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【記者:鷺池秀樹】
3月5日(ブルームバーグ):「日本円25%、米ドル19%、ユーロ16%」― ―。輸出入の実需にのっとって試算されたと言われる「人民元の為替バスケット案」が、2月6日から2月18日までのドル安の直接的な「引き金」だった、とする見方がこのところ、市場の一部で出ている。
1980年代初頭から香港で調査活動を開始し、20年近く中国株やアジア経済のストラテジストを務めるアイザワ証券の佐々木一郎氏もそうした見方をする専門家のひとりだ。佐々木氏は、この数値を「中国政府が民間調査機関にリークしたものだとみられ、米国に揺さぶりをかけたもの」だ、とも指摘している。
4000億ドルもの米国債をペッグ(固定化)している中国が、通貨バスケット制度の導入後に、米ドルのウエイトを100%から一気に19%まで落とせばどうなるか。佐々木氏は「米国債3000億ドルを売りに出すということと同じだ。だから、ヘッジファンドの間でドルを売る動きが加速した」ときっぱり。
佐々木氏の分析について、為替関係者の多くは、聞いたことがない、と受け止めている。だが、中国ウォッチャーの間では、意外に、この説を後押しするような声が多いという。その根拠とはなにか――。米財務省から打診するかたちで、開催が急きょ決まった2月25日、26日の北京での米中通貨当局者の協議、だというのだ。
“肩透かし”
米財務省側はこの協議に、デービッド・レビンジャー財務副次官補率いる派遣団を送りこんだ。だが、協議自体に特段の進展はなく、チャイナ・ウオッチャ ―の間では「中国がアメリカの当局者に『まあまあ、うちも一気に米国債を売却することはあり得ませんから』となだめるための機会でしかなかった」(横浜市立大学の矢吹晋教授、現代中国学)と受け止められている。
あわてた米国が中国に駆けつけたものの、あっさりと“肩透かし”を食わされ、手玉に取られた格好だ。
だが、佐々木氏が言う「通貨バスケット案」がリークされたという2月6日前後は、7日付の財経時報(チャイナ・ビジネス・ポスト)が「中国人民銀行が3月に人民元の対ドルレートを調整する可能性がある」と伝えた時期とぴったりと重なる。
同紙は情報源を明示しないまま、中国人民銀行が人民元レートを1ドル= 8.277元から7.887元に5%切り上げる可能性がある、と報道。これを受けて、人民元先物相場は急上昇。1年物ノン・デリバラブル・フォワード(NDF)は1年後に1ドル=7.852元に上昇することを示唆する水準になった。
ドル安ユーロ高
日本時間6日(金曜日)以降の為替相場の動きをみると、6日午後にドルは対円で1ドル=106円台後半から105円台半ばに下落、対ユーロでは1.250ユーロから1.27ユーロまでドル安ユーロ高が進んだ。
日本では日曜日にあたった8日には、7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)の声明文が公表され、『為替レートの過度の変動は望ましくない』との文言が新たに盛り込まれ、ユーロ高をけん制。週明け9日以降の取引でも、ドル安ユーロ高の流れは変わらなかった。
一方、中国の国営通信社「新華社」は10日、中国人民銀行当局者の話として、人民元の切り上げを行う計画はないと報じたほか、12日に中国の国家外為管理局がウェブサイトを通じて、人民元相場の「基本的安定」を維持する方針を表明、これまでの立場を繰り返した。
13日付の英紙フィナンシャル・タイムズによると、中国が「数週間以内に」北京で、米財務省当局者と為替相場の規制緩和に向けて協議すると報道。これを受けて、ようやく、為替相場が落ち着きを取り戻し始めた。佐々木氏はそうみている。
通貨バスケット
そもそもなぜ、通貨バスケットが中国当局者の議論の俎上(そじょう)にあがっているのだろうか――。日本貿易振興機構(JETRO)傘下のアジア経済研究所で中国を担当する今井健一研究員によると「中国の指導部や中国中央銀行当局者から公式に言及されたことはない」。
それでも、欧米や日本の金融系シンクタンクの間で、人民元の通貨バスケットに関する観測リポートが相次ぎ公表されているのは、実需に応じて、相対的な為替レートを決めるバスケット制が「理論的には正しいため」(今井氏)だ。
このような背景もあって、ジョン・スノー米財務長官は2月13日の米上院予算委員会で、人民元をめぐる為替制度について、「部分的な変動相場制や通貨バスケットへのペッグに移行する可能性を探る議論が増えつつある」と指摘。
