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分権化に伴う地域間の競争は、改革開放以来の中国における経済発展の原動力になっている反面、「諸侯経済」という表現に象徴されるように、地域保護主義という副作用をもたらしている。地域保護主義の動きは各地方政府が自らの利益を極大化しようとして取った政策によるものだが、中国経済に資源の浪費や、地域格差の拡大など、多くの深刻な問題をもたらしている。各経済主体の合理的行動が、結果的に非合理的結果をもたらしているという意味で一種の「合成の誤謬」が生じている。
地域保護主義とは、特定の地域において地方政府が行政手段を使って、製品や生産要素の移動に対して、制限を加えることである。具体的には、移出制限型と移入制限型の二つのタイプに分類される。前者の場合、農産物原料、エネルギーなどの資源の域外への流出を制限することである。後者は、工業製品と労働者の域内への流入を制限し、地元の生産者と労働者を保護しようとすることである。近年、保護の対象は、資源の外部への流出を阻止することから、外部からの製品の流入を止めることにシフトしている。その手法として、国際貿易の「関税」に当たる各種の明示された料金に加え、数量制限や認証といった「非関税障壁」もよく見られる。また、各省が自分の自動車産業を育成するために、他の地方の車や輸入車の車両登録費と税金を引き上げたり、タクシーに地元車を強制的に使用させたりすることはその典型例である。
自由貿易の下では、参加者は「交換の利益」と特化の利益を得る。消費者がより安い製品を外国から輸入することができ、一方で資本と労働といった生産要素が比較優位部門にシフトするにつれ、資源配分が改善することにより、効率が高められる。これは、国際貿易に限る話ではなく、国内貿易にもそのまま当てはまる。国内の統一した財市場が成立すれば、それぞれの地域が自分の(比較優位を持つ)得意分野に特化し、他の地域との貿易を通じて全体の資源配分の効率が高まるのである。これに対して、現在の中国のように、市場が分割されたままでは、各地域は、本来、多くの地域からもっと安く「輸入」できる製品まで自分でつくらなければならず、比較優位と規模の経済性による分業の利益を十分に享受できていない。外国の企業にとっても、製品の販売が狭い地域に限定されることになれば、中国に進出するメリットは大幅に低下してしまう。このような状況を改めるために、モノ、ヒト、カネの流れの妨げとなる地域間の人為的障碍を取り除かなければならない。
統一した財と生産要素市場の確立は、生産効率の向上だけでなく、地域格差の改善にもつながる。戸籍制限など労働力の移動の制約になる障壁が取り除かれることになれば、労働力は賃金水準の低い内陸と農村部から工業化の進む沿海と都市部へと流れるであろう。それにより、賃金水準が平準化し、出稼ぎ労働者の家族への送金を合わせて考えれば、労働力の移動は地域格差を縮小させる要因になる。それに加え、国際経済学の有名な「要素価格均等化定理」が示唆しているように、国内の地域間の関係においても、自由貿易が行われるようになれば、生産要素の自由な移動がなくても、両地域間の生産要素の価格は均等化する。例えば、自由貿易の下では、資本が豊富だが労働力が不足している沿海地域が資本集約財を生産し、それを資本が不足する反面豊富な労働力を抱える内陸部で生産される労働集約財と交換するという分業体制が成立する。これは、製品に「体化」された内陸部の労働力が沿海部に流れる一方、製品に「体化」された沿海部の資本が内陸部に流れることを意味するため、労働力と資本の移動と同じように、これらの生産要素の価格を平準化する力として働く。
市場の拡大による経済活性化を狙って、中国は近隣諸国と自由貿易協定(FTA)を締結することを目指している。FTAによる効果は加盟国(地域)間の相互依存度が高く補完関係が強いほど大きいとされている。このような条件を満たしているのは、中国と近隣諸国より、中国国内の各地域である。中国経済の更なる発展を遂げるためには、外国とのFTAよりも先に国内の各地域からなるFTAを精力的に推し進めなければならない。
2004年2月6日掲載
http://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/ssqs/040206ssqs.htm