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SEに求められる「人間」と「日本語」の視点【IT_Pro記事】
http://itpro.nikkeibp.co.jp/members/NIP/skillup/20040714/1/
ITプロフェッショナルたちへ
日経ITプロフェッショナル2003年3月号,11ページより
板倉 稔
セゾン情報システムズ常務取締役
システム技術センター
センター長
1944年生まれ。67年,慶應義塾大学経済学部卒業後,富士通でSEとして活躍。「スーパーSE板倉稔のホームページ」(http://homepage3.nifty.
com/super_se_itakura/)で,プロジェクト管理の情報を発信している
私がSEになったのは35年前。コンピュータを見たことがあるだけでも「先生」と呼ばれた時代だ。もちろんソフトウエア開発やプロジェクトマネジメントの方法論なんて,言葉すらなかった。
この30数年間で情報技術は急激に進歩した。だがあちこちで噴出している失敗プロジェクトを見ると,ソフトウエア開発やプロジェクト管理の手法はあまり進歩していないようだ。
世界標準のソフトウエア・エンジニアリングやプロジェクトマネジメントの手法に忠実にのっとっていないから失敗するという声がある。私はそうではないと思う。そもそも人間とソフトウエアの距離はあまりにも遠い。業務をシステム化する際は,その距離を強引に埋めなければならないわけだが,そこで発生する問題を,エンジニアリング(工学)だけで解決するのには,無理がある。
SEの文章力は壊滅的
では何が必要か。SEは「技術」と「業務(システム化する対象)」に精通していなければならないとよく言われるが,私はそれに加えて「人間」にも精通しているべきだと唱えている。
顧客の抱える問題や要望を聞き出す際に担当者や現場の利用者の説明が的を得なかったり,人によって要求が食い違っていることはよくある。同じ担当者でも,途中で考えが変わることもあり得る。
また担当者は,組織の中で常識になっている業務については文書化しないし,外部の人に説明しようとしない。そのかわりに例外的な業務に対しては,万全の対策が必要だと強く主張する。その結果,日常の業務に即していない,極めて使い勝手の悪いシステムができてしまう。
このように人間の行動特性を理解しておかないと,業務の本質が見えなくなり,プロジェクトは失敗する確率が高くなる。
SEは“言葉”にも神経を使って欲しい。プロジェクトが失敗する大きな原因として,SEの国語力が低いことも挙げられる。特に文章力(物事を論理的に考え,正確に文章で表現する力)は壊滅的と言ってもいい。
そもそも日本語は省略が多く,あいまいな言語だ。1990年代の半ばにインドのあるソフト会社が品質管理の方法を外国に学ぼうとして,日本と米国に調査団を送ったことがある。その結果,方法論を米国から輸入することにした。その大きな理由の1つが,日本のドキュメントは行間に意味が込められていて,分かりにくいというものだった。
日本人同士でもこれは同様だ。同じような知識,常識を持つSE同士なら理解できても,SEとユーザーの担当者の間ではそうはいかない。よほど注意して言葉を使わないと,正確な意味が相手には伝わらない。要件定義や仕様書作成の際には,できるだけ厳密かつ正確に言葉を使うよう心がけるべきだ。
日本から方法論の発信を
欧米の方法論や考えを何でも取り入れる必要はない。ときには独自にアレンジし,自分たちだけの方法論を持つことも必要だろう。
トム・デマルコとティモシー・リスターが1990年にまとめたソフトウエア・エンジニアリング論文集「SOFTWARE STATE-OF-THE-ART Selected Papers」の中で,私が83年に書いた論文が引用されている。プログラムの構造を解析することで,見積もり精度を向上させる方法について書いた論文だ。これはあるプロジェクトで考え出し,実際にやってみた結果を書いたもの。いわば現場の産物だが,高い評価を得た。
現場の経験や人間同士のコミュニケーションから生み出される効果的な方法論はまだまだあるはずだ。それを見つけ出し,大いに世界に発信して欲しい。
(談)
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