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80年代に世界各地のテロ組織を支援し、米国から「狂犬」とまで呼ばれた北アフリカ・リビアの最高指導者カダフィ大佐が、米国との関係改善に動き出した。大量破壊兵器計画の廃棄を宣言し、国際原子力機関(IAEA)の査察を受け入れたほか、最近も首都トリポリを訪問した米国会議員と国交回復について協議したとされる。カダフィ大佐が米国との協調路線に大きくかじを切った背景を現地で探った。【トリポリ・小倉孝保、ワシントン・中島哲夫】
■一般市民は親米的
トリポリの町で人々が「米国の制裁はいつ解除されるのか」と尋ねる。92年に始まった国連制裁は99年に停止されたが、米国は国内法「イラン・リビア制裁法」で制裁を継続したまま。これが足かせとなって、米国以外の国との経済活動も進まない。国民の多くは国際社会への完全復帰を願っており、対米関係改善に動いたカダフィ大佐の決定を歓迎している。
大量破壊兵器計画の廃棄宣言以降、欧州や日本のビジネスマンが相次いでリビア入りしており、米国の経済制裁解除を見越してすでに現地調査をしているという。
大佐はかつて米国を厳しく批判してきたが、トリポリ市民からは「米国は嫌いではない」「あらゆる国と関係を改善したい」という声が返る。外交筋は「リビア国民は米国の消費文化へのあこがれが強い」という。米国への接近は、そうした国民の意思に、大佐が抗し切れなくなったためとの見方もあるほどだ。
リビアは、イスラエルに領土を占領された経験がなく、同国を支援する米国への反発が少ない。サウジアラビアやエジプトなどに比べて穏健なイスラム教徒が多く、米国のイスラム過激派敵視政策をイコール自分たちへの敵対と考えないことなどが理由のようだ。
■イラクの影響も
69年にクーデターで政権を握った大佐は、70年代から80年代にかけてアフリカ、中南米などで反米組織を支援。中には米国がテロ組織と呼ぶグループもあった。一方、アラブがイスラエルに対抗する軍事力を持つことなどを主張したが経済制裁で国際社会から孤立し、頼みのアラブ諸国は逆に親米傾向を強めた。
「アラブ諸国から裏切られ、それならリビアも自国民のことを優先して考えるべきだと悟ったのではないか」。国立ファタハ大学のサレム・ズベイディ教授(55)は、米国接近の理由を分析する。また、研究機関「高等学術院」のミロウド・メハッドビ教授(50)は「米同時テロで、米国がイスラム過激主義との闘いを始めた。リビアは80、90年代に過激なイスラム主義との闘いを経験しており、大佐はこの点でも米国と考え方を共有できるとみた」と指摘する。
欧米やエジプトなどのメディアは、大佐の変化を「フセイン元イラク大統領の拘束時の惨めな写真をみた大佐が、怖くなって決意した」と論じている。外交筋は「リビアは99年以降、国際協調路線に踏み出していたが、イラク戦争がその速度を速めた」と語った。
■投資拡大に期待
リビアでは92年から衛星放送が解禁され、国民は米CNNテレビのほか大佐を公然と批判するアルジャジーラなどアラビア語衛星放送も自由に受信できる。インターネットも広がり、外国の情報が国内に流れ込むようになった。「石油収入があるのに、このレベルの経済水準では満足できないという感情が国民に生まれている」(外交筋)という見方もある。
また、リビアでは若年層の失業率が30%にもなり、ナイジェリアなどから入った麻薬が流行しているという。こうした問題の解決には外国の投資で失業率を下げる必要がある、との事情も対米関係改善の大きな理由になっているようだ。
◇米政府 世界戦略に有益
リビアの路線転換は、「テロとの戦争」と大量破壊兵器の拡散防止を核心課題に掲げる米ブッシュ政権にとって、極めて利用価値が高い。カダフィ政権を「全面降伏」へと導き、その効果をアラブ世界の反米勢力や北朝鮮、イランに波及させようという構えだ。
ブッシュ大統領は1月5日、対リビア制裁継続を発表した。大量破壊兵器計画の廃棄宣言は「重要で歓迎すべき一歩」だが「具体的措置による検証」が必要、という論理だ。リビアは注文に応じてウラン濃縮の関連物資や機密書類など約25トンを米国に引き渡し、化学兵器の破壊作業も始めた。
マクレラン米大統領報道官は27日、カダフィ大佐の「勇気ある決断」を称賛し、この道を進めば米国との関係は改善されると述べた。しかし「やるべきことがまだある」とも強調し、制裁解除には言及しなかった。
この直後、米当局者らは「リビアはテロ支援停止を証明していない」という不満を米メディアに流した。リビアのとった措置を一応歓迎しながら「まだまだ、もっと」と引っ張る手法だ。
これは、一種の芝居だという見方もある。カダフィ大佐の二男は米メディアに、大量破壊兵器放棄の決断は、米国がカダフィ政権打倒の計画はないと確言したためだ、と語った。制裁解除についても、水面下で一定の見通しが示されている可能性を否定できない。
この場合、米国が即応的な「ほうび」を与えなくてもリビアは譲歩を続け、ある時点から米国の制裁解除やテロ支援国リストからの除外措置が順調に進み始める、との展開も予想される。
◆米・リビア関係
イスラム社会やアラブの連帯を外交方針に掲げてきたリビアは「反資本主義」からテロ支援も行い、米国とは長く緊張関係にあった。80年代は、テロに対する報復空爆を米国から受けた。88年に米パンナム機が爆破(270人死亡)されると、米国はリビアの犯行と断定し、リビアは国際的な孤立を深めた。
その後の国連制裁などで、原油開発や国民経済に深刻な影響が出たリビアは99年、パンナム機事件の容疑者2人を引き渡し、柔軟姿勢に転換した。国連は対リビア制裁を解除、昨年12月には米英との水面下交渉の結果として、リビアは大量破壊兵器開発計画の廃棄を宣言した。米国は今のところ、独自の制裁措置を継続している。
[毎日新聞2月1日] ( 2004-02-01-00:52 )
http://www.mainichi.co.jp/news/flash/kokusai/20040201k0000m030085000c.html