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卑弥呼の鏡:金属組成は中国製と酷似 最先端装置で分析(毎日新聞) ― 三角縁神獣鏡
http://www.asyura2.com/0403/bd35/msg/648.html
投稿者 シジミ 日時 2004 年 5 月 15 日 23:04:32:eWn45SEFYZ1R.
 

http://www.mainichi-msn.co.jp/kagaku/science/news/20040515k0000e040060000c.html


「卑弥呼(ひみこ)の鏡」の最有力候補とされる三角縁神獣鏡(さんかくぶちしんじゅうきょう)に含まれる微量な金属の成分比率が、3世紀の中国鏡と極めて類似することが、大型放射光施設(SPring−8、兵庫県三日月町)を使った分析で分かった。世界最先端の装置を活用した分析方法によって、国産説もある三角縁神獣鏡が中国製であることを補強する新材料になる。

 住友コレクションを集めている泉屋博古館(せんおくはくこかん)(京都市左京区)と財団法人・高輝度光科学研究センター(同町)が15日午後、京都市で開かれている日本文化財科学会で発表。

 分析した鏡の数が少ないことなどから、データの信頼性について研究者間で意見が分かれているが、関係者の間では国内最多の33枚が出土した黒塚古墳(奈良県)の三角縁神獣鏡の分析計画もあり、成果が注目される。

 同館などによると、分析した鏡は同館が所蔵している戦国〜西晋時代(紀元前3〜3世紀)の中国鏡69枚、三角縁神獣鏡8枚、古墳時代(3〜5世紀)の日本製の鏡18枚の計95枚。いずれも青銅鏡で、SPring−8を使った「蛍光X線分析」によって、鏡の青銅の中にごくわずかに含まれる銀とアンチモンの量を分析した。その結果、三角縁神獣鏡のうち、製造年代が古い6枚は、中国の三国西晋時代(3〜4世紀)の魏(ぎ)や呉の年号を持つ鏡と近い値になった。残る新しい時代の2枚は、古墳時代の日本製の鏡と似た値が出たという。

 日本の古墳から約500枚が出土する三角縁神獣鏡は、古いタイプを中国製、新しいタイプを日本製として分類する「中国鏡説」がある一方で、中国で出土例がないことから、すべて日本製とする「国産説」がある。今回の結果は、中国鏡説とおおむね一致した。

 分析数が少なく、ごくわずかな測定誤差が結果に大きな影響を及ぼす可能性などから、研究者にはデータとしての信頼性に限界を指摘する意見もある。しかし、SPring−8を使うと、貴重な文化財を一切破壊せず、内部の超微量元素を測定できることを示した。

 同館の樋口隆康館長(京都大名誉教授)は「今後、国内外からサンプルを集めれば、鏡の製作地論争に重要な材料を提供できるだろう」と話している。【横田美晴、奥野敦史、山成孝治】

 岡村秀典・京都大助教授(中国考古学)の話 鏡の「見た目」に基づく考古学の経験的手法によって中国製か国産という分類と合致するデータが、自然科学の新手法で出された意義は大きい。分析結果の解釈は慎重にすべきだが、さらに精度が高まれば、これまでにない議論ができる材料になるだろう。

 ■三角縁神獣鏡 外縁の断面が三角形となる特徴を持つ、平均直径22センチの銅鏡。鏡の背面に中国の神仙思想を表す神仙と聖獣が彫られている。98年に黒塚古墳(奈良県天理市)で全国最多の33枚が確認されるなど近畿を中心に出土。魏志倭人伝(ぎしわじんでん)に記述のある、卑弥呼が中国・魏に使いを送った「景初三年」(239年)の年号を刻んだ鏡もあり、魏の皇帝からもらったとされる「銅鏡百枚」との関連から「邪馬台国畿内説」の根拠の一つとなっている。

 ◇「SPring−8」 対象を壊さずに成分分析

 「SPring−8」は97年、日本原子力研究所と理化学研究所が建設。全長約1.5キロの円形加速器を使い、電子をほぼ光速にまで加速、磁石を使って軌道を曲げ、極めて明るく、絞り込んだ放射光を作り出す。同種施設は米、仏に1カ所ずつあるが、中でも最新、最高の性能だ。

 今回は、放射光に含まれるX線を対象物の原子に当て、その際に出てくる「蛍光X線」を測定。蛍光X線は原子の種類によって異なる波長を示すため、この分析で鏡を作る金属成分が分かる。

 特にSPring−8の強力なX線は、水1滴(1万分の1ミリリットル)中に100万分の2%ずつ含まれた鉄、コバルト、ニッケルを見分けられるほど高感度。X線が表面のさびを突き抜け、鏡を壊さず成分分析ができる。

 最近では、古代エジプトの装飾品の上薬の成分調査や、貝殻に含まれる環境汚染物質の解析など多様な分野への応用が進む。さらに和歌山・毒物カレー事件のヒ素鑑定、覚せい剤の原産地割り出しなど、犯罪捜査にまで利用されている。【松田栄二郎】

 ◇古代史研究の新兵器に

 和歌山毒物カレー事件で毒物の鑑定にも使われた世界最高水準の大型放射光施設「SPring−8」が「古代史研究の新兵器」として名乗りを上げた。古代史最大の謎とされる「邪馬台国論争」解明への期待がかかり、「将来、卑弥呼が魏(中国)から受け取ったとされる『銅鏡百枚』の特定につながるかも」と研究者の夢はふくらむ。

 泉屋博古館などによると、SPring−8の放射光分析は鏡1枚につきわずか5分、計95枚を数日でほぼ分析できたという。

 樋口隆康館長は「椿井(つばい)大塚山古墳(京都府)や黒塚古墳出土の鏡などでも同じ調査を計画している。今後、ほかの鏡に広げれば、鏡の生産地を探る研究につながる」と期待を語った。

 鏡を傷つけず、光で分析する手法について評価は高く、福永伸哉・大阪大助教授(考古学)は「考古学上の伝統的な手法と科学分野での分析結果が、同じ結論を出した。やはり三角縁神獣鏡の古い物については中国産との説が妥当と思う。新たな手法で議論がはっきりしてきたと言える」と評価。今津節生・奈良県立橿原考古学研究所保存科学研究室長は、サンプルが少ないことなどが課題と指摘しつつも「研究自体は注目すべきものだ。非破壊調査でかなりのことが言える可能性を示した。今後、文化財研究にSPring−8が不可欠になり、アジア全体で共同利用する先駆けになれば」と話している。【伊地知克介、中本泰代、横田美晴】

毎日新聞 2004年5月15日 16時00分

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