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核兵器をばらまいたのは誰か [田中宇の国際ニュース解説]
http://www.asyura2.com/0401/war47/msg/258.html
投稿者 なるほど 日時 2004 年 1 月 28 日 01:38:56:dfhdU2/i2Qkk2
 

田中宇の国際ニュース解説 2004年1月27日 http://tanakanews.com/mail/
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★核兵器をばらまいたのは誰か
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 北朝鮮の核兵器開発疑惑をめぐる六カ国協議は、昨年12月17−19日に
第2回目の会合を持つことが予定されていた。会合の直前まで、本番の会合で
何らかの合意を打ち出すことをめざし、事前協議で本番の合意内容を詰めよう
とする作業が進められていた。中国外交部の担当者とアメリカ国務省の担当者
が事前協議を重ね、中国が北朝鮮に確認をとり、アメリカが日韓などに諮りつ
つ、合意文案が決められていった。

 ところが会議本番を5日後に控えた12月12日、ホワイトハウスで開かれ
た高官会議で、チェイニー副大統領が米中合作の合意文案に強硬に反対した。
チェイニーは「ブッシュ大統領から、専制国家とは交渉するなといわれている。
悪者とは交渉しない。打ち負かすのみだ」と主張し、合意文案の中に「北朝鮮
は核兵器開発の施設を、二度と開発を再開できない不可逆的(irreversible)
なかたちで撤去することに合意した」という内容の文言を追加しなければ承認
しない、と主張した。
http://www.smh.com.au/articles/2003/12/21/1071941611806.html

 アメリカが自国に対する脅威を再発させたら核兵器の開発を再開しようと考
えている北朝鮮側は「不可逆的なかたちで撤去する」という文言が入った合意
文案を拒否することが明白だった。チェイニーの主張は、六カ国協議の開催そ
のものに反対するものだった。

 アメリカ国務省は、チェイニーらタカ派の強硬方針を見越して、合意文案を
決める事前協議で、中国側が出してきた文案を2回突き返し、米政権内のタカ
派と北朝鮮側という交渉の両端がOKすると思われるぎりぎりの線を探って文
案を作ったつもりだったが、その目論見は失敗した。憤慨した国務省側は「チ
ェイニーが六カ国協議を潰した」という趣旨のリークをマスコミに対して行い、
タカ派を牽制した。
http://www.sunherald.com/mld/sunherald/news/politics/7533708.htm

 それまで北朝鮮に対しては、ブッシュ政権内部では「外交交渉で問題を解決
する」という考え方が支配的で、その傾向はイラクの戦線が泥沼化して政権中
枢でのタカ派の勢力が弱まっていくのと並行して強まっていた。ところが、チ
ェイニーの強硬発言によって全てがくつがえった感じで、その後中国当局が
「1月下旬の旧正月(春節)前には次の六カ国協議を開きたい」と言っていた
のも達成できず、最近では「2月中の開催も難しい」という見方が流れている。
http://sg.news.yahoo.com/031230/1/3gygb.html

▼カギを握るパキスタンの「核の父」

 アメリカは方針転換したのだろうか。最近ラムズフェルド国防長官が「次は
シリアを攻撃する」と再び言い出しているし、米政権内でタカ派が力を盛り返
したのかもしれない、と思いつつウォッチしていると、12月中旬の六カ国協
議の予定日が過ぎてから2週間たった12月末、リビアの核兵器開発を査察し
ていたIAEAから、新しい動きが起きてきた。
http://www.forward.com/issues/2004/04.01.23/news.mofaz.html

 欧米との和解を目指してリビアのカダフィ大佐が「大量破壊兵器を廃棄する」
と宣言し、その後IAEAがリビアの核開発施設を査察したところ、国際的な
核兵器技術の「ブラックマーケット」の存在が明らかになり、リビアはそこか
ら核技術を買ったことが分かった。そして、北朝鮮もそこから技術を買ったの
ではないか、という分析が流れ始めた。
http://www.nytimes.com/2004/01/23/international/23CND-NUKE.html

 IAEAは「核兵器のブラックマーケット」の筋をたどっていき、パキスタ
ンに行き着いた。パキスタンで「核兵器の父」と呼ばれているアブドラ・カデ
ィール・カーン博士が運営しているカーン研究所( http://www.krl.com.pk/
が、使用済み核燃料から核爆弾の材料となる高濃縮ウランを取り出す遠心分離
器を開発し、それを使って自国の核兵器を作っただけでなく、リビアやイラン、
北朝鮮などに輸出もしていた疑惑が強まった。
http://english.aljazeera.net/NR/exeres/320748BD-52BE-4B84-BB2A-9A4F2250628A.htm

