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「裁判員制度法案」の概要とは
三月二日、小泉政権は一般市民が裁判官とともに刑事裁判の審理に参加する「裁判員制度法案」を閣議決定し、国会に提出した。裁判への市民参加で、「市民に開かれた司法」を実現するという建前である。
法案によれば、裁判員が関わるのは、死刑または無期に相当する罪、懲役一年以上に相当する罪で故意に被害者を死亡させた罪に関わる刑事裁判である。審理は裁判官三人と裁判員六人を原則とする。しかし、これではプロの裁判官の比率が高過ぎて裁判官主導になり、素人の裁判員が参加する意味がないという批判が強かったため、被告人が公訴事実を認め検察と弁護人に異議がなければ、裁判官一人と裁判員四人で審判してもいいということになった。しかしこの場合でも、えん罪事件でしばしば起きているように、途中で否認に転じた時はどうするのかなど、多くの問題が残っている。そしてそれ以外は結局、三人の裁判官が主導する裁判に裁判員も若干の意見を述べるという以上ではない。
裁判員は選挙人名簿に登録されている二十歳以上の市民から無作為抽出して候補者を選び、裁判所に呼び出されて職業や前科の有無など、裁判員にふさわしいかどうかを調べるための質問を受けたうえで選任される。
これについても、質問に対して虚偽の回答をしたり回答拒否すれば罰金や過料となる。刑事事件の被告にもある黙秘権が、無作為に選ばれた裁判員にないのはおかしいという批判が強い。裁判員候補に選ばれただけで、権力に対して個人のプライバシーが丸裸にされてしまうのである。
裁判員が裁判で知り得た秘密を漏らすことは生涯禁止される。その内容を漏らせば、一年以下の懲役または五十万円以下の罰金となる。
裁判員が関わる裁判の判決は、多数決とされている。最高裁判決で意見が分かれた場合、必ず少数派の意見も公表されている。ところが、死刑や無期懲役など被告となった一人の人間の「生そのもの」を決定する重大裁判であるにも関わらず、たとえば無罪を主張した少数派の裁判員は、多数意見に対する疑問や批判を社会に知らせることも一切できないことになる。
裁判が進行している過程での「守秘義務」は必要だとしても、判決決定後も生涯沈黙を強制される必要はない。これでは、市民に開かれた司法どころか、市民を巻き込んだ密室裁判ということになりかねない。
施行は公布後五年以内で、〇九年度までにスタートさせるというのが、小泉政権の意向である。この「裁判員法案」について、弁護士の内田雅敏さんに聞いた。
これはとんでもない法案だ
――裁判員法案が閣議決定されました。「裁判への市民参加」で開かれた司法という建前になっていますが、裁判官三人と裁判員六人では、日弁連などが求めていた陪審制とは異なって結局プロの裁判官が主導するものになってしまうとか、裁判員の重い義務などが話題になっています。出された法案についてどう考えるべきでしょうか。
市民参加の前提に必要な3つの課題
市民に開かれた司法という建前は結構なことだ。しかし他方で現在、長期化している刑事裁判を迅速化したい、スピードアップしたいというねらいがあったと思う。労働者にせよ自営業にせよ、市民が仕事を休んで時間的にも拘束され、裁判に関与するということになれば、裁判が長期に及ぶわけにはいかなくなるからだ。
ところが裁判のスピードアップは、訴訟の構造が変わらないと本当は不可能なわけだ。一番の問題は、証拠開示の問題だ。今回の法案でも、初公判前に争点整理などの準備手続きをしっかりやるということになっているが、そのためには検察側が持っている証拠をすべて開示する必要がある。しかしその証拠開示が全く不徹底のままになっている。それでは速やかな争点整理などできるはずがない。
もう一つは、「人質司法の克服」が絶対に必要だ。重大犯罪の場合、今の裁判は否認していれば容疑者の身柄を拘置所から出さない。検事側立証が終わるまで出さないとか、裁判が終わるまで出さない。保釈を認めようとしない。
「人質司法」から解放され、保釈で被告の身柄が外に出て自由に自分の言い分を主張できるようになって、はじめて内容的にも審理を促進することができる。しかしこの「人質司法」の改善もない。
もう一つこれは、一応今後の検討課題にはなっているけれど、「取り調べの可視化」という問題がある。「可視化」とはビデオなどで録画するということだが、取り調べがビデオで撮られて可視化されれば、調書がどういう状況で作られたのか、常に争点となる「自白は強制されたものではないのか、調書は本当に任意で作られたのか」ということがはっきりする。
この三点、「全面的証拠開示」、「人質司法の克服」、「取り調べの可視化」が実現して初めて、迅速裁判も可能になり、市民が裁判に関与することが可能になる。ところが、従来の訴訟構造のままで裁判員制度の導入ということになると、ただ裁判の迅速化ということだけが残る。弁護側の立証も十分にさせないままスピードアップということになってしまう。
