現在地 HOME > 掲示板 > Ψ空耳の丘Ψ34 > 614.html ★阿修羅♪ |
|
Tweet |
想像もできないようなことが
あたり前になりつつある
ジョン・ピルジャー
2003年4月21日
先週日曜日、英国アカデミー賞のテレビ賞授賞式を客席から見ていて、私は驚きあきれた。だれも一言も触れようとしなかったからだ。そこには作家やプロデューサー・脚本家・記者、そして私たちの一番の情報源であるテレビ局の経営陣まで、リベラルエリートの大物たちが大勢いたのに、ひとりとして沈黙を破ろうとしなかった。
まるで世界から隔絶しているかのようだった。世界では、略奪をほしいままにする力が荒れ狂い、イギリス政府は親分格の米国と手を結んで、私たち市民の名のもとに大罪を犯している。
イラクは「テストケース」だとブッシュ政権はいう。ムッソリーニは、企業勢力と軍国主義国家が合体したものがファシズムだと定義した。ブッシュ政権は、そのファシズムに日に日に近づきつつある。西側リベラル陣営[は犯罪に手を貸し沈黙を守るのか、それとも犯罪を暴き抵抗を始めるのか。彼ら]にとっても、イラクは「テストケース」となるだろう。
赤十字の医師によれば、信じられないほどの民間人の犠牲が出ている。侵略を受けたイラクの苦難は増すばかりなのに、BBCでは、次にどこを征圧するか、シリアかイランか、と「議論」している。ワールドカップの次の開催地を決めるかのようだ。
想像もできないようなことが、あたり前になりつつある。アメリカの評論家エドワード・ハーマンはこう書いている。
──想像を絶するようなことを実行するのと、それを正当化するのは、ふつう分業になっている。前者はさらに、自ら手をくだして蛮行と人殺しを行なう人間と、そのために(より強力な殺人ガス、粘着力が強く燃焼時間の長いナパーム、体内に入り込むと見つけだすのが難しい爆弾片など)新しい技術の開発に携わる人間とに分かれている。そして、後者の役割を担うのが主流メディアと専門家たちである。彼らは、想像を絶するようなことを、ありふれた何でもないことのようにして、一般市民が問題視しないように仕向ける──
ハーマンがこれを書いたのは、1991年の湾岸戦争の後だった。湾岸戦争時、米軍は、数千人ものイラク兵を一晩で殺害した。20歳にもならない兵士の多くは降伏しようとしていた。それにもかかわらず、米軍は装甲ブルドーザーで彼らを生き埋めにした。しかしその映像が流されたことは一度もない。こうして、虐殺は問題にされることなく、なかったことになった。
1991年のクリスマス直前に、メディカル・エデュケーショナル・トラストが報告書を公開し、戦争の真実を明らかにしている。報告書によると、女性も子どもも含め20万人以上のイラク人が、米軍の指揮した攻撃で殺されたり、その影響で死亡した。こうしたことはほとんど報道されない。それゆえ、戦争の本質が人殺しだということが、この国の一般市民の意識の中に決して入らない。[イギリスでもこうした状況だから]アメリカのことは言うまでもないだろう。
ペンタゴン(米国防総省)は、発電所・上下水道設備といったイラクの市民生活のインフラを念入りに破壊した。さらに[アメリカ政府は]、中世の兵糧攻めにも匹敵する苛酷な経済制裁をイラクに課した。そのために引き起こされた苦しみは、西側には決して理解されたことがない。
証拠となる資料は手に入る。しかも数多く。90年代後半に至るまで、毎月6000人を越す幼児が死亡している。そして、イラクに対する人道援助の責任者だった2人の国連高官、デニス・ハリディとハンス・フォン・スポネクは、経済制裁の隠された狙いに抗議して辞任した。これは「大量殺人」だとハリディは言った。
昨年7月には、アメリカはブレア政権の支持を受け、54億ドルもの人道物資を故意に差し止めた。ワクチンから血漿や鎮痛剤まで、すべてイラクが買い入れ国連安保理が承認した物資だ。
こうした残虐性の論理的な帰結として、先月の攻撃がなされるに至った。うちのめされ弱りきった、ほとんど無抵抗の人々を、最強の軍事力を誇る二国が攻撃した。今ではこれが「勝利」と呼ばれ、国旗をかかげる祝い事となっている。
先週、潜水艦HMSタービュラントがプリマスに帰港したとき、ジョリー・ロジャーの海賊旗を掲げていた。実に似つかわしい。この原子力艦は、イラクに30発の米製トマホーク巡航ミサイルを発射した。値段は1発70万ポンド。合わせて2100万ポンドかかっている。これだけあれば、悲惨な状況にあるバスラに水や食糧・医療品を供給できたはずだ。
想像してみてほしい。アンドリュー・マッケンドリック司令官のミサイル30発はどこに当たったのか。人口の半分を子どもが占める国で、何人が殺され、障害を負ったのか。たぶん司令官殿は、浴室に純金製蛇口の付いている宮殿か「司令部施設」を狙ったというだろう。米軍とジェフリー・フーン国防相のお気に入りの嘘だ。あるいはもしかしたら、ミサイルにはセンサーがついていて、ジョージ・ブッシュのいう「悪人」なのかそれとも幼児なのか、違いを感知できるのだろう。確かなのは、攻撃目標の中に石油省は入っていなかったということだ。
侵略開始とともに、イギリス市民は、違法かつ非民主主義的に派遣された英軍部隊を「支持する」よう求められた。私たちにすれば何ら争う理由のない人びとを殺害するための派兵だった。マッケンドリック司令官はこの理由なき攻撃を「われわれのプロ意識を試す最終テスト」と評した。
