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政財界から芸能界まで、著名人のスキャンダルを暴き続けてきた月刊誌「噂の真相」が十日発行の四月号で休刊となる。公称二十万部を発行し、黒字を出しながらの幕引きは異例だ。一方で、メディアを取り巻く環境は、名誉棄損訴訟で賠償額が高額化するなど逆風が強まっている。岡留安則編集長(56)に休刊の真意を聞いた。 (蒲 敏哉)
■個人情報保護法に追い詰められた
――販売が堅調なのに、なぜ、いま休刊なのか。
「最も大きい要因は個人情報保護法(メモ1)の成立だ。これまでは公的目的や公益性、真実性があれば名誉棄損にはならなかったのが、主務大臣が報道かスキャンダルかを決めることになる。スキャンダル雑誌は一冊まるごと否定される。うちが、その第一号になるかもしれない。そんな法律の下で今の内容を維持できないのならば、いっそやめたほうがいいと考えた」
――これまでも多くの人に訴えられてきたが…。
「二十五年間で民事、刑事含め約四十件の訴訟を起こされた。昔は証拠があれば、相手側の訴えが却下される例もあったが、今は90%以上立証しても負ける。裁判でニュース源の秘匿も認めない。さらに名誉棄損の賠償額が一千万円単位に高額化している(メモ2)。数件訴えられて年間一億円の裁判じゃ、弁護士費用あわせて経営が成り立たない」
■『森前首相失脚、一翼担ったが…』
――なぜ、そういう状況が生まれたのか。
「ロス疑惑から始まって神戸の連続児童殺傷事件、和歌山カレー事件など、一つの事件にマスコミが集中し、しつこく取材するスタイルに、世間の非難が起きたことが背景にある」
――「噂の真相」のようなスキャンダル報道も、逆風を生んだ一因では。
「うちも森喜朗前首相や中川秀直元官房長官のスキャンダルを書いた。森氏失脚の一翼を担ったと思う。それが政権にとって『ゲリラ・ジャーナリズムに跋扈(ばっこ)されたら困る。規制しないと』という流れが起きた。実際、永田町での議員辞職は九割以上が雑誌のスキャンダルがきっかけだ。新聞で辞めたのはリクルート事件ぐらいでしょう。うちをはじめとして、雑誌をなんとかしたいという政治家の思惑もある」
――スキャンダルを狙う人物に基準はあるのか。
「ターゲットは権力者とオピニオンリーダー。その周辺で飯を食う評論家、文化人、芸能、スポーツ選手は“みなし公人だ”。こうした人と、民間人の違いは、社会的影響力があるかないか。例えば、ヤワラちゃんや長嶋さんが選挙に出れば勝てるでしょう。逆に私は毒カレー事件の林真須美被告については一行も書いていない。みなし公人は国民の知る権利に答えるべきだと思っている」
■『政治家が安眠できるね』
――休刊により、メディアの中で変化が起きるか。
「大手マスコミとうちがあって総体として成り立つ部分もあった。自分のところでは書けないが、やってくれないかとこっそりやって来る(大手マスコミの)記者もいる。駆け込み寺がなくなり、社会の空気はよどむだろう。大手ジャーナリズムは情報産業に様変わりしている。閉そく状況は増す。その分、政治家などこれまで狙われていた人たちは安眠できるようになるだろうけどね」
「ただ、ざら紙でやってきた小さなスキャンダル雑誌なのに、いつのまにか皆の期待が高まり、権威化されてきた側面もある。段ボール箱に告発資料を詰め込んで『やってほしい』なんてね。そうなると反権力をうたっているのにおかしいな、という思いはあった。誌面が権威化するに伴い、名誉棄損に即座にはね返ってくるようになった。期待がプレッシャーになり、裁判も起こるという状況が、休刊に至った気持ちをもたらしたともいえる」
――「噂の真相」を引き継ぐメディアはできるのか。
「スキャンダルにもこの一線を越えると危ないラインがある。抗議してきた右翼との対応など、あうんの呼吸でのかわし方がある。簡単に誰にでもできるものでない。やみくもに突っ走れば袋だたきにされる。だから非常に難しい。私自身は今後、沖縄に居を移し海外を放浪したい。現時点で再刊の可能性は一割かな。少し間を置いて自分自身の気持ちが動けばありうる」
――メディアへの伝言は。
「テレビは絵で見せる仕事だから、ドキュメンタリーで政権中枢を狙うのは無理。雑誌は、週刊文春と週刊新潮にもっとゲリラ性を発揮してほしい。新聞は調査報道をやらないとだめ。政権からなめられている。新聞は政治家の下半身を扱わないが、例えば男女共同参画社会基本法の推進を唱える政治家がどういう女性観をもっているかを伝えることは重要。『噂の真相』の伝えてきた情報の受け皿を、新聞につくることをぜひ考えてほしい」
■ゲリラ的言論、緊張生む
同誌の休刊に言論界の受け止め方はさまざまだ。
ジャーナリストの田原総一朗氏は「私自身も誌面でやゆされたことがあったが、貴重な雑誌だった。企業のスポンサーもなくタブーの文壇ネタも果敢に取り上げてきた例外的な雑誌ではないか」と惜しむ。
岡留氏が休刊の一因に挙げるのは報道をめぐる名誉棄損での賠償額高額化だ。
この流れの一端は自民党がつくった。
一九九九年、同党が「報道と人権等のあり方に関する検討会」で「出版社が敗訴した場合でも賠償額が少額で、商業主義に走って人権への配慮が薄れていると推察される」との報告書をまとめている。
二〇〇一年には東京高裁判事が「交通死亡事故の慰謝料の25%に当たる五百万円への引き上げ」を提案。それまで「高くても百万円」とされた慰謝料の高騰につながったとされる。
メディア批評誌「創」の篠田博之編集長は「政治家や人権擁護関係の人たちがメディア規制への動きを強め、保守的な思考の裁判官がその流れに乗って判決の保守化を進めてきた。『噂の真相』休刊はフリーハンドで物が言えなくなってきた時代を象徴している」。
■「裏づけがおざなり」批判も
その一方で、名誉棄損で岡留氏と裁判で争ったマーケティングコンサルタント西川りゅうじんさんは「まったく身に覚えのない中傷記事で精神的に傷つけられ仕事上も多大なマイナスがあった」と強調し「『噂の真相』は、ジャーナリズムと裏付け取材をおざなりにした“おざなりズム”にすぎない」と批判する。
だが、前出の篠田氏は、そうした批判が多いことを認識しながら、今後のメディア状況について、こう警鐘を鳴らす。「言論の多様性が損なわれ報道はますます画一化していくだろう。ゲリラ的言論は、メディア同士が緊張感を持つ上でも必要。それを今後、どう確保していくか。メディア全体に課せられた課題だ」
■噂の真相
法政大学在学中は全共闘の活動家だった岡留氏が、1979年に創刊。著名人のスキャンダルを追い、多くの訴訟も抱えてきた。
99年には東京高検検事長の愛人問題を掲載し辞任に追い込んだ。2000年には森首相の学生時代の買春検挙疑惑を報じ、提訴されたが、和解した。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040310/mng_____tokuho__000.shtml