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イスラエル・パレスチナのEU加盟 [田中宇の国際ニュース解説]
http://www.asyura2.com/0401/war47/msg/953.html
投稿者 なるほど 日時 2004 年 2 月 11 日 00:24:12:dfhdU2/i2Qkk2
 

2004年2月10日 http://tanakanews.com/mail/
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★イスラエル・パレスチナのEU加盟
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 長く独裁政権下で生きてきたイラクの人々は、権力の移動に対して敏感なよ
うだ。ブッシュ大統領が国連のアナン事務総長に対し、イラク人に政権移譲す
る選挙のやり方について一任し、2月7日に国連の代表団がバグダッドに到着
すると、イラクの各派の有力者たちは早速、国連代表団の意志決定に影響を与
えようとして、自派に都合の良い政権移譲を主張する決議を出したり、集会を
開いたりし始めた。
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-iraq8feb08,1,6120470.story

 その一方で、イラク暫定評議会は、これまで批判を避けてきたアメリカ占領
軍政府(CPA)に対し「戦争で壊されたイラクのインフラを復旧する工事の
発注方法が不透明で、イラクの企業に仕事が回ってこない」と不満を表明し始
めた。この件は、これまでもイラク側から不満が出ていたが、CPAが持って
いる絶大な権力のため、正面切った批判は出にくかった。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A26978-2004Feb9.html

 アメリカ政界では、タカ派のチェイニー副大統領の系列の企業であるハリバ
ートン社がイラク復興事業を不当に多く受注しているとして批判が強まってい
るが、イラク暫定政権の不満表明は、中道派によるタカ派攻撃に荷担する動き
でもある。イラク人は米政界の権力闘争の流れを見ながら、自分たちへの利益
誘導を兼ねた不満を表明する戦略を採っている。

 アメリカでは、イラク開戦前の大量破壊兵器をめぐるウソに関してブッシュ
政権への責任追及が強まっており、世界のマスコミは、イラクをめぐる報道に
満ちている。だがそんな中、中東のもう一つの大問題であるパレスチナ和平交
渉をめぐって、画期的な新展開がほとんど報道されないままスタートしている。

 それは、イスラエルとパレスチナが和平を成功させ、パレスチナ人国家が誕
生したあかつきには、イスラエルとパレスチナの両方がEUに加盟できるとい
う、新たな和平のメカニズムが提案されたことである。

▼ガザ撤退とEU加盟

 提案は、スペインを中心に行われた。2月6日からマドリッドで「社会主義
インターナショナル」の年次総会が開かれたが、そこに、イスラエルの野党労
働党の党首であるシモン・ペレス、パレスチナ自治政府の和平交渉担当の閣僚
であるサエブ・エレカットがともに参加した。2人はスペインのアナ・パラシ
オ外相の仲裁で会談を持ち、そこで「和平が成功したらイスラエルとパレスチ
ナはEUに加盟する」という案が検討された。イスラエルとパレスチナ双方は、
この案に賛同し、スペインはEUの他国と調整してこのメカニズムを進めてい
くことにした。
http://www.haaretzdaily.com/hasen/spages/391957.html

 イスラエル・パレスチナのEU加盟構想は、大々的に発表されたものではな
い。イスラエルのペレスが、社会主義インターナショナル会議の講演で、この
構想について少しだけ触れた。その後行われたペレス・エレカット会談の後の
記者発表で、仲裁者のスペイン外相だけが数分間の発表を行い、3人でその場
を立ち去りかけたところを、記者団が後ろからペレスに「本当にEUに入るん
ですか」と大声で質問し、ペレスが「(加盟方法は)いろいろ可能性がある。
EUには(地中海の島国である)キプロスもマルタも入るのだから、もはやEU
は(ヨーロッパだけでなく)地中海を包含する組織ですよ(だからイスラエル
が入ってもおかしくない)」と答えただけである。
http://www.jpost.com/servlet/Satellite?pagename=JPost/JPArticle/ShowFull&cid=1076233679995&p=1008596981749

 ペレスは2月6日、マドリッドに着いたときに「中東には今、新しい建設的
な風が吹いている。われわれとパレスチナ人の間にも、新しい動きがあるかも
しれない」とほのめかし「1993年のオスロ合意も、交渉は社会主義インタ
ーナショナルの年次総会における密会から始まった」と、ロイター通信に対し
て述べている。
http://www.haaretzdaily.com/hasen/spages/391639.html

