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合意得られず交渉継続 日本メキシコFTA協議 --- 農産物によって踏み潰される日本の通商戦略
2004年3月7日 日曜日
◆合意得られず交渉継続 日本メキシコFTA協議
日本とメキシコの自由貿易協定(FTA)締結に向けた政府間交渉は5日、10日間にわたった事務レベル交渉を終えた。鉱工業品では歩み寄りが進んだものの、農産品分野で溝が埋まらず、当初目指した「実質合意」は得られなかった。
両国とも「できるだけ早い合意に向け努力することでは一致」(外務省筋)しており、今後も交渉を継続する。来週にはメキシコのウサビアガ農相が来日、亀井農相と会談する見通しで、交渉が前進する可能性もある。
今回の交渉で、自動車や鉄鋼など鉱工業品についてはメキシコ側が無税枠設定や段階的に関税撤廃を進める方向で調整中。政府調達でも日本企業の参入を原則容認するなど「双方の立場は徐々に近づいている」(経済産業省関係者)。(共同通信)
[3月5日19時9分更新]
◆小泉流国際経済戦略は「豚の味」 慶応義塾大学教授 竹森俊平
WT0の通商交渉が難航するのを尻目に、FTAの方は「締結」が相次いでおり、これからはWT○よりもFTAの時代だといわれるのも、うなずけるものがある。WT0の交渉の場では、強硬な反対を示す発展途上国も、FTA交渉は先進国がさほど大きな譲歩をするわけではないのに、簡単に締結に落ちてしまう。とくに最近、アメリカやヨーロッパが、FTAによって自由貿易協定国を取り込んでい<勢いには目を見張るものがある。だが、そもそも、WT0ではうまくいかない通商交渉が、FTA締結についてはなぜ円滑に進むのであろうか?
◆「各個撃破」の勝者は誰か
この点を考えるのに当たって、鍵となるのは「直接投資」である。発展途上国にとって、日米欧などの先進国が自国に直接投資をしてくれることは、熟練労働の育成や、技術の習得という点でもっとも確実な効果があるから、まことにありがたい。外国からの多国籍企業であれぱ、製品を海外に販売するのまで自分で手配してくれるから、この点も海外でのビジネス経験の少ない発展途上国にとっては有利である。事実、近年のエマージング・マーケット(新興工業国)といわれる国々は、いずれも直接投資をばねにして、経済発展を遂げている。
こういう事情だから、先進国を本拠地とする多国籍企業は、どこでもちやほやされて、まさに引く手あまたである。どこに進出するか、進出先を選ぶに当たっては、些細な違いが重要な意味を持つことになる。たとえば、発展途上国に進出したからといって、はじめから全生産工程を現地で行えるわけではないから、大部分の部品を、多国籍企業は自国から現地に輪出しなければならない。この時、ある発展途上国がそうした部品の輸入に対する関税をゼロにすると言ってくれたとしよう。これはビジネス上有利な条件だから、その発展途上国が進出先として俄然、有望になる。
.また、投資ルールについても同じことである。ある発展途上国が多国籍企業に対して、部品のうち60パーセントは現地で生産しなければならない、といった注文をつけてくれば、そんな発展途上国は進出先として魅力がなくなるが、別の発展途上国が、自国はそのような注文は一切つけないと確約してくれるなら、そちらの国が進出先として俄然、有望になる。
ここで、多国籍企業の本拠地がある先進国の政府の立場を考えて見よう。その先進国政府はビジネスを奨励する立場から、有利な条件での直接投資なら多国籍企業の後押しをしたいと考えている。また、さらにそれ以上に、自国の輸出が伸びることを望ましいと考えている。そこで、いま、アメリカ政府が、南米の国、たとえばチリを相手にして通商交渉をしたと考える。アメリカ政府はチリ政府にこう言うだろう。
「うちには、南米への進出を考えているXという企業がある。もしチリがアメリカからの輪入に対する関税率をゼロにして、しかもこちらの提示する投資ルールを呑んでくれるなら、Xはおそらくチリに進出する。もし、チリがそれを断るならば、アメリカ政府はこれからブラジル政府と交渉する。ブラジル政府がもしこちらの条件を呑めば、Xはおそらくブラジルに進出するだろう」
こう言われれぱ、チリ政府にとってアメリカ政府のオッファーを断るのは難しい。それでチリがアメリカからの輪入の関税率をゼロにすることを決めて、FTAの一丁上がりである。ここで注目してもらいたいのは、この時、関税の譲歩(引き下げ)がチリによって一方的になされて、アメリカからの関税の譲歩はまったくゼロであることだ。まあ、あえて言えば、チリはアメリカとのFTAを結ぶことによって、今後、アメリカが気まぐれによって、自国に対して保護貿易措置をとる危険が少なくなると考えることができるだろう。だが、チリとFTAを結ぶことで、アメリカはプラジルとのFTAを結ぶチャンスを失うのではないか?
