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精神鑑定とは何か
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投稿者 クエスチョン 日時 2004 年 6 月 12 日 11:45:55:WmYnAkBebEg4M
 

(回答先: 佐世保・小6事件、観護措置女児の精神鑑定を申請【読売】 投稿者 クエスチョン 日時 2004 年 6 月 12 日 11:43:02)

精神鑑定とは何か
http://www.n-seiryo.ac.jp/~usui/news/kanntei2.html

福島章 著 より

1997.8.5作成 2003.9.18加筆

講談社 ブルーバックス ISBN4-06-257075-0


1、精神鑑定とは何か

精神鑑定とは、

 法律関係者が事件に関して法律以外の専門家の援助を求める作業を「鑑定」という。たとえば、法医学的な鑑定などがある。

この鑑定の中で、精神医学や心理学に関わるものを「精神鑑定」と呼んでいる。精神鑑定をする鑑定人の多くは、精神科医だが、心理学者や家裁の調査官が選ばれることもある。

(ウェブマスターである、私、碓井真史(社会心理学)も、某裁判所から精神鑑定人依頼の打診を受けたことがあります。裁判所の方といろいろ話しまして、結局、他の精神科医が行うことになりました。このことを知り合いの弁護士に話しましたら、「精神鑑定人なんてなったらとっても大変だから、やらなくてよかったよお」といわれてしまいました。

社会心理学者で、マインドコントロールの研究をされていた方が、以前オウム真理教事件の裁判で、精神鑑定人をされたことがありました。たぶん、とても大変な仕事だったと思います。)

 日本で最も多い精神鑑定は、取り調べの段階で、検察官から委嘱される「起訴前鑑定」である。これには、1回だけの面接で結論を出す「簡易検定」と、2〜3ヶ月をかける「本鑑定」とがある。
 精神鑑定の結果、責任能力を問えないと検察官が判断すれば、起訴されないことになる。

 起訴後に裁判所の命令で行われる精神鑑定を「司法精神鑑定」という。これに対して、弁護人、検察官などの一方が、自分の主張を立証するために、個別に専門家に意見を求めることがある。鑑定人は、「鑑定意見書」などと称する書類を作成することもある。

 精神鑑定の結果を一方が不満として再鑑定を申請して認められれば、何年間にもわたって、精神鑑定が繰り返されることもある。

(埼玉、東京連続幼女殺人事件では、3種類の鑑定結果がでました。こういうふうに、結果の異なるいくつもの鑑定が出たときには、結局、裁判官がどれを採用するかを決めることになります。)

心神喪失と心神衰弱

 「心神喪失」とは、精神障害のために、自分の行為の善悪が判断できないか、自分の行動をコントロールできない状態のことである。

「心神衰弱」とは、このような判断やコントロールが、できないわけではないが、著しく低下している状態のことである。

刑法第39条によれば、

1、心神喪失者の行為は、これを罰せず。
2、心神衰弱者の行為は、その刑を軽減す。

とある。つまり、心神喪失ならば、無罪である。

 精神鑑定人は、診断を行い、精神状態の判断を行うが、その結論を採用するかどうかは、裁判官の心証次第であり、心神喪失や衰弱の判断も裁判官が行う。

(ここが、世間の人々の最も厳しい目にさらされる部分でしょうか。どうして、あんなにひどいことをしておいて、無罪になるのかと。たしかに、被害者感情としては許せないという気持ちは、よくわかります。けれども、責任能力のないものを罰しないのは、刑法の基本だと思います。

たとえば、赤ん坊が放り投げた刃物で誰かが傷ついても、赤ん坊は罰せられません。あるいは、「これは風邪薬だから患者に飲ませてね」と医師にウソをつかれ、毒薬を飲ませて人を殺してしまっても、全く知らずに毒を飲ませた人は、罰せられません。

精神の病気で、自分が何をしているのかよくわからないような状態は、責任能力がないとして、罰しないというわけです。

一般的に、神経症(ノイローゼ)や人格障害という鑑定では、責任能力ありということになります。統合失調症(精神分裂病)であり、犯行当時責任能力がなかったということになると、罰しないことになります。)

2、精神鑑定の実際

・鑑定の依頼と宣誓

 ふつう、裁判所か検察用からの依頼を受け、裁判所での宣誓の後に、鑑定を開始する。

・裁判記録を読む。

・記録を通して人間像を描く

 容疑者の生活歴、犯罪歴、学校の記録などを見る。(裁判記録になければ、取り寄せる。)

・面接

 容疑者の心身の状態、生い立ちなどを聞く。記録による客観的事実とともに、彼自身の主観的事実(心理的現実)を聞く。事件当時の状況や、本人が主張している精神的な症状などについて聞く。

・家族面接

・心理テスト

・脳の医学的検査

・精神鑑定書の作成

3、心理テストで何が分かるか

 精神鑑定では、面接の補助として心理テストを用いる。いくつかの種類のテストを組み合わせて使用する(これをテストバッテリーを組むと言う)。心理テストだけで診断を下すことはできないが、心理テストは精神鑑定にはなくてはならない道具である。

・知能テスト

極端に知能が低い場合には、善悪を判断する能力が著しく低く、心神衰弱と判断されることもある。

・精神作業検査

ある作業(たとえば単純な計算作業)をやらせて、その結果から、性格を判断する。

・質問紙性格検査

いくつかの質問に回答させることで、正確を判断する。

・投影法テスト

 絵を描かせたり、絵の解釈をさせたり、未完成の文章を完成させたりする。質問紙性格検査とは異なり、性格や行動について直接的には何の質問もしないが、様々な絵や解釈や文章の中に、本人の性格が投影されていると考えられる。

(さて、このような心理テストでは、本当の自分を隠して、鑑定人をだますことができるでしょうか。だしかに、本心とは全く違う回答をすることは可能です。簡単な心理テストであれば、その心理テストのことを学び、理想的結果が出るように回答することも可能でしょう。

しかし、いくつもの複雑なテストを行い、経験豊富な鑑定人が判断していく中で、そのすべてをごまかすことをとても難しいことでしょう。)

4、脳を調べる

 脳を調べる方法としては、生育歴の調査、心理テスト、神経学的検査(病的反射、瞳孔反射等の検査)がある。さらに、脳波検査、CTスキャンやMRI検査がある。

 犯罪の基底には、脳の機能的異常(脳波異常)や形態学的異常(CTやMRIの異常)があることも珍しくない。

(福島章先生の別の本、『子どもの脳が危ない』 (PHP新書)では、重大殺人犯には、脳の異常が見られることが多いとし、子どもたちの様々な問題行動も、脳の異常によるものではないかと、問題提起しています。)

終章 精神鑑定は科学的方法か

 埼玉、東京連続幼女殺人事件の精神鑑定のように、鑑定人によって意見が分かれることは、珍しくない。精神鑑定は、それでも「科学」なのだろうか。

 精神鑑定は科学的な基礎の上に立つ、一種のアートである。それは、外科の手術も同じである。科学の基礎にはたつが、医師個人の能力や技術が問われる。これは、人間を扱う仕事の持つ特性の一つであろう。

(「アート」という言葉に違和感を感じられる方もいらっしゃるでしょう。精神鑑定は、もちろん科学的な裏づけがあって行っているものです。しかし同時に、鑑定人によって、鑑定結果が異なることもあります。そしてこれは、精神鑑定に限ったことではありません。

たとえば、天気予報もそうでしょう。経済の動向もそうでしょう。上に書いてあるように、医師の診断もそうでしょう。)

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