一方、日本政府も、谷垣禎一財務相が2月24日午後の衆院予算委員会で、「バスケット(制度)も非常に大事な選択肢の1つだと思っている」と述べ、国際的な検討課題になりつつあることを示唆した。
財務省幹部によると、日本を含めたアジアの通貨当局者と中国の通貨当局者は以前からシンガポールの通貨バスケット制を例に水面下で研究を続けてきた。
財務省の渡辺博史・国際局長は4日夜、記者団の質問に答え、人民元の通貨バスケットについて、「日本円のウエイトが米ドルより大きくなるというのはやや無理があるという印象を覚える」と指摘。仮に、中国が通貨バスケットを採用したとしても、貿易収支や資本収支に加えて、「輸出業者が何建てで決済しているのか」という観点も考慮されるだろうとの見通しを示した。
「切り上げ求めたことない」
「中国で本当に儲けている企業は絶対に声をあげない。携帯電話最大手の米モトローラ、半導体最大手の米インテル、日本のホンダなど、中国で成功をおさめた企業が元の切り上げを求めたことはない」――。1953年から約45年にわたって中国を研究している横浜市立大の矢吹教授は、昨今の人民元切り上げ論を「単なるスペキュレーション(思惑)」と切って捨てる。
米国や日本で、人民元切り上げ論が盛んな背景は、11月の米大統領選挙をにらんで、国内依存型の米国中小企業が廉価な製品で米市場に攻勢をかける中国企業の動きをけん制している、との見方が支配的だ。いわば「選挙用のレトリック(修辞句)」(アジア研究所の今井氏)だという。
モルガン・スタンレー・アジア(香港)のチーフエコノミスト、アンディー・シエ氏も「短期的に為替相場制度を緩和する可能性は全くない。多くの投機家がいる現状で緩和すれば、投機を助長するだけだ」とみており、今回の全国人民代表大会(全人代、日本の国会に相当)で何らかの進展があるとは思っていない。
今井氏が考える今後の中国人民元の改革スケジュールは「今後2−3年内で変動幅を徐々に大きくしていくこと」が第1ステップ。人民元は現在、対米ドルに対して上下0.3%以内に変動を抑制するようにペッグされているが、今後は5%を目途に緩やかに変動幅を広げていくのが現実的ではないか、とみている。
この推測は広州の有力夕刊紙『羊城晩報』の系列に属する『新快報』が昨年1月に報道した中国国内エコノミスト10人へのインタビュー結果を根拠にしているのだという。今井氏によると、10人のうち6人は2年内に変動幅の拡大が行われ、5%程度になるのではないか、としている。(3人は変更なし、1人は予測不可能)
見えない中国の通貨外交
中国政府が変動相場制移行を、国際社会で公約していることを考慮しても、「2008年の北京五輪前に何らかの手を打つことは確実」(横浜市立大の矢吹教授)だ。
ただ、アジア通貨危機の教訓を得た現在の指導部がそれ以上の改革を進めることは現時点では織り込みにくいと言い、「人民元切り上げ」や「為替バスケット制」の採用する確率は「2010年の上海万博をまたいでも、それらを導入する可能性は極めて低い」(アジア経済研究所の今井氏)との声が出ている。
1日付の中国経済時報は、金融改革の政府責任者である黄菊・副首相がスノー米財務長官の招請を受け入れ、人民元の為替問題を話し合うため米国を公式訪問することを決めたと報道した。また、温家宝首相は1日の講演で「(人民元相場を)妥当で均衡のとれた水準に安定させ続けること」(新華社)が大事だとの考えを示唆。政府要人からコメントが相次いだ。
「要職につけば、8、9割の確率で、バッサリやられることが当たり前だった」(アイザワ証券の佐々木氏)中国の政治社会。そんな土壌で、過去10年以上、次の国家主席として目され「後継者見習いを何ひとつ問題なくクリアした」(佐々木氏)胡錦涛国家主席と温家宝首相――。その老獪(ろうかい)な外交スタイルに、世界が注目する機会も多くなるだろう。
矢吹教授はこう指摘した。「2000年には人民元が切り下げられるといっては騒いでいた。その時も中国がまったく動かなかったように、今後も彼らは動かないだろう。米国の同時多発テロ以降、米中関係がガラリと変わったことをもっとみんなで冷静に分析しないといけない」。
更新日時 : 2004/03/05 15:13 JST
http://quote.bloomberg.com/apps/news?pid=90003013&sid=aP7T3PPbt_50&refer=jp_us