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【AERA発マネー】
新生銀再上場への再生劇 知られざる「プロジェクトX」
2004年01月26日号
経営破綻から5年。すったもんだの末に外資に渡ったが、2月に再び上場し、普通銀行に転換するという。旧長銀は本当に蘇ったのか。
◇ ◇
「いらっしゃいませ。本日は資産運用のご相談でしょうか」
まるでレストランのフロアマネジャーかホテルのドアマンだ。柔らかな物腰で来店客を迎え、奥にあるブースや個室に誘導する。
その腰の低い男性こそ都内にある新生銀行の支店長だった。2月19日に東証に再上場する新生銀行の支店風景は、1998年に破綻した前身の日本長期信用銀行時代とはすっかり変わっていた。
「個人向けサービスは、日本の他の銀行とは180度違います」
日比谷公園に隣接する旧長銀本店で、「支店長」の内田富夫さん(44)は言った。
大胆な変化は、新生銀行版「プロジェクトX」である100人プロジェクトの賜物(たまもの)だ。支店などから集めた100人が、半年間かけて新しい営業戦略を練った。
「そのときに、邦銀はまったく参考にしませんでした」
●ユニクロに学ぶ
金融界を覆う横並びの打破が大事な点と、プロジェクトメンバーだった内田さんは振り返る。
議論百出だった。
「午後3時で閉めて良いのか」
「支店面積の半分以上が、行員の事務スペースに占められるのは、おかしい」
銀行は「客の立場に立っていない」、支店長が「客に接しない」と反省し、GAPやユニクロ、マクドナルドの商法を研究した。
たどり着いた結論は、ATMの無料化や24時間365日稼働、午後7時までの支店営業といった新機軸だ。最も業務に精通した職員が客の案内係をしようと、支店長が店入り口付近に立っている。
これが、単なるサービス改善運動でないところが新生銀行「再生」の核心だ。ハイテクが下支えしているのである。
大手銀行は数千億円規模のコンピューターシステム投資を行ってきた。発注先は日本IBM、日立製作所、富士通の三社だった。ところが、新生銀行が採用したのはインドのアイ・フレックス社という新興企業。金食い虫の大型コンピューターによるシステムと決別し、安いサーバーとパソコン、ウィンドウズで動く汎用ソフトでシステムを構築し直したのだ。関係者によると、「従来システム開発に3〜4年かかったが、10カ月で済んだ。しかも投資額は10分の1の60億円だった」という。
陣頭指揮を執ったのが、インド人のダナンジャヤ・デュイベディ執行役員(金融インフラ部門長)。八城政基社長がシティコープ日本代表だった時の腹心で、引き抜いてきた。システム開発のプロの目で、低コストでオープンなアイ・フレックス社に注目した。ブロックのように、後からソフトを接ぎ木できるのが特徴だ。
●インドのシステム導入
みずほが、前身の富士、一勧、興銀のメンツやしがらみから、それぞれが採用していたIBM、富士通、日立のシステムを温存させたまま対応しようとして、大トラブルを引き起こしたのとは対照的だ。新生銀行は邦銀とは次元が異なる設計思想でシステム開発を進め、金融界にシステム投資の価格破壊をもたらす遠因をつくった。
おかげで大型コンピューターが鎮座していたシステムセンターのフロアが空き、そこに全国の支店の事務業務を集約できた。そこから各支店を遠隔操作できるようにしたため、支店面積の80%が客の応対エリアに変貌、空いたスペースにスターバックスが入居(現在9支店)した。客の応対スペースよりも行員の事務スペースの方が広い邦銀の常識を覆した。
冒頭の内田さんのブースのパソコンには、来店客の取引履歴が瞬時に画面に表示される。データベースに照らして、来店客に最適な提案営業につなげられる。ATM手数料の無料化も、安上がりなシステム投資のなせるわざだ。3年半で1兆5000億円の個人預金を集め、すでに金融債の残高1兆4000億円を上回る。1人あたりの平均預かり資産400万円は、他行の5〜10倍といい、富裕層を取り込んだ。
デュイベディ氏ら3人のインド人執行役員など外部人材の活用が、行内を活性化させもした。450人が退職したが、代わりに80人の外国人を含む650人が入社した。外資系金融機関や銀行、証券会社からの中途採用組だ。
たとえば、2000年8月に採用したロバート・シーヒー氏ら元ベア・スターンズ社の5人は、日本で初めて住宅ローンの証券化を手がけたチーム。人事部から人事権を剥奪(はくだつ)し、MOF担などの総合企画部門を解体。年功序列のゼネラリスト育成という伝統的な人事政策を、スペシャリスト登用に転換させた。こうしたプロが、貸し出し債権などの証券化ビジネスに成果をあげる。
●激減した貸し出し債権
貸し出し債権7.7兆円(うち不良債権2.9兆円)は3年余りで、回収や証券化による転売を通じて3.7兆円(同1542億円)へ、不良債権の縮小とともに激減したが、代わりに業務粗利益に占める非金利収入の割合は15%から54%へ向上。利鞘(りざや)ビジネスから、証券販売やM&A仲介で得るフィー(手数料)ビジネスへ転換したことが裏付けられる。
ゴーン氏で蘇った日産自動車のように、旧長銀も息を吹き返したのか。1210億円で旧長銀を取得したリップルウッド・ホールディングスは、保有する13億5800万株の約32%に当たる4億4000万株を日本と海外で売却する計画。再上場で時価総額は一兆円前後になりそうで、巨額の売却益が転がり込む。
良いことずくめのようだが、冷ややかな見方もある。元米メリル・リンチ本社上席副社長の岩國哲人民主党衆院議員は言う。
「3兆6000億円もの公的資金という『持参金』に加え、価値が2割減価すると政府に買い取りを求められる瑕疵(かし)担保特約という『おまけ』がつけば、健康優良児に体質改善できる。しかも、極めて安く売られたのに、再上場で得る何千億円という売却益は日本に徴税権がない」
●「将来性に疑問符」も
リップルウッドは、ドイツ銀行やメロン銀行、UBSなどが出資する2つの投資組合を通じて、新生銀行に出資した。この投資組合は、日本の課税権が及ばないタックスヘイブンや税制優遇地域にあるため、「濡れ手で粟」だというのだ。
くすぶるハゲタカ視に対し、リップルウッドに近い関係者は、
「日本の買い手にこれだけの改革はできたのか。外資による企業再生が刺激になって、日本企業の体質改善が進んでいる」
と反論する。
HSBC証券の野崎浩成シニアアナリストも、
「過去の経営と断絶できたことで、人事慣行や取引先とのしがらみを断って、改革が進んだ」
と評価する。しかし同時に、こんな疑問も投げかける。
「貸し出し債権を回収などによって減らしすぎた。日本の金融界では、依然として伝統的な、融資先企業との親密な関係が薄まっており、将来性に疑問符がつく」
ウエットな取引慣行が残るなか、将来のメシのタネである融資が減り過ぎな点が不安材料という。
評判は一様ではない。新生銀行が進む方向が他のメガバンクの「お手本」になるのか。真価はこれから問われる。(編集部 大鹿靖明)
(01/28)