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『アメリカからの“独立”が日本人を幸福にする』---「アメリカはイラクで勝つことは出来ない」(『株式日記と経済展望』より)
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投稿者 まさちゃん 日時 2004 年 1 月 08 日 17:55:28:Sn9PPGX/.xYlo
 

『アメリカからの“独立”が日本人を幸福にする』---「アメリカはイラクで勝つことは出来ない」

2004年1月8日 木曜日


◆アメリカはイラクで勝つことはできない

戦争を仕掛けることは敗北につながる。20世紀が世界の国々に教えたのは、まさにそのことだった。その意味で、歴史は根本的に変わっている。19世紀までは、大規模な軍事行動によって、大きな国家的利益を達成することが可能だった。しかし、いまはそれができなくなっている。われわれの時代には、地域的な紛争はおそらく続くだろうが、外国の領土に対して帝国主義的支配を行なおうとする動きは、大きな災いを招くものと理解されているのである。

ジョージ・W・ブッシュ政権は明らかに、このことを理解していない。2003年、アメリカはイラクに攻撃を仕掛けたが、アメリカは最終的にイラクで勝利することはできない。決してできない。そして、それがもとで、世界の大国としての権威は低下していくだろう。これはかなりの確信を持っていえることだ。

いま、アメリカ人も非アメリカ人も、「今回のアメリカほど強大な国は、これまで存在したことがない」といっている。だが、彼らはあることを見落としている。ブッシュ政権のこのところの行動は、「国家安全保障」についてのワシントンの公式の考え方 18世紀で止まったままのように見える古い考え方 が、今日の世界の現実とどれほど遊離しているかを示している、ということだ。

大規模な戦争は時代遅れだということは、日本人が第2次大戦以降、心の底から感じてきたことだ。それだけに、日本政府がアメリカのイラク占領を支援するために自衛隊を派遣すると約束したのは、実に皮肉である。日本の人々は、イラクに兵士を送っているほかのすべての国が、悲惨な結果をもたらすこの間違った企てに参加する愚かしさを理解するとき それは近いうちにやってくるはずだ まで、自衛隊のイラク派遣が先送りされ、為政者たちがこの約束をすっかり忘れてくれることを、ただ願うだけだ。イラクヘの自衛隊派遣という約束を破ることは、日本の国益に大いにかなっているのである。

なぜなら、イラクは出口のない泥沼だからだ。イラク駐留のアメリカ軍に対する度重なる攻撃は、フセイン政権の残党だけによるものだというワシントンのプロパガンダを信用してはいけない。アメリカの占領に対するイラクの抵抗勢カは、フセイン政権の残党だけではなく、イスラム・ナショナリストと、植民地的立場を受け入れるの を拒否するイラク人たちも加わっているのである。

この抵抗運動は激しさを増しており、イラク全土に拡大しつつある。外国人がイラクから出て行くまでは、抵抗がなくなることはないだろう。イラク人の大多数が、サダム・フセインによる専制統治が終わったことを喜んでいるだろうが、それでも彼らはアメリカに支配されることを受け入れてはいない。ある国の国民が外国による占領を受け入れるとしたら、それは自国のリーダーが相手の国を先に攻撃し、そして敗れたときだけだ。

今回のイラクは、こうしたケースではなかった。アメリカ人が何度となくイラク駐留について、第2次大戦後の日本やドイツを引き合いに出してきたことは、彼らが世界や歴史について、いかに無知であるかを示している。

イラクの抵抗勢力による攻撃は、明確なメッセージを伝えている。占領軍や占領当局の近辺にいる者はもちろん、「復興」を支援している者も、人道支援のNG0の人々も、誰ひとりとして安全ではない、というメッセージである。外国の軍隊はどれもみな、たとえ国連のプルーのヘルメットをかぷっていようと、彼の地では無法な占領当局の協力者と見なされるだろう。

イラクの抵抗勢カが次第に組織を整えていく中で、外国の兵士はすべて、銑弾や爆弾、死を招く破壊活動の標的にされ続けるだろう。イラク侵攻によって帝国主義に突き進むというアメリカの企ては、歴史を知らない素人によって設計されたもので、悲劇に終わるのは目に見えているのだ。

