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イラク邦人人質 崩れる政府の論理【東京新聞】
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040410/mng_____tokuho__000.shtml
復興支援という"幻想" 非戦闘地域認識 自衛隊も危険に
イラク邦人人質事件は、政府が繰り返す「人道・復興支援」を揺るがしている。自衛隊派遣の前提となった「戦後」は遠く、一貫した「米国支持」は現地の反米感情にさらされる。日本が明確な「敵」と名指しされる中、事件を招いた底流とは−。
「私自身の問題ではなく、国全体の問題だ。イラクの復興支援にどう取り組むかの問題だ」
小泉純一郎首相は九日、首相官邸で記者団から自衛隊派遣に伴い、民間人が巻き込まれたことへの政治責任を問われ、気色ばんだ。
だが、武装集団からの声明文は「おまえたちの軍隊」と断じながら、「米国の不信心で堕落した軍隊に武器と兵士を提供した」と問いつめる。政府が繰り返した「復興支援」が、全く受け入れられていない現実が突きつけられた形だ。
軍事評論家の神浦元彰氏は「そもそも、最初から自衛隊派遣に関しては論理が破たんしていた。現地の人から見れば、軍服を着て、装甲車に乗った集団は『軍隊』だ。米占領軍の一部でしかない」と指摘、今回の事件について「非戦闘地域などとして、『戦場』という認識を避けた政府が招いた結果だ」と断じる。
現代イスラム運動に詳しい同志社大の中田考教授は、「復興支援」について「戦火と国土の破壊を招いたのは米英、加えて日本などイラク戦争の支持国であり、復興支援は手前勝手な論理。本来は賠償であるべきだ」と批判する。
■「技術は必要 軍隊はいらぬ」
「援助内容は占領当局がつくるのではなく、イラク国民の要望が土台になるべきだ。たしかにイラク人は日本にカネや技術、人の援助を求めているが、軍隊はいらないと考えている」
神浦氏は別の角度から「復興支援」の矛盾を指摘する。「武器を持ったデモ隊に米軍は発砲できるが、自衛隊は撃ち返せない。戦場でないなら、武装したデモ活動も、市民生活の延長線上でしかないからだ。結果的に自衛隊員は危険にさらされる」
イラクの現状は、明らかに戦争状態だ。米CNN放送によると、駐留米軍司令官は八日、ナジャフ、クートの両都市が米軍の統制下にはないと認め、AP通信によると、今月四日からたった五日間で、米軍の攻撃で、ファルージャを中心に、少なくともイラク人四百五十人以上が死亡したという。死傷者の中には、攻撃に巻き込まれた女性、子どもも多数いるといわれ、AP通信の取材に、病院関係者は「がれきの下に相当数の死者や負傷者がいるが、救出できない」と話す。
新たな戦争局面に入った米軍について、中田教授は「過去、掲げた大量破壊兵器、独裁者といった根拠は消え、米軍はいま、民衆を殺している。大義などあったものではない。米国にはイラク民衆が武装している点を責める資格はない。米国自身が国民の武器保有や民兵の存在を認めているのだから」と看破する。
日本の視野の狭さ露呈 「対テロ世界戦」化の現実に追いつけず 中立性や善意通じる余地なく
こうした現状にもかかわらず、米軍ヘリによるシーア派空爆などについて六日、福田康夫官房長官は「治安維持の責任を負っている連合軍がいろんな措置を取ることはやむを得ない」とし、治安悪化を危ぐしながらもあくまで「現状は予想の範囲内」と、強調した。
だが、本当に予想の範囲内なのか。外務省関係者が内情をこう明かす。「各国の情報機関から、本省に危険情報が入ってくるが、現地の大使館職員には連絡していない。今の状態では、連絡したとしても、じっとしている以外なすすべがないし、不安をあおるだけだからだ」。関係者によると、派遣された自衛隊の情報収集も、米軍とオランダ軍頼みで、独自には入手できないのが実情という。
「危険地域」では、ジャーナリストも非政府組織(NGO)も、外務省などには頼らず、独自に情報を入手している。
昨年五月、ヨルダンから今回人質となった三人と同じルートを通りイラクの首都バグダッド入りした経験があるNGO「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」海外事業担当の大島芳雄さん(53)は「国境から首都までの八百キロを時速百六十キロ以上出して入ったが、米軍は、装甲車で主要拠点を巡回するだけで十分な治安維持活動をしていなかった。いずれ今回のような内戦状態に陥ると思った」と振り返る。
「国連はコンフリクト・エリア(紛争地域)での安全対策マニュアルとして『人道援助はターゲットにみなされないが危険に巻き込まれる恐れがある』としている。今、イラクは米国に追随する国の人々に反発する勢力や、反占領勢力が台頭し、中立性や外国からの援助を受け入れる余地がない状態だ」と指摘する。
二十年前からアフガニスタンで医療、干ばつ対策支援などを行っている「ペシャワール会」では、何年も前から、独自に「危険情報」を収集している。
■「招かれた客」の証明がまず一番
同会の福元満治理事は「外務省からも『危険だから出歩かないように』などとするメールは来るが、そもそもカブールの日本大使館には、カブール市内の限られた地域の情報しかない」と説明する。
福元理事は「私たちは『日本政府とは別だ』と話しているし、活動しているエリアではタリバンであれ、反タリバン、あるいは軍閥であれ、活動は理解されている。ただ、イラク開戦後、都市部などでは外国人というだけで狙われる。実際、他のNGOはかなり襲撃されている」と話す。
前出の中田教授はこう指摘する。
「現地は文字通り戦場。善意の行動にせよ、非常事態下でスパイと誤解された可能性もある。そうした事故を避けるには、自分が現地から『招かれた客』であることを証明することが一番。イスラム法では『アマーン(身元保証)』の規定があり、同じ信徒が招いた客には保護義務が生じる。そうした知識やイラク国内の受け入れ先との連携が十分だったのだろうか」
元時事通信記者で、一九八〇年代にレバノン内戦を取材した静岡産業大の森戸幸次教授は「国際政治の現実と日本の狭い視野のずれが如実に表れたのでは」と、事件の底流を指摘する。
「政府の『復興支援』にせよ、NGOによる人道援助にせよ、日本は(ブッシュ政権が勝利宣言した)昨年五月時点の情勢認識に引きずられている。だが、イラク現地は数カ月前から、復興の場ではなく、米国が反米勢力すべてをたたきつぶす『対テロ世界戦争』の主戦場に変質した。日本は政府も民間も、その緊迫した現実に追いついていない」
※デスクメモ
同僚記者は87年、レバノンで戦車を撮影し、シリア軍に逮捕された。フリーランスの記者だった。「いくら自分は第三者と思っていても、通用しない。戦場では敵か味方かの二つしかないと思い知らされた」。たとえ日本にいても、そうした状況に巻き込まれつつあると感じる。