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「農民は本当に貧しい、農村は本当に苦しい、農業は本当に危ない」李昌平という郷(中国の行政単位。省、県の下に属する)の幹部の発言は中国全土を揺るがした。
農村、農民、農業という「三農問題」はかねてから深刻な話題の1つである。マルクスはフランスの農民を「1袋のジャガイモ」と描写したが、毛沢東は《中国社会における各階級(階層)に関する分析》において中国の農民に対する詳細な分析を行った。
では、現在の「三農問題」の切実さと深刻さはどの程度のものといえるのだろうか?
最近、『中国農民調査』という本が人気を集めている。この本の著者は中国の農業改革の発祥地である安徽省で、2年間の調査取材を続けてきた。50数県に足を運び、農民たちの真実の生活を見聞し、その実態を記録したのである。
この本を読んだ多くの人々が涙を誘われずにはいられなかったという。
第1回「5ヵ年計画」から改革開放まで、中国の農民は都市と国家の工業化の発展のために、2兆元を上納しており、改革開放後も、農民は毎年国家に1兆元を上納してきた。このように、農村からの支援なしには、中国の現代化建設が今日の局面に至ったとは想像し難いのである。
しかし、農民たちは二重構造の下でますます不利な立場を強いられてる。
経済の二重構造という理論はアメリカの経済学者ルイスが1954年に示したものである。それによれば、発展途上国の経済発展過程においては、1つの普遍的な現象が存在する。それは、経済において、「現代的部門」と「伝統的部門」の2つが並存しており、現代的部門は高い利潤の獲得と資本の蓄積によって、伝統的部門から余剰な労働力を得て継続的な発展を実現する。都市部が工業発展を遂げた後、市場経済の調節は伝統的部門を現代的部門へ転換させるように促し、最終的に、二重構造の一元化と国民経済の現代化を実現する。
我々は特殊的な政治・経済の条件のもとで、他の国と異なる工業化の道を歩んできた。計画経済体制のもとで、政府は行政関与という手段を用いて都市と農村を分け、結局、農業への資本蓄積と技術革新を妨げ、農業の発展を阻害した。
「中国に9億の農民、2〜3億の農家がいる。農民の収入を増やすことによって巨大な消費市場が生み出される。政府は有効な措置をとり農民の収入を増やすべきである」と経済学者らは一度ならず主張してきた。
9億の農民の現代化という問題を解決できなければ、現代化を実現する話は白紙に返る。以前は、政府は農業から工業への移転政策をとり、「鋏状格差」の形で農村から大量の利潤を吸い上げた。現在は、農業に対して補償する時期となっているのだ。
うれしく感じさせられたのは、最近中国共産党中央委員会から出された「一号文件」(注1)には、農民の収入の増加を促進する基本主旨が書かれていることである。これは改革開放が始まってから中国共産党中央委員会(中共中央)が第6回「一号文件」の形でようやく農業問題を強調したのであるが、それは新しい政府の決意を表明している。
農民が自分の運命を自分で決められるように
今回18年ぶりに、中共中央は「一号文件」で農業と農村問題を扱った。いわゆる「農民の増収を促進する若干の政策に関する中共中央、国務院の意見」(以下「意見」と称する)である。この「意見」は22条、9部分に分かれており、約9,000字に及ぶ。1982〜1986年の間に、国務院はかつて5年連続で「三農問題」を中心とした5通の「一号文件」を公布した。それらは改革開放になってから、中国の農村は壊れ果ててしまった不景気から、活気溢れた黄金の5年を作り出した。しかし、1990年代以降、中国の農村は活力のない時代に再び戻ってしまった。そのため、人々は今回の「一号文件」に熱い期待を寄せている。
2004年の国務院の「一号文件」は多くの内容に言及している。農業税率の引き下げ、タバコ以外の農業特産品税の撤廃などが含まれている。また、三農問題への政府財政支出を増やし、食糧の流通体制を改革し、食糧を生産する農民への直接補助を行うなどの施策も策定された。さらに、「都市に就職する農民がすでに中国の産業労働者の重要な構成部分になっている」ことを強調した。これは今までの中共中央通達では初めての表現である。大雑把に計算してみると、「一号文件」は少なくとも農民に200億元以上の直接的収入の増加とそれを上回る間接的利益をもたらすだろう。新しい政府の「親民」姿勢、温家宝首相の「三農問題」に対する深い理解、など多くの意見がこの「一号文件」に存分に現れており、感慨を覚える。