米軍兵士の士気はひどく低下しており、恐怖から、あるいは威嚇という犯罪的な、間違った戦略の一環として、村々を破壊したり、罪もない人々を殺裁したりし始めている。こうした状況をよく知っている人たちは、ベトナムでのソンミ村虐殺事件(ベトナム戦争中の1968年、アメリカ軍はソンミ村で女性や子ども、老人を中心とする504人を虐殺した)のようなことが行なわれるのではないかと心配している。

政治的犯罪ともいうべきこの大きな誤りは、あまりにも悲劇的だ。プッシュ政権がイラクに留まる道を選んでも、この泥沼から逃げ出す道を選んでも、どちらにしてもイラクの混乱と中東地域のさらなる不安定化という悲惨な事態に立ち至ることになる。

私たちの世界を変える力を最も備えている国の政府にとって、イラク問題は関心事項のトップにくる課題ではない。ホワイトハウスの戦略策定者たちには、イラクを含む他のどんなものよりも優先される明確な目的がひとつある。ジョージ・W・プッシュの再選である。

これはすなわち、2004年の晩春ないし初夏には間違いなく、殺傷される危険性がある地域には米軍兵士は多くは残っていないだろう、ということだ。アメリカ国民が、米兵の犠牲者を増やし続ける大統領を選ぶとは思えないからだ。まやかしの暫定政府がつくられて、イラク人への「主権」返還という茶番が行なわれるだろう。その茶番には、新たな多国間主義と国連の関与という、これまた茶番がついてくるかもしれない。大幅に人員を削減された米軍兵士は、新たにつくられた要塞のような堅い守りの軍事基地の中に引きこもることになるだろう。

アメリカのメディアは9.11以降、プッシュ政権にとって致命傷になると思われる疑問をぶつけることを避けてきた。そして今度は、米軍部隊の撤退は民主化への第一歩であり、アメリカはその任務を果たしたのだという印象を生み出すのにひと役買うだろう。しかし、世界のほかの国々は、 アメリカの弱さを強く心に刻むことになるだろう。

大きな力を維持するためには、ひとつの秘訣がある。潜在的な敵国を抑え付けるために、その力を実際に使ってはいけないのだ。「あれほどの軍事カを行使されたらどうなるか」と想像することで、他国はその大国に従うのである。しかし、いじめっ子のように実際に力を振り回したのでは、尊厳を失ってしまう。

もっと重要な点は、アメリカがいまやその限界を露呈したということだ。イラクの状況は手に負えなくなっている。プッシュの取り巻きたちがやりたいと公言してきたこと アラブ世界に民主主義を押し付けること を、ワシントンは達成することができない。アラブ世界に民主主義を広めるのは、もちろんすばらしいことだが、軍事力によってそれを実現するのは不可能だ。

イラクに留まるならば、アメリカに対する憎悪が高まって、イスタンプールのイギリス領事館爆破事件のような、イラクの外でのテロ活動が多発することになるだろう。一方で、イラクから撤退しても、アメリカの軍事力の信頼性は大きく損なわれるに違いない。

北朝鮮の金正日が、「アメリカの軍專カはこの程度のものか」と思ったとしたら、それがどういう影響をもたらすか、想像してみていただきたい。北朝鮮はいうまでもなく日本のすぐそばにあり、日本人にとっては、もちろんイラクよりはるかに気がかりな国だ。あの閉鎖的な国の奇妙な脅しの習慣は、日本の国民全体の心理に、過去30年ほどのあいだに起きたどんな出来事よりも大きな衝撃を与えている。日本の一般市民が拉致されで、あの恐ろしい国に連れ去られることがあるとわかったことで、対朝感情はさらに悪化している。

北朝鮮問題はイラク問題とつながっているが、その理由は、ジョージ・W・ブッシュが両国を「悪の枢軸」に入れたことだけにあるのではない。このつながりは、日本にとって極めて重要だ。それは次のようなきわめて単純な言葉でまとめることができるだろう。

アメリカの現政権は、イラクでどう物事を進めれば安全な結果が得られるのかわかっていない。同様に、北朝鮮の政権が恐ろしい行動に出るのを防ぐためには、どう対処すべきなのかもわかっていない。北朝鮮の場合は、イラクと違って多少は希望があるかもしれないが、その理曲はアメリカ以外の国、たとえば中国にあるのである。(P6−P12)


