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図 国有企業の割合と反比例する各省のGDP成長率
中国の地域格差問題を議論するときに、沿海と内陸間という「東西格差」に加え、「南北格差」も注目されるようになった。改革開放以来、外資導入をテコに飛躍する華南地域(広東省)とは対照的に、伝統的工業地帯である東北三省(遼寧、吉林、黒竜江)は、機械設備の老朽化が著しく、余剰労働力を抱えた国有企業の多くが不振にあえぐなど、経済発展において遅れをとってしまった。これを反映して、東北三省の全国の工業生産に占める割合は1978年の16.5%から2002年には8.6%と約半分の水準に低下している。「老工業基地」に転落した同地域の活性化を目指すべく、2002年11月の16回党大会で「東北振興」という戦略が打ち出された。特に、2003年6月、温家宝総理が遼寧省を視察した際、「東北地域の振興と西部大開発戦略は東西の両輪」という発言を受けて、東北振興は一躍脚光を浴びるようになった。
東北三省は、計画経済の時代において中国の重工業基地として知られていた。1949年の中華人民共和国建国当初、旧満州時代の工業基盤とソ連の支援という地の利を持つ東北三省は、重工業基地として中国経済をリードした。遼寧の鉄鋼(鞍山鉄鋼)、吉林の自動車(長春の第一汽車)、黒竜江のエネルギー(撫順の石炭、大慶の石油)が有名だが、さらに三省は農業が盛んで、中国の穀倉地帯でもあった。しかし、1980年代以降、市場経済化と対外開放が進むにつれて、これらの産業が中国の比較優位に沿わないことが露呈し、多くの企業は激しさを増す競争に耐えられず、業績は悪化の一途を辿っている。さらに、一部の鉱物資源を基盤とする企業と地域では、資源が枯渇しはじめている。閉鎖経済の時代には競争力のあった農業も、特に、WTO加盟に伴う輸入関税の低下を受けて、苦戦を強いられている。このため、比較優位に沿った新しい産業構造の構築が求められている。
これに加え、東北三省では計画経済の担い手であった国有企業のウェイトが非常に高く、市場経済という新しい環境の下では、これが逆に経済発展を制約する要因になっている。国有企業の低効率は万国共通の現象であり、中国も例外ではない。実際、改革開放以来、経済成長率は国有企業のシェアの高い地域ほど低い(非国有企業のシェアの高い地域ほど高い)という傾向が見られる(図)。より厳密に、回帰分析という統計学の手法を用いて調べると、中国の各地域の経済成長率(1979年から2002年までの平均)と国有企業のウェイト(2002年)の関係は、国有企業のシェアが1%ポイント上がれば、年平均経済成長率が0.0584%下がっていくと推計される。東北三省は、他の地域より国有企業のシェアが高いゆえに、成長率も全国平均に及ばないのである。例えば、黒竜江省における工業生産に占める国有企業のシェアは約80%で、広東省の約20%に比べて60%ほど高く、この推計によると二省の年平均成長率の差5.7%のうち3.5%(=0.0584×60%)が国有企業のシェアの差によって説明される。
こうしたことから、東北振興のカギは国有企業のシェアを減らす一方で、非国有企業のウェイトを高めることにある。前者は、国有企業の民営化、後者は私営企業の育成と外資の導入によって達成できる。幸い、社会主義というイデオロギーの退潮やWTO加盟などを背景に、これらを実現する環境はすでに整いつつある。実際、当局も東北振興の指導思想として、「改革・開放を堅持し、市場メカニズムに従う」ことを掲げている。中でも外資の進出が大いに歓迎され、新規投資はもちろんのこと、買収を含む国有企業への出資も奨励される。その狙いは、外国の資金のみならず、先進的技術や経営管理のノウハウを導入することである。日本は東北地域と単に地理的に近いだけでなく、歴史的つながりも深いだけに、同地域の開発に大きな役割が期待される。
2004年1月30日掲載
http://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/ssqs/040130ssqs.htm