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http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040130/mng_____tokuho__001.shtml
イラク派遣賛成、反対を逆転 なぜ?
世論調査
イラクへの自衛隊派遣が本格化するなか、世論調査で「派遣賛成」が増加している。テロの危険と背中合わせの「戦地」へ送り出すことには、これまで慎重論が根強かった。派遣が避けられない現段階にきて、なぜ「反対」から、「賛成」多数に逆転してしまったのか。国民の心理を探った。
■黄色いハンカチ運動 異議挟めず
「黄色は映画『幸福の黄色いハンカチ』にちなんだ色。派遣に対する賛否を超え、隊員たちの無事帰国を祈って有志たちが始めた」
イラクに派遣される陸上自衛隊本隊の中核を担う第二師団の地元、北海道旭川市では、最近ある変化が起こった。商工会議所前のロータリーに約百七十枚の黄色いハンカチがかけられたのをはじめ、市民が黄色いリボンを胸につけて街行く光景が見られるようになったのだ。この運動を進める「黄色いハンカチ有志の会」事務局の佐藤和明氏はその理由をそう話した。今月中旬以降、事務局には「ハンカチを譲ってほしい」と問い合わせが殺到。既に七千枚が売れたという。
佐藤氏は「運動に政治的意味はない」と力を込める。商店街をあげてハンカチを掲げようという計画も浮上し、「町が黄一色になりつつある」(地元関係者)中、一方で警戒の声が上がり始めている。
派遣に反対する久保厚子市議は「無事帰還を願うのはだれも同じ。異議を差し挟めないことばかりが主張されれば、派遣反対の声がかき消されかねない。運動を呼びかけた人たちに政治的な意図はなくても、派遣やむなしという方向に誘導しようとする政治勢力に利用される危険がある」と危機感を吐露する。だが、無事を願う「感情」の広がりに、冷静な派遣論議はかすみつつあるようだ。
■民放調査で50〜54%に
社会全体が「派遣やむなし」の方向に傾いているのは、最近の世論調査の結果でも明らかだ。
日本テレビが、先遣隊派遣直後の今月二十三−二十五日に行った世論調査では、派遣賛成が50・3%、反対は38・4%。昨年十二月の調査では賛成41・4%、反対47・0%で、今回賛成が初めて反対を上回り、しかも過半数を超えた。
テレビ朝日の同時期の世論調査でも、賛成54・9%、反対35・6%と同様の傾向だ。
メディアの論調にも微妙な“揺れ”が見られる。
新聞では在京六紙のうち朝日、毎日、東京が派遣に否定的か慎重で、読売、日経、産経が前向きだった。
毎日新聞は元日付社説で「自衛隊派遣の選択は基本的に同意する。対米追従以外に戦略を持たない現状では、行かない選択がもたらすリスクが大きすぎる」と、従来の「派遣慎重」を「容認」に転換したとも受け取られる意見を表明した。
同紙の菊池哲郎論説委員長は「慎重から容認に変わったわけではない」と否定しながら、「今回の経緯のなかで、自衛隊を送ってはいけないと反対したことは一度もない」という。
社説について菊池氏は「(派遣しないことによる)対米リスクへの枠内でしか日本が判断できないことを憂えており、もっとしっかりした日本の生き方を持てというのが趣旨」とも説明する。
だが二十七日付社説でも「派遣はやむをえない」とする一方で、「派遣された自衛隊ができるだけ早く撤退できる状況を作り、支援を民間に引き継ぐことが当面の最大の目標だ」とも訴え、世論を意識してか、ここにきて主張の軸足がブレているように映る。
■笑顔の映像 安全すり込み
「派遣賛成」に向かわせている心理について、評論家の宮崎哲弥氏は「先遣隊がイラクで子どもたちと笑顔で交流している映像などは、政府の『安全』という説明を後押ししている。佐藤隊長も印象がいい。直接、身の危険が迫っている状況ではないので、派遣に対する拒否感が若干緩和したところがある」と前面に出てきた自衛隊の「顔」が感情に訴えているとみる。
軍事評論家の神浦元彰氏も「先遣隊の本当の目的は、地元の有力者と仲良くし、現地でのイメージをよくすることだ。笑っている映像がことさら強調されるのもそのためで、それが国内での好印象にもつながっている」と同意見だ。
■派遣後反対 非国民扱い
さらに宮崎氏は「底流には『行っちゃったんだから仕方がない』という日本的な心性もある。その上で、メディアを通じて有識者らが『海外では論争は水際までが常識だ』などと繰り返し、派遣後に反対するのは非国民だと言わんばかりの言説を流していることも影響している」と指摘する。
上智大の藤田博司教授も「先遣隊が既に引き返せないところにいるという前提で、賛成か反対かを問えば、事態を否定して『引き返せ』などとは言えないのは自然な感情だ」とみる。
だが神浦氏は「イラク派遣に対する最近の支持は、『安全』という架空の物語の上に成り立つあやふやなものだ」と懸念する。
■犠牲出たイタリア『無駄死にできぬ』
イラクへ派兵したイタリアでは、撤退を求める声が強かったが、昨年十一月にイラク南部で自爆テロを受けた後は、世論調査で駐留継続の意見が撤退を上回った。野党でさえ「今撤退すれば無駄死にだ」と主張、世論が駐留継続で固まった。
自衛隊に犠牲が出れば日本の世論も賛成一色になるのか。神浦氏は「イタリアは欧州内で『弱い』『逃げる』などと侮辱的に見られているという特殊な事情があるため」と説明、一方「自衛隊員の犠牲や、自衛隊員によるイラク人らの犠牲が出たときには、世論は(撤退へ)逆転する」と日本の世論を予測する。
■『復興に手を』論調繰り返し
ただ、こうした心理の上に「派遣賛成」増加を後押ししているのが野党だと指摘するのは国際政治学者の浜田和幸氏だ。「イラクを取り巻く世界情勢は変化している。米国では、大統領選とのからみで厳しい局面へ追いやられ、イラク復興を国連に移管する方向で仕切り直そうという動きになっている。『安全』と言い続ける政府もだらしないが、こうした欧米の動きを取り込めない野党、特に民主党はもっと情けない」
野党が追及しきれないなかで、京都女子大の野田正彰教授は「九〇年代以降、自衛隊派遣に向かって、既成事実だけが積み重なってきた。イラク戦争も米英の攻撃が行われたという既成事実をそのまま容認し、マスコミを通じて『復興に手を尽くさなければ』という論調が繰り返される」と指摘、こう危機感を持つ。
「日本では、既成事実に基づいてずるずると軸が危険な方向にずれる。『言っても始まらない』という空気が支配的になり、批判的な意見が出なくなるのは、太平洋戦争のときの世論やマスコミの動きと全く同じ構造だ」