 もしかすると、イスラエルとパレスチナをEUに入れるという構想は、秘密
裏に進めるはずだったのかもしれない。EU内には、ヨーロッパのキリスト教
国以外の国をEUに入れることに反対する声が大きく、トルコの加盟に対して
も賛否両論がある。キプロスやトルコのEU加盟が決まるまで、イスラエルや
パレスチナの加盟構想は伏せられる予定だったのかもしれない。

 ところがイスラエル国内は、そんな悠長なことをいっていられない状態にあ
る。イスラエルのシャロン首相は最近、ガザにあるイスラエル人の不当入植地
を撤去する方針を発表したが、これは多分、EU加盟を見越して、EU内で根
強いイスラエル批判を和らげるために打ち出した戦略だったのだろう。ところ
が、裏にあるEU加盟構想をイスラエル国民に対して秘密にしたまま、入植地
の撤退だけを進めようとすると、国内からの反対が強すぎてうまくいかない。

 そこでペレスは、EU加盟構想について一端を披露し、それがイスラエルの
マスコミでだけ報じられるようにして、イスラエル国民に裏のからくりを気づ
かせようとしたのだと思われる。EU加盟構想は、イスラエルやトルコなどで
は報じられたが、アメリカでも日本でもほとんど報じられていない。この件を
報道したのは、ロイターとAPという国際通信社で、イスラエルの新聞の特ダ
ネではない。これは、地元新聞の特ダネにすると、イスラエル国内で大々的な
扱いとなり、アメリカなど世界のマスコミが転電するところとなり、むしろ告
知度が高まってしまうからだと考えられる。

▼新生イラクもいずれEUに?

 スペインでの交渉に臨んだペレスは野党党首だが、交渉での位置づけは野党
党首ではなくイスラエル代表だろう。ペレスの労働党は、シャロンのリクード
党が進める撤退政策に賛成している。今後リクード内の右派が撤退問題をめぐ
ってシャロンへの反発を強めれば、労働党は右派を外したリクードと連立を組
み直し、政権に入るかもしれない。

 そもそも、イスラエルの政治家の多くは「現実派」であり、自国の生存権が
確保できるなら、イデオロギーに関係なく取り込む傾向がある。イスラエル政
界では、シャロン以上に右派であるネタニヤフ元首相も、2002年11月に
外相に就任した直後、EU加盟を希望すると発言し、内外の人々を驚かせたこ
とがある。
http://student.cs.ucc.ie/cs1064/jabowen/IPSC/articles/JordanTimes2002FirstThingsFirst.html

 ネタニヤフは、以前はアメリカのネオコンに入れ知恵され、パレスチナ自治
政府を破壊し、パレスチナ人を全てヨルダンに強制移住させる「民族浄化」や、
米軍を使ってイラクを皮切りにアラブ諸国を全部潰す「大イスラエル主義」の
戦略を考えていた。シャロンも、好戦的な戦略を好んできた点ではネタニヤフ
に負けない。

 彼らの中で「民族浄化」と「パレスチナ人の人権を尊重してEUに入る」と
いう全く相反する2つの戦略が矛盾なく併存していることは一見理解に苦しむ
が、いずれの戦略も「油断すればアラブ世界に潰される」というイスラエルの
危険性を乗り越えようとするものだと考えれば納得できる。
http://tanakanews.com/c0722jordan.htm

 EUに加盟すれば、イスラエル国家の存続はEUによって守られることにな
る。これは、これまでのイスラエルが採ってきた「アメリカの政界で影響力を
拡大し、アメリカに守ってもらう」という戦略よりも確実である。アメリカを
使う作戦は、米政界を長く支配してきた中道派がイスラエルの影響力を嫌うと
いう結果を生み、イスラエル(ネオコン)は中道派と対立せざるを得なくなっ
た。

 イスラエルとパレスチナがEUに入るということは、新生イラク、シリア、
レバノン、ヨルダン、エジプト、リビア、アルジェリア、モロッコなど、他の
アラブ諸国もEU圏に入る方向になる。パレスチナ問題は、EU内部の問題に
なり、戦争ではなく話し合いで解決されることになる。EUは1995年に、
これらの地中海岸の諸国との関係を強化するための組織「ユーロメッド」を作
っており、イスラエル・パレスチナのEU加盟構想は、それを強化していく流
れの中にある。
http://europa.eu.int/comm/external_relations/euromed/

