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「独立国」を使って「ネット・データ・ヘイブン」を提供(上)
Declan McCullagh
2000年6月4日 5:00pm PDT ワシントン発――イギリス東岸の荒海の中、沖合10キロほどに位置する吹きさらしの砲台要塞が、初のインターネット・データ・ヘイブン(避難地)になろうとしている。
この要塞は、第二次世界大戦中にイギリス軍がナチスの飛行機を撃ち落とす目的で築いたものだ。このさびついた要塞を、米国のサイファーパンクのグループが、衛星とリンクしたバーチャル避難所に作り変えた。秘密データや問題データを保管する安全な場所を求める人々のためのものだ。
5日(米国時間)にここで操業を開始する予定のヘイブンコー社の創立者たちは、このコンセプトは、各国政府がインターネットへの規制と課税にますます関心を示してきている中で、「安全な避難所」を求める個人や企業を引き付けるだろうと考えている。
これは、「自社の電子メールを秘密にでき、裁判を起こす可能性があるいかなる人物にも開けられることがないような場所に電子メールサーバーを置きたい企業」のためのものだと、ヘイブンコー社のショーン・ヘースティングズ最高経営責任者(CEO)(32歳)は言う。
ヘイブンコー社は、Linuxサーバーをひと月1500ドルで提供する予定。
同CEOによれば、バスケットボールのコートくらいの大きさのこの島は、1968年のイギリス裁判所決定により、『シーランド公国』という名の君主国家として認められているという。このためヘイブンコー社は、世界で最も強力なプライバシー保護と法的保護を提供することができるというのだ。
ヘイブンコー社を作るために、創立者たちは、シーランドの風変わりなロイ・ベーツ「公」と契約を結んだ。ベーツ公は1966年にこの見捨てられた場所に来て、ここを独自の通貨、切手、旗を持つ独立国だと主張した。
元イギリス陸軍少佐のベーツ公は、この世界一小さな国、つまり、北海に作られた2つのセメントの浮き箱の上に載っている、幅9メートル、長さ23メートルほどしかないこの場所を活用しようと、いくつかのベンチャービジネスを引き受けてきたが、いずれも失敗してきている。
その計画の1つは、シーランドを、空港と銀行のある長さ5キロの人工島にしようというものだった。また、別のベンチャーは、ドイツ人投資家と共同で、7000万ドルのホテルとギャンブルの複合施設を建設しようとした。この計画は、1978年にドイツ人たちがこの要塞を支配しようとし、ベーツ公がヘリコプターを使った劇的な明け方の急襲で支配権を取り戻したという事件により、消散した。
80歳近くの高齢となったベーツ公は、今回はビジネスパートナーにいちかばちかの賭けをするつもりはない。正式な公位継承者である息子のマイケルがヘイブンコー社の最高戦略責任者であり、一族の者が取締役会の一員となっているのだ。
しかし現在、シーランドの敵となる可能性があるのは、野心を持つドイツ人数名というようなものではない。各国政府が、国外での承認されていない活動に神経を尖らせ、精力的に取り締まろうとしているのだ。
たとえば、5月のパリ・サミットでは、G8の代表者たちが、国際的なネットの法律を作り上げるための会合を持った。フランスのジャンピエール・シュベヌマン内務大臣は、「いかがわしいビジネス計画が実現可能になるような『デジタルヘイブン』や『インターネット・ヘイブン』が存在し得ないよう、世界的な規則を作るということだ」と述べた。
シーランドが単に変わり者の趣味にすぎなかったときは、イギリス政府も、この世界一小さな国をほとんど無視していた。しかしヘイブンコー社が、ギャンブル、マネーロンダリング、その他の社会的に認められない活動を引きつけるようになった場合には、各国政府が同社の規制に乗り出す可能性がある。
イギリス内務省が、ヘイブンコー社と外の世界とをつなぐ生命線であるマイクロ波リンクを制限するかもしれないし、同社に衛星接続を提供する企業が、自国の政府の規制を受ける可能性もある。ヘイブンコー社自体の銀行口座が危険にさらされることすら考えられる。
ヘイブンコー社の経営者たちは、ネガティブな評判が立つことは避けたいと願っている。「われわれは、誰も怒らせるつもりはない。オンラインビジネスに対し、常に変わることのない健全なルールを持った場所を提供したいだけだ」と、ヘースティングズCEOは述べる。
「大きな国々に、情報が好き勝手に流されているという問題があるというなら、その問題は情報技術の拡大と関係しているのであって、われわれに関係しているのではない。地球上のすべての人が3つの願い事を実現するまで、精霊を壺の中に戻すことはできないのだ」
皮肉なことに、悪党たちが最近、偽の『シーランド公国』ウェブサイトを立ち上げて、疑いを持たない閲覧者に市民権を販売している。これらのパスポートを使って麻薬密輸や武器取引を行なっているグループをスペイン当局が捜査しているとも報道されている。
奇妙な事件としては、出所不明の「シーランド」パスポートが、1997年7月にファッション・デザイナーのジャンニ・ベルサーチ氏がマイアミで殺された事件との関連で浮かび上がってきた。
ワシントンのイギリス大使館は、イギリス政府がどういう場合にシーランドの合法的君主に対して規制措置をとるかについて、コメントを避けた。大使館の報道官、ピーター・リード氏は、「結局これは仮定(の状況)なので、推測することはできない」と語った。
[日本語版:大野佳子/岩坂 彰]
http://hotwired.goo.ne.jp/news/news/business/story/20000606101.html
