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http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20040422k0000m040131000c.html
受精をしていない雌の卵子だけを使い、新たに雌マウスを誕生させることに東京農業大の河野友宏教授(発生工学)らが成功し、22日発行の英科学誌「ネイチャー」に発表した。雌の遺伝情報だけからの個体発生は「単為発生」と呼ばれ、ほ乳類での成功は世界初。研究チームは「家畜の品種改良などに役立つ」としている。理論的にはヒトへの応用も可能で「男女両性の関与による生殖のあり方を脅かす」などの論議も呼びそうだ。
ほ乳類の受精卵は母親(卵子)と父親(精子)の双方から染色体を1組ずつ受け継ぐ。染色体には遺伝子があり、特定の遺伝子は片方の親から受け継いだものだけ働くことが、受精卵の成長に欠かせない。ゲノム刷り込みと呼ばれる現象だ。
研究チームはマウスの遺伝子を操作し、染色体が精子に近い刷り込み状態になる雌をつくった。生後間もないこの雌の未熟な卵子(卵母細胞)の核を精子代わりに使い、別のマウスの成熟卵子に移植して胚を作成した。
胚を別のマウスの子宮に戻したところ、28匹の妊娠に成功。このうち2匹は健康な状態で生まれた。1匹は処分して詳しく調べたが遺伝子の異常などはなかった。残り1匹は「竹取物語」のかぐや姫にちなみ「かぐや」と名付けた。かぐやは通常の交尾をし、2度の出産に成功した。
河野教授は「研究は、ほ乳類の発生メカニズムの解明が目的で、ヒトへの応用は考えていないし、許されない」と話している。【永山悦子】
◆ことば◆単為発生
卵子が受精することなく細胞分裂し、成長すること。自然界では昆虫やは虫類、鳥類、魚類、植物などで単為発生がみられる。卵子が作られる過程で遺伝子の組み換えが起きるため、単為発生で生まれた子のゲノム(全遺伝情報)は親とは異なり、クローンにはならない。体細胞の核から作るクローンは、核に父親由来と母親由来の遺伝情報を含むため、単為発生ではない。
◆解説◆「もう男は不要?」 進化の謎、解明期待
生命の歴史上初めて、雌からの遺伝情報だけしか持たないほ乳類が生まれた。東京農大の河野友宏教授らが遺伝子操作や核移植などの技術を駆使し、マウスの卵子だけから子どもを誕生させた。論文を掲載した英科学誌「ネイチャー」は「もう男性は不要?」との見出しを付けた。
マウスを遺伝子操作し、2匹の卵子を使うことから「単為発生とはいえない」との批判もある。しかし、科学的には、ほ乳類の発生メカニズムに迫る画期的成果だ。東京医科歯科大の石野史敏教授(分子生物学)は「生殖細胞で、父と母のどちらかに由来する遺伝子だけが働くゲノム刷り込みの解明につながる。ほ乳類は、雄と雌による両性生殖でしか生まれないのはなぜかという進化のなぞを説明できる日が近づいてきた」と評価する。
一方、「マウスで成功した以上、ヒトへの応用も論理的には可能」と警告する専門家もいる。
米国のベンチャー企業は02年、カニクイザルの卵子を単為発生させ、どんな細胞にも変わる能力を持った胚(はい)性幹細胞(ES細胞)を作った。機能を失った臓器などの再生医療のためで、ヒトでも試みる方針を示した。
今回は、遺伝子操作を含む非常に複雑な手法を使っており、河野教授は「ヒトへの応用は考えられない」と強調する。日本では、国の指針で生殖細胞の遺伝子操作は禁止されている。妊娠に成功した28匹のうち、健康に生まれたマウスはたった2匹で、成功率も低い。
だが、人間の欲望は限りがない。子どもを持つことを望んだ同性カップルが、技術の利用を求めるかもしれない。いまだに完成した技術ではないことを念頭に、研究の進展を注視することが必要だろう。【永山悦子】
毎日新聞 2004年4月22日 2時00分