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http://www.mainichi.co.jp/eye/heiwa/eye/art/20040203M064.html
[記者の目]イラク派遣の自衛隊=斎藤義彦(バグダッドで)
◇「勇気ある撤退」すべきだ−−怖い、「うわさの事実化」
イラク南部サマワで自衛隊を取材した。隊員は確かに懸命に働いている。しかし「今からでも遅くない、撤退すべきだ」というのが率直な感想だ。自衛隊派遣は矛盾に満ち、見当違いが明らかだからだ。
サマワで自衛隊員は遠くにいても簡単に識別できる。砂煙で真っ白になる世界で、緑の迷彩服は目立つ。周囲から「浮いている」姿は自衛隊の現在を象徴している。
サマワでは「日本企業はいつ来るのか」と何度も聞かれた。ある電器店員の男性は「軍隊はいらない、欲しいのは雇用だ」と言う。サマワ市民の本音だと思う。
日本政府は大きな「雇用幻想」を作ってしまった。「600人雇用」という数字を市の担当者が真顔で語る。日本政府の言う数年間の「長期支援」は、日本企業の巨額投資と受け止められている。
政府がうそをついたのではない。サマワでは「うわさが事実化」するのだ。昔の日本のようにサマワの世間は狭く、うわさはすぐ広がり「真実」となる。また「必要なことはすべて日本がやる」(サマワ総合病院長)という強烈な期待感が、親日感情を支える。
怖いのは日本が雇用を作らないと分かった時だ。身に覚えのないことで「裏切った」とされ、敵意の対象にされる。サマワのオランダ軍が「雇用は作らない」と断言したのをなぜ見習わなかったのか。傷が浅いうちに手を引く方がサマワ市民のためだ。
サマワ周辺の治安が「比較的安定」しているという先遣隊報告も信じ難い。1月24日、サマワから北に車で30分のハムザで、トレーラーを略奪する集団を取材しようとして、男数人から銃撃を受けた。負傷しなかったが、サマワ近郊での発砲は衝撃的だった。
同じ日にサマワで起きた警官射殺事件は、こうした盗賊集団の犯行と警察は見る。警官が白昼堂々射殺される町の治安がどうして「比較的安定」なのか。それが「自衛隊は攻撃されません」という意味なら市民の生命を無視した考えだ。市民が簡単に殺される地域で復興などできるはずもない。
むしろ心配なのは、無法者と自衛隊が遭遇し、自衛隊がイラク人を傷つけることだ。日本の武力が戦後、初めて海外で人を殺す可能性は十分にある。
私が略奪現場に近寄った理由は、警官が近くで検問していたからだ。しかし、銃撃から逃げた後、警官は言うのだ。「なんで近づいたんだ。私たちでもどうしようもないのに」。「無法地帯をなくすという外国軍の仕事はできていない」と地元警官は話す。増強すべき警官は、人口15万人のハムザで現在92人。自動小銃の警官に対し、軍隊崩れの盗賊集団はロケット弾で応戦する。「盗賊はおれたちより強い」とある警官は話す。サマワでも警官は「装備は全く不足」した状態だ。警察が反米勢力へと転化するのを恐れ、米英軍が装備を渡さないことが背景にある。
サマワを出れば自衛隊派遣の矛盾は明確だ。他都市の住民は、自衛隊がサマワ周辺だけを復興することに「なぜこちらも助けないのか」とねたみをあらわにする。また、旧フセイン政権支持者の多いイスラム教スンニ派の町では「自衛隊は石油のために占領軍に協力している」という怒りの声もあがる。ヨルダンでも「仲間だった日本がなぜ米国に協力するのか」という失望の声を聞いた。自衛隊派遣で、中東で作りあげてきた「平和な日本」のイメージは壊れ始めた。
いま、イラクは多数派のシーア派と占領軍が、戦後統治をめぐり対立している。軍政をどう円満に終了させるか、という時期に、各国に大幅に遅れて軍隊を派遣するのは見当違いでしかない。
自衛隊はイラク復興に不可欠ではない。対イラク政策を描く日本の政府高官が「自衛隊は南部の一部を復興するだけでイラク全体としては大したことはない」と話すのを聞いた。本音だと思う。自衛隊は日本がブッシュ米政権に追従するメッセージとして送られた。イラクの現実と矛盾が出るのは当然なのだ。
復興のためには、独仏の主張するように一刻も早く占領と軍政をやめ、イラク人に主権を移譲する必要がある。そうしなければ反米テロを抑え、警察力を強化し、企業の投資を呼び込むことはできない。
イラク市民のことを考えるなら自衛隊派遣は無用な混乱を招くだけだろう。純粋に努力している隊員のためにも「勇気ある撤退」を求めたい。
[2004年2月3日 毎日新聞東京朝刊から]