▼アメリカが大統領選挙に忙殺されている間に・・・

 すでに経済関係では、EUはイスラエルにとって最大の貿易相手になってい
る。だが政治的には、これまでイスラエルにとってはアメリカの方が頼りにな
った。EUが政治統合を目指し、その先の目標として地域覇権を確立する方向
に動き始めたのは、ECがEUに改組された1993年以後のことでしかない。

 EU発足と同年にオスロ合意が成立し、EUがパレスチナ自治政府に援助す
る動きが始まった。これがイスラエルEU加盟構想の手始めだったのだろうが、
その後のイスラエルは、むしろEUと敵対して大イスラエル主義を目指す方を
選択した。ところが、昨年のイラクの泥沼化の後、アメリカでは中道派がタカ
派を一掃しようとする動きが始まり、イスラエルはアメリカを頼りにくくなっ
た。

 アメリカ抜きでパレスチナ問題を解決しようとする動きは、他でも出ている。
ペレスとエレカットがスペインで会談したのと同じ2月7日、ドイツで開かれ
たNATOによる安全保障の国際会議に出席したパレスチナのナビル・シャー
ス外相は「アメリカ政府が大統領選挙に没頭して今年11月までパレスチナ和
平交渉を進めるどころではないというなら、EU、ロシア、国連という、中東
和平のロードマップを提唱した他の三つの勢力が代わりに動くべきだ」と呼び
かけた。同会議では、ヨルダンのアブドラ国王も、そこまではっきり言わなか
ったものの、パレスチナ問題を早く解決しなければならないと主張した。
http://www.haaretz.com/hasen/spages/392029.html

 これらの発言と、スペインから出てきたEU加盟構想をつなぎ合わせて考え
ると、大統領選挙前のアメリカでタカ派と中道派が戦っている間に、EUが主
導してパレスチナ問題を不可逆的に解決しようとする動きが感じられる。ドイ
ツのNATO会議では、NATO軍がイスラエルとパレスチナの国境監視に当
たる構想も出されている。

▼アラブ民族主義とEU加盟

 イスラエル・パレスチナのEU加盟には、問題がいくつもある。ひとつは、
EUは域内の住民が他の国に引っ越して働くことを認めており、パレスチナが
EUに加盟したら、パレスチナ人の多くがドイツあたりに引っ越してしまうの
ではないかという問題である。同じ問題は、トルコなど他の中東諸国のEU加
盟にも当てはまる。

 おそらく現実的には、まず先にイスラエルをEUに加盟させ、その後パレス
チナが安定して経済発展し、人々が西欧に引っ越さなくても生活していけるよ
うになってからEUに加盟するようになると思われる。それまでにいったい何
年かかるのか、という問題になる。

 またパレスチナ人にとっては、イスラエルの加盟を許可する前に、EUがど
れだけイスラエルに圧力をかけてヨルダン川西岸地域の不正入植地を撤去させ
るのか、不安がある。パレスチナ自治政府のクレイ首相は「イスラエルに対し、
EUがアメリカ以上の圧力をかけてくれる可能性は低い」と語っている。
http://www.eupolitix.com/EN/News/200402/e3f7b8b0-977e-4315-99ff-e8e56a45bd96.htm

 イスラエルからみれば、EUに加盟するとパレスチナ人がイスラエルに引っ
越してくることが可能になる。これは長期的にみると、イスラエルが「ユダヤ
人の国」であるということを阻害する可能性があり、イスラエル右派からの反
対が予想される。(それ以前に、右派は入植地からの撤退に猛反対するだろう)

 アラブの側からみると、パレスチナがEUに入り、他のアラブ諸国も順番に
EU圏に入ることになると、これまで目指してきた「アラブの統一」「アラブ
民族主義」の夢が破れることになる。ヨーロッパ中心のEUがアラブ諸国を飲
み込むことは、以前の英仏による植民地支配の変型にすぎないという主張も、
アラブ人の中に出てくるだろう。

 しかし私からみると、アラブ民族主義は、1969年の第三次中東戦争でア
ラブ諸国がイスラエルに負けた時点で終わっている。その後のアラブ民族主義
は、アラブ諸国の独裁的な指導者たちが、国民の批判を逸らすために掲げ続け
た建前にすぎなかった。たとえばシリアとイラクは、いずれもアラブ民族主義
を党是とするバース党の政権だったが、両国を併合しようとする努力は過去
40年間途絶えている。
http://tanakanews.com/c0730cairo.htm

