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http://hotwired.goo.ne.jp/news/news/culture/story/20040610203.html
DNAアーティストの妻が急死、FBIが家宅捜索
Mark Baard
2004年6月4日 2:00am PT スティーブン・カーツ氏(写真)は通常とは異なった素材を使うアーティストだ。同氏は筆や絵の具を使って概念を探求する代わりに、バクテリアやDNAを使って作品を制作し、遺伝子研究の安全性と倫理性について盛んな議論を触発しようとしている。
しかしカーツ氏の作品と信念は、仲間のアーティストとくらべても、かなり急進的だ。同氏は突然変異させたハエをレストランに放すという企画を記したこともあるほか、遺伝子組み換え作物を駆除する方法をデモンストレーションしてみせたこともあった。そして、妻のホープ・カーツさんの死をめぐって開始された連邦当局の捜査でカーツ氏が不利な立場に追いやられたのは、こうしたカーツ氏の姿勢が原因だと、同氏の支援者たちは主張している。
そして、バイオテクノロジー系の研究室では日常的に扱われている素材をアーティストが取り扱う場合、どのような方法が許されるかについて、裁判官と陪審員たちが最終的な判断を下すことになりそうだ。米司法省は今週、カーツ氏がニューヨーク州バッファローにある自宅でバイオテクノロジーを扱う研究所を違法に運営していたとして、同氏の起訴手続きを開始した。
米連邦捜査局(FBI)捜査官たちは、カーツ氏の急進的な活動やDNA研究室と、妻のホープさんが先月、思いもかけず不可解な死を遂げたことについて、関連性を疑って捜査に取り組んでいる。
バッファロー消防署のレスキュー隊員が5月11日(米国時間)、カーツ氏宅からの救急通報を受けて現場に駆けつけたときには、ホープさんはすでに死亡していた。カーツ氏と家族ぐるみでつきあいがあったアーティスト仲間のベアトリズ・ダ・コスタさんによると、ホープさんは40代で健康だったという。
ホープさんの処置にあたったレスキュー隊員たちは、カーツ氏宅のペトリ皿や実験室用器材を見て不審に思い、地元と連邦の危険物処理チームの出動を要請した。処理チームはただちに住居を封鎖し、アルバニーにあるニューヨーク州保健局で検査するため、バクテリアのサンプルを持ち去った。
エリー郡検死局で検死解剖と毒物検査が行なわれたが、ホープさんの正確な死因を解明できなかった。そこで自然死と結論付けられたと、ダ・コスタさんは述べている。
FBI の捜査官たちは5月14〜17日、米連邦地検の正式な捜査令状を取得したうえで、カーツ氏宅の家宅捜索を行ない、バクテリアの入ったペトリ皿、研究室用器材、コンピューター、ディスク、書籍、夫妻のパスポートと出生証明書を押収したとダ・コスタさんは説明している。
FBIの捜査官たちは先月、カーツ氏が準教授を務めているニューヨーク州立大学(SUNY)バッファロー校の芸術学部長、アデル・ヘンダーソン氏に事情聴取を行なった。FBIは、カーツ夫妻が大学内ではなく、自宅で研究室を運営していた理由について、ヘンダーソン氏に事情を訊いた。
「(FBIの捜査官たちは)事態がのみこめていないようだった。科学者が政府の資金を受けて研究室で働いているという、通常の科学研究の形態ならば、捜査官にとってもなじみがある。しかし、芸術学部でそんな状況はめったにない。どちらかというと、1人1人が独立した形で取り組んでいるのだ」とヘンダーソン氏は述べた。
そしてFBIは今週、ダ・コスタさんに加えて、カーツ夫妻が共同作業を行なっていた芸術家集団『クリティカル・アート・アンサンブル』(CAE)に所属する2名の芸術家、ポール・バヌーズ氏とスティーブ・バーンズ氏を召喚した。両氏は6月15日、大陪審の前に出廷することになっている。
召喚状は、1989年に制定された『生物兵器反テロリズム法』の175条に基づくものだ。同法175条は、「病気予防、防御、善意にもとづく研究、その他の平和的な目的」以外で、特定の生体物質を使う行為を禁じている。
自宅にいたカーツ氏に連絡が取れたものの、すべての問い合わせは弁護士のポール・カンブリア・ジュニア氏に任せているとのことだった。
カンブリア氏は、ホープさんの死体と夫妻のDNA研究室を発見したことで、FBIが「途方もないほど」大げさに反応していると主張している。こんなことになったのは、FBIがバクテリアやDNAをメディアに使った芸術を理解できないからだというのが、同氏の見解だ。
