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来る3月14日にスペインの総選挙があるのですが、この選挙の焦点は、現在、単独絶対過半数を占める与党国民党(アスナールは首相退任を表明、マリアノ・ラホイが次期首相候補)が絶対優位を守れるのか、野党第1党の社会党(正式には社会大衆党)が大きく議席を伸ばして国民党の「一党独裁体制」を崩せるかどうか、という点です。
この4年間に、イラク戦争への加担やEUの内部対立の激化など、アスナールがやりたい放題に動けたのも、2000年の総選挙で国民党が絶対多数を取ってしまったことが非常に大きく影響しています。日本から遠く離れた国の選挙で日本での関心は薄いでしょうが、ここでスペインの国民党政権がストップする、またはそれに「足かせ」をはめることができるかどうか、は今後の世界情勢、特にEU内部にかなり大きな影響を与えるでしょう。
4年前の総選挙では、1996−2000年の4年間にアメリカの好景気の恩恵という幸運も手伝って国民党の政策が一応支持されたうえに、社会党の内部対立や政権党であった時代の金権・汚職体質に対する国民の警戒感もあって、国民党の圧勝に終わったわけですが、今回は未だに80%を越える国民のイラク戦争への反対という逆風が吹き、また社会党が若いサパテロを総書記・首相候補にしてイメージを刷新しています。
今のところ、資金力と、保守・中央集権的な傾向の強い地方での組織力・動員力で勝る国民党の有利は動かしがたいとは思いますが、少なくとも、社会党が大きく得票を回復して、国民党が単独では内閣を構成できない事態に追い込めるかどうか、が焦点でしょう。いずれにせよ私は外国人で選挙権もありませんから見守るしかないのですが。
1月中旬に選挙の日程が発表され選挙戦が開始しました。社会党にとっての最大の武器は「イラク戦争への加担」を叩くことですが、恐らく2月後半からの期間にそれをネタに集中攻撃をかける予定でしょう。与党国民党としては一番気がかりなことは、選挙前にイラクで再びスペイン兵が殺される事件が起こるかどうか、でしょう。1週間ほど前にも1名が瀕死の重傷を負ったばかりなのですが、2月の終わりか3月の始めに数名でも殺害されたら影響は非常に大きくなります。
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さて、1月中の「選挙戦第1ラウンド」では、雇用・住宅などの経済政策の披露と批判に加え、双方のスキャンダルが各新聞やテレビをにぎわせています。
21日にガリシアの地方裁判所が、国民党員でガリシア地方のある町の町長に対して「未成年者に対するわいせつ行為」の罪で罰金刑の判決を下しました。この町長(現在71歳のジジイ!)は、2001年に友人の娘である当時16歳の少女(!)に無理やりに抱きついてキスをして胸を手で揉んだ、ということで、その両親に訴えられていました。判決後、社会党のサパテロ総書記はここぞとばかりにこのロリコン町長の辞任を要求し、国民党の幹部が何の対応もしないことを厳しく非難しました。
(1月22日、エル・パイス)
http://www.elpais.es/articuloCompleto.html?d_date=&xref=20040122elpepunac_10&type=Tes&anchor=elpporesp
(1月24日、エル・パイス)
http://www.elpais.es/articuloCompleto.html?d_date=&xref=20040124elpepunac_4&type=Tes&anchor=elpporesp
スペインの中でもガリシアという地方は特に保守的で、何でも地縁・血縁で決まり人々は簡単に「長いものに巻かれ」、地方ボスがすべてを動かす典型的な「ド田舎」です。ガリシア自治州の首長はフランコ政権の大立者の最後の生き残りでアスナールといえども頭が上がらないマヌエル・フラガであり、しかも例のロリコン町長はフラガのお気に入りで町長自身も辞任を拒否し、党中央もうかつに手を出せないのですが、イメージダウンは必至で、頭を抱えている、といった状況です。
(1月28日、エル・パイス)
http://www.elpais.es/articuloCompleto.html?d_date=&xref=20040128elpepinac_18&type=Tes&anchor=elpepiesp
さらに悪いことに、ガリシア地方の国民党本部がエロ町長の辞任を迫ったのに対して、その町の国民党員が反発し、この件の取り扱い方次第では分裂騒ぎにすらなりかねない様子です。
(1月29日、エル・ペリオディコ)
http://www.elperiodico.com/default.asp?idpublicacio_PK=5&idioma=CAS&idnoticia_PK=95530&idseccio_PK=8&h=040129
