分きわまりないと言うことになります。

本来必要なこと

 BWRが「減肉率が低い」という表現があります。しかし本当にその通りなの
かを知るためには全てのデータを精査しなければなりません。
 今回の事故に関連し、過去の検査データがどのように収集、分析されてきたの
かは、9月9日の東京電力との話し合い、そして9月13日の市民団体と保安院
との交渉で明らかになってきました。
 保安院が事故検討会に提出したデータには、各原発(ただし全部ではない)一
箇所の記録をあつめ、その解析結果で「指針が妥当」という結論を導き出したの
ですが、このデータは各電力会社が任意に選んで出したデータであり、東電によ
ると「各原発を代表するようなデータ」ということです。つまり「最大値ではな
い」ことは明らかであり、結果的に何のデータとして出したのか、東電としても
明確に認識をしていないことがはっきりしました。これが指針の妥当性に使われ
ていると言うことについて、どういう整合性があるのかを答えることも出来ませ
んでした。
 一方、保安院も13日の交渉の場で、各電力会社に8月11日に出した報告聴
取を求める指示に、口頭で各原発の検査データを一つづつ付けるように言ったけ
れども、「このときは、そのデータを使って減肉率の評価をしようなどというつ
もりはまったくなかった」などと平然と言い放ちます。
 すなわち、データの属性については一切具体的な指示をせずに、単に一例だけ
をつけるように口頭で言っただけなのです。どんなデータを付けよとか、どのよ
うに使うという話はゼロでした。
 「たまたま出てきたデータが管理指針の範囲内におさまっていただけ」
 保安院の言葉として、美浜の会のホームページに掲載されています。
 これ一点だけをとっても、指針の妥当性など一切検証されていないことは明白
なのです。
 そのうえ東京電力との話し合いで見えてきたのですが、既に交換工事を行って
存在しなくなっている配管の検査データについては、配管と共に「消滅」してし
まっている可能性があります。いや、仮に存在していたとしても、廃棄処分にし
たなどと言い出す可能性が高いと言うことです。
 過去の減肉データを「抹消」してしまうほど、大きな減肉破壊の記録が残って
いたと考える余地が、女川原発の例などを見てもあるということです。
 少なくても過去最大級の減肉を引き起こした事例を、各原発から洗い出し、減
肉破壊のメカニズムを精査検証するという姿勢が、最初に無ければ原発の安全性
などを語る資格はないと断言できます。

(この記事中、保安院交渉部分については「美浜の会」ホームページを参考とし
ています。このホームページには多くの具体的な指摘、解析結果が掲載されてい
ますので、ぜひごらんになってください。)
 美浜の会HP http://www.jca.apc.org/mihama

http://www1.jca.apc.org/aml/200409/41131.html



たんぽぽ舎
http://www.jcan.net/tanpoposya/index.htm

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