 カーン博士は、パキスタンが秘密裏に進めた核兵器開発計画の中心人物で、
1970年代にオランダにあるウレンコ( http://www.urenco.com/ )という
遠心分離器を製造する蘭独英の合弁企業に勤めていた。彼はウレンコから技術
を持ち出してほとんど同じ遠心分離器をパキスタンで製造し、自国の核兵器開
発に使うとともに、ひそかに核兵器開発を進めたいと思っている他の国々にも
分離器を売ったとみられている。

 IAEAがリビアとイランの核開発施設を査察したところ、相次いでウレン
コ型の遠心分離器が見つかり、調べを進めた結果、カーン博士の存在が浮か
び上がったのだという。

▼殺された北朝鮮外交官の妻

 北朝鮮の場合、カーン研究所から遠心分離器を買って稼働させているかどう
か、今のところはっきりしていない。アメリカの諜報機関は「北朝鮮が遠心分
離器を使って高濃縮ウランを抽出している」と分析しており、米政府はこの件
も六カ国協議の議題に含めるよう求めている。半面、中国政府は「アメリカか
ら、北朝鮮が遠心分離器を使った抽出を行っているとする主張の根拠を見せて
もらったが、これだけでは北朝鮮が高濃縮ウランを抽出しているとは断定でき
ない」と主張している。
http://www.atimes.com/atimes/Korea/FA24Dg02.html

 とはいえ、北朝鮮がパキスタンから核兵器開発の技術を取得しようとしてい
たこと自体は多分間違いない。1998年6月、パキスタンの首都イスラマバ
ードで、北朝鮮の外交官の妻が射殺される事件が起きたが、この事件から、核
兵器をめぐる北朝鮮とパキスタンの関係の一端が明らかになっている。

 射殺されたのは、兵器を扱う北朝鮮の国営商社「朝鮮蒼光信用社」のイスラ
マバード駐在代表をつとめていたカン・テユンの妻キム・サナエで、当初は殺
害は誤射によるものとされたが、後になって、実はキム・サナエは欧米の諜報
機関に対して北朝鮮の兵器開発の実態を漏らす代わりに欧米への亡命を試みた
ため、イスラマバードにいた他の北朝鮮人によって射殺されたのだ、という報
道が出てきた。

(「サナエ」という名前は日本人の名前に感じられるのだが、彼女が「日本人
妻」だったのか、サナエという名前が北朝鮮人の名前としてよくあるものなの
か、私には分からない)

 カンとキムの夫妻が住んでいた家は、カーン博士の家のすぐ近くで、両家は
よく行き来していた。北朝鮮からはカン・キム夫妻のほかに、カーン研究所に
通う核開発の技術者たちの集団がイスラマバードに住んでおり、彼らもカンと
キムの家をしばしば訪れていた。キムを射殺したのは、北朝鮮当局の命令を受
けた技術者集団のメンバーだったと報じられている。
http://www.dailypioneer.com/columnist1.asp?main_variable=Columnist&file_name=john%2Fjohn29.txt&writer=john

▼北朝鮮が展開する兵器のバーター取引

 核弾頭開発はパキスタンのカーン研究所が先行していたが、ミサイル技術は
北朝鮮の方が先行していた。そのため、北朝鮮側がミサイル技術を提供する代
わりにパキスタンは核弾頭の技術を提供する、という相互関係が以前からあっ
たようだ。カンは1997年にはパキスタンのために、ミサイルの先端や胴体
に使うマルエイジング鋼という特殊鋼を、ロシアの製鉄会社から買う算段をつ
けてやったことも分かっている。
http://www.nucnews.net/nucnews/1999nn/9908nn/990828nn.world4.htm

 1998年4月には、パキスタンは新型ミサイル「ガウリ」の試射実験に成
功したが、ガウリは北朝鮮のミサイル「ノドン」とほぼ同じものだった(ノド
ンはロシアの「スカッド」を改良したもの)。そして、この試射実験の2カ月
後にキム・サナエが殺されている。

 その後も北朝鮮とパキスタンの兵器の関係は続き、2002年7月には、パ
キスタンの軍用機が北朝鮮に向かい、ミサイル部品を積んで戻ってきたことが
アメリカのCIAによって確認されている。2003年3月には、北朝鮮は部
品だけでなくミサイルそのものを解体し、パキスタンの軍用機に積んで運んだ
ことが分かり、アメリカはパキスタンのカーン研究所と北朝鮮の蒼光信用社を
アメリカとの取引停止処分にした(両社ともアメリカとの取引はなく、処分は
政治的な非難の意味合いだけだった)。
http://www.pakistan-facts.com/article.php/20030331205924213