ところが、中国における「三農問題」の本質は如何に農民の収入を増加させるかではなく、如何に農民を重荷から解放させ、平等な権利を持つ中国の国民にさせるかにある。中国の改革において、全体にみられる漸進性はすべての問題に対して温和的な政策をとることを意味していない。中国における「三農問題」は、すでに徹底的に解決しなければならない時期になっており、先延ばしにしてはいけない。
第1は、土地所有権の明確化しそれを保障することである。現在、中国の農民は土地によって生計を立てているのである。しかし、各種の税金も土地を課税対象にしているのである。農民にとっては、土地が自らの命であると同時に、首にかけられた鎖でもある。なぜなら、土地は彼らに属していないからである。もし土地の所有権が徐々に明確になっていかなければ、中国の農民問題は解決できないだろう。中国の法律では公共の利益のために限って政府により土地を徴用することができると明確に規定しているが、現在、公共の利益と私的利益は事実上ほとんど区分されていない。農民に対しての剥奪は、まず農民の請負土地を徴用することから始まる。それから、その土地から生み出した生産品をも剥奪する。さらに、土地に縛られている農民からさらに直接剥奪する。これらのすべての行為は現状では容易である。このようなことをなくすために、郷鎮以下の機構改革を伴い、中国の農民の土地所有権を保障しなければならない。当面、宅地や個人保有地を直接に農民に帰属させ、譲渡売買も可能にすることが必要である。集団用地に関してもその財産権(所有権)を徐々に明確にしなければならない。しかも農民たちの集団協議によって決めるべきである。地方政府がブローカーになり、公益の名目で、農民のほうから安価で土地を徴用し、高値で土地開発企業に売却する行為は、土地を失う農民と失業農民の急増をもたらし、社会的矛盾を激化させばかりである。
第2は、農村への公共サービスの提供である。1人の北京生まれの赤ん坊と中部地域の農村に生まれた赤ん坊は、たとえその先天的素質と後天的な努力が完全に等しいとしても、彼らの運命は依然としてまったく異なる。1950年代、学者はすでに次のように指摘していた。中国の農民は大変な生活を送っている。農村のインフラ、社会救済、基礎教育などの面からみると、極めて悪い状況である。農村の高齢者、身体障害者などに最低限度の生存権と医療サービスを提供すること、用水、電力、交通、通信などにおいて農村を都市と乖離させないこと、農民の9年義務教育の普及を強制教育ではなく本当の義務教育にすること、などが大事である。これらの実現は、次のような政策設定によると思われる。まず、農村への移転支出を増やし、特に県の財政による移転支出を強化し、中央―省―県という3段階の移転支出の枠組みをつくりあげることが重要である。新しい政権に変わってからは、農業への支援資金が著しく増加した。しかし、これまでに農村の公共サービスの供給が非常に低水準にとどまっていることと比べると、その分は依然として不十分であると言わざるを得ない。その一方で、県レベル以下の行政機関に対して、思い切った改革が必要である。現在、農村の治安を維持するために設置されている警察機関のほかには、郷・鎮・村の行政機関が存在する必要はほとんどない。そのため、それらを基本的な社会事務管理機能をもつ自治機構に転換するか、直ちに撤廃するべきである。現に、基礎行政組織と農民との対立や、一部地域での農民反乱が頻繁に発生している。このようなことも基礎行政組織における変化とそれらが維持困難であることを示している。
第3は、戸籍制度の改革である。実際に、公民が自由に移動できないことや、自由に職を選択できないことが、都市と農村の分断をもたらしている。現在、農民の半分以上の現金収入は都市への出稼ぎによるものである。彼たちにとって、出稼ぎは若い時しかできないことである。農作業によって食糧を確保し、それ以外の消費が出稼ぎによって賄われるという現状は次のことを示している。つまり、農民が都市へ移り、産業労働者になることは農民たちの収入の増加、皆で繁栄を分かち合うためのカギである。増収問題の本質とは、農民には土地を所有し農民という職業を選択する権利、また、土地を放棄することができ産業労働者を選択する権利があるということである。このようなことが実現できれば、農民という巨大なグループの収入の増加の目標が実現できる。