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拝啓 小泉首相殿26 国際社会における名誉ある地位について [阿部政雄]
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投稿者 なるほど 日時 2004 年 1 月 14 日 16:45:32:dfhdU2/i2Qkk2
 

日本アラブ通信 編集長
                           日本ペンクラブ国際委員
                       元東海大学国際学科講師(中東)

                                  阿部政雄

                            2004年1月13日

拝啓 小泉首相殿26 国際社会における名誉ある地位について

 その後、お変わりございませんか。通常国会を控え、何かとお忙しいことと存じま
す。一月中旬ともなれば寒さも一段と強まってきています。このメール、眠さを堪え
て書いています。これもしんがり戦中派の「ああ、あの戦爭の悲惨さをなめたくない
し、これからの日本人になめさせたくない」という所以でしょうか。

 小泉首相が、19日召集の通常国会で行う施政方針で、イラクで殺害された奥克彦
大使、井ノ上正盛1等書記官への弔意を改めて表明し、イラクへの自衛隊派遣につい
て、昨年12月9日に続き、「自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」
との憲法前文を引用されるようですね。そして「国際社会の責任ある立場として資金
援助だけでなく、人的貢献を行う必要がある」と国民からの理解を求められるという
記事を読みました。

 しかし、小泉さんは、やはり肝心のことを飛ばしてしまっています。

 この「われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはな
らないのであって、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、
自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる」と
いう段落の後半の部分を、なぜ省いてしまったのですか。

 ハハ―ン、「政治道徳の法則は普遍的なものであり、この法則に従ふ」あるいは
「自国の主権を維持して、他国と対等関係に立とうとする各国の責務」という文句な
どは「何事もブッシュまかせの小泉外交にとって、主権の維持とか、対等関係の立場
に立とうという姿勢がないぞ!」というブーイングが野党や国民から上がるのを恐れ
たからなのでしょうか。

 そして、さらに「日本国民は、恒久の平和を念願し、人類相互の関係を支配する崇
高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、
われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、
圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地
位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平
のうちに生存する権利を有することを確認する」と言う前段、さらに「日本国民は、
国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ」の最
後の段落も紹介して欲しかったと思います。

 [専制(ブッシュ外交)と隷属(小泉外交)」、「圧迫(単独一国主義と先制攻撃)
と偏狭(キリスト教原理主義的なグローバリズム)を地上から永遠に除去しようと努
めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと」という意味に読まれるので
はないかと懸念されたのでしょうか。そこまで、憲法前文をフルに引用してこそ首相
としての誠意が読み取れるのです。こんな得手勝手な引用では、巷で言われるように、
違憲の自衛隊派兵をごまかすために憲法の”つまみ食い”をしていると言われても当
然でしょう。随分姑息なやり方ですね。

 「それをいっちゃ、お終いまいよ」と小泉さんは思うかもしれませんが、世界の中
で日本をますます不名誉な地位に追いこんでいるのは、ほかならぬ貴方なのだと言わ
ざるをえません。

 しかし、ことここに至った発端は、そもそも、小泉さんが、世界の中でも突出して
米国の「イラク戦争」に全面的な協力を約束したことからはじまっています。あの時、
先輩の中曽根、宮澤、河野その他の首相、総栽経験者から、戦争を回避するよう「友
情ある説得」をしてきて欲しいと要望されましたね。それを貴方は全く無視したツケ
が今まわってきたのです。

 そして、現在、イラク戦争の大義名分そのものが風前の灯同然になりかけています。
アルーカイーダとイラク旧政権との関係には何らの証拠もありませんでした。大量破
壊兵器は見つからず、イラクの直接的脅威などなかったことが明るみに出てきはじめ
ています。

 米国のオニール前財務長官が11日の米CBSテレビとのインタビューで、「ブッ
シュ政権は2001年1月の発足直後からイラクのフセイン政権打倒を計画していた」
と述べるとともに、ブッシュ大統領がイラク攻撃を正当化するため何らかの「方策」
を見つけるよう閣僚らに指示した経緯も明らかにしました。

 これが事実とすれば、ブッシュ政権が、イラクの大量破壊兵器を自国の安全保障に
とって差し迫った脅威と判断する以前から、フセイン政権打倒を計画していたことに
なります。

 しかし、中東の事情を知るものの一人として、ABCのAだと思っていました。

 事実、ベトナム戦争当時のアメリカの司法長官ラムゼー・クラーク氏はその名著
「湾岸戦爭」(地湧社)の中でアメリカの犯罪的な策謀を見事に浮彫りにしています。
小泉さんに今からでも読んで頂きたい本です。この際、ついでに紹介したいのは、モ
ロッコの国際政治学者エルマンジェラ教授の「第一次文明戦爭」(お茶の水書房)で
す。教授は、サダム・フセインには批判的ですが、湾岸戦争を「文明と野蛮の戦争」
とよんでいます。この二冊を読めば中東の理解は飛躍的に深まるでしょう。

 クラーク氏はこの本の冒頭で「米国政府は、イラクがクウェートに侵攻したから湾
岸戦争が起こったと主張する。・・・だが、米国の湾岸諸国とのかかわり合いを注意
深く見てみると、湾岸戦争の主要な責任はイラクにではなく、米国にあることが分か
る。この戦争は、イラクの最初の軍隊がクウェートに侵入するはるか以前から米国政
府により計画されていたのである。」と喝破しています。さらに、イラクがアメリカ
に狙われるのは、アジア、アフリカ、ヨーロッパの3大陸の結節点に位置する地下資
源に恵まれた(世界の石油埋蔵量の11%〜15%を持つ)戦略的要衝であり、また、
古い歴史と多くの人材を擁するアラブ民族主義を標榜する国として、米英の植民地的
野望にとって手強い国家であるとしています。