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ところがその後、社会党の側にもとんでもないスキャンダルが持ち上がりました。昨年11月のカタルーニャ自治州選挙で大躍進して社会党や統一左翼連合と組んでカタルーニャ州政府を形作っている左翼共和党(カタルーニャ民族主義左派)党首カロッ・ルビラが、今年の1月の始めにバスク過激派で非合法団体(アメリカのおかげで国際テロ組織に「認定」されている)のETAの幹部とフランス南部の町で会合を開いた、という事実を政府が発表したからです。カロッ・ルビラ自身も事実を認めざるを得なくなり辞任を表明しました。ETAはスペイン各地で無差別な爆弾攻撃や要人の暗殺を繰り返してきたため、国民に対してのイメージは最悪です。
(1月27日、エル・パイス)
http://www.elpais.es/articuloCompleto.html?d_date=&xref=20040127elpepinac_2&type=Tes&anchor=elpepiesp
直接に社会党に関わるものではないにしろ、スペインの中でも影響の大きいカタルーニャで連立政権を組む党の党首のことですから、社会党を含めての左翼・反国民党陣営に対する打撃は大きく、例のスケベ町長の件で攻めても、社会党の不利は免れないでしょう。
(1月28日、エル・パイス)
http://www.elpais.es/articuloCompleto.html?d_date=&xref=20040128elpepinac_10&type=Tes&anchor=elpepiesp
また法務省と検事総局もカロッ・ルビラの行為に対して法的な処置を検討し始めました。(なお法務大臣のミチャビーラと検事総長のカルデナルはともに例のオプス・デイのメンバーです。)
(1月28日、エル・ムンド)
http://www.elmundo.es/elmundo/2004/01/28/espana/1075310917.html
ただ、ETAの中にCNI(中央情報局)のスパイが入り込んでいることは確実で、政府・国民党の幹部は知って泳がせたり操ったりしているでしょうから、十年一日のごとくカタルーニャ独立を叫んでいる「お人好しの田舎者」であるカロッ・ルビラがまんまとワナにはめられたな、と私は思っています。
政府・国民党側が早々にその事実をつかんで、あるいは始めから画策して、公表のタイミングを待っていた、ということでしょう。例のロリコン町長の件で追い詰められそうになったこともあるのですが、今月の27日からマドリッドで「テロ被害者の国際会議(ただし実質的にはETAの攻撃での被害者のみで『国際』とは名ばかり)」が開催されるのにぶつけたわけで、この二つをつなげてマスコミを使って大々的に流しました。
当然、社会党のサパテロも、CNIが公党の行動をいつもスパイしているのか、政府がいつからこの事実をつかんでいたのか、事前に知っていたのか、と政府・国民党に問いただしていますが、今のところ何の返答も無く、国民党側はとにかく「ETAと結託するけしからん政党と手を結ぶ社会党」に対するイメージダウン作戦に徹しているようです。
(1月28日、エル・パイス)
http://www.elpais.es/articuloCompleto.html?d_date=&xref=20040128elpepunac_3&type=Tes&anchor=elpporesp
また常に国民党政府に批判的なエル・パイス紙は、社会党への「援護射撃」とばかりにCNIの諜報部員の「奇妙な行動(公党へのスパイ行為、本来なら情報をまず国家公安委員会に流すべきところを直接に首相府に流したこと、会合の場所がフランスでありETA幹部の動きをキャッチして逮捕のチャンスでありながらフランス当局には何の連絡もせず、フランス側も不快の念を表明していること、など)」を報道し始めています。
(1月29日、エル・パイス)
http://www.elpais.es/articuloCompleto.html?xref=20040129elpepinac_2&type=Tes&anchor=elpepiesp
国民党にとっても、この左翼共和党のETAとの接触の件に関しては、下手をすると国際問題に発展しかねず「両刃の剣」になる可能性もあります。
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こうして、スペイン総選挙の選挙戦第1ラウンドはスキャンダル合戦の「痛み分け」に終わりそうですが、国民に対するマイナスイメージという点では、社会党の側に不利に働いているようです。しかしこの選挙戦は本当に壮絶な『戦い』で、スキャンダル合戦とはいっても緊張感が漂っています。
第2ラウンドの争点は、以上のスキャンダルの続きと、おそらく経済を中心にした国内問題になるでしょうが、サパテロがいつどこでイラク問題を取り上げ始めるのか、注目したいと思います。(ケリー問題でブレアがシロになったのはちょっと痛かったかもしれませんが。)また新たな展開があればお知らせします。