そんなことはない。チリとFTAを結んだ後、アメリカの通商代表は次にブラジルに行って、その政府に対してこう言う。「チリとの間のFTAが結ぱれたことで、これからアメリカの企業はブラジルを避けてどんどんチリに進出するだろう。ブラジルがそれでもアメリカ企業の進出を望むのなら、一刻も早く、アメリカとのFTAを結ばなけれぱならない」こう言われれば、ブラジル政府もアメリカ政府のオッファーを断ることは難しい。
こういう、.「各個撃破」の戦術を使えば、アメリカ政府は自分の方からほとんど通商上の譲歩をすることなしに、相手の国がアメリカからの輸入に対する関税率をゼロにするという譲歩を勝ち取っていくことができる。だが、なぜ、WT0の場では、先進国にとって有利な、このようなタイプの交渉ができないのだろうか?
理由は藺単だ。WT0では、「全関税率を一律50パーセント引き下げる」といったルールで交渉がされるから、特定の国が特定の相手国に対してだけ有利な関税譲歩をすることはできないのである。したがって、「各個撃破」の戦略は不可能になる。ブラジルとチリが、鉱工業品の関説率を同時に下げるというのであれぱ、直接投資を考えるのにどちらかの国がとりわけ有利になるわけではない。アメリカだけでなく、他の全部の国に対する関税も下げなければならないのなら、チリは関税を下げ渋る。それを知っているから、ブラジルも特に自分の方から関税を下げようとはしない。こういうわけだ。
FTAによる「各個撃破」の戦略に基づいた競争が世界規模で進むなら、勝者は間違いなくアメリカであろう。ヨーロッパも市場規模は大きいが、ユー口圏の続合がある分だけ、外部の国はその市場に入り込むことは難しいと感じるだろう。その点、外部に対してオーブンなアメリカの市場は魅力であり、アメリカが保護貿易主義の気まぐれを起こす危険は、FTAの協定国にとっては少ないということは、さらに大きなブラス材料となる。
しかし、アメリカがどんどんとFTAの締結を進めていくというシナリオ は、わが国にとっては大きな脅威である。つまり、WTOの枠組みによって、現在はアメリカの勝手な行動に歯止めがかけられているわけだが、「各個撃破」の戦術によりFTAを結んでいく場合、アメリカは自国にとってかなり有利な条件を設けている。それで、この勢いで、数年先か、数十年先に、アメリカが50カ国くらいとFTAを結んだとしよう。その時、アメリカはWTOにだけ参加している国々に対して、次のように宣言するかもしれない。
「WT0の通商ルールはアメリカの国益にまったく反するから、アメリカはもはやこれに興味を持たない。そこでWT0を脱退することにする。だが、この中でアメリカとの友好的な通商を続けたい国がいるなら、その国は、アメリカがこれまでFTAを結んできた国との間で新設する友好貿易協定に参加するこどができる」こういうオッファーを受ければ、そのオッファーを受けた国は、今後はアメリカの保護貿易措置に苦しめられるか、それともアメリカとの間の友好的(決して対等ではないが)な通商交渉を締結するかの選択を迫られることになる。それで通商は、アメリカにとって、より都合のよい条件のもとで行われることになるだろう。
これは恐怖のシナリオだが、FTA競争がどんどん続いていく先に、このような可能性がありえることは間違いがない。そういう事態を避けるにはどうしたらよいだろうか?まず、既存のWTOの組織が強化されて、その中で先進国と発展途上国の両方にとって利益となる通商交渉が締緒されていくようであれば、それ に越したことはない。
そのためには、先進国は農産品での関税譲歩をするしかない。強化されたWTOは、特定な国がルールを著しく外れた行動をとることを抑制するだろう。筆者がカンクンのWT0交渉が決裂した後の記者会見における、日本の閣僚のリラックスした様子にショックを受けた理由はこれである。しかし、WT0の新ラウンドの交渉がうまくいかない場合には、日本は自らもFTAを結び通商ルートの確保をはかるべきである。
