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サイバー犯罪条約の批准とWinny開発者の逮捕-ITビジネス&NEWS
http://it.nikkei.co.jp/it/njh/njh.cfm?i=20040518s2000s2
これまで静けさを保ってきた「サイバー犯罪条約」の批准が突如国会で浮上し、4月21日についに批准された。それにあわせて国内法整備のための刑法改正も進められており、インターネット犯罪に対する取り締まりがより厳しさを増している。そんななか、映画や音楽ファイルのやり取りを行うファイル交換ソフト「Winny」の開発者、金子勇容疑者が逮捕された。現在もネット業界に衝撃を与えている同容疑者の逮捕、また、サイバー犯罪条約の批准における問題点を探った。
ひっそりと批准されたサイバー犯罪条約
4月21日、国境を超えたネット犯罪に対する欧州評議会の国際条約「サイバー犯罪条約」が今国会で批准された。マスコミでほとんど報道されないまま、3月16日に衆議院委員会にかけられた後、野党の反対もなくすんなりと通過してしまった。しかし、同条約は犯罪の対象が広範に設定されているうえ、傍受を容易にして個人の人権やプライバシーを侵害する危険性が高いとして、業界関係者らは強く反発している。
具体的に犯罪と規定されているのは、不正アクセス、違法傍受、コンピューターウイルスの散布や保有、オンライン詐欺、ネット上の著作権侵害、児童ポルノ売買などである。これだけでは問題なさそうだが、手続き法にある捜査の対象には「コンピューターを利用したあらゆる犯罪」と書かれている。つまり、モバイル機器やゲーム機もコンピューターと解釈すれば、ほとんどの犯罪を事実上サイバー犯罪として扱うことができるのだ。さらに、ハードディスクの押収や通信傍受を強引に行うことができ、そのための刑事法の改正も着々と進んでいる。
欧米諸国では、大規模な人権侵害の恐れからISP企業や市民団体が強く反対し、いまだに同条約の批准が保留されている。現在、条約を批准している国は、日本、アルバニア、クロアチア、エストニア、ハンガリー、リトアニアのみであるが、すでに条約発効に必要な5カ国に達しているため、今年7月から条約が発効することになる。米国でも、ブッシュ米大統領が昨年11月、同条約の批准を上院に求めている。日本に後押しされ、他の先進諸国も批准へ傾く可能性が十分に考えられる。
波紋を投げかけるWinny逮捕劇
サイバー犯罪条約の批准により危機感を募らせる日本のネット業界で、さらに衝撃的な事件が起こった。5月10日、映画や音楽ファイルのやり取りをするファイル交換ソフト「Winny」の開発者である東大大学院助手が、著作権違反のほう助容疑で逮捕されたのだ。ネット掲示板の2ちゃんねるで「47氏」と呼ばれていた金子勇容疑者は、2002年4月、同掲示板に「暇なんでfreenet(*1)みたいだけど2chネラー向きのファイル共有ソフトを作ってみるわ」と書き込み、翌月にホームページでWinnyを無料配布しはじめた。
Winnyが出回る前には、「WinMX」という別のファイル交換ソフトが人気を博していたが、2001年11月に同ソフトのユーザーが摘発された。この事件をきっかけに、金子容疑者はユーザーを特定できない匿名ソフトの開発に踏み切ったと言われている。Winnyはその匿名性から人気を集め、ユーザー数は推定100万人を超えたが、2003年11月27日、同ソフトを使って映画やゲームソフトを共有していた男性2人が逮捕され、金子氏にも捜査の手がおよぶことになった。
匿名性システムは是か非か?
プログラム開発者がほう助容疑で逮捕されたのは日本初ということもあり、現在、多くのニュースサイトやブログ、メーリングリストで活発な議論が繰り広げられている。開発者の多くは逮捕に反対を唱えており、技術面での発展を大きく妨げると危機感を募らせている。社会的責任を考える開発者の業界団体CPSR/Japanのメンバーの1人は、今回の逮捕は警察が「追跡困難な匿名性システムを作り上げたこと」にほう助性を見出していることが問題だと指摘する。
同氏はCPSRのメーリングリストで「匿名での情報発信やコミュニケーションの自由は、言論の自由や通信の秘密の重要な一要素」と述べる。さらに、近い将来、ICタグがあらゆる商品に組み込まれ、どの街角にも監視カメラが設置されるという側面を持つユビキタス社会の到来に向けて、「匿名化技術は個人が意識・無意識にばらまく多くの個人情報の集積を制限するという方向で重要になるので、匿名性を確保する技術への萎縮はユビキタスネットワークでのプライバシー確保を高い水準で行えなくなるかもしれない」と警鐘を鳴らす。
著作権の概念を変えるWinnyの試み
さらに、今回の逮捕が、世界規模で進む新たな著作権システムの試みを潰してしまうと懸念する声もある。インターネット自体が情報を共有する性質のものであるから、情報共有の制限を目的とした現行の著作権法と流通の仕組みとは、もともと相容れない矛盾を抱えている。法律関連のメーリングリストで、東京大学院生の中川譲氏は「47氏の真意はこの(矛盾の)打開であるし、CC(*2)の意図もこの打開である」と述べている。実際、金子氏は掲示板に「そろそろ匿名性を実現できるファイル共有ソフトが出てきて現在の著作権に関する概念を変えざるを得なくなるはず。自分でその流れを後押ししてみようってところでしょうか」と書き込んでいた。
これが著作権侵害のほう助に当たるかどうか司法の判断が待たれるところだが、米国では2003年4月に、ファイル交換ソフト「モーフィアス」の提供会社は著作権侵害の責任を負う義務はないとの判決を下しており、オランダでも「カザー」に対して同様の判決が出ている。ただし、日本ではサイバー犯罪条約批准に合わせた刑事法改正が進行しており、今回の金子氏の逮捕をこうした法改正を見込んでの下地作りにする可能性もある。
金子氏がほう助罪になれば、freenetなどの匿名ネットワーク、またWinnyマニュアル本を出版した出版社なども同様な罪に問われることにもなりかねない。ソフト開発における自由が保証され、著作権者の利益が保証されるためには、「どんなファイルを共有しているか」をユーザー自身が考慮する必要性もあるのではないだろうか。
(*1)情報をやり取りする際に、相手先との通信部分を暗号化したインターネットを利用したネットワーク。
(*2)クリエイティブコモンズ。スタンフォード大学のローレンス・レッシグ法学教授が提唱した新しい著作権の仕組みで、個人が作成した音楽や文章をある程度の著作権を保ったままで、他人が「非商用利用」などの一定の条件のもとで利用できる仕組み(http://creativecommons.org/)。