 北朝鮮はパキスタンだけでなく、他の国とも兵器の交換を行っていると思わ
れる。1999年には中央アジアのカザフスタンが、北朝鮮にミグ戦闘機を数
10機売ったことが判明したが、これも兵器交換の一つだった可能性がある。
またイラクのフセイン政権も、北朝鮮からミサイル技術を買うことを検討して
いたことが分かっている。
http://www.atimes.com/c-asia/AK19Ag01.html

▼ブラックマーケット「発見」の意図

 北朝鮮やパキスタンがかかわった核兵器のブラックマーケットの存在は、
IAEAのリビア査察によって初めて判明したものではない。遅くとも1998
年には、アメリカなどの当局は核兵器のブラックマーケットについて、かなり
のことを把握していたはずだ。だが、この闇市場における取引は、その後もほ
とんど規制されずに続いてきた。

 パキスタンはアメリカからの援助に頼って政府を運営している国で、アメリ
カが抗議すればブラックマーケットの動きは止まったはずだ。アメリカのタカ
派(軍産複合体)は、冷戦時代から「国防費を増やすために敵を作る」という
戦略を続けており、むしろアメリカの側がブラックマーケットの「繁盛」を望
んでいた可能性もある。

 それが、IAEAのリビア査察によって「発見」され、イランやパキスタン
もIAEAの調査に協力する姿勢を見せ、パキスタンのムシャラフ大統領や
IAEAのエルバラダイ事務局長は「ブラックマーケットを根絶するまで取り
締まる」と表明する動きになっている。こうした動きの背景には、何らかの国
際的な政治的意図があるのではないかと思われる。

 それを考える際に参考になりそうな出来事が、1月2日に起きている。それ
は、アメリカ・デンバーの空港で、アシャ・カーニ(Asher Karni)という南
アフリカ在住のイスラエル人が逮捕されたことだ。カーニの罪状は、核弾頭の
起爆装置に使える「スパークギャップ」という装置400個を、許可を受けず
にパキスタンに輸出しようとしたことだった。
http://abcnews.go.com/wire/World/ap20040115_1436.html

 数十個はすでに輸出され、装置を買ったのはパキスタン軍に兵器を販売して
いるパキスタン企業だった。この企業の経営者はイスラム主義者によるカシミ
ールの分離独立運動に協力していると報じられ、この点がアメリカの捜査当局
を警戒させた。400個の装置のうちいくつかは、北朝鮮が開発しているとさ
れる核弾頭に取り付けられる可能性もあった。

 スパークギャップは電気の火花を発する装置で、主に腎臓結石を破砕するた
めの医療器具として使われているが、同時にロケットやミサイルの燃料点火装
置など航空軍事用途にも使われている。カーニは、アメリカ東海岸のメーカー
からスパークギャップを購入しようとしたが、メーカー側から「当局の輸出認
可が必要だ」と断られたため、他の企業をトンネル的に介在させ、メーカーを
騙して契約にこぎつけた。この過程で当局がカーニの取引を怪しみ、1月2日
の逮捕となった。

▼核兵器開発とイスラエル

 カーニの逮捕後、すぐに米国内と南アフリカでカーニを保釈させようとする
動きがあった。南アフリカではカーニと親しいイスラエル系の人々(ユダヤ人)
が「カーニはアメリカ商務省のおとり捜査により、微罪なのに捕まった」と主
張し、保釈を要求した。米国内でもイスラエル系の勢力が動いたらしく、デン
バーの裁判所は1月12日にカーニを保釈する決定を下した。

 だがその直後、ワシントンの司法当局が「カーニがスパークギャップを売ろ
うとした相手はイスラム原理主義組織につながっており、カーニはテロリスト
が核兵器を持つことに手を貸す恐れがある」として決定に抗告し、保釈を止め
た。これらの動きから、カーニを保釈させ、イスラエルか南アフリカに逃がそ
うとするイスラエル系と、それに対抗するアメリカ政府内の勢力が、カーニの
身柄の争奪戦を展開していることがうかがえる。
http://www.capeargus.co.za/index.php?fSectionId=49&fArticleId=333815

 カーニはイスラエル人だが、問題の取引は個人的なビジネスで、イスラエル
当局とは関係ない可能性もある。だがその一方で、イスラエルはかつて1970
年代に南アフリカの白人政権が核兵器を開発しようとしたときに協力しており、
その後南アフリカが核兵器を廃棄した際、廃棄されることになっていた核弾頭
をイスラエルが持ち帰ったと指摘されている。イスラエルは台湾の核武装にも
協力しようとしたが、アメリカの反対で中止されている。

