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ミス次々 上がらぬ非難
『信じなければ路頭に迷う』
国内原子力施設では、過去最大の犠牲者を出した福井県の関西電力美浜原発3号機事故。時間の経過とともに「手抜き検査」など問題点が浮かんできた。関電の「安全軽視」は過去にも問題視されてきた。だが、それでも地元は生命のみならず、町の将来をも原発に委ねてきた。今回の事故はそんな「原発依存」の体質に影響を及ぼすのか。古くて新しい命題を探った。
(早川由紀美、浅井正智)
■最初の資料では「寿命は20年超」
事故発生から一夜明けた十日朝、福井県美浜町の関西電力若狭支社での会見は、予定より三十分遅れで始まった。会見には、小門晃発電所次長らが出席。会場では、八枚つづりの資料が配られたが、すぐに「二枚目を差し替えてください」と別の紙が配られた。
最初の資料には「(破損した)当該部位の前後の配管曲がり部については平成八年から十年に点検しており、軽微な減肉はあるものの、余寿命はいずれも二十年以上と評価していました」と記されていた。
しかし、破損した管は運転開始以来、二十八年間、登録漏れなどで一度も検査されず、昨年十一月にはあらためて点検が必要と指摘されていた。
事故を捜査している福井県警も、その管理ミスの事実関係に注目している。いわば、事故部位より「危険な」周辺部分の点検と安全確認を強調することは、関電側の言い訳の核心部分といえた。
だが、差し替えられた資料では「健全性を確認した」とあるだけで「二十年」の数字が消えていた。理由を問われた関電側は「二十年という根拠が明確でないという国の指導が入り、差し替えた」と明かした。国が関電側の言いつくろいを認めなかった格好だ。
原発を三カ所十一基抱える関西電力は、今回の事故以前にも数々の不祥事や事故を起こしている。
一九九九年五月に今回と同じ美浜3号機で、配管内の蒸気が水に触れることで激しい衝撃力が発生する「ウオーターハンマー」と呼ばれる事故が発生。幸いけが人はいなかったが、油圧防振器が損傷し、作業員が一時避難した。
同年、福井県高浜町の高浜原発3号機で使われるプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料の検査データが、英国の加工会社によりねつ造されていたことも分かった。関電自身がねつ造したわけではないものの、管理体制が問題となり、高浜原発のプルサーマル計画は一時中断された。
今年六月には、関電が運営する火力発電所十一カ所すべてで、二〇〇〇−〇三年度の間、検査データのねつ造など三千六百件以上に上る不正な記録処理があったことが発覚している。
十日夜、現地で記者会見した中川昭一経産相はこの件に触れ、「(関電は発覚後)緊張感を持ってやりますと言っていたばかり」と憤りを隠さなかった。
原子炉本体の事故ではないとはいえ、今回の事故は国内の原発施設では過去最大級の事故だった。にもかかわらず、地元からは関電をあからさまに非難する声はあまり聞こえてこない。
■新「財源」求めてまた核施設誘致
美浜町で民宿を経営する女性は「(関西電力を)九十九パーセント以上信じている」と言い切る。「われわれはいいとこやなあと思って生活してるし、関西電力には下請けも含めて、地元からも仕事に行っている。定期検査の作業員の人もうちに泊まってもらっている。検査の人が泊まるときは心乱さずきちっと仕事をしてもらいたいので、一般のお客さんより、おかずをいいのにしてあげている」
別の民宿経営者の女性は「以前は定期検査に三カ月ぐらいかけていたのに、最近は一カ月半ぐらい。検査会社の人からは『地元から電力会社にもっと時間をかけてやってくださいと言った方がいい』と言われているが、地元の人は内気だから言わない」と話す。「でも古くなって、検査期間が短くなるのは本当はおかしい気がする。タービンの掃除の仕事で施設に入ったときに、水漏れを見つけて表彰された。そういう人が幾人もいる。古くなってるから、あちこち悪くなっている」
漁業をしている五十代の男性は「亡くなったもんには気の毒やけど、(放射能漏れの危険がある)一次系の配管でなく、二次系で良かったなというのが正直な気持ち」と打ち明ける。
「建てるときは耐用年数が十五年、二十年と言っておいて、今は六十年が寿命とか、むちゃくちゃだ。行政は原発がないと困るだろうが、わしらは一漁業者だから関係ない。おやじは補償金もらったが、(当初の耐用年数とされた)二十年分しかもろとらん、と怒っている」
住民は度重なる関電の「ミス」を知っており、不安がないわけではない。しかし、それでも現存する原発に依存しなければやっていけない町の現実は重い。
美浜町の場合、税収三十一億一千七百万円のうち、原発関連税収は二十一億二百万円を占める(〇二年度)。さらに新たな「財源」を求め、原発から出る使用済み核燃料を一時保管する「中間貯蔵施設」誘致に動きだしたばかりだ。
原発増設を求める請願を町議会に出したこともある同町商工会の松下正会長は「大きな産業が他になく、雇用のためにも原発は必要だ。原発の老朽化は心配だが、新しい原発は技術と科学が進歩して安全になっていると思う」と語る。
■被害作業員も地元の住民
実際、地元住民の多くが原発とかかわって暮らしている。今回、被害に遭った木内計測の作業員もこうした人たちだ。「美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会」代表の小山英之氏は「主だった産業がないだけに、いったん原発に依存してしまうと危険だと分かっても断ち切れない」とジレンマの深刻さを指摘する。
小山氏らは過去に高速増殖炉もんじゅの廃炉を求める署名活動を展開したが、「(同県)敦賀市や大飯町など原発の町では『家族が関電に勤めているから』とほとんど協力してもらえなかった」と残念がる。
原発建設予定地の中心にある町有地を東北電力に売却せず、昨年、建設計画を断念させた新潟県巻町の笹口孝明前町長は「建設と引き換えに多額の交付金を得たとしても、それが村民個々人の豊かさにつながるのか。それを住民たちが勉強した結果、結論はそうならなかった」と振り返るが、こうしたケースはむしろ少数派なのが実情だ。
逆にルポライターの鎌田慧氏は、地元住民の感情を「不安はあっても怖くないと言い張るしかない」と察する。実際、前出の美浜町の女性民宿経営者は「関電を信じる」という根拠について「事故については常に頭にある。でも起こったら終わりや。路頭に迷う。皆信じておらな、やってられん」と漏らした。
鎌田氏はこう続けた。「(住民たちは)金銭的にだけでなく精神的にも原発に依存している。脱原発で経済的に自立していく方法も見いだせないまま、原発が日常化している。これは原発を抱えるすべての地域に共通する問題。今回の事故は、八方ふさがりな状況を続けていっていいのかをあらためて問いかけている」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040811/mng_____tokuho__000.shtml