カレル・ヴァン・ウォルフレン著 アメリカからの“独立”が日本人を幸福にする

(私のコメント)
イラク問題を考える上で出発点を、アメリカがイラクで勝てるかどうかと言う点から始めることが重要な意味を持つ。アメリカがネオコンが考えているような完全な勝利を得るとするならば、勝ち馬に乗ると言う意味で自衛隊派遣も意味のあることになる。しかしそんなことがありえるのか。イラク国民が親米的になり、抵抗の意志を示さなくなる事はありえない。

先日、キッシンジャー博士のインタビューを載せましたが、ベトナム戦争の教訓は生かされていないようだ。アメリカ軍はベトナム戦争では軍事的に負けてはいなかった。しかしアメリカ国内の反戦運動の高まりから、ジョンソン大統領は引退をせまられ、政治交渉で和平が成立しアメリカ軍は撤退した。軍事的に踏みとどまってみたところでアメリカ本国のダメージに耐えられなかったからだ。

現在のアメリカ国内の状態はベトナム戦争当時より脆弱になっている。徴兵制は廃止されイラク駐留している陸上部隊の交代時期が来ているが、そのやりくりがつかなくなっている。どうしてもイラク駐留軍を現在のまま維持するには、選抜的な徴兵制を復活させる必要があります。アメリカ国民はそれを支持するだろうか。

アメリカはイラクに駐留しても地獄、イラクから撤退しても地獄という最悪の選択に踏み込んでしまった。妥協の産物としてイラクの主要なポイントに、強固な軍事基地を建設してそこに閉じこもる作戦をとる可能性があります。しかしそれではゲリラ兵を根絶やしにすることは出来ない。ゲリラ側も自由に行動できるからだ。

イラク全土を完全に制圧するには少なくとも40万の兵力が要ります。しかしそれは無理だ。それでは完全撤退すれば良いのかというと、それではイラクがテロリストの巣窟になってしまい、周囲の国からの干渉で内乱状態になってしまう。アメリカ軍としてはアフガニスタンのように統治することは放棄して拠点だけ守るしかなくなる。最近のニューズウィークではイラクの状況を次のように報じている。

11月、米軍はバグダッドやティクリートでゲリラ掃討作戦を開始。障害物をブルドーザーでつぶし、反米勢力の拠点とみられる農家に猛爆を加えた。ときには誤爆もあった。そして圧倒的な火力に頼るその戦法は、ベトナムの二番せんじにしかみえなかった。
 同時に米陸軍は、要塞に立てこもるようになった。バグダッド北東のバクーバーにあるウォーホース・キャンプでは、軍用滑走路の周辺に土の防壁が築かれ、有刺鉄線が張りめぐらされている。寝るときもヘルメットと防弾服は欠かせないありさまだ。
 米軍のキャンプ内には、ピザハットやバーガーキングまで登場。敷地内を移動するバス路線が、9本あるところもある。ベトナム戦争中に米軍最大級の前線基地があったダナンを思わせる光景だ。
 キャンプから車で外出するときは、攻撃を回避するため時速100キロ以上のスピードで道路の真ん中を突っ走る。爆弾を隠しやすい道路周辺の木々は抜き取られ、ヤシの木が美しく並んでいたバグダッド空港に通じる道も、今ではすっかり殺風景になった。
 こうした対策やゲリラ掃討作戦のおかげで米軍の死者は、11月の1日平均約4人から12月には1人程度にまで減った。だが、イラクの人々の信頼を得たからではない。
 「アメリカ人は自分の身を守ることしか考えていない」と、イラクの人々は不満をこぼす。市街などを巡回する兵士の数は、11月には1日1500人だったが、12月は500人に減らされた。

このような状況がしばらく続くことになるのだろう。日本の自衛隊も鉄条網に遮られた基地の中で駐留するようですが、一日3万円の特別手当が出るそうだ。へたに市街地に出れば襲撃される危険性があるから外出もままならず、復興支援もどの程度できるのだろうか。

今のところイラクゲリラを支援する国はないが、石油の宝庫であるイラクが放置されるはずもなく、徐々にゲリラ勢力を支援するところが出てくるはずだ。だからこそイラクのような国は民主政治が出来るはずもなく、サダム・フセインのような強力な独裁政権でないと統治は難しい。結局アメリカはイラクを放り出すことになるだろう。

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