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浅井久仁臣 私の視点
http://www.asaikuniomi.com/tom'sdeath.htm
私の視点 「『人間の盾』の英人ヴォランティアの死」
パレスチナでイスラエル軍(以下、イ軍とします)の銃撃から子供を守ろうとして狙撃され、9ヶ月間脳死状態であったイギリス人平和活動家、トム・ハーンドルさんが13日、ロンドンの病院で意識の戻らぬまま死亡しました。享年22歳でした。
これまでこのHP上なり、私からの『勝手に送りつけメール』『国際ジャーナル』等でこのケースをお読みになっている方も多いと思いますが、初めて目にされる方もいますし、このようなひどい事件は皆さんの記憶に長く留めておいていただきたい思いもありますから、今一度経緯から書かせていただきます。
イスラエル占領軍の攻撃からパレスチナ住民を守る「人間の盾」になろうと、パレスチナ自治区入りしたトムは、ISM(国際連帯運動)の活動に加わります。ISMの活動は、西岸地区が中心でしたが、ガザ地区におけるイ軍のパレスチナ住民への弾圧がひどいということもあったと思います、トムもガザに送り込まれました。その一ヶ月前には、同じガザ地区のラファで米人女性が、イ軍によるパレスチナ人家屋の破壊を阻止しようとしてブルドーザーにひき殺されています。
運命の4月12日、トムとその仲間は、ラファの難民キャンプにあるモスクに出かけました。イ軍がしばしばモスクの前に陣取り、そこから礼拝に来た人たちを銃撃したり、人家に向けて無差別銃撃をしていたからです。その日も“当然”のように戦車や「狙撃タワー」から発砲がありました。
現場にいた多くの人たちが、発砲が始まると、身を隠しました。しかし、空間にポツンと取り残されている一人の少年の姿がトムの目に入りました。狙撃タワーから見えると判断したトムは飛び出て行き、その少年を物陰に導きました。ほっとしたのもつかの間、さらに2人の少女がトムの目に入りました。彼は躊躇せずに2人の下に駆け寄りました。そのトムの姿を狙撃手は見逃しませんでした。狙撃銃から放たれた銃弾は、トムの前頭部に的中しました。彼は、自らが「internationals」であることをイ軍兵士に分からせるために蛍光色の派手なジャケットを着ていました。路上を血で染めたトムは、住民の手で最寄りの病院に運ばれましたが、設備の整っていないパレスチナの病院では手に負えず、イスラエルの病院に転送されました。しかし、前頭部から撃ち抜かれたトムの脳が再び機能することはなく、脳死状態になりました。
事件当初、イ軍は、トムの隣にいたパレスチナ人が銃を持っており、発砲を始めたために反撃したもの、との発表をしました。その発表に疑問を持った、既に現地入りしていたトムのご両親は、関係者への聞き取り調査をしたり、政府・関係機関に証拠・証言の提示を求め、事実関係との食い違いを確認しました。そして、イスラエル政府に対して公正な捜査及び裁判を要求しました。しかしながら、イスラエル政府はいつものことですが、ご両親の訴えを無視、同じ発表を繰り返すだけにとどまりました。
ご両親は、家族と支援者の力を得て、イギリス政府に訴えるやり方に出ました。メディアも大きく取り上げたことで、世論がご両親を後押ししました。イギリス政府も無視できなくなり、イスラエル政府への圧力をかけました。その結果、イスラエル政府は、まず賠償金の小切手をご両親に送りつけてきました。しかもそのカネが政府としてきちんと裏付けが取れていないものと分かり、イスラエル国内で問題になるおまけつきでした。そして、なんと事件から8ヵ月半経過した昨年の大晦日、既報の通り、イ軍は兵士一人を逮捕、もう一人も尋問中との発表をします。
ただでさえ珍しい対パレスチナ軍事行動に関わる兵士の処分ですが、驚いたことにイスラエル政府は、その兵士の起訴を決めます。そして「加重暴行罪」との罪状を明らかにしました。これまで数百件に上る同様のケースで起訴処分にした兵士は10名いましたが、罪状を明らかにするのは非常に珍しいことです。それも、科せられた罪が「殺人」になる含みを残してのものは、初耳です(ただ、ここで言われるところの殺人罪が、「故殺<過失致死>」なのか「謀殺<殺意ある殺人>」なのかは不明です)。
その兵士の実名はいまだに明らかにされていませんが、情報の一部が漏れてきています。それを見て納得がいきました。逮捕されたのは、ベドウィン兵なのです。ベドウィンというのは、アラブ系遊牧民で、今でこそ定住していますが、この地域においては、ユダヤ、パレスチナどちらの社会とも一線を画している存在です。多くのベドウィン住民がイスラエル籍を取っていますが、人種差別を受けるケースが多数報告されています。
つまり、「ユダヤ人でない」イスラエル兵だから切り捨てられ、明らかにされたのであろうという推察です。イスラエル社会は、様々な差別構造があると言われていますが、ここにもその一部が垣間見えた気がしました。
今回、トムの家族が必死に動いた結果、イスラエル政府は異例の処置をしましたが、これはあくまでも例外中の例外です。アフガンやイラクで行なわれている戦争のニュースの陰に隠れてあまり報道されませんが、パレスチナではこのようなことが日常的に行なわれています。これから、かなり重点的にこの場でパレスチナ情勢を皆さんにお伝えしていきたいと思います。