「独立国」を使って「ネット・データ・ヘイブン」を提供(下)
Declan McCullagh
米国の政府関係者は、インタビューに答えて、さらに積極的な行動を取るつもりだと述べた。
米国政府は、この分野での国際的な活動の先頭に立っている。米司法省はG8において、ハイテク犯罪に関する会議の議長を務めた。また、その前には、経済協力開発機構(OECD)の金融活動作業部会を率いた。同部会は今年2月、オーストリア政府に対し、匿名の銀行口座がマネーロンダーたちを援助しているとして、それらの口座をなくすよう圧力をかけた。
米国務省のスーザン・エルボー氏は、「この種の状況やこの種の場所に対して、必ずしも正式な承認を必要とせずに対処する方法はある。対処法はいくらでもある」と述べた。
米国は他国の政府に、違法なオフショア活動に注意を喚起するよう警告する文書を送り、インターポール(国際刑事警察機構)を通じた対応策を講じることもできると、エルボー氏は語る。「今のところ、われわれはシーランドのような場所には懸念を抱いてすらいない。彼らは何の脅威も示していないからだ。……例えば、彼らがウサマ・ビン・ラディン[米大使館同時爆破事件の黒幕として米国が起訴、引き渡しを求めている人物]と手を組んだりしない限り、シーランドはわれわれの課題にはならないだろう」
米国の税関と移民帰化局は、この問題を国務省に委ねた。
国務省領事局のクリストファー・ラモラ氏は、「われわれは、シーランドについてはまったく承認していない」と強調した。
米国議会は、国際的なマネーロンダリング・センターに対して、さらなる規制を検討している。下院の金融委員会は8日、民事・刑事の罰則を伴なう、『国際マネーロンダリング禁止法』改定に関して票決を行なう予定だ。
同委員会の報道担当者デビッド・ランケル氏は先週のインタビューで、「われわれは来週、法案を提出する予定だ。その法案では、ある国に容認できない規則がある場合――ちょうどこのケースもそうだが――銀行がその国と金融取引を行なう場合には罰則が生じると、その銀行に警告する権限を財務省に与えるものだ」と語った。
ヘイブンコー社が成功するためには、単純な海図を使ってこの危険なオフショア海域を乗り切る必要がある。すなわち、事業を成立させるのに十分な自由を提供しつつも、その自由を世界の怒りを買うほど十分には与えないようにするのだ。同社は、例えば電子ジャンクメール業者や児童ポルノにはサービスを提供しないことを、既に明らかにしている。
「われわれは特に、児童ポルノや電子ジャンクメール業のような低俗なビジネスは避けている。合法的なビジネスを悪法から守る、というサービスには潜在的な需要が非常に多いだろうとわれわれは考えている。われわれが生き残り、成功するためには、これらの低俗なビジネスは必要ない」と、ヘースティングズCEOは語る。
同CEOの思い描く顧客層は、暗号規制や、『デジタル・ミレニアム著作権法』のような適用範囲の広い著作権法から逃れたい人々だ。
したがって、ヘイブンコー社の創立者たちは、それほど心配してはいない。
1つには、彼らは自由主義者寄りの『サイファーパンクス・メーリング・リスト』上での議論を通して、こういった多くの問題をすでに考えてきていることがある。彼らはまた、別の場所にミラーサイトを立ち上げ、必要なときには作動させられるようにする計画も密かに立てている。
ヘイブンコー社の創立者たちには、元マサチューセッツ工科大学の学生でベテランのサイバーパンク、ライアン・ラッケイ氏、セキュリティー会社C2ネット・ソフトウェア社を創立し、現在ヘイブンコー社の会長をしているサミール・パレク氏、そして、起業家を支援するインキュベーター、ネオテニーのCEO伊藤穣一氏がいる。
ヘイブンコー社によると、同社はすでに300万ドルを調達しており、STM1ネットワーク接続を9月までに整える予定だという。顧客は、ひと月300ドルでバーチャルマシン上に場所を借りるか、ひと月1500ドルで専用サーバーを使うことができる。
親会社は、アングイラにあるヘイブンコー社で、この会社がシーランドの会社を所有している。ヘースティングズCEOはミシガン州アナーバー出身で、最近までアングイラにあるオフショア・インフォメーション・サービシズ社でプログラマーとして働いていた。
オフショアバンキングや税金回避を擁護している『ソブリン・ソサエティー』の弁護士、ボブ・バウマン氏は、ベーツ公は、あまり物議をかもすような事柄を容認しないだろうと予想する。「私の印象では、ベーツ公は自分の存在を危うくするようなことはしないだろう」
1999年にニール・スティーブンスンが書いた小説『クリプトノミコン』では、似たようなアイディアが使われている。太平洋上の小さな島に、その国の王族の援助を受けたデータ・ヘイブンを作るというものだ。
『レッセフェール・シティ』サイトの広報担当者は、「もし彼らがデータ・ヘイブン用に分散型ネットワーク技術を持っていれば、すぐには攻撃されたり閉鎖されたりはしないかもしれない。しかし、もし彼らが衛星のアップリンクを使って、シーランドの島という1つの場所だけに依存しているならば、きっと彼らは、イギリスをはじめヨーロッパの政府が好まないコンテンツをホストするということで問題にぶつかることだろう」と語る。「各国政府が彼らの通信を妨害しようとするだろう。データ・ヘイブンは、分散型でない限りほとんど不可能だ」
(この記事にはNicholas Moreheadが協力した)
[日本語版:大野佳子/合原弘子]
http://hotwired.goo.ne.jp/news/news/business/story/20000607103.html