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ネット時評、Every Citizen is a Reporter!【IT日経】
http://it.nikkei.co.jp/it/njh/njh.cfm?i=20040708s2000s2
7月12日(月)
築地 達郎 京都経済新聞社社長
「登録記者3万3000人」を抱えるという世界最大のオンライン報道機関が韓国にある。人口4000万人の同国で1日最大2000万ページビュー(PV)を数えるという同サイトが掲げるコンセプトは、「Every Citizen is a Reporter」。同様のスローガンを掲げるサイトが少なくない中、なぜこの「OhmyNews」が成功したのか。このほど、ソウルの同社を訪ねて聞く機会があった。
ニュースゲリラ
ソウル中心部の官庁街。OhmyNews社はその一角に建つ賃貸オフィスビルに本社を構える。2フロアに分かれたオフィスの広さは合わせても高校の教室4つ分ほど。編集部門の部屋では、ところ狭しと詰め込まれた机にかじりついて、20人余りのスタッフが仕事をしている。
「一番手前が取材陣、2番目の“島”は記者から上がってきた記事をチェックするニュースデスク、そして3番目が『ニュースゲリラデスク』です」。案内役のミンさんが説明してくれる。
ニュースゲリラデスク――。これこそが、市民記者とサイト読者とをつなぐ重要な結節点だ。
市民記者から寄せられる原稿は1日に150本から200本。これを4−5人のニュースゲリラデスクが1本ずつ読み、掲載の可否を判定していく。掲載率は7割程度という。
市民記者は意見を書く
業界人として訪問前に最も気になっていたのは、「市民記者が書いてくる原稿の中身が真実であるかどうかをどう判断するのか」だった。プロ記者の場合は事実確認の訓練がされているし、書き手の責任を問うこともできる。だが、アマチュアにそれを求めると、寄せられる原稿数を抑制することにもなりかねない。
答えは意外に簡単だった。「自分の意見を書いてもらえばいいんです」とミン氏。報道機関としての土台の部分は、実は35人のプロ記者集団が支えている。ハードなニュースや分析記事はプロ記者が書き、市民記者に期待するのは「エッセイ」や「書評・映画評」「メディア評論」などなのだという。
「氏名などコンファームしなければならないことは、書き手本人に電話をかければほぼ解決する場合が多い」とも。書き手本人の回答が不明朗なときはボツにすればいい。それだけのことだ。
自前のプロ集団で核を作り、市民記者システムでメディアとしての広がりを作る――。2000年2月22日にスタートしたこの仕組みが、その後、韓国社会とメディア業界を揺り動かすことになる。
盧武鉉政権の誕生、そしてつい数カ月前の与野党逆転(少数与党が総選挙で大逆転を果たした)といった政治的事件はOhmyNewsへのアクセス数を爆発的に増やし、その世論形成力が実質的に盧武鉉政権を支えてきたと言われる。総選挙後、廬大統領が会ったただ一人のメディアトップがOhmyNewsのオ・ヨンホ社長だったことが、その関係を物語る。
“投げ銭”システムでも収益
収益的にも成功と言える段階に来ている。収入の額は非公開としているが、収入の7割が広告で「そのうち週刊のダイジェスト紙(10万部)の広告が20%」(ミン氏)。週刊ダイジェスト紙を創刊した1年ほど前の現地からの報道では「紙を出したことでようやく収支が合った」と言われていたから、この1年間にネット上の広告が大幅に増えたことになる。
実際、サイトを見ると、LGやサムスン、SKテレコム、POSCOといった優良大手企業がこぞって広告を出稿するようになった。訪問時にもらったA4版の英文会社案内にも、大手企業の広告が大量に入っていた。
このほかに、ポータルサイトなどへのコンテンツ外販が収入の2割を占めるようになった。そして、残り1割は、読者から市民記者への“投げ銭”を仲介する手数料収入だという。“投げ銭”は携帯電話からのボタン指示で送る方式だ。
韓国民主化の嫡子
成功の理由を、オ社長はこう分析する。
「第1に、読者は保守的な大手3紙の独占に飽きていた。公正で独立した報道機関を求めていた。第2に韓国の人口規模が適当で、完全にネット化されていた。そして第3に、『386世代』の存在があった」。
「386世代」とは「30歳代で、1980年代に大学を卒業し、1960年代生まれ」という意味だ。1964年生まれのオ社長自身が正にこれに当たる。彼らは、民主化運動の最中に青春期を過ごし、反政府運動で投獄の憂き目にあった人も少なくない。そして、その後の着実な民主化の担い手として、自負を強めている。
つまり、「政治報道」という領域が386世代にとっては極めてリアルで、誰でも参加しやすいテーマを設定できたということが、OhmyNews躍進の最大の要因であるように思える。
そうした環境の中、オ社長は、スタート時に727人もの市民記者を登録させることができた。今でこそ「スタート後に市民記者が50倍に増えた」と言うこともできるが、ゼロから700人にするエネルギーの方がもっと大きかったはずだ。20年来の民主化運動の“嫡子”と言っていいかもしれない。
オピニオンに価値
「この国ではもうニュースは有料で売れない」。ソウルの中堅新聞で論説委員を務める知人は、真顔でこう言った。
同国では、2年前にスタートした無料日刊新聞「METRO」も成功している。同紙はスウェーデン発祥で世界展開する無料紙METROの韓国版だ。日本の共同通信社に当たる聯合(ヨンハップ)通信社が創刊に関与したことで、一般紙と同じ量と質の記事が無料紙に載る。
ネット上のOhmyNewsと紙のMETROの挟撃にあって、同国では「ニュースはお金を払って手に入れるもの、という観念が消え去ってしまった」(論説委員)。
別れ際、知人がこんなことを言った。
「紙の新聞の可能性はオピニオンしかない。10人の有力なコラムニストを揃えることができた社が生き残ると思う。(大手に押されてきた)ウチにもチャンスかもね」。
彼のイメージは、野球で言えば松井秀喜や中村紀洋のような名選手を10人揃えるという感じだ。韓国ではおそらく今後、そうした有力コラムニストの報酬はウナギ上りになるのだろう。
隣国の報道界は、厳しくも面白い時代に入ろうとしている。