 イラクは、1958年にイギリスが樹立した王政を倒す共和国革命を達成し「アラ
ブの石油はアラブのために」のスローガンの下に1960年にはOPEC(石油輸出
国機構)の創設に協力したこと(当時はイラク共産党が主導権を持っていたカセム准
将の政権)、1968年の革命で政権を握ったバアス党政権も1972年に米英国所
有のイラク石油会社を国有化したことから、危険視されるようになりました。

 ラムゼー・クラーク氏によれば、とりわけ、1960年のOPEC(石油輸出国機
構)の設立にイラクが大きな力をつくしたので、アメリカは何時の日にか打倒すべき
国としてブラックリストに載せたと述べています。

 何はともあれ、イラクが「イラン・イラク戦爭」「湾岸戦爭」「イラク戦爭」と、
この20年の間に、三度も大きな戦爭に巻き込まれたのも、サダム・フセインの野望
もあったとは思いますが、この石油目当ての米英の戦略が背景にあったのは事実です。
小生は、イラクの外交官からも「イラクが石油資源に恵まれていたことが、われわれ
国民の不幸であった」という言葉を幾度となく聞かされました。

 では、この膨大な石油資源は、今後、誰の所有になるのでしょうか。ついこの2日
ほどの間に読んだニュースによれば、イラクの暫定統治政府はアメリカの要求にこた
えず、イラクの石油は民営化して民間会社に運営させるのではなく、国営石油会社を
設立し運営することにしたと発表しました。この処置は、アメリカがはじめからイラ
クの石油目当てに「イラク戦爭」を起こしたという誤解を避けるためだとコメントさ
れていました。短い記事なので、詳報は今後入ってくると思いますが、こうした将来
イラクの設立されるイラク人政府とアメリカの間で石油利権を巡る利害の対立は、日
に日に高まっていくでしょう。

 また、11日には、イラクのイスラム教シーア派最高権威、アリ・シスタニ師は連
合国暫定当局(CPA)の主導で決まった間接選挙による暫定政権樹立に反対し、直
接選挙を求める声明を発表しています。アメリカとイラク国民との軋轢は深まってい
くでしょう。

 イラン・イラク戦爭の時の有名なキッシンジャー国務長官の言葉は「イラン人とイ
ラク人はなるべく長く戦かわせ、殺し合わせる方がいい」という言葉でした。

 湾岸戦爭の際には、アラブ諸国数カ国も参加しましたが、今回はアラブ諸国は一兵
たりと派兵していません。「イラク戦爭」そのものを批判しています。

 そしてアメリカは、脅したり煽ったりして、やっと日本の自衛隊派兵にまでこぎつ
けました。ネオコンの幹部は心の中で「日本とイラクはできるだけ長く戦わせる方が
いい。軍需産業が儲かるし、どっちかといえば、いてもらわない方がいい日本人とイ
ラク人が共倒れになり、なかんずく、日本の企業が中東、アラブ地域から追い出され
れば、ネオコンにとって一石3鳥にも4鳥にもなる。石油だけが残ればそれでいうこ
とはない。小泉首相には最大限の感謝の言葉を羅列する特大の表彰状をおくらねば」
と、ほくそ笑んでいるのではないかと思っています。

 とにかく、3000年前の一時期の歴史を切り取ってイスラエルという国を人工的
に造成してしまって土着のパレスチナ人を追放してしまい、そのパレスチナ人の存在
自体も、1948年の第一次パレスチナ戦争から1967年の第3次パレスチナ戦争
まで、世界のマスコミから、パレスチナ人の存在を見事に神隠ししてしまった巨大な
世界的情報操作はそら恐ろしい存在です。

 あの9・11事件にしても、まだその真相は隠されたままです。

 今日12日に来日した米軍のマイヤーズ統合参謀本部議長は都内の米大使館で記者
会見し、イラクへの自衛隊派遣を「歴史的な動き」と評価する一方で、「イラクでの
活動に危険がないということはない」「試練が伴うだろう」との見方を明らかにした。

 なんだか、自衛隊の皆さんが、アメリカの石油権益の確保のための「人身御供」と
してサマワ送りをさせられたような気がしてきました。

 日本がいたづらにアメリカの言いなりになっていたのでは、名誉ある地位を占めた
いなどといっていても、アメリカの占領の強化のためにやってきたのであって、普遍
の原理(国連憲章とか日本の憲法、国際法)も守れないような自衛隊派遣は、イラク
人やアラブ人から、軽蔑をかうばかりとなるのではないかと危惧します。

 今度の通常国会で日本が国際社会で名誉ある地歩を占めるには何をすべきか是非と
も真剣に討議して下さい。5年後に劣化ウランの症状を持つ患者が必ず現われるとイ
ラクの医師は警告しています。これも名誉ある地位をうるために避けて通れない人道
的大問題です。

 自衛隊員の一兵でも死んだら、小泉さんたち、7人衆のお陰だと嘆かれないように
して下さい。国民は注視するでしょう。

阿部拝
===========================
日本アラブ通信
http://www.japan-arab.org/
日本とアラブの事が総合的にわかるサイト

(近々に更新いたします。重要なニュースであればできるだけ掲載いたします)


阿部政雄
masao-abe@hi-ho.ne.jp
==========================


PS 先回の「拝啓 小泉首相殿」25 は 不手際のためコンピューターを二度押し
してしまい,失礼いたしました。お詫びいたします。

http://www1.jca.apc.org/aml/200401/37401.html

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