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酒井 啓子(アジア経済研究所参事)
先日たまたまニューヨーク大学の先生と話していたら、「いまのアメリカの政権はすぐ相手を『こうだっ!』と決め付けて、結局相手をそうさせてしまう」と嘆いていた。
「お前ら、テロリストだろっ!」とむやみに言い回るものだから、「そうか、じゃあテロリストになってやる!」とばかりに、あちこちでテロが起こる。「お前らイスラム教徒ってのは」とばかり言うので、それまで信仰のカケラもなかったような人までが、「ああそうかよ、イスラム教徒でどこが悪いよ」と食ってかかるはめになる。
名前をつけたら、本当はそうではないのにそうなってしまうことは、よくある。
たとえばイラクでよく聞く「スンニ派トライアングル」。
いま、米軍がイラクで反米テロの根城に違いないと見ているバグダッド、ティクリート、ラマディの中部3都市を結んでそう呼んでいる。
本来、スンニ派トライアングルとは、バグダッドの北のチグリス河とユーフラテス河に挟まれた、シリア国境からヨルダン国境までの広い地域のことを指す言葉だ。
それなのに、占領が始まってしばらくしたら、この名称が指す範囲はすっかり小さくなり、北部のモスルのあたりが抜けた。どうして?
モスルは戦争中、無血で米軍に投降し、戦後まもなくはアメリカに好意的だったからだ。「アメリカの友だち」は攻撃地域から外しておこう、というわけだ。
そのかわり、もともと反フセイン勢力が強くてアメリカにパイプもあったのに、米版「スンニ派トライアングル」に入ったおかげで、「テロの拠点」みたいに思われ、掃討作戦で痛めつけられた町もある。今ではすっかり反米抵抗勢力と化し、「スンニ派=テロ」的誤解が定着した。
同じような決め付けが、「シーア派=人口の多数派」。
いまやイラク人口の6割以上がシーア派だというのが定説になっているが、本当の人口統計がちゃんとあるわけではない。宗派別人口がわかっているのは60年も前の統計。それでは、シーア派人口はイラクの51%になっている。「イラクの多数派シーア派」と宣伝し始めたのはアメリカだが、シーア派宗教界が御しにくくなってくると、「シーア派=多数派→選挙やったらシーア派の国ができてしまうので大変」的議論を、当たり前のように展開する。
だいたい、アメリカが「テロに対する戦い」と言ってイラクに戦争をしかけたこと自体が「間違った名づけ」だ。
テロがイラクで蔓延(まんえん)したのは、米軍が戦後イラクに来たからで、テロリストはあとから米軍についてきた。
だが、「かかってこい」とか「テロに屈しない」とかいうわりに、イラクの外国軍はテロを防げていない。
爆弾テロが起こるたびに、イラク住民は米軍に憤懣(ふんまん)をぶつける。何のためにあんたたちはイラクにいるのよ、テロも防げずに大きな顔して居座ってるんじゃないよ、と言いたいところだろう。
だからもう、米軍はイラクで「テロに対する戦い」を遂行してると思うのはやめたほうがいいよ。いま考えるべきなのは、イラク人の生活をどう立て直すかなんだから。
http://www.be.asahi.com/20040327/W12/0023.html