 またイスラエルは、すでに述べたアメリカのタカ派の「敵を作る」戦略に協
力するかたちで、イランに対して1980年代から最近まで兵器や軍事部品を
売り続けてきたことも分かっている。こうしたイスラエルの動きから考えると、
カーニがイスラエル当局の意を受けて、パキスタンに起爆装置を輸出しようと
した可能性もある。

 パキスタンのムシャラフ大統領はワシントンポストのインタビューに答えて
「核兵器をこっそり製造しているウラの勢力の多くはヨーロッパから来ている」
と語っている。彼が事実を話しているのだとすれば、パキスタンやイスラエル
の関係者のほかにも、核兵器のブラックマーケットに関与している欧米人がい
ることになる。
http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A43491-2004Jan23?language=printer

▼アメリカの核開発が煽る核拡散

 一方、アメリカではブッシュ政権になってから「使える核兵器」の開発を進
める政策を進めている。これまでの核兵器は破壊力が大きすぎて実戦で使えず、
自国に対する攻撃を抑止する外交上の効果はあっても兵器の消費につながらず、
軍事産業が儲かるビジネスではなかった。アメリカの議会や政府は「テロリス
トの地下施設を破壊する核を使ったバンカーバスターを作る」という名目で破
壊力の小さな核兵器を開発する政策を打ち出し、すでに総額60億ドルの研究
開発費を連邦予算に計上している。

 小型核弾頭の開発はクリントン時代に禁止されており、それをブッシュ政権
が再開したことになる。この動きに対しては、与党である共和党の中からも
「アメリカが核兵器を開発することは、アメリカを敵視するあらゆる国々の核
兵器開発をむしろ煽ることになり、悪影響の方が大きい」とする反対意見が出
ている。

 だが、それは大きな声にはなっていない。そのため議会でほとんど議論をし
ないまま、新型プルトニウム爆弾の開発に3億2000万ドル、核兵器に使う
トリチウム(三重水素)の効率向上化の開発に1億3500万ドルなど、核兵
器の開発費が次々に予算計上されている。
http://sfgate.com/cgi-bin/article.cgi?f=%2Fc%2Fa%2F2003%2F12%2F07%2FMNG5Q3GH941.DTL

 アメリカが本気で「核兵器のブラックマーケット」を潰すつもりなら、それ
はゆくゆくは自国の核兵器開発の中止にもつながる動きになる。ブラックマー
ケットがなくなり、北朝鮮からリビアまでの「ならず者国家」のすべてがアメ
リカとの交渉に応じて核兵器の廃棄に応じていった場合、アメリカ自身の核兵
器開発も止めろという話になっていくからだ。すでにIAEAのエルバラダイ
事務局長は、アメリカのタカ派と一心同体であるがゆえに従来は言及すること
がタブーだったイスラエルの核兵器について、撤去すべきだと言い始めている。
http://www.theage.com.au/articles/2003/11/27/1069825913850.html

 こうした核のブラックマーケットに対する取り締まりの兆しと、北朝鮮をめ
ぐる六カ国協議が延期されていることが関係しているかどうか、今のところ明
確ではなく憶測の域を出ないが、核兵器をめぐる新しい動きが始まっているこ
とは確かであり、今後の動きに注意する必要がある。


この記事はウェブサイトにも載せました。
http://tanakanews.com/e0127nuke.htm

●関連記事など

The Gordian knot
http://www.hipakistan.com/en/detail.php?newsId=en51738&F_catID=&f_type=source

Nuclear Weapons The Good, the Bad and the Ignored
http://www.worldpolicy.org/projects/arms/news/ExtraFair.html

Arrest Ties Pakistan to Nuke Black Market
http://abcnews.go.com/wire/World/ap20040115_1436.html

Asher Karni's 'embarrassing' past
http://www.mg.co.za/Content/l3.asp?ao=29845

Dutch Confirm Possible Spread of Arms Secrets
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-nukes20jan20,1,2279151.story

U.S. hopes grow for new nuke talks
http://www.washtimes.com/world/20040112-093735-8197r.htm

North Korea could soon be making 13 nuclear bombs a year
http://www.guardian.co.uk/international/story/0,3604,1128248,00.html

The Nuclear Market: An Array of Vendors
http://www.nytimes.com/2004/01/25/international/middleeast/25DIPL.html?pagewanted=print

Doubt over N Korea's ability on nuclear bomb
http://news.ft.com/servlet/ContentServer?pagename=FT.com/StoryFT/FullStory&c=StoryFT&cid=1073281208466

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