この過程において、土地の所有権に対する明確な解釈と保護が必要である。また、戸籍制度を人口の登録制度だけにする必要もある。現在、毎年都市と農村の間の移動人口は延べ2億人以上になっている。土地と戸籍制度を変革させた後、農民が都市へ大量に入り、都市のインフラの重圧になるはずである。これによって、治安問題や、都市と農村の結合地帯で貧民窟の形成、という問題をもたらすであろう。しかし、このような問題は我々が経験しなければならないことであり、支払わなければならないコストである。前述のように、都市人口が相対的によい生活を暮らしていることは、都市と農村が分断している現状に依存しており、これによる代価と不義は都市人口にとってすでに重荷となっており、反省あるいは懺悔をする必要がある。
第4は、農業税を撤廃する。現在の農業税は年間約800億元しかない。しかし、それ付属している各種の費用が驚くほど多い。これらの費用に対しては、直接撤廃することしかない。また、租税の種類の設定からみても、農業税は取引税でもなければ、所得税でもない。さらに、課税最低基準もなく、まったく税とはいえない。あえて呼ぶならば、「人頭税」としか呼べない。もちろん、農業税の撤廃は中央と地方の財政に大きな打撃をもたらすかもしれない。なぜならば、このような直接的な撤廃は地方の財政に大きな穴をあけてしまうからである。しかし、様々な弊害を考えると、漸進的にやるより思い切ってやったほうがいいかもしれない。1980年代以降、数多くの農村改革に関しては、資金の無駄遣いをし、後退したとしか言いようがない。それらの改革は国に取り戻せない損失を与え、農民に辛抱する気持ちを失わせたのである。農業税の撤廃による財政への打撃についても測定がなされる必要がある。少なくとも、公務員の昇給のための財政資金を使えば、農業税の撤廃による穴を埋められるはずである。
上述したように、農民の収入を増やすために、農民に押し付けられた様々な重荷(所有権が保障されていない土地、不足している公共サービス、都市と農村を切り離す戸籍制度、見通しのつかない郷鎮改革、負担の重い農業税などを含む)を下ろすことが重要である。重荷から解放された農民が継続的に農民という職を選択するか、他の職を選択するか(言い換えれば、土地に収入を求めるか、それとも賃金に頼って生計を立てるか)ということは、彼らの自分自身の問題であり、自分の運命を自分で決めることなのである。
(注1)中国共産党中央委員会が通達する一番重要な政令にあたるものである。中国網参照。
(出所)博士珈琲 和訳の掲載にあたり先方の許可を頂いている。
2003年5月6日 「中国の経済改革」欄掲載 「『貧富格差の現状合理説』を正す」:http://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/030506kaikaku.htm
2003年4月7日 「中国の経済改革」欄掲載 「要素移動と地域格差の縮小」:http://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/030407kaikaku.htm
2003年3月31日 「中国の経済改革」掲載 「中国の農業に未来はあるか」:http://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/030331kaikaku.htm
2002年11月5日 「中国の経済改革」欄掲載 「農業問題の根本的解決策」:http://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/021105kaikaku.htm
2002年7月15日 「中国の経済改革」欄掲載 「『三農問題』への処方箋」:http://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/020715kaikaku.htm
も併せてご覧下さい。
鐘偉 Zhong Wei
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1969年江蘇省生まれ。1999年北京師範大学経済学博士号取得。1999年より北京師範大学経済学院教授。
2004年3月1日掲載
http://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/040301kaikaku.htm