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ロンドンに本部がある国際戦略研究所(IISS)が四日からシンガポールでラムズフェルド米国防長官らアジア太平洋諸国の安全保障当局者を集めた会議を開いている。参加者と話す限り、イラク戦争の評価は分かれても刑務所での虐待擁護論はない。
イラク戦争に大義がないと考えてきた人たちは当然だが、もっと怒っているのは戦争に大義ありと考えた人たちだ。サダム・フセイン体制の非人道性を許せないと思い、隠し持つ大量破壊兵器がテロリストに流れるのを防ぐ必要がある、と考えた人たちである。
いまだにわからぬ大量破壊兵器の有無よりも、あの非人道行為こそが大義を失わせる。真相の解明、責任者の処罰、被害者が納得する謝罪と補償がなければ米国の国際的信頼はさらに揺らぐ。危機感は強い。
シンガポールのゴー・チョクトン首相もそのひとりである。夕食会で「反米は格好がいい。が、米国が敵ではない。テロリストが敵なのだ」と世界的な反米風潮に警鐘を鳴らした。
「民主主義は最悪の政治形態だが、これまで試みられたいかなる政治形態よりもましである」。こう語ったとされるチャーチルの念頭にあったのは祖国英国であり同盟国米国だったのだろう。
米国の国際的評価はいま最悪である。伏線はあった。クリントン政権時代、共和党が多数を占める米上院は包括的核実験禁止条約(CTBT)承認を否決した。京都議定書、イラク戦争も単独行動主義批判を増幅させた。
それを意識したのか、ラムズフェルド氏の講演は北朝鮮、アフガニスタン、ハイチなどをめぐる多国間協力を強調してみせた。父ブッシュ政権高官だった参加者は「前の彼とは違うね」と感想を述べた。
移民国家である米国には世界中に潜在的友人がいる。民主主義の押しつけへの警戒やイスラム圏との文明の衝突を指摘する議論もあるが、米国のイスラム人口は増加傾向とも聞く。
内部告発で虐待が明るみにでる。メディアがそれを執拗(しつよう)に報道する。それを民主主義国の懐の深さとみる人もいる。
米国を批判する側には同様の心の広さがあるだろうか。五月初め、ニューヨーク・タイムズのコラムニスト、トマス・フリードマン記者はラムズフェルド辞任を求め、返す刀で次のように書いた。
「アブグレイブ刑務所での虐待のようなものはアラブ世界では毎日ある。サダム体制下でもそうだった。アラブ連盟やアルジャズィーラはそれを言わない。彼らは恥ずべき偽善者だ」
フリードマン氏の指摘は日本のアラブ研究者にも通じる点があるようだ。若きイスラム研究者、池内恵氏によれば、有力な研究者の多くは米同時テロを根拠なく米国の陰謀と考えたという。「北朝鮮は地上の楽園」「文化大革命の偉業」などとたたえた過去の議論と同根と池内氏はみる。
有名なイラク研究者によれば、米国にはまともなイラク研究者はふたりしかいないらしい。日本の現状もそれに近い。北朝鮮専門家も少ないが、イラク専門家はさらに少ない。そこに競争原理が働くだろうか。
北朝鮮に比べイラクは開かれている。情報発信はある。それが落とし穴にもなりうる。イラクの知識人の声を研究者が過大評価しがちになるからだ。
昭和二十年代、日本の知識人の多くは米軍占領下の日本と世界をどう見たか。彼らに人気のあった全面講和論を選んでいたら日本はどうなっていただろう。
(シンガポールで
編集委員 伊奈久喜)