通常の研究室環境の外で、バクテリアやDNAを使って実験的な作品を制作しているアーティストはカーツ氏だけではない。CAEをはじめとするアーティストたちは『Gene(sis)』という巡回展覧会に作品を出展したが、2002年にこの展覧会がオープニングを迎えた際には、シアトルのワシントン大学が課した厳格な生物学的安全性の基準にしたがわなければならなかった(日本語版記事)、とヘンダーソン氏は説明している。
CAEの作品は、架空のバイオ企業『ジェンテラ』(写真)を宣伝するウェブサイトとCD-ROMのほか、米モンサント社などの企業が作り出している遺伝子組み換え食物の成長を阻止するパフォーマンス・アートの作品(写真)から構成されている。
CAE はこのパフォーマンス・アート作品を、風刺として位置づけている。しかしCAEが作成した電子書籍には序文にマルコムXなどの言葉(『あらゆる必要な手段をもって』という発言も含まれている)も引用されており、CAEに参加するアーティストたちはよからぬ企みを抱いているのではないかと、連邦政府が疑ってもおかしくない内容となっている。
同グループの電子書籍の1つでは、バイオ企業の業務を妨害するため、突然変異した生物体を環境にばらまくといった行為を提唱している。また、突然変異したハエをレストランにひそかに放つと提案している本もある。
CAEはこの戦術を「ファジーな生物学的妨害工作」と呼んでいる。これはバイオ業界に対する闘争において「本人も知らないうちに共犯者となったり、あるいは喜んで味方になってしまうような動きに、本来なら決して参加しないはずの人たち」に刺激を与える戦術だという。
FBI は、CAEと共同作業を行なったアーティストたちに加えて、同グループの作品を展示したギャラリーの責任者たちとも接触している。ダ・コスタさんがギャラリーの責任者から受け取った電子メールによると、ある捜査官はその責任者に対して、スティーブン・カーツ氏が反米感情を持っていると思うかと、質問したという。
CAEとして発表する作品のために、カーツ夫妻は自宅でバイオ研究室を運営し、数系統のバクテリア、化学物質、酵素、遠心分離機、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)装置を使った。PCR装置は、遺伝標識を増幅して視覚化するために、科学者が使う機材だ。
バイオ系の研究室の科学者たちは、遺伝子を組み換えたり遺伝形質を転換した新しい生物体を作る際に、毎日のように遠心分離機とPCR装置を操作している。地球レベルの食料供給や、重篤な病気に対する遺伝子治療に役立てるのが、こうした科学者の目的だ。
ダ・コスタさんによると、カーツ氏の自宅にあった疑わしい素材を検査したところで、非病原性の大腸菌、セラチア菌、バチルス属の細菌(Bacillus globigii)などが発見されるだけだという。ダ・コスタさんは、CAEのジェンテラ関連の作品にも協力している。
しかし、地元および連邦の捜査関係者たちの今回の対応は、住居に生物学および化学の研究室と思われる設備を発見した場合の適切な手順だと、法執行機関アナリストでメイン大学オーガスタ校の、リチャード・ミアーズ助教授(刑事司法)は指摘する。ミアーズ助教授は、メイン州の都市部で生物テロが起きた場合の対応を記した手順書の原案策定に際し、助言を行なっている。
「何をしているのかを知らないで細菌に手を出すと、痛い目にあうことになる」とミアーズ助教授は警告する。
DNA研究の第一人者、リチャード・ロバーツ氏も、無害なバクテリアでさえ、非常にまれにだが、特定の条件下では有害になることもあると述べている。
「そうなる可能性は、かなり低い。病原体のようなものを作るのは、単純で小さな遺伝子だけではとても可能なものではないない。だが、こういった技術はその気になれば高校生にも教えることができるし、たぶん、アーティストにだって教えられるだろう」とロバーツ氏は述べた。ロバーツ氏は、遺伝子組み換え技術を可能にする生物学的プロセスを発見した功績で、1993年のノーベル医学・生理学賞を共同受賞した科学者だ。
ダ・コスタさんは、カーツ氏が制作した、風変わりな芸術作品のどれ1つとして、妻のホープさんの死の原因ではないという。「FBIがあの家で発見したものをすべて、ホープさんが食べていたとしても、何も害にはならなかったはずだ」
[日本語版:湯田賢司/長谷 睦]