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どうする暮らしの安心;年金危機(1)
読売新聞朝刊 2004/02/01
【欧州を洗う改革の大波】
「経済政策の失敗のツケを高齢者に回すなら徹底抗戦だ。今年の戦いの年だ」
年金生活者50万人で作る「ドイツ社会連盟」のベルリン事務所。アドルフ・バウア会長(64)は年明け早々から檄をを飛ばした。
ドイツ政府は昨年10月、財源不足を理由に、賃金の上昇に合わせた年金の増額を凍結すると宣言。年金額を実質的に初めて削った。今年は、支給開始年齢を、2歳引き上げて67歳にするなどの見直しにも着手する方針だ。連盟はこれに強く反発し、2月から各都市で一斉に反対デモに入る、
イtリア・ローマでは昨年暮れ、総勢150万人とも言われる大規模デモが行われ「我々の年金を守れ」と気勢を上げた。ベルルスコーニ首相は昨春、破綻寸前の年金財政再建のため、保険料の納付期間を5年延ばして40年間にするなどの改革案を発表した。以来多くの労組が波状的にストライキを打ち、国中が何度もマヒ状態に陥った。
イギリスも揺れる。ロンドン・トラファルガー広場で先月、高齢者約1000人が「年寄りは我慢の限界だ」と訴えてデモを繰り広げた。
主催した年金生活者会議のジョン・デビッド会長(62)は「高齢者が尊厳を持った生活が出来ないのに豊かな国と言えるのか。英国が『揺りかごから墓場まで』と言われたのは過去の話だ」と語気を荒らげた。行財政改革の先頭を切った英国では、公的年金の大幅縮小を断行し、今では高齢者の貧困が社会問題化している。
年金改革への不満、不信がうねりとなって西欧各国に広がっている。
各国が改革を迫られるのは、「高齢化」「少子化」「低成長」というT三重苦Uに直面しているからだ。
欧州連合(EU)加盟15カ国全体で見ると、この40年間で年金世代に当たる65歳以上人口が1・8倍に増えた。あと数年で、戦後のベビーブーム世代も一斉に定年を迎える。それに対し、支え手となる現役世代は少子化で減っていく。女性が一生に生む子供の数(合計特殊出生率)は、1960年に2・59だったものが、2000年には1・48倍まで落ちた。
だからといって、年金財政に税金を安易に投入出来ない。欧州単一通貨・ユーロの誕生で、参加国は財政赤字を国内総生産(GDP)の3%以内に抑えるよう義務づけられている。
世論調査では、ドイツで85%、イタリアでは63%の国民が「このままでは10-15年以内に年金は危機に陥る」と感じている。
【負担巡る世代間戦争に】
欧州の新しい潮流は、若者達が公然と高齢者を批判し、年金カットを叫び始めたことだ。
「僕らの老後まで年金制度はもたない。このままでは保険料の払い損だ」。ベルリンの大学生で、保守系野党のキリスト教民主同盟・青年組織議長も務めるフィリップ・ミスフェルダーさん(24)が訴える。
昨年8月には、地元紙のインタビューで「高齢者も骨折の治療代ぐらい自分で払うべきだ」と発言、医療制度も含めて高齢者優遇の社会保障制度全体を批判した。高齢者からは数千通もの抗議の手紙が殺到したが、若者の共感を呼んだ。
ドイツの失業率は2002年で9・8%。若者はやっと職に就けても、給与の4割が税や社会保険料に消える。それに対して、高齢者は「戦後の奇跡」と呼ばれた経済成長期のまま、現役世代の賃金約の70%という手厚い年金を受ける。
フランスも事情は同じだ。昨夏には若者約2000人が、労組の年金改革反対デモに対抗し、政府の改革案を支持するデモをした。
各国の年金改革は、低成長と少子化が顕在化した90年代半ばにいったん本格化した。危機回避の処方箋は「給付水準の切り下げ」「受給開始年齢の引き上げ」「年金保険料の引き上げ」というT対症療法Uの三点セットだった。
その結果、フランスやイタリア、オランダでは、有権者の強い反発を招いて、改革を提案した政権与党が相次いで敗北した。
それが近年、再び動き出した。年金制度の構造上の問題がより鮮明になったきたことに加え、若者達が高負担・高福祉の社会に「ノー」を突きつけ、世代間戦争の様相を呈してきたこともある。
スイスのダボスで1月、世界の政財界の指導者を集めた「世界経済フォーラム年次総会」(ダボス会議)が開かれた。会議では、先進国の年金制度が破綻すれば国際経済にも深刻な影響を与えるとして、各国が改革を急ぐべきだとの認識で一致した。年金危機は、世界経済も揺さぶる重要課題になってきた。
日本の年金改革も、こうしたうねりの中にある。与党は30日,人口構造や経済変動に合わせて給付を自動的に変える仕組みや、保険料を徐々に上げながら上限を設けることなどで合意した。だが、欧州以上のスピードで高齢化が進む中、国民の年金不信は深まるばかりだ。
「結局、理想の年金制度なんてあり得ない。国と企業と個人が、増え続ける負担の責任をどう分かち合うか。各国がそれぞれの歴史と伝統に応じて合意点を探すしかないのではないか」。独ミュンヘンの経済研究所「IFO」のマルチン・ウエルディング研究員はそう指摘する。
歴史と伝統を踏まえた合意探し----。ひたすら負担と給付の調整に追われる我が国で、そうした視点から腰を据えて年金制度が議論されたことはない。
人々の暮らしの安定と安心を目指してきたはずの社会保障制度」が世界中で」揺らいでいる。