攻撃を受けたのは、潜水艦も海軍も空軍もない国だ。今では水も電気もなく、爆弾片でずたずたになった小さな手足を切断するのに、病院には麻酔もない。こうした手術がどうやって行われるか。患者が大声をあげないように、口にさるぐつわをかませていたのを前に見たことがある。
ひとりの子どもがクウェートの近代的な病院に空路運ばれた。ミサイル攻撃で、両親と両腕を失ったアリ・イスマイル・アッバス少年だ。世間の注目がアリを救った。トニー・ブレアは、アリの役に立つなら「できることは何でもする」と言う。ブレアの戦争のために、ブレアが熱狂的に支持した経済制裁のために、無残に死んでいった子どもたちすべての思い出に対して、これ以上の侮辱となる言葉があるだろうか。
私たち市民の名のもとに、イラクの子どもたちに対して行われている犯罪がどれほど大きいか。私たちには知る権利がある。しかしメディアは、その犯罪を暴くかわりに、アリの救出劇を好みの慈善ショーに仕立て上げた。赤十字の医師は「ずたずたになった女性や子どもが何十人もトラックに積まれている」のを見たという。私たちも目をそむけまい。
アリがクウェートに運ばれたころ、米軍は、セーブ・ザ・チルドレンがイラク北部に医療品を積んだ飛行機を送るのを止めさせた。イラク北部では、4万人が悲惨な状況にある。国連によれば、イラクの人口の半分にあたる人たちに、数週間分の食糧しかない。世界食糧計画の責任者は、このイラクの人道的惨事の余波を受け、世界各地で4000万人が危機に瀕していると報告した。
これが「解放」なのか。断じて違う。これは血塗られた征服だ。イラクの豊かな天然資源をアメリカがごっそり盗みだす。道ゆく人びとに聞いてみればいい。サダム・フセインに向けられていた恐怖と憎悪がだれに向かいはじめたか。ほとんど一晩のうちに、ブッシュとブレアに向けられた。そして、おそらく「私たち」にも向かいはじめている。
ブレアの犯罪と愚行がこれほど巨大であるため、弁解をひねりだすのが急務になっている。ブレアにかわって言い訳しようとでもいうのか、BBC政治部のアンドリュー・マーがつぎのように報道した。
──「バグダッドを血の海にすることなく陥落させることができる。結局イラクの人々も歓迎するだろう」とブレアは言っていました。そして、ブレアの見通しは、バグダッド陥落についてもイラクの人々の反応についても、最終的に正しかったことが証明されたわけです──
ダウニング街にいるBBC記者にとって、血の海とは何なのか。ニューヨークの貿易センタービルで3000人が殺されれば、血の海といえるのか。もしそうだというなら、イラクでここ数カ月に何千人も殺されたのも血の海のはずだ。24時間経つか経たないうちに、3000人以上のイラク人が殺されたという報告もある。それとも、われわれが知っている人たちの命とくらべて、他の人たちは命の価値は低いとでも言おうとしているのか。コンゴからベトナム、チェチェンからイラクまで、帝国主義権力が追求されるときはいつでも、人命が軽視されてきた。
──権力に対する人びとの戦いは、忘却に対する記憶の戦いだ──
これはミラン・クンデラの言葉だ。クンデラのいう通りなら、私たちは忘れてはならない。大量破壊兵器についてブレアがついた嘘を忘れてはならない。ハンス・ブリクスが言っているように、ブレアの主張はでっち上げの証拠に基づいていた。
忘れてはならない、ブレアの言い逃れを。バグダッドの市場で米軍のミサイルが62人の市民を殺したのに、ブレアは平気で否定しようとした。そして、この流血を引き起こした理由を忘れてはならない。昨年9月、米安全保障戦略の中で、アメリカは武力をもって世界を支配するとブッシュが宣言した。イラクはまさにそのための「テストケース」だった。他の名目は見え透いたごまかしにすぎない。
私たちは忘れてはならない、国防相の言葉を。イギリスは核兵器による攻撃をする用意があると、閣僚が初めて公言した。もちろんブッシュの言葉をただまねたものだ。のしあがったマフィアがアメリカを牛耳り、この国の首相はそれに引きずられている。彼らのせいで、解放や自由や民主主義という崇高な言葉は本当の意味を失い、空っぽになってしまった。
そして、まだだれも語ろうとしないことがある。イラクに対する血塗られた征服の陰で、私たち自身が征服されたということだ。私たちの精神と人間性、私たちの尊厳がまずまっ先に制服された。声をあげ行動しなければ、私たちの敗北は決定的なものとなるだろう。
John Pilger, "The Unthinkable Is Becoming Normal," ZNet, April 21, 2003.
http://www.zmag.org/content/showarticle.cfm?SectionID=15&ItemID=3495
John Pilger, "April 22, 2003," Archive Articles, Hidden Agendas: the Films and Writing of John Pilger.
http://pilger.carlton.com/print/132938
( )は原文の挿入語句。または英文略称名の和訳。
[ ]は訳文の補助語句。
訳/荒井雅子(2003年5月21日)
編集/安濃一樹
ヤパーナ社会フォーラム
http://japana.org/start.html
mailto: kazuki@japana.org