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【記者:日高正裕】 3月5日(ブルームバーグ):世界の人口の2%にすぎない日本。それが世界の農産物貿易額(2001年)に占める割合になると11%、水産物に至っては23%に達する。食の大半を海外に依存する一方で、牛海綿状脳症(BSE、狂牛病)や鳥インフルエンザなど、世界的な食物汚染が身近な生活を脅かしている。民主党の衆院議員(前回衆院選で比例区・北信越から初当選)であり、元農林水産政策研究所長の篠原孝氏とともに、日本がとるべき食料安全保障戦略を探る。
日本の食料自給率(2002年度)はカロリーベースで40%。農業大国である米国やフランスの食料自給率はともに120%を上回る。工業国であるドイツですら 99%に達する。日本と同じ島国である英国は、1970年代半ばまで日本より低かったが、今では61%と日本を大きく上回る。英国は主食用の穀物自給率に限ってみれば100%で、ここでも日本(61%)を引き離している。
篠原氏は言う。「欧州は何度も戦乱に巻き込まれた経験から、2度と同じことは繰り返したくないと思っており、食料の安全保障についても真剣に考えている。それに比べて、戦後の日本は経済だけでやってきたため、国家の存立や安全というものをまじめに考えてこなかった。軍事的なタカ派ですら、食料は外国に頼れば良いと考えている人が多い。安全に対する考え方が非常にチグハグだ」。
「地産地消」と「旬産旬消」
旧ソ連の崩壊は、厳冬期にモスクワ市民に食料を供給する自信がなく、米国に頭を下げたところから始まったとも言われる。篠原氏は「食料の安全保障は意外と簡単で、その地でできたものその地で食べる『地産地消』と、その季節にできたものをその季節に食べる『旬産旬消』が基本だ」と言う。地元で作った食物を重視する動きは世界に広がっており、イタリア北部で始まった「スローフード運動」や、韓国の「身土不二」(身体と土は2つに分けられない)がそうだ。
英国の消費者運動指導者であるティム・ラングが1994年に、食卓と農場の距離を短くするために提唱した「フードマイルズ運動」。それに重量を勘案した「フードマイレージ」(重量トン×距離km)という考え方がある。中田哲也・関東農政局消費生活課長の調査によると、日本のフードマイレージは9000億t・kmで、フランスの8.6倍、英国の4.8倍、米国の3.0倍、韓国の2.8倍になる。
「工業製品にも同じことが言える」と篠原氏は語る。昨年の日本の輸出は55 兆円、輸入は44兆円で、差し引き10兆円の貿易黒字だ。しかし、これを船舶で運んだ重量でみると、輸入が8.1億トンで、輸出が1.7億トン。「差し引き6億トン以上が空気中の汚染物質や産業廃棄物として残る圧倒的な輸入大国だ。ゴミだらけになるのは当然だ」。米国は輸入、輸出とも3億トンで均衡している。
日本が突出する「フードマイレージ」
篠原氏は「米国は隣国カナダが最大の貿易相手国だが、日本は世界中から輸入して世界中に輸出しているので、交易されるモノの重量と距離をかけた『グッズマイレージ』だと、動いているものの半分が日本ということになる。地球環境にやさしい生き方を考えると、輸送に伴う汚染を減らす必要があるが、日本はそれに逆行している。しかも、日本国内にはゴミがどんどん溜まり続けている」と言う。
日本はメキシコをはじめ、自由貿易協定(FTA)の締結に躍起になっている。「グッズマイレージを少なくし、地球環境への負荷を減らすという観点からすると、FTAが望ましいのは近隣諸国との間であり、遠い国との交易はむしろ縮小すべきだ。台湾や韓国、中国沿岸部など、近隣の国や地域とFTAを結ぶのならともかく、メキシコのような遠い国と結ぶことに何の意味があるのか。バスに乗り遅れまいとして、強迫観念に囚(とら)われているとしか思えない」。
しかも、自由貿易を進めるうえで農業がお荷物になっているという構図は、昔から変わっていない。「農業が国内総生産(GDP)に占める割合は2%に満たない。工業製品の輸出のために農産物を犠牲にするという時代は、とうの昔に終わっている。日本の地域社会をいかに活性化するか、環境をどうやって守るかという観点から、農業を考えなければならない」と篠原氏は強調する。
強大な日本の消費パワー
大都市圏ではようやく景気が回復し始めたが、地方に行けば駅前は相変わらずシャッター通りのままだし、かつて美しかったであろう田舎の風景は、コンクリートで台無しにされて、魅力を失ったままだ。地産地消と旬産旬消が大きなうねりとなり、地方を再生させることができるのか。それには、消費者が自らの強大な購買力を自覚し、これを戦略的に使っていく必要がありそうだ。
たとえば、牛の生育期間を短縮する成長ホルモン。人にも影響する恐れがあるとして、欧州連合(EU)は成長ホルモンを投与した牛肉の輸入を禁止している。EUはこの問題で世界貿易機関(WTO)の裁定で敗れ、米国に報復措置として制裁関税をかけられているが、頑として輸入を拒否している。「EUは米国からわずかしか牛肉を輸入してないが、米国の18の州政府が成長ホルモンを使わないと言い出し、連邦政府を慌てさせたこともある」と篠原氏は言う。
「これを日本がやってほしい。消費者が成長ホルモンは使った牛は食べないと言い張れば、カリフォルニア州やコロラド州、ワシントン州やオレゴン州の畜産農家は成長ホルモンの使用をやめ、『わが州は成長ホルモンを使わないので安心して買ってくれ』と言い出すだろう。日本の消費者は非常に強い影響力を持っているのに、これまでそれをまったく使ってこなかった」。
消費者が米国と日本を変える
そして今、BSE問題。「日本は36万トンも輸入しているので、消費者が絶対に嫌だと言えば、米国の業者は畜産のやり方を変えざるを得なくなる。遺伝子組み替え作物(GMO)にしても、私が農林水産省にいた数年前、米国のある州政府から電話があり、『すべての大豆を非GMOにするから買ってくれないか』と言ってきた。BSE問題は、日本の消費者が影響力を発揮する絶好の機会だ」。
日本でBSEが発生した2001年9月以来、米国は日本からの牛肉輸入を禁止し、日本が全頭検査を始めてからも輸入禁止を続けている。「それが自国でBSEが発生してしまい、米国もさすがに日本に対して牛肉輸入を再開しろと高圧的に言える立場ではない。国際基準で検査するなどと言い出しているが、米国がそれをやり出したら、牛肉は割高になり、日本とのコスト差など瞬く間になくなるだろう。安全や質を考えたら、日本の牛肉は高いとは言い切れない」。
小泉政権はどうするか。「ブッシュ政権の言いなりになり、『全頭検査をしなくても、証明書をつけてくれればよい』などと軟弱なことを言い出したら、今年夏の参院選で農民票は離れ、消費者からもソッポを向かれるだろう」と篠原氏は言う。小泉政権がBSE問題にどう対応し、日本の消費者がそれにどう反応するか。日本の食料安全保障という観点からも1つの試金石になりそうだ。
更新日時 : 2004/03/05 07:30 JST
http://www.bloomberg.co.jp/news/commentary.html