たとえば、日墨自由貿易協定が結ばれた場合、日本はメキシコに現地子会社を進出させれば、間接的な米国市場に対する無税輸出ができることになる。つまり、まず、日本からメキシコの現地子会社にFTAを利用して無税で部品を輸出し、次に現地予会社がNAFTA(北米自由貿易協定)のロ-カルコンテント(現地生産基準)を満たすように、現地生産した部品を混ぜながら最終製品を生産し、次にNAFTAを利用して最終製品を米国市場に無税で輪出すれぱよい。この場合、日本から輸出した部晶は無税で米国市場まで届くことになる。日墨自由貿易協定がお流れになったことで、この構想もとりあえずお流れになる。。
◆「マニフェスト」は「豚」によって踏みにじられた
しかし、このまま、日墨自由貿易協定が決裂した場合、その先には恐ろしいことが待っている。現状において、NAFTAを結んでいるアメリカや、FTAを結んでいるヨーロッパは、メキシコに対して無税で自動章を輸出しているが、それに対して、日本から輸出される自動車には20ー30パーセントの関税がかけられている。この結果、日本車は国際競争力を持ちながら、メキシコ市場におけるシェァはヨーロッパ章の2割ほどでしかない。
ところが、近い将来、メキシコはFTAを結ばない国々に対する自動章、の関税を50パーセントぐらいに引き上げる予定だという。そうなれば、日本車はメキシコ市場から完全に追い落とされるだろう。おそらくは、それに続いて、日本は南米市場全体を失うことになる、農産品保護が理由で、メキシコとのFTAが結べない日本が、農業国であるアルゼンチンやプラジルとのFT結べるわけがないからである。それで日本が逡巡している間に、ヨーロッパやアメリカは、南米とのFTAを続々結んでいく。そうなれば、日本製品は南米市場から追い落とされる。FTA競争の続く世界は、仮借なき貿易競争の世界だということを思い起こさねばならない。
しかし、アメリカがほとんど通商上の譲歩をしないでFTAを次々と結んでいるのに、日本は農産物という、政治上困難な分野での関税譲歩を行わないかぎりFTA締結に持っていけないのだろうか?そこがおそらく、今回、日本政府が判断を間違えた犬きな原因であろう。つまり、日本政府は豚肉の関税など引き下げなくても、メキシコは日本からの直接投資を増やしたいから、鉱工業品の関税引き下げに応じてくれる。だからFTAの締結は容易だと考えていたのである。
したがって、わずかぱかりの豚肉の低関税枠しか提示しなかった。ところが、そうではなかった。メキシコは自国の関税率引き下げの代償として、日本側にもしっか りと関税譲歩を求めてきたのである。これがアメリカだったなら、そんな譲歩を求めなかったかもしれないが、いかんせん、いまの日本の経済的、政治的実力では、そのような違いが生まれて当然である。
ようするに、日本は足下を見られたのである。このまま、FTAを少しも進めることができなければ国際通商上孤立するという日本の苦境を読んで、メキシコは高飛車に出た。これもこれまでFTAを積極的に進めてこなかった報いである。気がついたら、自分の相手となってくれる国はどこもいないとなったら日本はどうするのか?そんな日本からの直接投資が増えなくても、その分だけヨーロッパやアメリカからの直接投資が増えるだけだ。あるいはメキシコはそう考えたのかもしれない。
だが、こうしたことがあっても、日本側が相手の希望に沿って豚肉の無税枠を設けれぱ解決が出来たのである。そもそも、「豚肉農家」という低抗勢力にぶつかって、こうもあっさりと自由貿易という改革の旗印を下ろすようでは、「構造改革」に真面目に取り組んでいると言えるのか?そんなことで、これから郵政や道路公団を民営化する時に、激化する低抗勢カとの戦いに勝ち抜けるのか?
