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女帝の問題を議論せず、
アイドル扱いする姿勢が皇室像をゆがめている
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コリン・ジョイス(英デーリー・テレグラフ紙東京支局長)
線路に「たちの悪い落ち葉」があるので運休します――イギリスの通勤電車の利用客は、しばしばそんなせりふを聞かされる。線路に張りついた落ち葉は、薬剤を使ってもなかなか取れない。
2月23日、44歳の誕生日を迎えた皇太子が記者会見で、雅子妃の健康がすぐれない理由の一つにマスコミの過熱報道をあげたとき、私はこのせりふを思い出した。まさに「たちの悪い報道」だ。
病院へ向かう雅子妃の車はヘリコプターを使ってまで中継するのに、天皇制をめぐる議論が大手のメディアをにぎわせることはない。人々の関心は高いのに、報道の内容はまるで知的さに欠ける。
皇太子がマスコミの取材合戦を心配するのもよくわかる。だが、重大な問題がほとんど議論されないのも同じくらい心配だ。
昨年、元毎日新聞記者の森暢平が『天皇家の財布』(新潮新書)を出版した。皇族の財政事情を初めて明らかにした優れた著作で、イギリスなら新聞で盛んに取り上げられたはずだ。皇室専用の農場や病院の存在に疑問を投げかける声や、皇族が立派な役目を果たしているわりに皇室費が少ないことを指摘する意見が出ただろう。
イギリス人記者の私はもちろん、本が明かした事実についてイギリスの新聞に記事を書いた。そしてもちろんロンドンのデスクは、日本ではほとんど話題になっていないという話を信じてくれなかった。私の知るかぎり、著者の紹介記事がある雑誌に、インタビューが別の雑誌に掲載されただけだ。
著者のねらいは、議論に必要なデータを提供することにあったはずだ。だがなんらかの世論が生まれたり、改革の必要性が問われる段階にはいたらなかった。
この本には、悲しい現実が描かれている。宮内庁は実情を話さず、マスコミも追及しない。政治家は質問せず、国民には何もわからない。それぞれに問題がある。
皇室を敬う気持ちはわかるが、改善できる点について尋ねても不敬にはあたらない。皇位継承に関する法律についてもっと早く議論していれば、皇太子と雅子妃へのプレッシャーも和らいだだろう。
愛子さまへの期待は当然
皇室典範は女性の皇位継承を認めていない。現在、皇太子の次の世代の皇族男子はいない。そして、圧倒的多数の国民が女性天皇に賛成している。日本には女性天皇の先例があり、今では多くの国々が女性の君主を認めている。
それなのに、制度改革に向けて論陣を張る新聞は一つもない。衆議院の憲法調査会は実質的に、皇室典範の改正に向けて動いている。だが国民は、議論の詳細を知っているのだろうか。スウェーデンのように、性別に関係なく第一子を皇位継承者とするのか。それともイギリスのように男子優先で、女子にも継承権を認めるのか。
私は心情的にも、現実的な視点からも、君主制や天皇制を支持する。彼らの優雅さに魅力を感じるし、政治を超越した象徴的存在は重要な役割を演じられるとも思う。
英国王のジョージ5世はかつて、独立を求めるアイルランドとイギリスを仲裁した。第2次大戦中のロンドン大空襲のときは、ジョージ6世が家族とともにロンドンにとどまり国民に勇気を与えた。
天皇が淡々と癌に立ち向かう姿に、私は敬意を深めた。天皇は、中国における旧日本軍の行為に遺憾の意を表明したり、朝鮮と皇室の縁に言及するなどして、近隣諸国に与えた傷を癒やすのに一役買った。皇室は遠い存在だと日本人が語るのを耳にするたびに、私は悲しくなる。
女帝を認めない姿勢が、世界にどんな印象を与えるかは容易に想像がつく。ノルウェーは、日本のような問題もないのに憲法改正で第一子を王位継承者とし、今年1月には初の女性継承者が誕生した。
私は、女性天皇に問題があるとは思わない。歴史的にみて、最高の敬意を集めた英王族には女性が多い。エリザベス1世、ビクトリア女王、そして2年前に亡くなった皇太后。今のエリザベス女王にもたくさんのファンがいる。
美智子皇后と雅子妃も国民に愛されている。だから、イギリス人がウィリアム王子に期待するのと同じくらい、日本人が愛子内親王に期待を寄せるのも当然だろう。
女王の税金問題を追及
タブーなしの姿勢で知られるイギリスのマスコミでさえ、ウィリアム王子が普通の若者並みの生活を送れるように、報道を自粛している。だから王子はときどき取材に応じる代わりに、大学では自由を謳歌している。雅子妃が愛子内親王を公園に連れていきたいなら、そっとしておいてやるべきだ。
ただし、国民の関心が高いテーマはとことん追いかける。ウィリアム王子がパーティーでどんな女性と手をつないでいたかはニュースにならなくても、彼が父親を飛び越えて王位に就くことが議論されれば、すぐに報道される。
1990年代初め、イギリスで最も裕福な女性である女王が税金を払っていないことが発覚した。新聞はこれを包み隠さずに報道し、女王は自らこの問題を是正した。
オープンな議論は、タイミングよく、合理的な変化を起こすことができる。厄介な落ち葉があると、電車は動かなくなってしまうことを忘れないでほしい。
ニューズウィーク日本版
2004年3月17日号 P.20