市民が単なる飾り物になってしまう
もう一つは裁判員のことだけれども、弁護士会としては従来から、裁判官は訴訟指揮だけ行って有罪か無罪かの事実認定は陪審員が判断する陪審制を求めてきた。それが裁判官と市民が一緒に審理するという裁判員制度ということになってしまった。
それも、当初は裁判官一人に対して裁判員六人とか言われていた。それが裁判官が二人になり、三人にまでなってしまうと、これはもう今の裁判となにも変わらないことになってしまう。三人の専門家の裁判官がいて、市民が六人加わるということでは、それは当然、専門家の意見が通るということになってしまう。市民が単なるお飾りになってしまう危険性が非常に強い。
仕事を持つ市民が裁判員になるのだから裁判の期間は一週間か十日、いまのままの訴訟構造で何百頁もの調書が出されてきたら、市民はとても読むことができない。裁判官の言うままになるしかない。
要するに最高裁は、従来の裁判の構造を維持したままで「裁判員制度」を導入しようとしている。出てきたのは、単なる裁判の迅速化だけだ。仕事を持った市民が参加しているんだから、何カ月も裁判に時間をかけるわけには行かない。迅速な裁判でなければ、裁判員制度は成り立たない。従来の訴訟の構造が変わらないままで迅速な裁判ということになれば、弁護側の十分な立証を許さない拙速裁判になってしまう危険性が非常に大きい。
当初、期待されたものとは、全然逆のものが出てきている。これはとんでもない法案ではないかと思う。あと、裁判員になるのを忌避できるのはどういう場合かなどの点はまあ技術的な問題で、基本的な構造としてはこういうことだと思う。
「取り調べの可視化」への抵抗
――「取り調べの可視化」はマスコミなども取り上げていますが、警察、検察の抵抗も強いようですね。
要するに彼らはこう言うわけだ。「懺悔をする時にだれかに見られていてはできない。ビデオで撮影されているところで懺悔ができるか」。「取り調べというのは、取調官と被疑者との人間的なふれあいのなかで行われる。被疑者というのは、どんな極悪犯人でも真実を語りたくなる瞬間というのがあるんだ。そこをビデオで撮るなんてのはとんでもない」。司法研修所で、実際に教官がこのように言っている。
――実に「日本的」な感覚ですね。やっぱり、強引な取り調べを見られてはまずいということでしょうか。
新自由主義的司法改革のねらい
――今回は「市民の司法参加」ということで「裁判員制度」が出されてきました。これまでも「訴訟を起こしやすくする」「もっと気軽に法律相談ができるようにする」などということで司法試験のやり方を変え弁護士の数を増やすとか、法科大学院を作るだとか、ばらばらの形で出されているために、政府や財界がねらう「司法改革」の全体像がとらえられていない状況があります。ある左派の労働組合運動メディアで、「増員に反対するのは弁護士の既得権防衛だ」などというコラムがあったことを覚えています。
今日の「司法改革」は、アメリカの多国籍企業からの要請を受けて経済同友会などの財界が要求し、橋本政権の「六大改革」の柱として位置づけられて来たと思います。多国籍企業にとって使いやすい新自由主義的司法改革ということですが、九〇年代半ばから進められてきた「司法改革」全体との関係で、裁判員制度はどんな意味があるのでしょうか。
グローバル化と多国籍企業の利益
弁護士の増員の問題にしても、グローバル化の進展に従って多国籍企業が国際的国内的なさまざまな紛争に対処しやすくする弁護士を作り出すための規制緩和という要請がある。これからは企業内弁護士が増えてくるだろう。そのような要請のなかで、法科大学院の設置もあったし、「市民の司法参加」という建前で裁判をスピードアップする裁判員制度も作られようとしている。
これからは外国の弁護士の解禁ということも現実化してくるだろう。外国の弁護士は、いまはまだ日本の弁護士と一緒に仕事をやって相談に乗るということしかできない。法廷に立って弁護活動を行うことはできない。しかし今後は法廷にも立てるようにしようとしている。
それから一方では、司法書士が低額訴訟など軽い事件を扱えるようにするなどの規制緩和が進んでいる。結局は弁護士の権限を剥奪して弁護士自治を解体するという方向をねらっていると思う。
――規制緩和小委員会や司法改革審議会の論議のなかで、弁護士会への強制加入制度を廃止して懲戒権を弁護士会から切り離すことや、弁護士事務所を法人化してその解散請求権を法務省が持つなどの構想が出されているようですが。
そのような、弁護士自治を奪う動きが構想されている。いまはまだ具体化するところまで行ってはいないが、そういう動きにも注意する必要がある。(文責・編集部)
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