マニフェストで「対外経済政策」にまったく触れていない野党も問題だが、自民党のマニフェストではFTAを推進すると公約しておきながら、早くもそれに矛盾する行動をとった小泉政権はもっと問題である。10月16日。つまり、日本の国際経済戦酪が「ポーク・バレル・ポリティ.ツクス(利益誘導政治)」によって瓦解した日を、われわれは決して忘れてはいけない。(諸君12月号より)
(私のコメント)
日本とメキシコとの自由貿易交渉のニュースは大きくは報じられませんが、日本の経済戦略上の上では大きな経済問題です。WTOでは発展途上国からの要求が厳しくてほとんどまとまらないことが多いのに対して、FTA交渉では各個撃破が可能だからだ。アメリカやEUはFTAを戦略的に進めており、効果を上げているが日本はほとんどFTAが進んでいない。
これは米の自由化の歴史を見ても分かるとおり、日本の農産物保護の政策に柔軟性を欠いており、強硬な姿勢を崩さないからだ。日本の農業政策はどれだけ保護したところで、農業国の農産物にはコスト的に太刀打ちが出来ず、高い関税の壁を築いて、さらには補助金付けの農政は、農協のみが肥大化して歪な農村が出来上がっている。
今まで「りんご」やオレンジや「さくらんぼ」などの農産物が自由化されてきましたが、日本の農家は壊滅しただろうか。自由化された当初は輸入されましたが、その品質や味などが消費者に合わず外国産の農産物は姿を消している。日本とメキシコとの自由貿易協定も豚肉が原因となって交渉が難航していますが、豚肉の関税を下げると日本の養豚は成り立たなくなるのだろうか。
BSE騒動でアメリカから牛肉の輸入がストップしていますが、オーストラリア製の牛肉を使った牛丼が何故出来ないのだろうか。それは同じ牛肉でも質が違うから代替は難しいのだ。日本の和牛とも高級化で差別化されているから、アメリカの牛肉代わりにはならない。お米にしても日本の消費者は高級ブランド米嗜好で、外国産米がいくら安くても買わないように、農産物も高級化や差別化が出来れば自由化しても問題はない。
それなのに何故、農産物の自由化が進まないのだろうか。日本の農家を保護するためではなく、農協などの農業団体が、自分達の利権が侵されるから自由化に反対するのだ。自民党はもっぱら地方の農家を選挙区とする議員が多いから、どうしても農産物の自由化は進まず、都会の消費者の声が反映されにくい。これが日本のFTA戦略がうまく運ばない原因となっている。
日本とメキシコとの交渉で豚肉で譲ったとして日本に不利益な交渉になるのだろうか。交渉が成立すればメキシコから安い豚肉が入ってきますが、日本の養豚業が全滅するわけではない。豚といっても沢山の種類があり、同じ種類でも品質が違う。メキシコでは出来ない種類の豚肉は出来るだろうし、品質も高級化すれば売れるだろう。
日本から見てもメキシコとのFTAが成立すればアメリカへの市場進出が出来るし、アメリカとの貿易も多極化できて、経済戦略上進めなければならない交渉だ。さらにはアセアン諸国とも自由貿易圏構想がありますが、その第一段階として各国とのFTAで進めていくことが求められる。しかし現在の自民党政権では進めるのは難しいだろう。