 今後アラブ諸国がEU圏に入っても、住民投票をやってアラブ諸国が再統一
してEU圏から出ていくことを民主的に決定するなら、いつでもアラブは統一
できる。だがその前に、多くのアラブ諸国がEU圏に入る際、それまで行われ
てきた選挙に関する規制を取り払う必要に迫られる。その結果、シリア、リビ
ア、エジプトなどの独裁的な指導者たちが政権を追われることになるかもしれ
ない。少数派(アラウィ派)が独裁的な世襲政権を維持してきたシリアなどは、
下手をすると内戦に陥る。

 EU加盟構想に対し、パレスチナ自治政府は乗り気だが、他のアラブ諸国は
反対するかもしれない(どこもまだ意思表示していない)。半面、パレスチナ
側からみれば、今まで他のアラブ諸国からイスラエルと戦う際の「盾」として
使われてきた苦境から抜け出すチャンスだということになる。

▼EU拡大とサダム潰しの関係

 EUとしては、イスラエルがアメリカを牛耳ったように、EUに対しても謀
略的な政治を展開する懸念がある。すでにイスラエルは、ヨーロッパで反ユダ
ヤ主義が勃興しているとして、EU諸国に対策をこうじるよう要求している。
http://www.haaretz.com/hasen/spages/388197.html

 アメリカでも、イスラエル系の団体が政治力を拡大する際に「反ユダヤ主義
が広がっている」と主張して反対派を倒す「差別糾弾」式の政治闘争が行われ
た歴史がある。差別は良くないが、差別を政治の道具に使って利権を拡大する
勢力もまた、洋の東西を問わず、批判されるべきである。

 パレスチナ問題の解決策は、これまでいくつも浮上しては消えていった。新
たに出てきたEU加盟構想も、うまく行くとは限らない。だがEU側は、昨年
からイスラエルのEU加盟を視野に入れた検討をしており、すでに詳細な計画
が立てられている可能性もある。昨年11月中旬、EU諸国の外相とイスラエ
ル外相、それからアメリカのパウエル国務長官も加わって、イスラエルとEU
の関係について話し合ったことが分かっている。
http://www.iht.com/cgi-bin/generic.cgi?template=articleprint.tmplh&ArticleId=117883

 EU加盟構想は、パレスチナ問題の範囲を超えて、新生イラクを含む他のア
ラブ諸国も、いずれEU圏に入れていく構想を含んでいると思われるが、だと
したら、イラクのフセイン政権が潰され、アラブ全体が弱体化することが、こ
の構想の前提条件として必要だったという考え方もできる。

 巨額の石油収入と、独裁的で強いサダム・フセインが支配するイラクが現存
していたら、アラブ諸国はいまだにアラブ民族主義を希求し、EU圏に入る構
想も現実性がない。イラクは分割されそうで、シリアもサウジアラビアもエジ
プトも弱い状態にある今だから、EU加盟構想が出てくるのだと思われる。


この記事はウェブサイトにも載せました。
http://tanakanews.com/e0210mideast.htm


 今回の配信は、トルコとキプロスのEU加盟について書く予定でしたが、イ
スラエルとパレスチナのEU加盟の話が出てきて、そちらの方が驚きだったの
で、先にその話を書きました。イスラエルとパレスチナのEU加盟は、先行す
るトルコとキプロスのEU加盟をモデルにして行われる構想だと考えられます。
すでに今回の記事もかなりの長文になってしまったので、トルコとキプロスの
ことは改めて書きます。

●関連記事

Iraq and Israel in the EU: Peace through Accession?
http://www.cato.org/dailys/05-21-03.html

Israel? In the EU?
http://www.haaretzdaily.com/hasen/pages/ShArt.jhtml?itemNo=239383

A fitting task for Europe
http://www.haaretz.com/hasen/spages/390900.html

NATO wants to upgrade ties with Israel, other Mideast nations
http://www.haaretz.com/hasen/spages/386101.html

Nabil Shaath says Mideast can't wait for US election
http://www.lexpress.mu/display_article.php?news_id=12613

Palestine wants to become an EU member
http://www.euobserver.com/index.phtml?aid=14368

Peres calls for Middle Eastern anti-terror pact
http://www.jpost.com/servlet/Satellite?pagename=JPost/JPArticle/ShowFull&cid=1076176628759&p=1006688055060

"Nothing Personal / Europa-bound"
http://coranet.radicalparty.org/pressreview/print_right.php?func=detail&par=5968

イスラエルの清算
http://tanakanews.com/d0113israel.htm

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